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賞与の減額

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

賞与は、労働基準法上の“賃金”の1つですが、定期的に支払われる給与等とは異なり、使用者に支払いを義務付けられているものではありません。そのため、賞与を支給するか否か、どのような支払基準を設けるかは、会社に裁量があります。

しかし、賞与の減額にあたっては、賞与の有する性格、就業規則の賞与規定の内容等によっては違法性が問われるおそれがあるため、注意が必要になります。

このページでは、【賞与の減額】に焦点をあてて解説していきます。

賞与の減額について

賞与を支給する場合には、就業規則に賞与に関する規定を設け、それを根拠に支払いを行います。

就業規則に賞与の支払基準が明記されている場合には、賞与も給与等と同様に扱わなければならず、会社には定めに準じた金額を支給する義務が生じます。この場合の賞与の減額は労働条件の変更にあたるため、労働者の同意がある場合を除き違法、無効となります。

他方で、就業規則の賞与規定の内容が弾力的なものである場合、あるいは、合理的な理由による就業規則の変更が行われた場合等に、適正な査定に基づいてなされた減額は有効に扱われます。

次項より、賞与の減額が問題になり得る点をケース別にみていきましょう。

産休・育休中の減額

産休・育休を理由とする賞与の減額は、男女雇用機会均等法9条、育児介護休業法10条により、基本的に違法、無効の扱いになると考えられます。ただし、賞与の算定期間中にかかる産休・育休期間の日数に応じて支給額を減額すること自体は違法にならないとされています。

これを踏まえ、例えば、就業規則に『賞与支給日に在籍している者を支給の対象とする』『休業中の者は支給の対象外とする』等と規定している場合、どのような対応をすべきなのでしょうか。

まず、産休・育休中は休業期間ではありますが、会社に在籍している状態であるため、賞与支給の対象となります。この場合、産休・育休中の者を賞与支給対象者から除外することは違法、無効となるリスクがあります。そのため、産休・育休取得者を「在籍している者」と扱って、賞与の支給対象者とすべきです。

産休・育休取得者も休業扱いとなるので、『休業中の者は支給の対象外とする』という就業規則の定めにより支給対象外となります。もっとも、賞与の算定期間中の勤務の有無等にかかわらず、産休・育休取得者を一律に賞与の支給対象者から除外することは、不利益取扱いにあたり、違法、無効となるおそれがあります。

なお、賞与の算定方法として、出勤日数が考慮事由となっている場合には、期間から産休・育休期間を除いた日数、つまり出勤している日数に応じて賞与を支給することは、適法となります。

賞与が出産手当金に影響するのか

産休・育休中に給料が生じる場合、出産手当金が減額となったり、金額によっては不支給となったりと、影響が出てきます。 しかし、賞与に関しては、年3回以下の支給であれば、原則として出産手当金の調整の対象にはならないとされています。つまり、4回以上の賞与の支給は給料と同様に扱われ、調整の対象となります。

年俸制の場合、就業規則上の年俸の内訳によって出産手当金に影響する可能性があります。

産休・育休中の賃金に関して詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。

産前産後休業について
育児時間について

退職予定者の減額

賞与には、労働者の過去の業績等に基づく賃金の後払い的性格、将来の貢献に対する期待に基づく支払いという性格等をもっており、何に重きをおいているかは会社によって異なります。

非退職予定者に比べて退職予定者の賞与支給額を減額する旨を就業規則に明記し、労働者に周知徹底している場合には、退職予定者の賞与を一定程度減額して支給することも可能です。ただし、認められるのは、会社の裁量権の範囲において合理的な減額に限定されます。

また、特段そのような定めがない場合に一方的に賞与を減額することは、労働条件の不利益変更となるため違法、無効の扱いとなるおそれがあります。

退職予定者の減額が認められた裁判例

【東京地方裁判所 平成8年6月28日判決、ベネッセコーポレーション事件】

原告の就業規則と一体をなす給与規程に基づき作成された支払基準書は、賞与額について退職予定が有るか否かにより支給内容に差異を設けていました。そのため、原告が原告の従業員であった被告に対して退職予定がないことを前提として算定した賞与額を支給したところ、賞与支給日の2日後に退職したことにつき、賞与が過払いであったとして、被告に差額の返還等を求めた事案です。

