割増賃金の計算方法|割増率や基礎賃金などをわかりやすく解説
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
割増賃金とは、従業員が時間外労働や休日労働、深夜労働をしたとき、通常の給与に上乗せして支払わなければならない賃金のことです。労働基準法37条で定められており、割増率も具体的に決められています。
適切な割増賃金を支払わないと、従業員とトラブルになり、未払い賃金をめぐって裁判に発展する可能性もあります。そのため、使用者は割増賃金のルールをきちんと理解し、正確に計算することが求められます。
本記事では、割増賃金の計算方法や割増率のルール、実務上の注意点等について解説していきます。具体例を交えわかりやすく説明しますので、ぜひご覧ください。
目次
割増賃金の計算方法
割増賃金の計算式は、【1時間あたりの基礎賃金×対象労働時間数×割増率】です。
そのため、まずは各々の「1時間あたりの基礎賃金」を算出し、以下の手順で割増賃金額を求めることになります。
- 1時間あたりの基礎賃金を算出する
- 所定労働時間を算出する
- 実労働時間を確認する
- 割増賃金を算出する
①1時間あたりの基礎賃金を算出する
割増賃金の計算では、まず「1時間あたりの基礎賃金」を求める必要があります。
1時間あたりの基礎賃金とは、割増賃金などを計算する際に基準となる1時間あたりの賃金額のことです。また、基礎賃金の算出方法は、給与形態によって下表のように異なります。
| 制度 | 割り出し方 |
|---|---|
| 時給制の場合 | 時給額をそのまま適用する |
| 日給制の場合 | 日給額÷1日の所定労働時間数 ※シフト制等で日によって所定労働時間が異なる場合、「1週間における1日の平均所定労働時間数」で割る |
| 週給制の場合 | 週給額÷1週間の所定労働時間数 ※シフト制等で週の所定労働時間にバラつきがある場合、「4週間における1週平均所定労働時間数」で割る |
| 月給制の場合 | 月給額÷1ヶ月の平均所定労働時間数 ※1ヶ月の平均所定労働時間数=(365日-年間休日数)×1日の所定労働時間数÷12ヶ月 |
| 出来高制の場合 | 出来高給÷出来高給の算定期間中の総労働時間数 |
なお、「変形労働時間制」では基本的に割増賃金は適用されませんが、一定期間における週平均労働時間が40時間(法定労働時間)を超える場合、割増賃金が発生するため注意が必要です。
また、月給などには基本給だけでなく、毎月支給する「各種手当」も含まれ得ます。
基礎賃金から除外される賃金
割増賃金の計算のベースとなる「基礎賃金」には、基本給以外に支払っている各種手当も含まれます。
ただし、以下の手当等は基礎賃金として算入せず、除外されます。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
所定賃金の中に、この除外賃金に該当する手当・賃金が入っていた場合は、それを差し引いてから、1時間あたりの基礎賃金を計算します。除外賃金の種類は労働基準法で定められているため、皆勤手当など上記以外のものは除外できません。
もっとも、実際にこれらの手当を除外する際は、実態によって判断するべきとされています。
例えば、家族手当や通勤手当という名称で支給していたとしても、家族の数や通勤距離等に関係なく、全社員に一律固定で支給されるものは、除外の対象とはなりません。
②平均所定労働時間を算出する
所定労働時間とは、雇用契約や就業規則等で定められた労働時間をいいます。つまり、始業から定時までの時間のことです。
割増賃金の計算では、この「所定労働時間」を使います。実際に働いた時間である「労働時間」とは異なるため注意が必要です。
月給制の場合、まずは1ヶ月の平均所定労働時間を以下の式により算出します。
1ヶ月の平均所定労働時間=(1年間の総労働日数-1年間の所定休日日数)÷12×1日の所定労働時間数
〈例〉所定休日日数125日、1日の所定労働時間8時間
→(365(日)-125(日))÷12×8(時間)=160(時間)
この場合、1ヶ月の平均所定労働時間は160時間になります。
1時間あたりの基礎賃金を求めるためには、所定労働時間で月間の基礎賃金を割る必要があります。
例えば、月給が32万円であれば、1時間あたりの基礎賃金は、32万円÷160時間=2000円となります。
③実労働時間を確認する
割増賃金は、時間外労働・休日労働・深夜労働など、通常の勤務時間を超えて従業員が実際に働いた時間に対して支払う必要があります。そのため、「実労働時間」を算出しておく必要があります。
これは、あらかじめ定められた所定労働時間ではなく、あくまでも「従業員が実際に働いた労働時間」ですので、タイムカード等、出勤状況がわかるものを参考にしましょう。
