休職者の復職可否の判断基準|取るべき対応や退職・解雇について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
休職期間が満了しても復職が難しい場合、労働者は当然に退職又は解雇となる例が多いとされています。どちらになるかは就業規則の定めによりますが、まずは「本当に復職できないのか」を見極める必要があります。
復職可否の判断を誤って退職・解雇とすると、思わぬ労働トラブルを招くおそれがあるため慎重に判断しなければなりません。
本記事では、休職者の復職可否の判断基準、復職の流れ、復職時に会社に求められる対応などについて詳しく解説していきます。また、復職が難しい場合の対応についても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
復職可否の判断基準
会社は、以下の1~3のいずれかに該当する場合、労働者の復職を認める義務があると考えられます。
- 休職前の業務を通常程度に行える健康状態にまで回復していること
- 一定期間業務を軽減すれば、休業前の業務を通常程度に行える健康状態にまで回復すると考えられること
- 職務や職種が限定されていない労働者について、休職前の業務を行うのは困難だが他の業務であれば復帰が可能で、本人も他業務への復帰を望んでいること
逆に1~3のいずれにも該当しない場合は、本人の病状を悪化させるおそれがあるため、復職を認めるべきではないでしょう。
本来、復職は症状が治癒してから行うのが望ましいですが、上記の2.3のように、企業が何らかの配慮をすることで復帰が可能であれば、適切な措置を講じたうえで復職を認める必要があります。
【判断材料】①主治医の診断書
復職においては、医師の診断書が大きな判断材料となります。
復職には本人の意思だけでなく、休職に至った事由がなくなったことを“客観的に”証明しなければならないためです。
ただし、主治医が判断できるのは“職場復帰の可能性”だけなので、必要な業務遂行能力まで回復しているとは限りません。そのため、実際の業務内容を把握している上司や産業医とも面談したうえで、従来の業務に復帰できるかを判断する必要があります。
【判断材料】②産業医による面談の結果
実際に休職前の業務に戻れるかどうかは、産業医と面談したうえで判断することが重要です。
労働者には主治医がいますが、主治医に判断できるのは病状の安定性や職場復帰の可能性だけであり、業務遂行能力まで回復しているかは分かりません。また、主治医の診断書には労働者本人の希望が反映されていることがあるため、産業医による面談は必ず実施しましょう。
産業医の面談では、主に次の点を確認します。
- 労働者本人の勤労意欲
- 体力の回復状況
- 通院状況
- 職場環境や業務内容に問題はないか
- 復帰後に必要な配慮
産業医の役割について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
休職から復職までの対応の流れ
- 休職開始及び休職中のケア
労働者に医師の診断書を提出してもらい、期間を定めたうえで休職を開始します。
また、休職中は社内の相談窓口を提供したり、外部の専門機関を案内したりして、症状改善に向けたケアを行います。 - 主治医や産業医による復職可能性の判断
復帰には本人の意思だけでなく、主治医の診断書が必要となります。
ただし、実際に従来の業務に戻れるかは別問題なので、必ず産業医や会社指定の医師との面談を行ったうえで、復職の可能性を判断しましょう。 - 復職の可否判断、職場復帰支援プランの作成
本人の意思や医師の診断書、職場環境などを踏まえ、復職の可否を検討します。
復職が決まったら、本人や上司を交え、復職日や復帰後の業務内容、必要な配慮などについて話し合います。 - 最終的な復職の決定
復帰後のプランが決まったら、産業医に意見書を作成してもらい、本人に通知します。
また、確定した内容について、本人から主治医に伝えてもらいましょう。 - 復職後のフォロー
復帰後の勤務状況や業務遂行状況は定期的にチェックし、再発防止に努めることが重要です。
例えば、突発的な欠勤や遅刻・早退が多い場合、新たな不安や心配事を抱えている可能性があるため、本人にヒアリングしたうえで対応を検討する必要があります。
また、職場復帰プランの評価や見直しも定期的に行いましょう。
休職から復職する際に取るべき対応
労働者を復職させる場合、企業には以下のような対応を取ることが考えられます。
いきなり休職前と同じ働き方をさせると、症状が悪化したり、再発したりするおそれがあるため、復職前の準備は非常に重要といえます。
- 復職面談の設定
- 「リハビリ出勤」などの職場復帰支援
- 復職後の就業に関する配慮
復職面談の設定
復職の可否を判断する際は、休職者と人事担当者、産業医などで「復職面談」を行うのが一般的です。これは復職の可能性を見極めるだけでなく、復職後の配慮や人事上の措置を検討するうえでも重要なプロセスと考えられます。
また、復職面談は会社で行い、実際の始業時刻に合わせて開始するのが良いと考えられます。
実際に始業時間に合わせて会社に出向くことで復職後のシミュレーションができますし、本当に復帰できそうか本人が考えるきっかけにもなります。
面談においては、復職後に予定している業務や復職の進め方(リハビリ出勤の実施など)について、本人に説明するのが望ましいでしょう。
「リハビリ出勤」などの職場復帰支援
リハビリ出勤とは、労働者を試行的に勤務させ、スムーズな職場復帰を促すための制度です。
実際の勤務時間に活動したり、職場で過ごしたりして、身体を慣れさせるのが目的です。そのため、実際に業務を行うことは基本的にありません。
リハビリ出勤を実施するかは会社の自由ですが、厚生労働省も推奨する制度なので検討されると良いでしょう。
