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財形貯蓄制度とは|メリット・デメリットや導入手順をわかりやすく解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

財形貯蓄制度は、労働者の生活を支援するための福利厚生のひとつです。企業は自社の負担を抑えながら社内の福利厚生を充実させることができるため、労使ともにメリットが大きい制度といえます。

ただし、財形貯蓄制度にはいくつか種類があり、それぞれ利用条件も異なるため導入時は注意が必要です。
本記事では、財形貯蓄制度の種類や内容、メリットとデメリット、導入時の流れなどをわかりやすく解説していきます。

財形貯蓄制度とは

財形貯蓄制度とは、労働者の給与から一定額を天引きし、金融機関に送金して積み立てを行う制度です。毎月自動的に天引きされるため、労働者は確実な貯蓄が可能となります。

財形貯蓄制度の目的は、労働者の資産作りを支援することにあります。具体的には、老後の生活を安定させたり、持ち家の取得を促したりすることが主な目的です。

なお、老後の生活安定のための資産形成という意味では、退職金制度も財形貯蓄制度と似ている制度ですが、それぞれ大きな違いがあります。

まず、財形貯蓄制度は労働者の給与から積み立てを行いますが、退職金制度は労働者の退職時に企業が支給するお金です。また、財形貯蓄は必要に応じて引き出すことも可能ですが、退職金は退職時にまとめて支給するのが基本です。

また、財形貯蓄制度は福利厚生のひとつであり、導入するか否かは各企業の任意となります。
福利厚生の導入方法などについては、以下のページで解説しています。

福利厚生とは?種類やメリットなどの基礎知識を詳しく解説

対象となる労働者

財形貯蓄制度を利用できるのは、制度を実施している企業に雇用される“全労働者”です。雇用形態を問わないため、正社員・パート・アルバイト・契約社員・派遣社員など基本的にすべての労働者が対象です。

ただし、貯蓄の種類によって積立期間が異なるため、非正規社員は一定年数の継続雇用が見込まれることが条件となります。

また、制度のうち「財形住宅貯蓄」と「財形年金貯蓄」には年齢制限があり、加入時の年齢が55歳未満の労働者のみが利用できます。

一方、企業の役員は“労働者”にはあたらないため、基本的に財形貯蓄制度は利用できません。ただし、執行権などがなく、役員報酬のほかに賃金も得ているような場合は、例外的に制度を利用できる可能性があります。

対象となる貯蓄商品

財形貯蓄制度では、銀行・保険会社・証券会社といった金融機関の貯蓄商品を選び、お金を積み立てていきます。貯蓄商品には、以下のようなものがあります。

  • 定額貯金や定期預金
  • 貯蓄型の生命保険や損害保険
  • 投資信託(金銭信託・貸付信託・公社債投資信託・株式投資信託など)
  • 有価証券(国債・地方債・社債・政府保証債・利付金融債など)

財形貯蓄制度の種類

財形貯蓄制度には、以下の3種類があります。
それぞれの内容を一覧表にまとめましたので、ご確認ください。

一般財形貯蓄 財形年金貯蓄 財形住宅貯蓄
加入年齢 すべての労働者 満55歳未満の労働者 満55歳未満の労働者
利用目的 自由 老後の年金資金 新築・住宅購入・リフォーム資金
積立期間 3年以上 5年以上 5年以上
複数契約 1人複数契約が可能 1人1契約 1人1契約
非課税措置 優遇措置なし 財形住宅貯蓄と合わせて元本合計550万円まで利子等非課税(保険型は払込額385万円まで) 財形年金貯蓄と合わせて元本合計550万円まで利子等非課税(保険型は払込額550万円まで)
積み立ての中断 制限なし 中断後2年以内に積み立てを再開しない場合、非課税措置が受けられず、利子等に課税される 中断後2年以内に積み立てを再開しない場合、非課税措置が受けられず、利子等に課税される
引き出し 貯蓄開始から1年経過後は、自由に引き出しが可能 不可(解約扱いとなる)。解約利子と過去5年分の利子に課税される 目的外での引き出しを行った場合、過去5年分の利子に課税される
金融機関の変更 3年以上保有していれば変更可能 不可 不可