裁判所は、将来に対する期待の程度の差に応じて、退職予定者と非退職予定者の賞与額に差を設けること自体は不合理ではなく、これが禁止されていると解するべき理由はないと述べました。

しかし、本件支払基準書に従うと、被告は被告と同一条件の非退職予定者が受給する賞与額の17%余しか受給できないことについて、将来に対する期待の程度が減額される82%余の部分を占めるものとするのは肯認できないとしました。つまり、非退職予定者に支給する82%余の部分のうちには本来賃金の要素からなる部分が含まれていると解さざるを得ず、実質的に、労働者の賃金を不当に奪うことになります。

したがって、給与規程の委任の枠を超えた本件条項は、原告における賞与制度の趣旨を阻害するものであり、無効とし、また、賞与の減額が認められる範囲について、さまざまな事情を勘案すると、被告と同一条件の非年内退職予定者が受給する賞与額の20%とするのが相当であると判示しました。

勤怠考課による減額

賞与の支払基準の決定は会社に裁量がありますから、算定期間中の遅刻、早退等の勤怠考課の対象として査定し、支給額を決定することもあります。この場合の減額は、制裁としての減給(懲戒処分の1つ)とは区別されるものであり、会社の裁量を逸脱しない範囲であれば有効に扱われます。

なお、制裁としての減給を行うには、その旨を就業規則に定めておく必要があります。

賞与の査定方法と項目

就業規則の賞与規定に支払基準が明記されていない場合には、労働者の出勤状態、業績、能力、勤務態度、会社の業績への貢献の程度等をもとに賞与の査定を行います。

また、近年は、上司のみでなく同僚、部下の意見も評価の対象とする“360度評価”を採用している会社もあります。

賞与の制裁に関して

制裁として賞与から減額することは、労働基準法91条の減給の制裁にあたります。そのため、減額は1事案につき平均賃金の1日分の2分の1を超えてはならず、また、その総額が1算定期間における賞与額の10分の1を超えないように注意しなければなりません。

労働基準法

(制裁規定の制限)第91条
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。

賞与の制裁に関する裁判例

【札幌地方裁判所室蘭支部 昭和50年3月14日判決、新日鉄室蘭製鉄所成人式妨害懲戒事件】

原告らが被告会社主催の成人祝賀会において、清涼飲料水のびんを壁に投げつけて破裂させる等して成人式の拒否を扇動するような行為をしたことが、就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するものの、情状により条件付出勤停止処分に留めたうえ、賞与不支給としたこと等につき、処分の根拠たる労働協約の規定が労働基準法91条違反である等と争った事案です。

裁判所は、被告会社の賞与は労働の対償としての性格を有しており、労働基準法上の賃金たる性質をもつものであるから、それを支給しない旨定めることは、労働基準法91条にいう減給にあたると解すべきとしました。そして賞与協定の規定に「調査期間中に条件付出勤停止の処分を受けた者」を他に存する企業への貢献度を一切考慮することなく一律に受給無資格者と定めることは、実質的には懲戒事由該当を理由としてこれに対する制裁を定めたものといわざるを得ないため、労働基準法91条の制限を超えるものとして無効であると判断しました。

懲戒を理由とした(賞与)不支給

就業規則に賞与の支給額、算定方法、支給期日、支給対象者等の支払基準が明確に定められている場合に、懲戒処分を理由に賞与を不支給とすると、労働基準法91条の減給の制裁の制限を超えるとして違法、無効となるおそれがあります。

