ストレスチェック制度とは|目的や実施方法などわかりやすく解説
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
近年、仕事への不安や悩みから“うつ病”などの精神疾患を発症し、労災に認定されるケースが増加しています。精神疾患による労災の発生を防ぐには、日常的にメンタルヘルス対策を徹底し、異変が感じられた場合は速やかに対処することが重要です。
労働安全衛生法では、事業者に対して「労働者が抱える心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)」を実施することを義務付けています。
本記事では、ストレスチェックの実施方法や注意点、高ストレスと判定された労働者への対応等について詳しく解説していきます。
目次
ストレスチェック制度とは
ストレスチェックとは、労働者のストレス状態を把握するため、企業が定期的に行う検査のことです。
メンタルヘルスに関する複数の質問に回答することで、労働者が今どれほどのストレスを抱えているか把握できます。
労働安全衛生法の改正により、2015年12月以降、一定規模以上の事業場では“年1回”のストレスチェック実施が義務付けられました。対象事業者はストレスチェックの実施手順を十分理解し、適切な対応が求められます。
ストレスチェックの目的
ストレスチェックの目的は、主に以下の3つです。
- メンタルヘルス不調の未然防止
高ストレス者を速やかにケアすることで、うつ病などの精神疾患の発症を未然に防ぐことができます(一次予防)。 - 労働者自身のストレスへの気付きを促す
不安や悩みがあると、知らないうちにストレスが蓄積され、精神疾患を引き起こすリスクが高まります。自身のストレス状態を客観的に把握し、セルフケアを促すことも重要です。 - 職場環境の改善
ストレスの要因を分析し、職場環境の改善に活かすことです。
例えば、人間関係に悩みがある場合は配置転換や指導方法の見直し、業務過多が原因の場合は仕事量の調整といった対策を講じることになります。
ストレスチェック制度の実施義務
「常時雇用する労働者が50人以上の事業場」では、年1回ストレスチェックを実施することが義務付けられています。
なお、従業員数50人未満の事業場については“努力義務”に留まりますが、近々義務化される予定です。
2025年3月の閣議決定(労働安全衛生法の改正案の決定)を受けたもので、成立すれば公布後3年(2028年4月)を目途に、50人未満の事業場でもストレスチェックの実施が義務となります。
ストレスチェックの対象者
ストレスチェックの実施対象には、正社員だけでなくパートやアルバイト、契約社員等も含まれます。雇用契約によらず、事業場で働くすべての労働者が対象となるため注意しましょう。
ただし、正社員以外の非正規労働者については、以下の2つの要件を満たす者のみが対象となります。
- ①労働契約の期間に定めがないこと、または契約期間が1年以上であること
- ②所定労働時間数が、通常の労働者の4分の3以上であること
上記の要件を満たさない場合、ストレスチェックの実施義務はありません。
ストレスチェックの実施者
実際にストレスチェックを行うのは、事業者ではなく「実施者」や「実施事務従事者」と呼ばれます。
| 役割 | 担当者 | |
|---|---|---|
| 実施者 | ストレスチェックを企画し、結果の評価をすること (例)質問票の作成、評価基準の決定、面接指導の実施など |
・医師 ・保健師 ・一定の研修を修了した看護師や精神保健福祉士 ※事業場の状況を把握している「産業医」が担当するのが一般的です。 |
| 実施事務従事者 | 実施者の補助 (例)調査票のデータ入力、結果の出力や保存、その他事務作業 |
・衛生管理者 ・社内のメンタルヘルス担当者 ・産業保健スタッフ など |
ストレスチェックの実施方法・流れ
ストレスチェックは、以下の流れで行うのが一般的です。
- 制度導入にむけた準備
- 質問票の内容の決定
- ストレスの程度の評価と通知
- 結果の保管
①制度導入にむけた準備
ストレスチェックの運用方法を定めるため、衛生委員会で以下の事項について話し合いを行います。
- 対象者の選定
- ストレスチェックを実施する時期
- 質問票の体裁
- 労働者が面接指導を申し出る方法
- 面接指導を依頼する医師
- 結果の分析方法
- 実施事務従事者(結果の管理や保管を行う者)の選定
決定事項は社内規定にまとめ、労働者に周知します。
ストレスチェックの運用には労働者の協力が不可欠ですので、制度の趣旨や目的も含めて周知しましょう。
②質問票の内容の決定
産業医のアドバイス等も踏まえ、ストレスチェックの調査票を作成します。
調査票の内容は、以下の3項目が含まれていれば決まった書式はありません。
- ①ストレスの要因(職場における心理的負担の原因に関する項目)
- ②心身のストレス反応(心理的負担による心身の自覚症状に関する項目)
- ③周囲のサポート(職場における他の労働者からの支援に関する項目)
内容が決まらない場合は、厚生労働省が公表する「職業性ストレス簡易調査票(57)項目」を参考にすると良いでしょう。
調査票を作成したら、労働者に書面を配布し、記入・提出してもらいます。また、社内のイントラネットやITシステムを利用し、オンラインで回答してもらう方法でも構いません。
ストレスチェックの受検は“義務”ではないため、労働者に受検を強制することはできません。
しかし、メンタル不調の一次予防という観点からみても労働者全員に受検させるのが望ましいため、期限までの受検を促しましょう。
標準的な質問事項は“57項目”ですが、より詳細な “80項目”の調査票も公表されています。
質問票の57項目と80項目の違い
80項目の調査票は、標準的な質問57項目に以下のような項目を追加したものです。
- 働きがい(ワークエンゲージメント)
- ハラスメント
- 職場の一体感
- 上司との関係性
- 人事評価
80項目の調査票を使用することで、より詳細なストレス要因を分析・把握でき、高い効果が得られると期待できます。
例えば、ストレスを引き起こしている最大要因を特定できれば、ピンポイントで改善策を立てられるため、効率的な運用につながります。
実際の80項目の調査票は、以下のページでご覧いただけます。
80項目以外にも、より詳細な“120項目”や、簡易的な“23項目”の質問票も用意されています。自社の状況に応じて、適切な質問表を参照しましょう。
③ストレスの程度の評価と通知
調査票の回答をもとに、実施者が労働者のストレスの程度を評価します。その際、評価結果が一目でわかるよう視覚的に工夫することも重要です。例えば、点数化した評価結果を数値で示すだけでなく、ストレスの状況を図表やグラフ等で可視化するのが望ましいとされています。
また、評価結果は速やかに労働者本人へ通知します。
通知が必要なのは、
- ストレスチェックの結果
- ストレス判定(高ストレス者に該当するか)
- 面談指導の対象かどうか
といった事項です。面談指導の対象となった場合、申出先や申出方法等もあわせて伝えましょう。
④結果の保管
事業者は、書面等で労働者の同意を取得したうえで、実施者から提供されたストレスチェックの結果の記録を作成し、5年間保存しなければなりません。保管方法や保管場所は、事業場の衛生委員会等で話し合い決定します。
例えば、以下のような場所に保管するのが一般的です。
- 事業場内(結果が紙の場合)
- 企業内ネットワークのサーバー内(結果がシステム上のデータの場合)
- 委託先である外部機関の保管場所
個人のストレスチェック結果は実施者が責任をもって管理し、事業者を含めた第三者に見られないよう注意する必要があります。
ストレスチェックを外部機関へ委託する場合
ストレスチェックの実施は、外部機関に委託することも可能です。
専門の外部機関であれば、調査票の作成、結果の分析、面接指導など一連の業務を委託できるため、事業者の負担を大きく軽減できます。委託先としては、健診機関やメンタルヘルスサービス機関等が挙げられます。
ただし、外部機関に委託する場合も、事業場の産業医としっかり連携して進めるのが望ましいとされています。また、ストレスチェックの結果は重大な個人情報ですので、セキュリティー対策が万全かどうかも委託先を選ぶ際のポイントです。
「できるだけ自社で実施したい」という方は、ストレスチェックの一連の業務を管理できる「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を活用するのもおすすめです。
ストレスチェック実施に当たっての留意点
ストレスチェックを実施する際は、以下の点に十分留意する必要があります。
- 守秘義務の発生
- プライバシーの保護
- 不利益取扱いの禁止
守秘義務の発生
ストレスチェック及び面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならず(労安衛法104第1項本文条)、これに違反した場合には6ヶ月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられます(労安衛法119条各号)。
さらに、医師、保健師及び看護師並びに精神保健福祉士は、業務上知り得た人の秘密をもらしてはならず、漏らした場合には一定の制裁が科されます(刑法134条、保助看法42条の2及び42条の3、PSW法第40条及び44条)。
プライバシーの保護
労働者のプライバシーを保護するため、事業者は、ストレスチェックの結果が外部に漏洩しないよう配慮しなければなりません。
具体的には、以下のような対策を行う必要があります。
- ①記入し終えた調査票が周囲の目に触れないよう、封筒に入れてもらう
- ②ICTを利用してストレスチェックを実施するに先立ち、個人情報の保護や改ざんの防止のための仕組み(システムへのログインパスワードの管理やキャビネット等の鍵の管理等)を整えておく
- ③事業者に提供されたストレスチェック結果や面接指導結果等の個人情報を適切に管理し、社内で共有する場合にも必要最小限の範囲にとどめる
事業者が労働者のストレスチェックに関する秘密を不正に入手することは違法です。
個々のストレスチェックの結果等は、労働者本人から個別に同意を得たうえで取得する必要があります。
不利益取扱いの禁止
事業者は、労働者が「ストレスチェックを受検しなかったこと」「ストレスチェックの結果開示に応じなかったこと」「面接指導を申し出ないこと」等を理由に、不利益取扱いをすることが禁止されています。
“不利益取扱い”とは、例えば以下のようなものです。
- ①解雇
- ②雇止め
- ③退職勧奨
- ④不当な動機や目的による配置転換
- ⑤職位の変更
- ⑥その他労働契約法等の労働関係法令に違反する措置
不利益取扱いについてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
高ストレスの労働者がいた場合の対応
ストレスチェックの結果として、高ストレス者であると判明した労働者がいた場合には、次のような措置が必要です。
ストレスチェックで“高ストレス”と判定された労働者については、以下のような措置を講じる必要があります。
- ①面接指導の実施
- ②就業上の措置
- ③職場環境の改善
面接指導の実施
高ストレスと診断された労働者から申し出があった場合、事業者は医師による面接指導を実施することが義務付けられています。
面接指導では、産業医等が以下の点を確認し、必要に応じてセルフケアの方法や受診先の専門機関等の医学的なアドバイスを行います。
- 勤務状況
- 心理的な負担の状況
- その他の心身の状況
就業上の措置
事業者は、面接指導を行った医師が必要と認めた場合、労働者に以下のような“就業上の措置”を講じる必要があります(労安衛法66条の10の6項)。
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少
- 当該医師の意見を衛生委員会等に報告する など
これらの措置は、労働者に対する不利益取扱いとならないよう配慮し、本人の同意を得たうえで実施する必要があります。
また、就業上の措置を講じる際は、上司や管理監督者の理解を得ることも不可欠です。事業者は労働者のプライバシーに配慮しつつ、措置の目的や内容、必要な対応等について十分説明しておきましょう。
職場環境の改善
高ストレス者が多い場合、職場全体の環境改善にも努めなければなりません。そのためには、ストレスチェックの結果から共通のストレス要因を洗い出し、改善策を検討する必要があります。
例えば、従業員数(労働力)が足りない、ハラスメントが黙認されている、オフィスの衛生状態が悪いといった具体的な問題点が見つかれば、対策も講じやすくなります。
また、ストレスチェックの結果を部署ごとに分析すれば、高ストレス者が多い部署を特定できます。
他部署に比べて残業が多かったり、業務過多になっていたりする可能性があるため、均衡がとれるよう社内全体で業務配分等を見直しましょう。
ストレスチェック制度における罰則・ペナルティ
ストレスチェックの実施を怠った事業者は、一定の罰則を受ける可能性があります。
また、企業の安全管理体制の不備を理由に、労働者から損害賠償請求をされるおそれもあるため注意が必要です。
未実施・未報告による罰則
ストレスチェックが未実施でも、直接的な罰則はありません。
ただし、事業者は年1回、検査結果等を労働基準監督署に報告しなければならず、この義務を怠った場合は50万円以下の罰金が科せられます(労安衛法120条5号)。また、虚偽の報告をした場合も同様です。
ストレスチェックが未実施の場合、労基署に報告書を提出できないため、結果として罰則の対象となります。実施義務がある企業は、必ず守るようにしましょう。
安全配慮義務違反
事業者は、職場における労働者の健康と安全を守る「安全配慮義務」を負っています(労働契約法5条)。
ストレスチェックは労働者の“心の健康”に関する措置なので、適切に運用しないと“安全配慮義務違反”が問われ、労働者から損害賠償請求をされるおそれがあります。
例えば、ストレスチェックの実施自体を怠った場合や、高ストレス者を放置した場合、安全配慮義務違反となる可能性があります。
また、問題が長引き裁判に発展した場合、企業イメージの低下や離職者の増加といったリスクも負うため注意が必要です。
ストレスチェックの実施における助成金
ストレスチェックに関する助成金には、「団体経由産業保健活動推進助成金」があります。
団体経由産業保健活動推進助成金とは、中小企業等の産業保健活動を支援するための制度です。支給対象は、以下2つのいずれかに該当する“事業団体等”となります。
- 事業主団体又は共同事業主であって、中小企業事業主の占める割合が構成事業主等全体の2分の1を超えているなど、一定の要件を満たす団体等
- 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第33条第3号に掲げる者の団体または同条第5号に掲げる者の団体であって、一定の要件を満たす団体
このうち、外部の産業保健サービス等と契約し、傘下の中小企業等にサービスを提供した事業団体に対して、委託費用等の90%(上限は原則500万円)が助成されます。
例えば、ストレスチェック後の職場環境改善に関するサービスを利用した場合等が助成の対象となります。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