一般財形貯蓄

一般財形貯蓄とは、使用目的が限定されない貯蓄です。車やマイホーム購入・結婚・子育て・旅行などさまざまな用途に利用できるため、自由度が高い制度といえます。

ただし、いくつか利用条件が設けられているため、以下で概要を確認しておきましょう(勤労者財産形成促進法6条1項)。

加入年齢 不問
積立期間 3年以上(貯金開始1年間後から引出し可能)
積立上限額 なし(ただし、生命保険3000万円・郵便貯金1550万円等、商品によって上限あり)
利子等の税金 全額課税(非課税の税制優遇措置なし)
複数契約 可能

なお、振込については、労働者の給与やボーナスから天引きしたうえで、事業主または事務代行団体によって行われます。また、事業主は、給与天引き以外の業務について第三者に委託することも可能です。

財形年金貯蓄

財形年金貯蓄は、老後の資金づくりを目的とした制度です。在職中に積み立てた資金は、60歳以降から5年以上20年以内にわたり、公的年金に上乗せして支払われます。

なお、保険商品(預け先が生命保険会社や損害保険会社など)の場合は、終身で受け取りができる場合もあります。
具体的な条件は、以下のとおりです(勤労者財産形成促進法6条2項、3項)。

加入年齢 55歳未満
積立期間 5年以上
利息等の税金 財形住宅貯蓄と合わせて元本550万円まで利子等非課税(保険型の場合は払込額385万円まで非課税)
複数契約 不可(一般財形貯蓄・財形住宅貯蓄との併用は可能)
一般財形貯蓄・財形住宅貯蓄への変更 不可(別途、新規加入する必要あり)

財形住宅貯蓄

財形住宅貯蓄とは、住宅資金作りを目的とした制度です。積立金は、マイホームの建設や購入、リフォーム費用に充てることができます。概要について、以下で確認しましょう(勤労者財産形成促進法6条4項、5項)。

加入年齢 55歳未満
積立期間 5年以上
利子等の税金 財形年金貯金と合わせ、元本550万円まで非課税(保険商品の場合、単体の振込額550万円まで非課税)
複数契約 不可(一般財形貯蓄・財形年金貯蓄との併用は可能)

利子等の非課税措置について

「財形年金貯蓄」と「財形住宅貯蓄」の2つは、双方の元本から生じる利子等の合計550万円までが非課税となります。ただし、以下のケースは課税対象になる可能性があるため、注意が必要です。

【2年を超える積み立ての中断】
退職などによって積み立てを中断し、2年以内に再開しない場合、利子等非課税の優遇措置が適用されなくなります。よって、2年経過日の当日の利子から課税対象となります。

【目的外での引き出し】
住宅費用や年金の目的以外で積立金を引き出した場合、解約となり、解約利子と過去5年分の利子が課税対象となります。保険商品については、一時所得として課税されます。

一方、「一般財形貯蓄」については税制上の優遇措置がないため、通常の預貯金と同様に一定の国税・地方税・復興所得税が徴収されます。

財形貯蓄制度を導入するメリット・デメリット

財形貯蓄制度は、企業にもさまざまなメリットがあります。一方、デメリットもあるため導入時は十分注意が必要です。以下で具体的にみていきましょう。

メリット

  • 福利厚生の充実
    労働者の資産づくりをサポートし、福祉の充実を図ることができます。
    また、福利厚生の充実は採用時のアピールポイントとなり、優秀な人材を確保することにもつながります。
  • 労働者の定着率向上
    財形貯蓄制度を利用することで、労働者は結婚、マイホーム購入、子育てといった人生設計を立てやすくなります。それによって安心感や勤労意欲が生まれ、定着率の向上、離職率の低下へとつながります。
  • 利子等の非課税措置
    財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両方の元本合計550万円までの利息等が非課税となります。銀行で普通に預金するよりも、効率的に貯蓄できます。また、財形年金貯蓄は、年金の支払いが終わるまで非課税措置が続くため、老後の生活の安定にも有用です。

デメリット

  • 導入時の事務的負担
    財形貯蓄制度を導入する際には、預け先金融機関の選定、労使協定の締結、社内規程の作成などを行う必要があるため、業務負担が増大します。
  • 利率が極めて低い
    定期預金や保険商品など利率が低い商品を利用すると、非課税の恩恵を受けにくい面があります。
    例えば、0.002%の定期預金に1年間200万円を預けると、利息が40円、非課税となるのが8円であるため、非課税の効果を実感しにくいといえるでしょう。
  • 拠出金の所得控除制度がない
    財形貯蓄には、iDeCoや生命保険料のような拠出金(掛け金)の所得控除制度が用意されていません。そのため、所得税の軽減というメリットは受けることができません。