なお、法定労働時間は1日8時間と決められていますが、この1日とは、「午前0時から24時まで」の暦日のことを指します。ただし、24時を超えて翌日まで働き続ける、つまり2暦日にまたがって働く場合は、勤務が開始した日(始業時間が属する日)の労働として、1日の労働時間をカウントします。
例えば、深夜労働をして翌日の始業時間9時まで働き続けた場合は、翌日の9時までが前日の労働時間となります。
④割増率を適用する
労働基準法では、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働について、それぞれ割増賃金の最低限の割増率が定められています。
なお、割増賃金の種類ごとの割増率を下表にまとめましたので、ご確認ください。
| 割増賃金の種類 | 対象となる労働 | 割増率 |
|---|---|---|
| 時間外手当 (法定外残業) |
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働 | 25% |
| 時間外労働の限度時間(1ヶ月45時間、1年360時間等)を超える労働 | 25% | |
| 月60時間を超える時間外労働 | 50% | |
| 休日手当 (法定休日労働) |
法定休日(1週1日、4週4日)の労働 | 35% |
| 深夜手当 (深夜労働) |
22時~5時の労働 | 25% |
時間外労働(残業)の場合
時間外労働における割増賃金の計算式は、以下のとおりです。
時間外労働割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.25
例えば、1 時間あたりの基礎賃金 2000円の従業員を、9時から 20 時まで(休憩 1 時間)勤務させた場合は、18時~20時までが時間外労働となり、2000円×2時間×1.25=5000 円の割増賃金の支払いが必要となります。
法定労働時間は、「1日8時間、週40時間」までと定められており、この時間を超えて従業員を働かせる場合には、36協定の締結とともに、通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条)。また、1ヶ月60時間を超える時間外労働については、通常の賃金の50%以上の割増率にしなければなりません。
休日労働の場合
法定休日に労働した場合の割増賃金の計算式は、以下のとおりです。
休日労働割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.35
例えば、1時間あたりの基礎賃金2000円の従業員に、法定休日の9時~18時(休憩1時間)に勤務させた場合は、2000円×8時間×1.35=2万1600円の割増賃金を支払わなければなりません。
なお、法定休日とは法律で定められた休日をいい、「1週間に1日、または4週間に4日」従業員に与えることが義務付けられています。そして、この法定休日に働かせた場合、使用者は35%以上の割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条)。
例えば、週休2日の会社の場合、1日を「法定休日」、もう1日を「所定休日」と定めるのが一般的です。このとき、法定休日に勤務した場合は35%以上の割増賃金の支払いが必要ですが、所定休日であれば基本的に割増賃金は発生しません(ただし、週40時間の法定労働時間を超えた場合は25%以上の割増率となります)。
なお、これは法定の最低割増率であり、会社が任意で両日ともに35%の割増賃金を支払うことも可能です。
深夜労働の場合
深夜労働における割増賃金の計算式は、以下のとおりです。
深夜労働割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.25
例えば、1時間あたりの基礎賃金2000円の従業員を、19時~24時まで勤務させた場合は、22時~24時までが深夜労働と扱われ、2000円×2時間×1.35=5400円の割増賃金を支払わなければなりません。
22時~5時の労働は「深夜労働」とされ、法律により25%以上の割増賃金を支払う義務があるためです(労基法37条)。ただし、厚生労働大臣が必要と認めた場合は、当該の期間または地域については、23時~6時が深夜時間とされる場合があります。
深夜労働の割増賃金について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
割増賃金の計算方法に関する注意点
割増賃金の計算では、以下の2点に特に留意する必要があります。
- ①端数処理のルールが法律で定められている
- ②割増賃金は重複することがある
端数処理のルールが法律で定められている
給与計算において、使用者が一方的に端数を切り捨てることは、「賃金全額払いの原則」(労働基準法24条)に違反するため認められません。
ただし、以下3つの端数処理の方法については、常に従業員の不利益にはならず、便宜上の処理と認められるため、例外的に労基法24条違反にはあたらないとされています。
- ①1ヶ月間における時間外労働・休日労働・深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる。
- ②1時間あたりの賃金額及び割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げる。
- ③1ヶ月間における割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、②と同様に処理する。
例えば、1時間あたりの割増賃金額が1350.4円だった場合、0.4円を切り捨てて「1350円」とすることができます。
一方、1時間あたりの割増賃金額が1350.5円の場合、0.5円は切り上げて「1351円」を支払う必要があります。
割増賃金は重複することがある
割増率が2つ以上適用される場合、それぞれの割増率を足して計算する必要があります。具体的には、下表のような割増率になります。
| 種類 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外労働+深夜労働 | 50%(25%+25%) |
| 月60時間を超える時間外労働+深夜労働 | 75%(50%+25%) |
| 法定休日労働+深夜労働 | 60%(35%+25%) |
例えば、所定労働時間が10時~19時(休憩1時間)で、23時まで残業した場合、
- 19時~22時→25%(時間外労働25%の割増)
- 22時~23時→50%(時間外労働25%+深夜労働25%=50%の割増)
の割増賃金を支払う必要があります。
一方、法定休日労働と時間外労働の割増率は重複されません。これは、法定休日にはそもそも法定労働時間が存在せず、時間外労働に対する割増賃金も発生しないためです。
【ケース別】時間外労働の考え方
遅刻・早退をしたときや、半休・有給休暇をとったとき、副業をしている場合の時間外労働の数え方について、以下で解説していきます。遅刻・早出の場合
遅刻・早出をした場合は、実際に出社して働き始めた時間からカウントして8時間までは法定労働時間内、8時間を超えて労働した場合は、時間外労働に該当します。
【例①】
「始業10時、終業19時」の企業で、遅刻して12時に出社し、23時まで勤務した場合
↓
・12時~21時まで(休憩1時間)の実労働8時間は法定労働時間内
・8時間を超えた21時~23時までの2時間が時間外労働
※22時~23時は深夜労働であるため、さらに深夜割増賃金もプラスされます。
【例②】
「始業10時、終業19時」の企業で、始業時間より早い8時に出社(早出)して、20時まで働いた場合
↓
・8時~17時まで(休憩1時間)の実労働時間8時間は法定労働時間内
・8時間を超えた17時~20時までの3時間が時間外労働
半休・有給取得の場合
半休・有給を取った場合は、実労働時間で時間外労働を判断します。
半日有給休暇をとった日は、実労働時間が8時間を超えた時間から、時間外労働となります。
【例】「始業10時、終業19時」の企業で、半日有給休暇を取って、15時から出勤し、23時まで働いた場合
→終業時刻の19時の時点でまだ4時間しか労働しておらず、実労働時間が8時間を超える23時からが時間外労働となる。また、22時~23時は深夜労働となるため、さらに深夜割増賃金も適用される。
次に、有給休暇を取った週は、1週間の実労働時間が40時間を超えた時間から、時間外労働になります。
【例】月曜日に有給休暇を取り、火曜~土曜まで、それぞれ8時間働いた場合
→それぞれ1日の労働時間8時間以内、1週間の労働時間も40時間以内であるため、この週は時間外労働が発生しません。
ダブルワーク・副業をしている場合
従業員がダブルワークや副業をしている場合、それぞれの勤務先における労働時間は通算することになるため、通算して法定労働時間を超えた時点で割増賃金が発生します。また、割増賃金の支払い義務については「後から雇用契約を結んだ企業」が負います。
| ①A社で8時間働いた後、B社で3時間勤務した場合 | 3時間分の割増賃金をB社が支払う |
|---|---|
| ②A社で10時間働いた後、B社で2時間勤務した場合 | A社、B社それぞれが2時間分の割増賃金を支払う |
| ③A社で5時間働いた後、B社で5時間勤務した場合 | 法定労働時間を超える2時間分の割増賃金をB社が支払う |
なお、従業員が以下の職種・形態でダブルワークや副業をしている場合、労働時間を通算する必要はありません。
- フリーランス、起業者、顧問、理事、監事など(労働基準法上の労働者に該当しないため)
- 管理監督者、林業を除く農林水産業の従事者、労基署から許可を得た監視・断続的労働従事者など(労働時間の制限が適用されないため)
- 有給休暇取得日に行ったダブルワークや副業
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
