過重労働による健康障害の防止措置|事業者が講ずべき対策や改正など

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
事業主は、労働者の安全や健康を守る義務を負っています。そこで、あらかじめ起こり得るリスクを想定し、適切な予防措置を講じることが重要です。
また、近年は長時間労働や過重労働が原因で、メンタル不調を起こす労働者も増えています。適切な対策をとらないと、労働者から損害賠償請求をされるおそれもあるため注意が必要です。
なお、2025年4月には「改正労働安全衛生規則」等が施行され、事業主にはより厳しい義務が課せられることになりました。こちらも漏れなく把握する必要があるでしょう。
本記事では、労働者の健康被害を防ぐために適切な措置、2025年4月からの改正点等について詳しく解説していきます。
過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置
厚生労働省は、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定し、事業者に以下のような防止措置を講じるよう求めています。
- ①時間外・休日労働時間の削減
- ②年次有給休暇の取得促進
- ③労働時間等の設定の改善
- ④健康管理体制の整備・健康診断の実施
- ⑤長時間労働者への面接指導
①時間外・休日労働時間の削減
時間外労働の上限は、原則「月45時間、年360時間」と定められており、臨時的な特別の事情があって特別条項を結んだ場合でも、
・時間外労働:年720時間以内
・時間外労働+休日労働:月100時間未満、2~6ヶ月平均がそれぞれ全て1ヶ月あたり80時間以内
・月45時間超え:年6ヶ月まで
としなければなりません。
さらに、休日は「毎週1日以上、または4週を通じて4日以上」与える必要があります。
なお、時間外・休日労働時間が月100時間または2~6ヶ月平均で月80時間を超えると、脳や心臓疾患の発症など健康障害のリスクが高くなると言われています。そのため、できる限り時間外労働は月45時間以下とするように努め、休日労働も削減するよう努めなければなりません。
時間外労働における割増賃金や、36協定の締結については、以下のページで解説しています。
②年次有給休暇の取得促進
使用者には、年10日以上の年次有給休暇(年休)が付与される労働者に対して、年5日の年休を確実に取得させることが義務付けられています(労基法39条)。
ただし、これはあくまで最低基準です。
年休の取得は、労働者の心身の疲労の回復、ワークライフバランスの実現に役立つだけでなく、生産性のアップなど会社にとっても大きなメリットがあります。
そのため、労働者が年休の取得に引け目を感じることがないよう、年休を取得しやすい職場環境づくり、年休の計画的付与制度の活用等により、年休の取得促進を図る必要があるでしょう。
なお、年休の計画的付与についての詳細は、以下のページをご覧ください。
③労働時間等の設定の改善
働き方改革により、「労働時間等設定改善法」と「労働時間等設定改善指針」が改正され、新たに勤務間インターバル制度の導入や、他企業との取引で短納期発注・発注内容の頻繁な変更を行わないこと等が、事業主の努力義務となりました。
事業主は、労働時間等の設定の改善を図るため、本指針に基づき、主に以下の措置を講ずるよう努めなければなりません。
- 労使による話し合いの機会の設定(労働時間等設定改善委員会など)
- 業務の特性に応じた柔軟な働き方の導入(フレックス、変形労働時間、裁量労働など)
- 時間外労働・休日労働の削減(ノー残業デー、代休の付与など)
- 労働者の健康保持等に役立つ働き方の推進(深夜業の回数制限、勤務間インターバル制度など)
- 多様な働き方の推進(ワークシェアリング、テレワークなど)
- 労働者各人の健康と生活への配慮(特に健康の保持に努める必要があると認められる者、育児・介護を行う者など)
なお、勤務間インターバル制度についての詳細は、以下のページをご覧ください。
④健康管理体制の整備・健康診断の実施
労働者の健康管理のため、産業医や衛生管理者等を選任し、健康管理に関する職務を適切に行わせましょう。それに伴い、事業主は、産業医に対して時間外労働が月80時間を超えた労働者の氏名など健康管理に必要な情報を提供する必要があります。
一方、労働者には、産業医への健康相談の申出方法等を周知させなければなりません。
また、常時使用する労働者は1年に1回、深夜業等に常時従事する労働者は6ヶ月に1回の頻度で、定期的に健康診断を行う必要があります。
なお、健康診断で異常が見つかった労働者については、健康保持に必要な措置について医師の意見を聴き、適切な事後措置をとらなければなりません。
安全衛生体制や健康診断について詳しく知りたい方は、以下の各ページをご覧ください。
⑤長時間労働者への面接指導
長時間労働は、脳・心疾患の発症リスクを高めるとされています。そこで事業主は、長時間労働により疲労が蓄積されている労働者に対して、医師による面接指導を行うことが義務付けられています(労安衛法66条の8)。
面接指導とは、医師が問診等により労働者の健康状況を確認し、必要な指導を行うことです。面接指導の対象となるのは、主に以下の労働者です。
- ①労働者(高度プロフェッショナル適用者除く)
月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積があり面接を申し出た者(面接の申出がない者は努力義務) - ②研究開発業務従事者
①の者と、月100時間超の時間外・休日労働を行った者 - ③高度プロフェッショナル制度適用者
月100時間超の時間外・休日労働を行った者
※高度プロフェッショナル制度適用者については、厳密には、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1か⽉当たり100時間を超えた者をいいますが、難しい点を捨象すればこのような表現になります。
長時間労働者への面接指導について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
労働者の危険を防止するため事業者が講ずべき措置
労働安全衛生法では、労働者の危険や健康障害を防止するため、事業者に以下のような措置を講じるよう求めています。
- ①危険防止措置
- ②健康障害防止措置
- ③危険が急迫した際の措置
- ④リスクアセスメントの実施
- ⑤危険有害業務従事者に対する安全衛生教育
このうち①~③の措置を怠った場合は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰則を受ける可能性があります。
①危険防止措置
事業主は、現場で働く労働者の安全を確保するため、以下のような危険について防止措置を講じる必要があります(労安衛法20条、21条)。
- 機械、器具その他の設備による危険
- 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
- 電気、熱その他のエネルギーによる危険
- 掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険
- 労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険
そのほか、作業場に関連して生じる危険性については、「危険箇所への立入禁止」や「火気使用の禁止」といった対策を講じる必要があります。
②健康障害防止措置
事業者は、以下のものを扱う作業において、労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じる必要があります(労安衛法22条)。
- 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体など
- 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧など
- 計器監視、精密工作等の作業
- 排気、排液または残さい物
また、労働災害を防ぐため、危険有害な作業が必要な機械、危険物、有害物等への規制も定められています(労安衛法37条~58条)。機械・有害業務に関する規制の詳細については、以下のページをご覧ください。
③危険が急迫した際の措置
事業主は、労働災害発生の危険が高まっている状況下では、直ちに作業を中止し、労働者を退避させるなど必要な措置を講じなければなりません(労安衛法25条)。
そのほか、労働安全衛生規則では、強風や大雨、大雪等の悪天候時には、高所作業など一定の作業を中止しなければならないとされています。
また、自然災害の発生後は、足場やゴンドラの点検を行うことも義務付けられています。
労働災害が発生してしまった場合の対応については、以下のページで解説しています。
④リスクアセスメントの実施
危険・健康障害の防止として、リスクアセスメントを実施すると効果的です。
リスクアセスメントとは、事業場の潜在的な危険性・有害性を見つけ出し、労働者に危険・健康障害を生じさせるリスクを見積もり、リスクを低減させるための措置を講じる一連の作業のことです。
リスクアセスメントの手順は、以下のとおりです。
- 事業場での危険性や有害性の特定
- リスクの見積もり
- 優先度の設定
- リスク低減措置の決定
リスクアセスメントを実施することで、企業には以下のようなメリットがあります。
- 職場のリスクが明確になる
- リスクに対する認識を職場全体で共有できる
- 安全対策についての合理的な方法で優先順位を決めることができる
なお、製造業や建設業等の事業者は、リスクアセスメントの結果をもとに、労働災害の防止対策を講じるよう努める義務があります(労安衛法28条の2)。
⑤危険有害業務従事者に対する安全衛生教育
事業者は、危険・有害業務に従事している管理者や労働者が危険な目に遭ったり、けが・病気をしたりすることがないよう、安全衛生教育を行う必要があります。
また、新しい機械設備や化学物質を取り扱う際は、それに対応した安全衛生教育を随時行うよう努めなければなりません。
安全衛生教育の詳細については、以下のページをご覧ください。
【2025年4月】退避や立入禁止等に関する労働安全衛生規則の改正
労働安全衛生規則などの改正に伴い、2025年4月より、事業主には新たに以下2つの義務が課されました。
危険防止措置の適用対象を、“労働者”から“作業に従事するすべての者”に拡大すること
作業場において、「危険箇所への立入禁止」や「火気使用の禁止」、「労働者の退避」、「悪天候による作業中止」といった措置を講じる場合、自社の社員だけでなく、以下のような者も適用対象とする必要があります。
- 一人親方
- 下請け業者
- 資材搬入業者
- 他社の労働者
- 警備員
- 家族就業者
なお、一般の見学者や通行人は含みません。
一人親方等に対する周知義務
危険箇所等で、一部の作業を「請負人(一人親方や下請け業者)」に行わせる場合、自社の労働者だけでなく、それらの請負人に対しても、保護具等の着用が義務であることを周知する必要があります。
周知方法としては、
- 作業場の見やすい場所に常時掲示する
- 書面を交付する
- 電子媒体やデータとして保存したうえで、いつでも閲覧できるパソコン等を設置する
- 口頭で伝える(周知内容が複雑な場合は避ける)
等が挙げられます。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