これらは労働者側のデメリットですが、導入しても加入希望者が少ない場合は、制度が形骸化し、運用コストだけかかってしまうという企業側のデメリットもあります。

財形貯蓄制度導入の流れ

財形貯蓄制度は、労働者を1人でも雇用していれば導入することができます。導入の具体的な流れは、以下のとおりです。

  1. 取扱金融機関の決定
  2. 労使協定の締結
  3. 社内規定の策定
  4. 労働者への説明・募集

詳細については、以下で解説します。

①取扱金融機関の決定

財形貯蓄制度の導入が決定したら、まずは財形貯蓄の取扱金融機関の選定を行います。労働者のニーズや企業内の事務処理を考慮して選定することが必要です。

また、財形貯蓄制度をスムーズに実施・運営するために、取扱金融機関と事務分担について取り決めた「覚書」を締結するのが通例となっています。

②労使協定の締結

労働者の給与の一部を天引きする場合、労使協定の締結が必要です(労基法24条1項)。
具体的には、給与の天引きについて、労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がなければ労働者の過半数を代表する者)と書面を取り交わす必要があります。

③社内規程の策定

労働者と合意したら、財形貯蓄の運営方法について社内規定(就業規則)を作成します。規定では以下のような事項を定め、労働者にしっかり周知しましょう。

  • 財形貯蓄の種類
  • 取扱金融機関
  • 加入対象者
  • 積み立ての方法
  • 積立金の払い戻し時期 など

④労働者への説明・募集

財形貯蓄に関する社内説明会を行い、契約希望者を募集します。説明する際は、正社員だけでなくアルバイトやパート、契約社員、派遣社員なども対象にすることが望ましいでしょう。

また、労働者へのPR方法として、社内報やパンフレット・チラシなどの配布が挙げられます。
契約希望者には申込書を提出してもらい、取扱金融機関に提出し、契約を行います。

財形貯蓄制度における注意点

育児休暇休業取得時の取扱い

財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄は、積み立てが2年以上中断されると非課税措置を受けられなくなります。

ただし、育児休業などを取得する労働者については、企業を通じて事前に金融機関へ「育児休業等をする場合の非課税継続適用申告書」を提出し、職場復帰後に積み立てを再開すれば、非課税で貯蓄を継続することが可能となっています。

一方、申告書を提出したにもかかわらず休業中も積み立てが行われた場合や、職場復帰後に積み立てが再開されなかった場合は、非課税措置が適用されないためご注意ください。

これらの制度内容については、労働者が不利益を受けないよう、事前に案内しておく必要があるでしょう。育児休業の概要などは、以下のページで詳しく解説しています。併せてご確認ください。

育児・介護休業法とは|企業が講ずべき措置について

転職・退職時の取扱い

労働者が退職したら、事業主は退職から6ヶ月以内に、財形貯蓄取扱金融機関に「退職等の通知書」を提出する必要があります。

なお、労働者が退職後2年以内に財形貯蓄制度のある企業に転職した場合は、転職先で利子非課税のまま財形貯蓄を再開できます。
財形貯蓄を再開する場合、転職先を経由し、取扱金融機関に以下の書類を提出する必要があります。

  • 同一の金融機関で継続する場合:勤務先異動申告書
  • 他の金融機関で継続する場合:転職等による財形貯蓄継続適用申告書

一方、転職先の企業に財形貯蓄制度がない場合や、2年以内に転職しない場合は、基本的に財形貯蓄は解約となります。また、解約時は過去5年間の利息すべてに遡って課税されるため、労働者に事前に説明しておきましょう。

労働者の同意なく廃止はできない

財形貯蓄制度を廃止する際は、基本的に労働者から個別で同意を得る必要があります。
財形貯蓄のような福利厚生の廃止は「労働条件の不利益変更」にあたり、企業が一方的に行うことは禁止されているためです(労契法9条)。

ただし、変更の必要性や内容、労働者への説明状況などを踏まえ、変更が合理的といえる場合は、“就業規則の変更”によって制度の廃止が認められる可能性があります。

福利厚生の場合、賃金や勤務時間よりも重要性は低いと考えられるため、労働者に事情をしっかり説明するなど適切な手順を踏めば、個別同意を得ずとも廃止が認められる傾向があります。また、代わりの福利厚生を導入するなど、代替案を検討するとなお良いでしょう。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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