他方で、就業規則の定めの内容から会社の裁量が認められている場合に、考課査定の結果賞与を不支給とすることは可能ではあります。しかし、懲戒処分のみを評価の対象として全額を不支給とすることは、合理的な会社の裁量の範囲を超えるとして違法性を問われるおそれがあります。そのため、不支給とするのではなく、適切な範囲で減額するに留めることが望ましいでしょう。

懲戒を理由とした裁判例

●懲戒による賞与不支給を認められた裁判例

【東京高等裁判所 昭和59年9月27日判決、ヤマト科学事件】

賞与支給の対象となる期間に労務の提供を行なっていた労働者らが、その支給日の前に懲戒解雇とされたことにつき、当該期間中の労務提供の割合に応じて賞与を支給すべきとして会社に対し支払いを求めた事案です。

裁判所は、当該会社の賞与は、就業規則の規定により支給条件が明確に定められ、労務提供の対価として具体的な請求権が生ずる賃金とは異なる性質であり、組合と労働者との間に、金額、算出基準、支給者の範囲等支給に関する詳細な協定がなされない限り、具体的な請求権が生じないものと解するのが相当としました。そのうえで、これまでに懲戒解雇によって支給日に在籍していなかった者に賞与の支給がないこと、懲戒解雇者の賞与に関して触れた協定書等が全くないこと、組合ニュースで懲戒解雇者の賞与不支給を承認する旨の記載があること等からして、当該労働者らは労働協約における本件賞与を支給する対象者には含まれないと判断しました。

不当査定とならないために

賞与の査定については会社に裁量が認められています。しかし、他の労働者と比べて大きく減額する等の場合には、客観的にみて合理的な理由によって適切な評価基準で算定したことが証明できなければ、“不当査定”とみなされるおそれがあります。法律上のルールを理解し、就業規則等にしたがって、適切な運用で賞与の支給を行いましょう。

ストライキが理由の減額

会社は、労働者が労務の提供をしていない時間に対し賃金を支払う義務はありません。これを、“ノーワーク・ノーペイの原則”といいます。この原則に基づき、賞与の算定期間に労働者がストライキに参加した期間が含まれる場合には、その日数分を欠勤として扱い、通常の賞与額から減額して支給することは可能です。

ただし、当然に減額できるというわけではなく、就業規則等に賞与額の算定においてストライキ参加の日数を欠勤の扱いとする旨の定めがある、あるいは、そのような慣行がある場合等を想定するものです。

他方で、正当な争議行為にあたるストライキに参加したことを勤怠考課の対象として考慮した結果、賞与を減額することは、不利益取扱い禁止の規定(労組法7条1号)に該当する不当労働行為にあたり違法となるため注意が必要です。

ストライキによる賞与の減額に関する判例

【最高裁 昭和48年12月18日第三小法廷判決、東洋オーチス・エレベーター賃金請求事件】

賞与協定中に欠勤控除条項として、欠勤1日につき一律分の賞与の150分の1を控除する旨の定めがある被告会社において、労働者がストライキに参加した日数を控除して賞与額の算定をした事案につき、「ストライキによる休業」を「欠勤」に含めるか否かが争われました。

裁判所は、被告会社の賞与は、その算定期間内に現実に提供された労働全体に対する対価たる実態を保有するとしたうえで、実質的にストライキによる賞与からの控除を両当事者が是認したこと、現実に労務が提供されなかった場合にはその限度において賃金請求権は発生しないとするのが一般的な考え方であることを考慮すると、本件賞与協定中の欠勤控除条項における「欠勤」は、ストライキによる不就労を含む意味として用いられるものと認定するのが相当であり、また、欠勤控除の対象が査定分を除く一律分賞与に限定されていることから、争議権を抑圧するものとはいえないため、違法ではないと判断しました。

年休取得による減額

年次有給休暇の取得を理由に、賃金の後払い的性格を持つ賞与を減額したケースや、勤怠考課査定の結果として減額したケースでは、労働者の年次有給休暇の取得を抑制し、ひいては年休権保障の趣旨を失わせるとして、当該措置が無効と判断されるリスクが高いです。

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