人事評価制度の導入手順|注意点、運用を成功させるポイントなど

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
人事評価制度は、社員・企業どちらにとってもメリットが大きいため、積極的に実施すべきといえます。
しかし、ただ制度を導入するだけでは十分な効果は得られません。導入時のポイントを押さえ、適切に運用していくことが重要です。
そこで本記事では、人事評価制度の導入の流れやポイント、導入後の運用方法などをわかりやすく解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
目次
人事評価制度の導入目的
人事評価制度を導入する目的には、以下のようなものがあります。
- 企業理念やビジョンの浸透
企業の将来像を明確にすることで、社内に一体感が生まれます。また、企業がどんな人材を求めているのか認識できるため、社員が主体的に行動しやすくなります。 - 公平な処遇の決定
評価軸や評価項目を明確化することで、公平な評価が可能となります。また、評価に対する社員の納得も得やすくなるでしょう。 - 人材育成の効率化
適切なフィードバックを行うことで、社員自身が足りない能力やスキルを把握できます。そのため、効率よく能力アップを目指すことができるでしょう。 - 人材配置の最適化
社員を客観的に評価することで、それぞれに適した業務を見極めることができます。より適切な部署に配置することで、作業効率が上がり、企業の業績アップにつながると期待できます。
人事評価制度の導入手順・作り方
人事評価制度の作り方は、以下のようになります。
- ①目的・目標の明確化
- ②評価項目・評価基準の策定
- ③社内規定の策定
- ④評価システム・フォーマットの導入
- ⑤社員への周知
それぞれの手順について、詳しくみていきましょう。
①目的・目標の明確化
企業として達成したい目的・目標を明確にします。一定の目的に基づき評価項目を作ることで、的確かつ効果的に制度を運用できるからです。
なお、目的や目標は、企業の経営戦略や課題などによって異なります。例えば、「評価結果を給与や賞与に反映したい」などの短期的な目的や、「人材を育成したい」「売上げをアップさせたい」などの中長期的な目標も挙げられるでしょう。
この点、目標を決める際は、企業の理念や行動指針を参考にするとスムーズです。また、経営層だけでなく、現場の管理職や社員の意見もヒアリングし、自社の現状を把握することも有効です。
②評価項目・評価基準の策定
社員の職務内容を洗い出し、求める成果や能力、行動をもとに評価項目を決定します。
なお、評価項目は職種や役職ごとに定めるのが基本です。
例えば、営業職であれば「売上げ」「交渉力」を、事務職であれば「正確性」「業務の効率化」、チームの協同業務であれば「チームワーク」などを重点的に評価するのが有効です。さらに、各等級に対して期待する役割を細分化し、等級ごとに評価項目を決めるのが望ましいでしょう。
また、評価方法も決める必要があります。「何段階でどのように評価するのか」「部門や個人の目標達成度を評価するのか」「評価者を誰にするのか」などの方法を検討しましょう。
なお、企業で一般的に使われている評価項目は、①能力評価、②業績評価、③情意評価の3つです。
下表に内容をまとめましたので、ご確認ください。
能力評価 | 従業員が持つスキルや知識、資格などに対する評価。企画力、実行力、改善力、交渉力、正確性、リーダーシップなど |
---|---|
業績評価 | 従業員の一定期間の業績や活動実績に対する評価。業績目標達成度、課題目標達成度など |
情意評価 | 従業員の仕事に取り組む姿勢や勤務態度に対する評価。責任性、協調性、積極性、勤務態度、学習意欲など |
③社内規定の策定
人事評価制度を導入する際は、就業規則や人事評価規程を作成しなければなりません。
これは、人事評価制度は就業規則の「相対的必要記載事項」にあたり、制度を実施する場合は記載が義務付けられているためです(労働基準法89条)。
就業規則や人事評価規程では、以下のような項目について定める必要があります。
- 評価対象者(正社員・アルバイト・パートタイマー・契約社員など)
- 評価対象期間
- 評価項目(知識量・規律性・成果など)
- 評価方法(評価者や評価区分など)
- 評価結果の処遇への反映方法
規定を定めたあとは、その内容を社員に周知することも必要です。
また、人事評価制度の導入により就業規則や賃金規定を変更した際は、所轄の労働基準監督署へ届出が必要となります。
就業規則の作成方法などは、以下のページで詳しく解説しています。
④評価システム・フォーマットの導入
人事評価システムや評価フォーマットの導入も検討しましょう。
人事評価をExcelやスプレッドシート等で運用することも可能ですが、人事評価においてはかなりの工数を処理する必要があるため、非常に手間がかかります。人事評価システムを導入すれば、情報の集約や管理の工数削減が期待できるため、作業の効率化を図ることができ、人件費の削減にもつながります。
なお、実際にどの評価システムを導入するかは、目的や予算、運用方法を考慮したうえで、最適なシステムを選択する必要があります。
また、人事評価フォーマットの作成にあたっては、評価者によって評価にブレが生じることがないよう、具体的な数値目標や達成水準を記載するなどして、評価項目や評価基準を明確にし、記入例も作成しておくと良いでしょう。
⑤社員への説明
社員に制度の目的を理解してもらうため、説明会等を開催します。説明は、制度をよく理解している人事部門が行うのが一般的です。また、管理職等の上位層から説明するのが望ましいでしょう。
特に、評価結果と処遇のつながり(○評価の場合、○○円減額する等)は明示しておく必要があります。
また、一方的な説明ではなく、社員からの質問にも応じるのがポイントです。質疑応答によって社員の不安が解消され、納得感を高めることができるでしょう。
人事評価制度を導入する際の注意点
人事評価制度は、導入後の運用方法も非常に重要です。「ただ評価して終わり」では、十分な効果が得られずかえって手間やコストだけがかかってしまいます。
では、人事評価制度を運営する際、企業はどんな点に気を付ければ良いのか、以下でみていきます。
公正な評価を行えるよう整備する
人事評価制度は、客観的な基準に従い公正に行うことが重要です(公正評価義務)。企業には、以下3つの対応が求められます。
- 公正かつ客観的な評価制度を整備・開示すること
- それに基づき公正な評価を行うこと
- 評価結果を開示・説明すること
一方、人事評価エラーが発生すると、社員の能力に見合った評価がなされず、不平や不満を生む可能性があるため注意が必要です。
人事評価エラーとは、評価者の主観や感情に左右され、偏った評価がなされてしまう現象です。例えば、
- 後輩に良く思われたいという感情から、甘い評価をつけてしまう
- 学歴や性別をもとに、推論で評価してしまう
- 外見や性格の良さから、ほかの項目も高く評価してしまう
などが考えられます。
人事評価エラーを未然に防ぐため、評価者に向けた研修を実施すると良いでしょう。研修では、評価項目や評価基準を周知するだけでなく、グループワークなどを通し、評価者間の認識のズレを埋めておくことも重要です。
絶対評価 | あらかじめ設定した目標の達成度をもとに評価を行う方法 |
---|---|
相対評価 | 他の従業員との比較によって評価を行う方法 |
評価期間全体で判断する
社員を評価する際は、評価期間全体を振り返って判断する必要があります。
注意すべきなのは、評価期間末期の働きぶりによって評価がなされてしまう「期末誤差」という人事評価エラーです。
この現象は、「直近の出来事の方が印象に残りやすい」という心理によって起こるため、誰でも注意が必要です。対策としては、評価期間中に定期的に記録・面談を行い、評価材料を揃えておくのが良いでしょう。
また、評価期間外の成果や行動は、評価対象に含まないよう注意が必要です。
定期的に人事評価制度の見直しをする
人事評価制度は、一度導入して終わりではありません。社会のニーズが変われば企業の目標やビジョンも変わりますし、企業規模も拡大する可能性があるためです。
そのため、組織の変化に合わせて、人事評価制度の内容も定期的に見直すことが重要です。
例えば、「評価項目が多すぎて、評価が雑になっていないか」「既存の評価軸と企業のビジョンが合致しているか」「評価者の主観に左右されていないか」といった点をチェックすると良いでしょう。
既存の評価制度と自社の現状が合わない場合、評価項目や評価方法を変更し、社員に周知し直すなどの対応が必要です。
人事評価制度の運用を成功させるポイント
人事評価制度の運用では、以下のポイントを押さえましょう。
- ①評価基準を明確にする
- ②公平性を持たせる
- ③フィードバックを行う
- ④評価と給与の関係が明確である
これらを満たすことで、より高い効果を得られると考えられます。以下でそれぞれ詳しくみていきましょう。
①評価基準を明確にする
評価基準が曖昧だと、社員はどんな人物像を目指せば良いのか把握できません。その結果、モチベーションが上がらず、生産性が低下してしまう可能性があります。
そこで、評価項目や評価内容を一度見直し、客観的に評価できるかどうかチェックしてみましょう。
例えば、事務職の評価項目であれば、ミスなく業務を遂行する「正確性」や、業務の効率化を提案する「発信力」、自社製品に関する「知識力」などが良い例です。
②公平性を持たせる
人事評価のガイドラインを作成し、社内に公開しましょう。ガイドラインでは、評価項目や評価内容、評価基準などを具体的に記載します。
また、人事評価エラーが発生すると公平な評価ができないため、エラーを防ぐ取り組みも重要です。例えば、評価者を対象に研修や教育を実施し、適切な評価方法を周知する方法があります。
③フィードバックを行う
フィードバックを行うことで、社員が自身の改善点を把握できるため、効率的な人材育成が可能となります。
また、適切に評価されていることが分かれば、社員の意欲も向上するでしょう。
フィードバックでは、評価結果を淡々と伝えるだけでなく、その根拠もしっかり説明します。
また、目標未達だった場合、「現状どんな能力が不足しているのか」「どう行動すれば目標達成に近づくのか」などを具体的に提案することが重要です。
また、課題点ばかり伝えると社員の意欲低下を招くおそれがあるため、良かった点や長所もしっかり伝えるようにしましょう。
④評価と給与の関係が明確である
人事評価の結果は、給与と連動させるのが望ましいといえます。
評価が給与に反映されれば、社員はより高い評価を得ようと努力しやすいためです。その結果、社員のスキルや生産性が上がり、企業の業績アップにもつながる可能性があります。
連動方法としては、1つの役職の中に給与幅をもたせ、評価結果によって変動する仕組みが一般的です。
また、評価と給与を連動させる場合、その旨を社員に周知する必要があります。このとき、「どれほど給与額が変わるのか」「いつから反映されるのか」なども併せて周知しましょう。
人事評価制度導入による不利益変更について
人事評価制度の導入により、社員に不利な労働条件を課すことは「不利益変更」にあたります。
例えば、「賃金制度を年功序列型から成果型に変更するケース」が挙げられます。この場合、社員との合意なく、一方的に就業規則を変更して労働条件を変えることは、原則として認められません(労契法9条)。
ただし、就業規則の変更に合理性があり、かつ変更後の就業規則が社員に周知されている場合は、例外的に不利益変更が認められます(同法10条)。
なお、変更の合理性については、社員が受ける不利益の程度、変更の必要性、労働組合等との交渉状況等を考慮して総合的に判断されます。
不利益変更の詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある