欠勤控除の正しい計算方法と注意点を詳しく解説
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働者が欠勤等した場合、欠勤した分を賃金から控除する処理を行っている会社が多いのではないでしょうか?また、会社側はどのように欠勤控除の計算をすれば良いか、迷うこともあるでしょう。計算方法によっては、労働者や会社が負担を負ってしまう場合もあります。
そこで本記事では、欠勤控除の計算方法や、その他の欠勤控除に関する注意点を詳しく解説していきます。
目次
欠勤控除とは
欠勤控除とは、労働者に本来支払うはずだった給与から、欠勤により働かなかった時間分の給与を差し引くことをいいます。欠勤とは、通常出勤するべき日に、体調不良など労働者側の都合で休むことです。
基本的に、企業ではノーワーク・ノーペイの原則により、「労働者が働かない分の賃金を支払う義務はない」という考え方が多くとられています。そのため、欠勤した場合だけでなく、遅刻や早退についても、労働力が提供されていない分については、給与を支払う必要はありません。
ノーワーク・ノーペイの原則に基づく控除額などについて、労基法では特にルールを置いていません。
そのため、欠勤控除をする場合は、就業規則に「欠勤控除に該当するケース」や「欠勤控除の計算方法」等を明記した上で、労働者に周知する必要があるでしょう。
欠勤控除の概要について知りたい方は、以下の記事もセットでご覧ください。
欠勤控除が発生するケース
欠勤控除が発生する典型的なケースとして、以下が挙げられます。
- 体調不良による欠勤
発熱や腹痛など体調不良の日に、有給休暇を使わずに休んだ場合は、欠勤控除の対象です。
遅刻や早退も同じです。ただし、事後の有給申請を認めているならば、欠勤扱いとなりません。 - インフルエンザなどの感染症で1週間欠勤
インフルエンザ等の感染症にかかった場合は、感染リスクがあるため一定期間出勤しないのが通例です。この際、有給休暇を使えない場合は、欠勤控除の対象です。ただし、4日以上欠勤すると、傷病手当金が支払われます。 - 自己都合による早退
子供が熱を出したため保育園に迎えに行くなど、自己都合による早退をした場合も、有給休暇を使わないのであれば、欠勤控除の対象です。ただし、事後の有給申請が可能であれば、欠勤扱いとなりません。
欠勤控除の計算方法
欠勤控除の計算方法は法律で定められているわけではありません。
そのため、ここでは、厚生労働省が示している就業規則のモデルケースを参考にしながら、以下の4つの一般的な計算方法について解説していきます。
- ①年平均の所定労働日数から計算する方法
- ②該当月の所定労働日数から計算する方法
- ③年の暦日数から計算する方法
- ④毎月の暦日数から計算する方法
もっとも、フレックスタイム制や変形労働時間制など特殊な労働時間制を採用している場合は、計算方法が異なるため注意が必要です。
①年平均の所定労働日数から計算する方法
1つ目は、年平均の月所定労働日数から日給を計算して、欠勤控除を行う計算方法です。
欠勤控除額 = (月給与額 ÷ 年平均の月所定労働日数※)× 欠勤日数
※年平均の月所定労働日数=(365日-年間の所定休日日数)÷12ヶ月
例:月給25万円、年間所定休日日数120日、欠勤5日の場合
年平均の月所定労働日数=(365日-120日)÷12ヶ月≒20日
欠勤控除額=(25万円÷20日)×5日=6万2500円となります。
この計算方法では、欠勤1日あたりの控除額は年間を通しても一定であり、月による変動がないというメリットがあります。
ただし、上記の例で、所定労働日数が21日である月に20日間も欠勤してしまうと、1日勤務したとしても、月給与額と欠勤控除額が同額となるため、給与を支払うことができなくなります。
もっとも、年間でみれば欠勤日数と欠勤控除の総額に過不足がおきないため、違法とされることはありません。
②該当月の所定労働日数から計算する方法
2つ目は欠勤月の所定労働日数から欠勤1日あたりの控除額を算出し、欠勤控除する方法です。
欠勤控除額 = (月給与額 ÷ 該当月の所定労働日数) × 欠勤日数
例:月給25万円、所定労働日数20日、欠勤5日の場合
欠勤控除額=(25万円÷20日)×5日=6万2500円となります。
この方法は月により所定労働日数が異なるため欠勤控除額も変動します。また、所定労働日数が多い月は控除額が小さいため、該当月に欠勤者が増えるリスクもあります。
③年の暦日数から計算する方法
3つ目は、年の暦日数から欠勤控除額を算出する方法です。
欠勤控除額 = (年間給与額 ÷ 年の暦日数) × 欠勤日数
(年の暦日数は365日または366日)
例:年間給与365万円、年の暦日数365日、欠勤3日の場合
欠勤控除額=(365万円÷365日)×3日=3万円となります。
この計算方法では、欠勤1日あたりの控除額は一定となります。また、分母の数値(年の暦日数)が大きくなるため、欠勤控除額が低額になり、労働者の負担が小さくなります。
ただし、労働者がすべての所定労働日数を欠勤しても、給与支払いは生じるため、会社側の負担が大きくなるという注意点があります。
④毎月の暦日数から計算する方法
最後は、毎月の暦日数から日給を計算し、欠勤控除を行う計算方法です。
欠勤控除額 = (月給与額 ÷ 月間の暦日数) × 欠勤日数
例:月給30万円、暦日数30日、欠勤3日の場合
欠勤控除額=(30万円÷30日)×3日=3万円となります。
月間の暦日数は、月によって28日、29日、30日、31日と異なるため、毎月当てはめて計算しなければなりません。そのため、毎月の欠勤控除額が変わってしまい、処理が煩雑になります。
また、前述の③の計算方法と同じく、分母の数値(該当月の暦日数)が大きくなるため、欠勤日数が多くても給与を支払うことになります。
遅刻・早退による賃金控除の計算方法
遅刻や早退に関しても、ノーワーク・ノーペイの原則を適用し、賃金からその時間分だけの控除をすることができます。ただし、控除を行うためには就業規則に定めておく必要があります。
具体的な遅刻・早退時の賃金控除の計算方法は、以下のようになります。(月給制の場合)
遅刻・早退控除の対象とする月の給与額÷1年間の月平均所定労働時間数×遅刻・早退の時間
1年間の月平均所定労働時間数は、以下のように算出します。
(365 – 年間休日数)×1日の所定労働時間÷12
各種手当に対する欠勤控除
給与には固定の基本給に加えて、通勤手当や住居手当など各種手当を支給している企業が多いでしょう。
欠勤控除における手当の取扱いについても、法律上のルールがないため、就業規則にて定めることになります。どの手当を欠勤控除の対象とするかについては、会社が任意で定めることが可能です。
なお、手当の種類は、通勤手当や営業手当など「労働にかかわる手当」と、家族手当や住宅手当など「直接労働にかかわりのない手当」の2つに分けられます。
前者の手当は、実際に仕事をする前提で支払う手当であるため、労働者が欠勤等した場合は、欠勤控除の対象となると考えるのが妥当です。一方、後者の手当は、実際の労働とは関係なく支払う手当であるため、欠勤控除の対象外と考えられます。
給与における手当の種類については、下記のページをご覧ください。
欠勤控除を計算する際の注意点
欠勤控除を計算する場合の注意点として、以下が挙げられます。
- ①欠勤控除について就業規則に明記しておく
- ②最低賃金以下にならないように注意する
- ③欠勤控除額の端数処理にも気を付ける
欠勤控除について就業規則に明記しておく
ノーワーク・ノーペイの原則により、就業規則に定めがなくても、欠勤控除自体はすることができます。
ただし、欠勤控除など賃金に関する規定は、大変重要な労働条件の一つです。就業規則に規定がないまま、欠勤控除を行うと、労使トラブルへと発展するリスクがあります。
そのため、トラブルを未然に回避するためにも、欠勤控除の取扱いについて就業規則や給与規定にあらかじめ明記しておくことが必要です。欠勤控除については法律によるルールがないからこそ、従業員全員に伝わるようにしておかなければなりません。
なお、就業規則に定める際には、欠勤控除が適用されるケースや、どのような手当を欠勤控除の対象とするのか、欠勤控除をする場合の計算方法などについて、具体的に記載しておくのが望ましいでしょう。
最低賃金以下にならないように注意する
欠勤控除を行う場合は、欠勤控除の計算後の賃金が、最低賃金以下にならないよう注意が必要です。
最低賃金を下回るリスクがあるケースとして、「所定労働日数が多い月に数日だけ出勤して、残りは欠勤した」ケースが挙げられます。
以下で具体例を見てみましょう。
例:月給20万円、月平均の所定労働日数21日、1日の労働時間8時間、所定労働日数23日の月に3日出勤・20日欠勤した場合
欠勤控除額= (20万円÷21日)×20日≒19万0476円
当月給与額= 20万円−19万0476円=9524円
上記の当月給与額を、出勤した3日分の時間で割って、時給に換算すると、最低賃金額を下回ってしまいます。
時給=9524円÷24時間(1日8時間×3日)≒396.8円
このように、最低賃金以下の金額となる場合は、欠勤日数分を差し引くのではなく、「1日あたりの給与額×出勤日数」の金額を支払う等といった措置が必要です。就業規則にもその旨規定しておくべきでしょう。
欠勤控除額の端数処理にも気を付ける
欠勤控除における端数処理については、原則切り捨てとします。端数を切り上げてしまうと、欠勤していない時間分までも控除してしまうためです。これは、ノーワーク・ノーペイの原則に反するだけでなく、労基法24条の賃金の全額払いの原則に違反するリスクがあります。
具体例を挙げると、従業員が5分の遅刻をしたとします。それを会社側の都合によって計算を簡単にするため、5分の遅刻を30分遅刻したものと扱い、賃金から控除すると、従業員は切り上げた25分の時間について、働いたにもかかわらず無給となってしまいます。
これは、賃金の全額払いの原則に違反する行為になるため、遅刻や早退時間の賃金控除は必ず1分単位での処理が必要となります。
なお、賃金の全額払いの原則についての詳細、賃金控除と勘違いしがちな減給の詳細は、以下のページをご覧ください。
欠勤控除における税金の取り扱い
欠勤控除額は、非課税となります。計算方法としては、総支給額合計額から欠勤控除額を差し引きます。この計算方法により、課税合計額が算出できます。
また、通勤手当は基本的に非課税となるため、単体での控除額を算出する必要があります。
そのほか、手当にかかる税金については、下記のページをご覧ください。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
