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ポジティブ・アクションとは|女性活躍推進における企業の取組方法や進め方

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

日本では性別による役割分担意識が根付いており、「女性の管理職が少ない」、「女性は事務職に偏りがち」といった問題点を抱える企業は少なくないでしょう。
これらの課題を解決し、男女平等な職場を作るための取組をポジティブ・アクションといいます。

女性の活躍推進が求められる昨今、ポジティブ・アクションの重要性が増しており、これを実施する企業も増えています。女性の立場向上以外にも多くのメリットがあるとされているため、まだ取り組んでいない企業も、積極的な実施を検討することが推奨されます。

本記事では、ポジティブ・アクションの内容や実施方法、具体的な取組みの例などを解説していきます。

ポジティブ・アクションとは

ポジティブ・アクションとは、職場における男女労働者の格差を是正し、実質的な機会均等を実現するための、企業が行う自主的かつ積極的な取組みのことと定義できます。日本語に訳すと「積極的差別是正措置」といいます。

男女が平等に活躍できる制度を整備することは、優秀な人材の確保や企業の生産性向上などにもつながるという考えのもと、厚生労働省などが推奨している取組みです。

実際、ポジティブ・アクションの実効性を高める目的で、2016年に女性活躍推進法も施行されました。本法では、企業に対して、自社の女性社員の活躍に関する調査や分析、行動計画の策定、情報開示等を義務付けています。また、ポジティブ・アクションを行う企業に対し、公共調達における受注の機会を増やすなどの優遇措置も設けています。

これにより、より多くの企業がポジティブ・アクションに取り組むことが期待されています。

女性活躍推進法については、以下の記事で詳しく解説しています。

女性活躍推進法とは|2022年4月の改正内容などわかりやすく解説

ポジティブ・アクションは男女雇用機会均等法の違反にならないか

男女差別をなくすのが目的であれば、女性に有利な取組をしたり、女性限定の措置を講じたりしても問題ありません。

そもそも男女雇用機会均等法は、職場における男女平等を実現するための法律です。
したがって、現状「女性差別がある」「女性に不利な環境である」といった問題がある場合、それを解消するための取組については違法となりません(男女雇用機会均等法8条)。

ポジティブ・アクションのメリット

企業がポジティブ・アクションに取り組むメリットとして、主に以下が挙げられます。

  • 生産性の向上
    ポジティブ・アクションを行うには、現状の課題の洗い出しが必要です。これまでの業務フローや社内制度を見直し、男女関係なく誰もが仕事がしやすい体制を整備すれば、労働者の作業効率を高め、生産性の向上へとつながる可能性があります。
  • 従業員のモチベーションアップ
    女性管理職の登用や育成、職域拡大などに取り組めば、女性の勤労意欲の向上が期待されます。また、育児支援など、男女関係なく育児をしながらでもキャリアアップしやすい環境を整備すれば、男性の勤労意欲も向上するでしょう。
  • 企業イメージの向上
    ポジティブ・アクションへの取組みをアピールすれば、企業イメージが向上し、事業運営に好影響を与える可能性があります。また、求職者にとっても、男女平等の環境は魅力的に映るため、優秀な人材の確保も期待されます。

ポジティブ・アクションのデメリット

一方、企業がポジティブ・アクションに取り組むデメリットとして、逆差別となってしまう可能性があることが挙げられます。

ポジティブ・アクションというは、これまでの職場における男性優位的な状況を改め、女性を優遇していくことを意味します。よって、採用や管理職への登用、人材育成などで女性を優遇するあまり、たとえば男性社員が不平等だと不満を募らせるおそれがあります。

また、本人の能力よりも女性であることを優先した結果、逆に生産性が低下する可能性や、男女社員間の不和により社内環境が悪化する可能性があります。
そのため、ポジティブ・アクションに取り組む場合には、女性社員だけでなく、男性社員にも配慮することが必要です。

ポジティブ・アクションの手法

ポジティブ・アクションを進めるための手法として、主に以下が挙げられます。個々の企業課題と目標に合わせて、最も有効な手法を選択することが重要です。

クオータ制 性別を基準に一定の人数や比率を割り当てる手法
プラス・ファクター方式 男女が同レベルの成績である場合、女性を優先的に採用・登用する手法
ゴール・アンド・タイムテーブル方式 指導的地位に就く女性の数や割合について、達成すべき目標と達成までの期間の目安を示して、その実現のために努力する手法
基盤整備を推進する方式 研修の機会の充実やワークライフバランスの向上など、女性の参画拡大を図るための基盤整備を推進する手法

ポジティブ・アクションの取組の例

ここで、ポジティブ・アクションの具体的取組の例をご紹介します。どのような目標を立てるかによって異なるため、以下で整理しておきましょう。

女性の採用拡大

女性の活躍の場を広げるためには、女性社員の数を増やすことが効果的です。
女性の採用拡大を目指す取組みとして、以下が挙げられます。

  • 会社案内や求人票で女性社員の活躍ぶりを紹介する
  • 女性社員のキャリアアップや育児休業取得の実績をアピールする
  • 機械加工や現場作業など、男性のイメージが強い職場で働く女性社員を紹介する
  • 女性の面接官を増やす
  • 性別によらない公正な選考マニュアルを作成し、面接官に周知・指導する

なお、応募対象を女性に限定することは、男女雇用機会均等法で原則禁止されていますが、ポジティブ・アクションの認定要件を満たせば、女性歓迎の求人募集や採用を行うことが可能です。

この要件とは、一定の雇用管理区分における職務、役職において女性労働者の割合が4割を下回っていることです。例えば、営業職男性15名(女性0名)、事務職女性5名(男性0名)の企業では、営業職募集でのポジティブ・アクションは可能ですが、事務職募集でのポジティブ・アクションは不可となります。

ただし、女性歓迎の求人を出す場合は、必ずポジティブ・アクションである旨記載する必要があります。

女性の職域拡大

職域拡大とは、それまで女性が少なかった部署に、積極的に女性を配置することを指します。
以下に具体的取組例をあげます。

  • 配置転換する女性に研修や教育訓練を行う
  • 複数の女性を一緒に配置する
  • 自己申告制度や社内公募制度を導入する
  • 雇用管理区分を再編し、女性の総合職を増やす(転勤がない「地域型総合職」を作るなど)
  • 男女それぞれが使いやすい設備を設置する(男女別のロッカールームや更衣室など)
  • 役職者に対し、女性社員の受入れ講習を実施する

特に「女性がほぼゼロだった」という場合、本人の支援だけでなく、設備の整備から役職者の指導まで幅広く対応する必要があります。

女性の管理職登用

女性の管理職が増えると、女性目線の経営がなされ、より多様なニーズに対応できるようになります。
具体的取組の例としては、以下のようなものがあります。

  • 昇格基準を見直し、労働者に周知する
  • 女性の人事評価者を増やす
  • 女性社員に対し、研修や教育訓練への積極的な参加を呼びかける
  • 管理職候補の女性に対し、個別で研修・育成を行う
  • 女性管理職との座談会を企画する
  • キャリア形成について相談できる場を作る

管理職への登用は、「勤務時間が長くなりそう」「家庭との両立が難しそう」「重圧に耐えられない」など様々な不安も伴います。
これらは労働者が特に気にするポイントですので、企業がしっかりサポートしてキャリアアップを推進しましょう。

女性の勤続年数の伸長

少子高齢化が進む中、人手不足はますます深刻化すると考えられます。そのため、仕事と家庭を両立しやすい環境を整備し、女性社員により長く働いてもらうことが重要です。
女性の勤続年数を伸ばすための取組みとして、以下が挙げられます。

  • 法定以上の育児・介護休業制度を導入する
  • 女性が職場復帰しやすいよう、復帰支援プログラムを提供する
  • 復帰後でもキャリアアップできるような人事評価体制を整える
  • 育児期間中の時短勤務や在宅勤務、フレックス勤務を認める
  • 復帰後の生活設計を共有してもらう
  • 託児所を設置する又は保育園の費用を一部負担する
  • 生活設計に関する相談窓口の設置
  • テレワーク勤務の導入

法律上の育児・介護休業は最低限のルールですので、企業が独自に法定以上の育児・介護休業を導入することも可能です。女性社員の現状や要望を把握したうえで、有効な方法を検討しましょう。

職場環境・風土改善

制度を整備しても、男女の役割分担意識が強い企業ではうまく機能しない可能性があります。

例えば、「男性は経営に関わるが、女性は補助業務がメイン」といった風潮が根付いていれば、女性の管理職登用はなかなか実現できません。
そこで、社員の意識改革も重要なポイントといえるでしょう。具体的取組の例は、以下のようなものです。

  • 女性だけが掃除やお茶出しを行うという社内慣行をなくす
  • 女性の責任感や意欲を向上させる(会議での発言権を男女平等に与えるなど)
  • 定例会議の議長を男女でローテーションにする
  • 男女の意見交換の場を設ける

ただし、それまでの意識を変えるのは容易ではないため、根気強く取り組むことが重要です。

ポジティブ・アクションの取組の進め方

ポジティブ・アクションにどのように取り組むのがベストかは、個々の企業の現状によって異なりますが、具体的には、次のようなフローで実施していくことが有効です。

  1. 現状の分析と問題点の発見
  2. 具体的な取組計画の作成・労働者への周知
  3. 具体的な取組の実施
  4. 具体的取組の成果の点検と見直し

以下で、各詳細について確認していきましょう。

①現状の分析と問題点の発見

まず、自社の現状を分析することから始めましょう。具体的には、以下のような点を調査し、問題点を把握します。

  • 役職ごとの男女比率
  • 雇用形態ごとの男女比率
  • 男女別の勤続年数
  • 女性労働者への配慮(妊娠中の在宅勤務、セクハラ相談窓口の設置など)
  • 労働条件や福利厚生における男女差
  • 採用における男女差

なお、より客観的なデータを得るため、労働者へのヒアリングやアンケートを行うのも効果的です。
調査で問題点が明らかになったら、その原因も考えましょう。そうすることで、自然と解決策もみえてきます。例えば、以下のようなケースが考えられます。

【問題点】女性の応募者が少ない
【原因】男性へのアピールポイントが多い、女性が少ない学部のみを対象にしている等

【問題点】女性の役職者が少ない
【原因】昇格の対象を男性に限定している、人事評価者が男性を優遇している等

②具体的な取組計画の作成・労働者への周知

次に、現状を改善するための方法を考えましょう。
まずは大枠の“目標”を定め、それに沿って“具体的取組”を決めるのが一般的です。以下の例を参考にしてみてください。

【目標】女性の採用を増やす
【取組】女性の活躍や成果をアピールする、女性の面接官を増やす

【目標】女性の管理職を増やす
【取組】女性の教育訓練の機会を増やす、昇格基準を見直す

【目標】女性の勤続年数を伸ばす
【取組】妊娠中の在宅勤務を認める、託児所を設置する、復帰支援プログラムを導入する

【目標】社内の雰囲気や風土を改善する
【取組】男女が意見交換できる場を設ける、セクハラ相談窓口を設置する、労働者の意見・要望を積極的に取り入れる

取組計画には、実施体制や実施期間も盛り込みます。
プロジェクトチームを作るのか、又は人事部が担当するのか、いつまでに目標を達成させるのかなどを具体的に定めましょう。

また、策定した行動計画は、労働者に周知しなければなりません。
周知方法は、説明会や社内用、回覧版などで良いですが、必ず計画の実行前に周知しましょう。

③具体的な取組の実施

取組計画を策定・周知したら、その計画に沿って取組を実施してみましょう。

とはいえ、新たな制度を導入したり、従来の規定を変更したりするのは容易ではありません。実際に成果を上げるには時間もかかるでしょう。
また、女性の採用を増やそうにも、翌年から急に応募者が増えるとは限りません。

これらの理由から、具体的取組の実施は長期的な姿勢で臨むことが重要です。途中で失敗に終わらないよう、以下の留意点を押さえておきましょう。

④具体的取組の成果の点検と見直し

具体的な取組みの成果については、一定期間ごとに点検し、評価を行います。できれば、成果を社内に公表するのが有効です。十分な取組みの効果がない場合は、その原因を分析し、必要に応じて計画を見直すなど軌道修正を図ることも重要です。

例えば、多くの女性社員を管理職に登用したら、かえって離職率が上がったり、降格の申し出が増えたりするケースがあるとします。これは、急激に多数の女性社員を昇給・昇格させた結果、組織的な問題が生じたことが一因と考えられます。

そして、その問題としては、管理職の能力(教育)の問題なのか、業務フローの問題なのか、人間関係の問題なのか等々、原因を分析し、その原因に対する改善策を検討し、計画に追加します。

その結果、例えば、管理職教育や情報提供不足の問題であるという分析結果となった場合は、改善策として、女性社員向けの説明会を開催し、管理職の業務内容や勤務体制を詳しく説明することで昇格後の不安を解消したり、研修制度を充実させる等の方策を講じることになるでしょう。

ポジティブ・アクション推進に向けた国の支援

ポジティブ・アクションを推進するため、国も様々な支援を行っています。

ただし、支援といっても経済的な援助ではなく、企業がポジティブ・アクションを実施しやすいようサポートするのが主な目的です。
2023年5月現在、国が行っている支援として、以下のようなものが挙げられます。

  • 行政と経営者団体が連携し、女性の活躍推進協議会を開催する
  • 機会均等推進責任者や人事担当者などに、ポジティブ・アクションに関する情報提供を行う
  • 女性の活躍・両立支援総合サイトで、各企業のポジティブ・アクションの取組など各種情報を提供し、自社の女性活躍の状況の把握、課題分析、行動計画の策定ができる「行動計画策定支援ツール」や、男女間格差を「見える化」するための支援ツールを提供する。
  • 女性管理職の意見を共有するとともに、ロールモデルを育成するためのマニュアルを整備・普及する
  • 女性活躍推進の責任者を対象としたセミナー、女性管理職研修、身近なロールモデルの講演会などの開催
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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