障害者雇用とは|メリット・デメリットや企業の義務、助成金など
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
障害者雇用とは、障害をもつ人々が安定して働けるよう、一般の労働者とは別枠で採用することです。
「障害者雇用促進法」により、事業者は企業規模に応じて一定数以上の障害者を雇用することが義務付けられています。
違反すると罰則を受ける可能性もあるため、雇用義務がある企業はしっかり対応しましょう。
本記事では、障害者雇用のルール、企業に求められる対応、障害者雇用のメリットや留意点について詳しく解説していきます。
目次
障害者雇用とは
障害者雇用とは、心身に障害がある人々を、一般の労働者と別枠で採用することをいいます。
障害者雇用促進法における「障害者雇用率制度」では、事業者に対し、企業規模に応じて一定数以上の障害者を雇用することが義務付けられています。
障害者雇用の目的は、障害をもつ人々が自立し、社会参加できるよう支援することにあります。現状、働く意欲や能力は十分あるのに、就労の機会を確保しづらいという障害者の方は大勢います。
1人1人に適切な配慮を行い、誰もが存分に働ける環境を整えることで、共生社会を実現することが障害者雇用の大きな目的です。
障害者雇用の対象者
障害者雇用の対象となるのは、基本的に以下の「障害者手帳」を保有している人です。
- 身体障害:身体障害者手帳
- 知的障害:療育手帳
- 精神障害:精神障害者保健福祉手帳
障害者手帳をもつ人は、障害者雇用枠と一般雇用枠どちらでも応募が可能です。
一方、障害者手帳がない場合は基本的に「一般雇用枠」のみでの採用となります。
身体障害
身体障害については、一般的な「身体障害」または「重度身体障害」により、身体障害者手帳の交付を受けている人が対象となります(障害者雇用促進法2条2号、3号、障害者雇用促進法施行規則1条)。
障害の程度は、一般的に下表のように分類されます。
| 身体障害 |
|
|---|---|
| 重度身体障害 |
|
知的障害
知的障害は、知的障害者判定機関(※)から「知的障害」または「重度知的障害」があると判定された人が障害者雇用率の算定対象となります(障害者雇用促進法2条4号、5号、障害者雇用促進法施行規則1条の2、1条の3)。
具体的には、自治体が発行する「療育手帳」のほか、知的障害者判定機関が交付する「判定書」を保有する人が対象です。
※児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医または障害者職業センター
精神障害
精神障害については、以下のいずれかに該当する人が障害者雇用率の算定対象となります(障害者雇用促進法2条6号、障害者雇用促進法施行規則1条の4)。
- 「精神障害者保健福祉手帳」の交付を受けている人
- 統合失調症、そううつ病、てんかんを持つ人のうち、症状が安定し、就業が可能な状態にある人
自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥多動性障害といった“発達障害”がある人も対象ですが、同じく「精神障害者保健福祉手帳」を保有している必要があります。医師の意見書や診断書のみでは、雇用率の算定対象にならないため注意しましょう。
障害者雇用における企業の義務
障害者雇用において、企業は以下のような義務を負っています。
- 障害者の割合を法定雇用率以上にする
- 法定雇用率未達の場合は納付金を支払う
- 障害者の雇用状況をハローワークに報告する
- 差別の禁止・合理的配慮の提供義務がある
障害者雇用義務に違反した場合、行政指導や罰則を受ける可能性があります。企業イメージの悪化に繋がるおそれもあるため、対象企業はきちんと対応しましょう。
障害者の割合を法定雇用率以上にする
対象企業は、法定雇用率以上の障害者を雇用しなければなりません。
●法定雇用率:2.5%(2025年10月時点)
→従業員100人あたり2.5人の障害者を雇用しなければならない
なお、法定雇用率は2026年7月に「2.7%」まで引き上げられるため、対象企業は注意が必要です。
障害者のカウント方法については、下表のようなルールがあります。
| 週の所定労働時間 | カウント方法 |
|---|---|
| 30時間以上(常用雇用労働者) | 1人とカウント |
| 20時間以上30時間未満(短時間労働者) | 対象者1人につき0.5人とカウント ※身体障害者手帳1級・2級等の「重度身体障害者」、療育手帳A等の「重度知的障害者」、精神障害者は1人としてカウント |
| 20時間未満 | カウントしない ※重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者は0.5人としてカウント |
障害者雇用率については、以下のページもご覧ください。
法定雇用率未達の場合は納付金を支払う
法定雇用率が未達成の企業は、不足する人数1人につき、月5万円の「障害者雇用納付金」を納めなければなりません。徴収の対象は、従業員数が100人以上の企業となります。
徴収した障害者雇用納付金は、法定雇用率を達成した企業への調整金や報奨金などに用いられます。
また、法定雇用率を大幅に下回る企業はハローワークによる行政指導の対象となる可能性もあるため注意が必要です。一般的には、以下の流れで指導が行われます。
- 障害者雇入れ計画の作成命令および実施勧告
- 特別指導
- (改善がみられなければ)企業名の公表
企業名の公表は悪質なケースに限られますが、公表されればイメージダウンは避けられないため、指導を受けたら速やかに改善を図るのが基本です。
障害者の雇用状況をハローワークに報告する
従業員数が40人以上の企業は、毎年6月1日時点における自社の障害者雇用状況(人数、障害種別、障害の程度など)をまとめ、翌月15日までにハローワークへ提出しなければなりません(障害者雇用促進法43条7項)。
障害者を解雇した場合も、「解雇届」を作成のうえ速やかにハローワークへ届け出る必要があります(同法81条1項)。
なお、2026年7月の法定雇用率引き上げに伴い、届出義務がある企業も「従業員数37.5人以上」に拡大されるため注意しましょう。
障害者雇用で必要な届出については、以下のページでも解説しています。
差別の禁止・合理的配慮の提供義務がある
障害者を雇用する企業は、「差別の禁止」「合理的配慮の提供」という2つの義務があります。
●差別の禁止
障害があることを理由に「差別的な対応」や「不利益取扱い」をしてはならない
(例)・障害者にのみ不利な採用条件を設ける
・同等のスキルや能力をもつ応募者のうち、健常者だけを優先的に採用する
・教育訓練の参加者から障害者のみを除外する など
●合理的配慮の提供
障害者とそれ以外の者の均等な待遇を確保し、障害者が存分に働けるようにするため必要な配慮を提供しなければならない
(例)・募集要項を音声で案内する
・筆談で面接を行う
・通院状況や体調に応じて時差出勤を認める
・本人の理解度にあわせて徐々に仕事量を増やす など
障害者への差別禁止、合理的配慮の提供、虐待防止対策については、以下のページもご覧ください。
企業が障害者雇用を行うメリット
障害者雇用は法律上の義務ですが、企業にも様々なメリットがあります。具体的には、以下のような効果が期待できます。
- 助成金・支援を受けられる
- 優秀な人材を確保できる
- 業務の最適化や効率化に繋がる
助成金・支援を受けられる
障害者を雇用する企業は、以下のような金銭的支援を受けられる可能性があります。
●助成金
・雇い入れに対する「特定求職者雇用開発助成金」「トライアル雇用助成金」
・職場定着のための措置に対する「キャリアアップ助成金」
・施設整備などに対する「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」 など
●調整金や報奨金
・法定雇用率を達成した企業に支給される「調整金」
・法定雇用率を達成した企業のうち、従業員数100人以下の企業に支給される「報奨金」
●事務所税の軽減措置(資産割、従業員割)
優秀な人材を確保できる
障害者の中には、特定のスキルや能力に優れた人も大勢います。例えば、以下のようなケースです。
●知的障害者や精神障害者
「コミュニケーションがとれるか不安」「ミスが多そう」といったイメージを持たれやすい一方、高い集中力や正確性といった強みを持つ人も多い
●身体障害者
身体の一部は不自由だが、知識や発想力、営業スキルでは健常者に引けを取らない人も多い
“障害”というマイナスイメージにとらわれず、1人1人の強みに着目することで、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。
業務の最適化や効率化に繋がる
障害者を雇用する際は、一度業務体制を見直し、どのような仕事を任せるか検討するのが一般的です。また、マルチタスクが苦手な障害者に向け、作業手順のマニュアル化などに取り組む企業も多いです。
これらの取り組みは、社内全体の業務を洗い出し、効率化を図るきっかけになります。無駄な作業を取り除くことで、従業員の負担軽減にも繋がるでしょう。
業務体制の見直しには多くの手間と時間がかかるため、つい後回しにされる傾向があります。障害者雇用では、雇い入れ作業と並行して業務体制を整理できるため効率的といえます。
企業が障害者雇用を行う際の留意点
障害者雇用の留意点には、以下のようなものがあります。
- バリアフリーの設備投資などに費用がかかる
- 障害者に適した作業の選別が必要となる
- 周囲に障害者雇用について理解してもらう必要がある
- 障害者を贔屓していると思われ、既存社員のモチベーションを下げるおそれがある
対策としては、以下のような取り組みが効果的です。
- 行政からの支援や助成金を受ける
- 健常者である従業員の業務についても見直す
- 社内の理解を促すためのミーティングを行う
障害者雇用で受けられる助成金・支援制度
障害者雇用を行う企業は、「助成金」や「調整金」といった金銭的支援を受けられる可能性があります。障害者雇用に関する助成金としては、以下のようなものがあります。
- 特定求職者雇用開発助成金
- トライアル雇用助成金
- 在宅就業障害者特例調整金
特定求職者雇用開発助成金
障害者や高齢者など、就職が困難とされる求職者を継続的に雇用した企業に対して支給される助成金です。障害者雇用においては、以下2つの助成金を受給できる可能性があります。
●特定就職困難者コース
ハローワークなどの紹介により、障害者等を継続的に雇い入れた企業を対象とするコースです。障害の程度や所定労働時間、企業規模などに応じて、1~3年間で30万円~240万円が支給されます。
●発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
障害者手帳をもたない発達障害者や、難病のある求職者を雇い入れた企業を対象とするコースです。所定労働時間や企業規模などに応じて、1~2年間で30万円~120万円が支給されます。
いずれのコースも、次項で解説する「トライアル雇用助成金」との併用が可能です。
ただし、過去3年以内に離職した者を再び雇い入れる場合、助成金は支給されないため注意が必要です。
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金とは、障害者など就職が困難とされる求職者を、一定期間試行的に雇用した企業に対して支給される助成金です。
企業は、障害者の適性や能力を確認したうえで継続雇用するかどうか判断できるため、本採用後のミスマッチも防止できます。
●障害者トライアルコース
対象期間は最長3ヶ月で、対象者1人あたり月額4万円が支給されます。
ただし、精神障害者については最長6ヶ月、月額8万円(4~6ヶ月目は4万円)となります。
●障害者短時間トライアルコース
週20時間以上の勤務が難しい精神障害者や発達障害者を、短時間勤務から雇い入れた企業を対象とするコースです。企業は障害者の体調などを考慮し、トライアル期間中に週20時間以上の勤務を目指すことになります。
対象期間は最長12ヶ月で、対象者1人あたり月額4万円が支給されます。
障害者のトライアル雇用については、以下のページでも詳しく解説しています。
在宅就業障害者特例調整金
在宅就業障害者特例調整金とは、自宅や福祉施設で働く障害者に対し、業務委託契約などの方法で仕事を発注し、対価を支払った企業に支給される調整金です。
支給額は、以下の計算式で算出されます。
支給額 = 在宅就業障害者に支払った対価の総額 ÷ 評価額35万円 × 調整額2万1000円
(例)1年間で総額500万円の対価を支払った場合
500万円 ÷ 35万円 = 14.2…(小数点以下切り捨て)
14 × 2万1000円 = 29万4000円
特例調整金の支給対象は、常時雇用する労働者が101人以上の企業となります。
労働者数100人以下の企業については、調整金ではなく「特例報奨金」の名目で一定額が支給されます。
障害者の在宅就業については、以下のページで詳しく解説しています。
障害者雇用の採用手順
障害者雇用は、以下の手順で進めるのが一般的です。
- 障害者雇用について理解を深める
対象となる障害者や、採用手順のおおまかな流れを把握します。ハローワークのセミナーなどを活用すると良いでしょう。 - 障害者に任せる業務を検討する
自社の業務を細分化し、障害者に任せる仕事を選定します。障害者の特性に応じて、複数の業務をリストアップしましょう。 - 配属先の決定
配属先の部署を決定し、作業環境の整備や他の従業員への説明などを行います。 - 労働条件の決定
障害者の賃金や勤務時間、休日、福利厚生などの労働条件を決定します。 - 採用活動
ハローワークなどを通して求人票を作成し、募集・面接などの採用活動を行います。 - 職場定着への取り組み
入社後は定期的に面談を行い、課題が見つかった場合は改善に取り組む必要があります。
障害者雇用のより詳しい手順は、以下のページで解説しています。
障害者雇用の給料の決め方
障害者雇用でも、給料の決め方は一般労働者と基本的に同じです。最低賃金を下回らないよう基本給を設定し、自社の賃金体系に沿って昇格・昇給する仕組みとなります。
障害があることだけを理由に、一般労働者よりも給与水準を下げることは、障害者雇用促進法35条や「同一労働同一賃金」の観点から“違法”となる可能性が高いです。
ただし、障害により職務遂行能力が著しく低い労働者については、都道府県労働局長から「最低賃金の減額特例許可」を受けることで、一般労働者よりも最低賃金を減額できる可能性があります。
減額率は障害の程度によって異なるため、申請前に確認が必要です。
障害者を雇用する際の留意点
障害者を雇い入れる際は、以下の3点に留意しましょう。
- 就業規則・社内規定を整備する
- 障害者職業生活相談員を選任する
- 周囲の従業員に負担をかけないよう配慮する
対応が不十分だと、社内の混乱を招き、思わぬ労働トラブルが発生するおそれもあるため注意が必要です。
就業規則・社内規定を整備する
障害者が不当な扱いを受けることがないよう、就業規則や社内規定、職場環境を整備することが大切です。
まずは経営陣が積極的に障害者雇用を進める方針を固め、制度を整えましょう。
また、採用を担当する部署や配属先の部署だけに負担が集中しないよう、注意を払う必要があります。
障害者職業生活相談員を選任する
障害者を5人以上雇用する事業所では、所内で「障害者職業生活相談員」を選任し、障害者の職業生活全般に関する相談・指導を担ってもらう必要があります。
「障害者職業生活相談員」に必要な資格や具体的な職務内容については、以下のページで詳しく解説しています。
周囲の従業員に負担をかけないよう配慮する
障害者の配属先では、周囲の従業員によるサポートや協力が不可欠です。
しかし、過度な配慮は従業員の負担になるだけでなく、業務の遅れや作業効率の低下にもつながります。
「どのような声掛けをすれば良いかわからない」「どの程度配慮すべきなのか」といった悩みを抱え、障害者に対してストレスを感じる従業員が出てくる可能性もあります。
事業者は、あらかじめ従業員に対して“必要な配慮の内容や程度”を具体的に説明し、できる範囲で協力を求めることが重要です。
入社後も定期的にヒアリングを行い、部署全体に過度な負担がかかっていないか確認するのが望ましいでしょう。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