なお、リハビリ出勤には以下の3つの種類があります。
模擬出勤 | 通常の勤務時間と同じ時間帯に、図書館やデイケアのプログラムに参加すること |
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通勤訓練 | 通勤と同じ経路をたどり、職場付近で一定時間過ごしてから帰宅すること |
試し出勤 | 一定期間、従来の職場に出向き、滞在してみること(業務は行わない) |
以下のページもご覧ください。
復職後の就業に関する配慮
復職後は簡易的な作業から始め、徐々に休職前の業務に戻すのが望ましいでしょう。なお、人事異動などが原因でメンタル不調を発症した場合、復職後に配置転換させるなど、人事上の措置も検討する必要があります。
復職後の就業における配慮としては、以下のようなものが挙げられます。
- 短時間勤務
- 軽作業や定型作業への従事
- 残業・深夜労働の制限
- 出張制限
- 交代勤務の制限
- 危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務などの制限
- フレックスタイム制の制限または適用
- 転勤の免除
- リモートワーク
また、復職後は定期的に産業医との面談を行い、新たな問題が生じていないか確認することが必要です。さらに、復帰した労働者が安心して働けるよう、周囲に理解を求めることも重要です。
休職期間満了による解雇・退職の判断
休職期間が満了しても傷病が治らず職場復帰できないと考えられる場合には、基本的に就業規則の規定によって退職又は解雇とすることになります。なお、休職と復職を繰り返す社員にも対応できるよう、休職期間は通算する規定を設けると良いでしょう。
休職後そのまま退職する場合、自己都合退職と扱われるのが一般的です。ただし、本人に復職の意思があるにもかかわらず企業が一方的に復職を拒否すると、労使トラブルにつながる可能性があるため注意しましょう。
解雇の場合、就業規則の“解雇事由”にも「休職期間の満了」と記載する必要があります。
また、解雇日から30日以上前の解雇予告又は解雇予告手当の支払いが必要です。
退職や解雇における注意点は、以下のページでも解説しています。
休職期間満了による退職又は解雇であっても、就業規則等に退職金の規定がある場合には、退職金を支払わなければならない可能性があります。
退職金制度について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
離職理由は労働者(自己)都合か?会社都合か?
休職期間満了に伴う退職では、基本的に自己都合退職となると考えられます。
メンタル不調であっても、本人の都合によって労務提供ができなくなったといえるためです。
ただし、会社の就業規則に定めがあればそれに従います。また、ハラスメントや社内いじめ、過重労働などの職場環境が原因で休職に至った場合、会社都合退職になる可能性があるためご注意ください。
離職理由は退職金額や失業保険の給付にもかかわりますので、適切に判断する必要があります。
退職扱い・解雇時の通知義務
休職期間満了によって退職扱い又は解雇する場合、労働者にその旨を通知しなければなりません。
就業規則に従い、退職扱いなら「退職通知」、解雇なら「解雇通知」を送付しましょう。
通知には、主に以下の項目を記載します。
- 休職期間満了日
- 退職扱い又は解雇する根拠(就業規則の規定など)
- 退職日又は解雇日
例えば、「〇月〇日に休職期間が満了したため、就業規則第〇条に基づき、〇月〇日付で退職扱い(又は解雇)とします。」といった文面です。
なお、解雇の場合、解雇日の30日前までに解雇する旨を通知しなければなりません。
30日空けずに解雇する場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法20条1項)。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
休職期間満了時の解雇が不当解雇にあたるケース
休職期間満了による退職や解雇に関連するトラブルで最も多いのが、退職・解雇した労働者から「不当な退職・解雇である」と主張されるケースであり、訴訟に発展するおそれもあります。
就業規則などに、「休職期間が満了した後も復職できない場合は解雇すること」や「その方法」が明記されており、適法に運用されているのであれば、不当解雇とは判断されないケースもあり得るものの、運用を誤らないように、休職の原因が会社にあったか否かなどを慎重に確認しなければなりません。
不当解雇に該当する主なケースについて、次項でみていきましょう。
主治医が復職可能と判断したにもかかわらず、解雇した場合
医師が復職可能と判断しているにもかかわらず、労働者を解雇したり、退職させたりすると、不当な解雇又は退職と判断される可能性があります。
もっとも、主治医が実際の業務内容を理解しているとは限りませんし、本人の「復職したい」という意思を汲んで診断書を作成している可能性もあります。
そのため、会社と医師の判断が異なる場合は、具体的な業務内容などを主治医に伝えたうえで、復職の可否について改めて見解を聞くと良いでしょう。
パワハラやセクハラ、長時間労働、執拗な退職勧奨などが原因で休職した場合
パワハラやセクハラ、長時間労働、執拗な退職勧奨などが原因で休職に至った場合、会社にも責任がある“業務上の疾病”になり得る可能性があります。
業務上の疾病による休職の場合、休職期間中及びその後30日間は労働者を解雇することができません(労働基準法19条1項)。そのため、就業規則で定めた期間が過ぎても、休職期間満了と同時に解雇することは違法となります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある