慶弔休暇とは|就業規則の規定や対象者・日数・給与の取り扱いなど

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
慶弔休暇(けいちょうきゅうか)は、従業員や親族のお祝い事、または不幸があった際に与える休暇です。従業員の私生活をサポートするため、多くの企業で導入されています。
ただし、慶弔休暇のルールは企業が決めなければならないため、ある程度の目安があると安心です。
そこで本記事では、慶弔休暇の対象者や日数、休暇中の給料など、導入時に押さえるべきポイントについて詳しく解説していきます。
目次
慶弔休暇とは
慶弔休暇とは、従業員が慶事(結婚や出産)または弔事(通夜や葬儀)の際に取得できる特別休暇のことです。
年次有給休暇とは異なり、法律に定めがない「法定外休暇」にあたるため、取得させるかどうかは企業の自由です。また、取得日数や事由、有給無給なども、企業の判断で決定できます。
もっとも、慶弔休暇は従業員のプライベートに関わるため、福利厚生として多くの企業で実施されています。厚生労働省の2018年の調査によると、慶弔休暇を導入している企業は90.7%にのぼっています。
慶弔休暇がない場合、従業員は有給休暇を使って対応することになります。しかし、有給休暇が減るのを懸念し、取得をためらうケースもみられます。
慶弔休暇と忌引き休暇の違い
忌引き休暇は、「通夜」や「葬儀」などの弔事に参列するための休暇です。一方、慶弔休暇は慶事・弔事どちらでも利用可能です。そのため、忌引き休暇は慶弔休暇の一部といえるでしょう。
また、忌引き休暇は身内の突然の不幸にも対応する必要があるため、慶弔休暇(慶事の場合)よりも長く認められる傾向があります。
配偶者や実の親など、亡くなった人の血縁が近いほど取得日数も長くなるのが一般的です。
慶弔休暇の就業規則への規定
慶弔休暇を導入する場合、制度の概要を就業規則に明記する必要があります。具体的には、以下のような事項を定めておくと良いでしょう。
- 慶弔休暇の対象事由
- 慶弔休暇の対象者
- 慶弔休暇の日数
- 慶弔休暇の給料(有給・無給)の扱い
- 慶弔休暇の取得時期
- 慶弔休暇の申請方法
新たに慶弔休暇に関する規定を設けた場合、変更した就業規則は行政官庁に届け出る必要があります。また、慶弔休暇の利用を促すため、朝礼の場や社内報等で制度について周知することも重要です。
記載事項の内容について、以下で詳しくみていきましょう。
慶弔休暇の対象事由
慶弔休暇の取得事由としては、以下のようなものが挙げられます。
- 従業員本人の結婚
- 子供の結婚
- 配偶者の出産
- 配偶者、両親、祖父母、兄弟姉妹、叔父または叔母、義両親の死亡
一方、兄弟や姉妹の結婚については、慶弔休暇を認めない企業もあるようです。
また、弔事においては、亡くなった人が何親等かによって取得日数も異なるのが一般的です。0親等の配偶者が最も長く、1親等の両親や子供、2親等の兄弟姉妹…の順で短くなるケースが多くみられます。
慶弔休暇の対象者
慶弔休暇の対象者に法律上の定めはないため、企業の判断で決定できます。
そのため、パートやアルバイト、契約社員などを除く“正社員のみ”を取得対象とすることも可能です。
ただし、業務内容や責任の重さが正社員と同等の場合、パートタイマーなどにも取得を認める必要があります(同一労働同一賃金)。
また、入社後すぐの社員についても、慶弔休暇を付与するかは企業の自由です。
取得対象外にする場合、従業員と認識に相違があるとトラブルになりかねないため、面接や入社案内時にしっかり説明しておくと安心でしょう。
パート・アルバイトへの適用
パート・アルバイトの従業員を、慶弔休暇の適用対象から除外することは可能です。
ただし、就業規則に「パート・アルバイトの従業員には慶弔休暇が付与されない」ことを明記しておく必要があります。
また、厚生労働省の「同一労働同一賃金」の指針により、非正規社員に対する不合理な待遇差別は禁止されています。つまり、正社員と同様の条件で働いているパート・アルバイトについては、正社員と同様の待遇を認めることが必要です。
慶弔休暇もこの「同一労働同一賃金」に該当するため、制度を設ける際は注意しましょう。
なお、週2日勤務などの短時間勤務者については、勤務日の振替での対応を基本とし、振替が難しい場合のみ慶弔休暇を与えるなど、比例付与する方法は不合理な差別ではないと考えられています。
慶弔休暇の日数
慶弔休暇の日数は企業によって異なりますが、従業員との関係性や親等をもとに日数を決めるのが一般的です。
以下で平均的な日数をみてみましょう。
【慶事】
・従業員本人の結婚:3~5日
・子供の結婚:1~2日
・配偶者の出産:1~3日
【弔事】
・配偶者が亡くなった場合:7~10日
・両親や子供が亡くなった場合:5~7日
・兄弟姉妹、祖父母、孫が亡くなった場合:2~3日
取得日が休日と被る場合、分割取得を認めるかどうかがポイントとなります。
例えば、
【水曜日から5日間の慶弔休暇を取得するケース】
・分割取得を認める場合:翌週の火曜日まで
・分割取得を認めない場合:その週の日曜日まで
となり、出勤日数が変わってきます。認識の相違があると労働トラブルになりやすいため、分割取得の可否は就業規則に明記しておくことが重要です。
慶弔休暇の給料(有給・無給)の扱い
慶弔休暇を有給・無給どちらにするかは、企業の任意で決定できます。
ただし、決定事項は必ず就業規則で定めておきましょう。就業規則の本則ではなく、給与規程や賃金規程で定めることも可能です。
なお、パートやアルバイトのみ無給にするなど、雇用形態によって待遇を変える場合は注意が必要です。この場合、まず就業規則などで「非正規社員の慶弔休暇は無給とする」と明記されていることが必要です。
また、正社員と同等の働きをしている場合、雇用形態による不当な待遇差を設けることは禁止されています(同一労働同一賃金)。
したがって、仕事内容や役割が正社員と同一視できる場合、慶弔休暇の有給・無給についても同じように扱う必要があります。
慶弔見舞金
「慶弔休暇」に加えて、「慶弔見舞金」制度を導入している企業もあります。
慶弔見舞金とは、従業員やその近親者の慶事・弔事に対して、企業が支給するお金のことです。
慶弔休暇と同じく法定の制度ではないため、支払うかどうかは企業の自由です。ただし、支払う場合は、慶弔見舞金の種類や金額について、就業規則に規定しておく必要があります。
見舞金の種類 | 支給条件 | 相場 |
---|---|---|
結婚祝金 | 従業員又は従業員の子が結婚したとき | 3~5万円 |
出産祝金 | 従業員又は従業員の配偶者が出産したとき | 1万円 |
死亡弔慰金 | 従業員や従業員の近親者が亡くなったとき | 1~3000万円 |
傷病見舞金 | 従業員が病気やケガ等で入院し、欠勤したとき | 10~50万円 |
災害見舞金 | 従業員が自然災害や人為的災害(火災・事故等)の被害に遭ったとき | 2~5万円 |
慶弔見舞金は、社会常識上妥当な金額であれば福利厚生費として認められ、非課税扱いになるというメリットがあります。一方、相場を大きく超える金額を設定すると課税対象となる可能性があるため、注意が必要です。
慶弔休暇の取得時期
慶弔休暇は、慶弔事由が発生してからある程度の期間内に与えることが望ましいため、就業規則に有効期限や起算日を規定することをお勧めします。
有効期限については、以下の期限を設けるケースが多いです。
弔事休暇 | 近親者が亡くなった日から1週間以内程度 |
---|---|
慶事休暇 | 従業員が結婚・出産等してから半年~1年程度 |
慶事休暇の有効期限が長めに設けられている理由は、結婚式や出産が申請日から大幅に変更されたり、入籍・結婚式・新婚旅行が別々の時期に設定されていたりするなど、休暇を定めにくいケースが多いためです。
起算日(慶弔休暇をいつから取得できるか)については、就業規則に規定されたとおりとするのが基本です。
もっとも、近親者が亡くなった後しばらく経ってから葬儀が行われる予定であるなど、従業員によって事情は様々です。個別事情に応じて柔軟な対応ができるよう「会社の承認がある場合は、例外を認める」等の規定を設けておくことが望ましいでしょう。
慶弔休暇の申請方法
慶弔休暇は、法律で定められた休暇ではないため、事前の申請を義務づけることが可能です。また、申請方法も企業ごとに定められます。
従業員がスムーズに申請できるよう、申請書のフォーマットや申請理由の書き方をマニュアル化しておくと良いでしょう。
申請書のフォーマットは、使用者側が次の事項等を把握できる内容であれば問題ありません。
- 申請者名
- 申請理由
- 希望日程
- 連絡先
特に弔事の場合、虚偽の事由による取得の申請が行われる事例が見受けられます。そのような不正を防止するために、証明書(会葬礼状や死亡診断書・火葬許可証のコピー等)の提出を求めることができます。
ただし、弔事は突然発生するため、休暇を取得する連絡のみを取得前に行わせ、正式な申請に関しては事後に行うことを認めるという運用にするのが良いでしょう。一切の証明書類が提出されないときには、欠勤扱いとする旨を定めることも不正防止に有効です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある