不正競争防止法とは|違反事例や罰則、法改正などわかりやすく解説
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
不正競争防止法は、企業間の健全で公正な競争を促すため、事業者に一定のルールを課した法律です。簡単にいうと、他社の製品を勝手に模倣したり、秘密情報を盗んだりする行為が「不正競争行為」として禁止されています。
無意識のうちに不正競争行為をすることがないよう、事業者は法律上のルールを正しく理解しておくことが重要です。
本記事では、不正競争防止法で禁止される行為と具体例、適用除外、違反した場合の罰則などについて分かりやすく解説していきます。
目次
不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、事業者同士が公正な競争を行えるよう、さまざまな不正行為を禁止した法律です。代表的なのは、他社の模倣品を販売したり、営業秘密を不正に取得したりする行為が禁じられています。
また、禁止行為に対する賠償責任を定めることで、不正を未然に防ぎ、国民の健全な経済活動を後押しするという目的もあります。
不正競争防止法が制定された背景
不正競争防止法が制定された背景には、事業者による不正競争行為を防止するという目的があります。
営業活動が無制限に認められると、一部の事業者や一般消費者が不利益を被るおそれがあることから、本法が制定されました。
また、民法や刑法、知的財産法といった法律ではカバーされない部分を補完する役割もあります。例えば、以下のような罰則規定などを特別に定めることで、事業者による不正行為を抑止しています。
- 民法では規定されていない「不正競争行為に対する差止請求権」を特別に定める
- 刑法上の犯罪に該当しない行為でも、公正な競争を阻害する行為は罰則の対象とする
不正競争防止法と独占禁止法の違い
独占禁止法とは、自由経済社会において企業が守るべきルールを定め、公正かつ自由な競争を確保するための法律です。
どちらの法律も「公正な競争の確保」という目的は同じですが、対象となる行為などについて以下のような違いがあります。
| 不正競争防止法 | 独占禁止法 | |
|---|---|---|
| 概要 | 企業のブランドや商品の不正利用を防ぎ、その権利を保護すること | 市場全体の健全な競争を確保すること |
| 禁止行為 (具体例) |
営業秘密の侵害、商標の不正利用、商品模倣など(機密データを持ち出して他社に売却する等) | カルテル、価格操作、私的独占など(複数の企業が話し合い価格を吊り上げる等) |
| 規制主体 | 民事的規律(差止請求や損害賠償請求)、刑事罰 | 公正取引委員会による行政規制 |
不正競争防止法の直近の改正【2024年4月施行】
2024年(令和6年)4月1日に改正不正競争防止法が施行され、営業秘密などの保護規制が強化されました。本改正は、「知的財産分野のデジタル化や国際化」に対応することを目的としています。
主な改正点は、以下の4つです。
- デジタル空間における模倣行為の防止
メタバースなどのデジタル空間における“商品形態模倣行為”の禁止 - 限定提供データ・営業秘密の保護の強化
- ①限定提供データのうち、秘密管理されている「ビッグデータ」も保護対象に追加
- ②営業秘密の“使用等の推定規定”の適用範囲の拡大
- 外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充
- ①外国公務員等への贈賄行為の厳罰化
- ②日本企業の外国人労働者による海外での単独贈賄行為の禁止
- 国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化
海外で日本企業の営業秘密が侵害された場合も、日本の裁判所に訴訟を提起し、不正競争防止法を適用すること
不正競争防止法で禁止される行為・事例
不正競争防止法では、以下の10の行為を不正競争行為として禁止しています(2条1項各号)。
- ①周知表示混同惹起行為
- ②著名表示冒用行為
- ③形態模倣商品の提供行為
- ④営業秘密の侵害
- ⑤限定提供データの不正取得等
- ⑥技術的制限手段無効化装置等の提供行為
- ⑦ドメイン名の不正取得等の行為
- ⑧誤認惹起行為
- ⑨信用毀損行為
- ⑩代理人等の商標冒用行為
①周知表示混同惹起行為
混同惹起行為とは、世間に周知されている他人の商標や商号と同じ、又は類似した表示をして、商品や営業について混同を生じさせる行為です(不正競争防止法2条1項1号)。
例えば、他社の看板商品名をそのまま自社の商品名に用いた場合、同系列の店だと誤認させるおそれがあるため、違法となる可能性があります。
ただし、一般名称や慣用表示については、他人の独占権が及ばないため規制の対象外です。
例えば、「幕の内弁当」や「黒酢」といった表示をしても、混同惹起行為にはあたらないとされています。
また、正当な目的で自己の名前を使用した場合や、他人の商標や商号が広く知られる前から使用していた場合も、混同惹起行為にはあたりません。
②著名表示冒用行為
著名表示冒用行為とは、他人の著名な商標や商号を、自己の商品や営業に用いる行為です(不正競争防止法2条1項2号)。
例えば、著名なブランド名をそのまま自社の社名に使用することは、ブランドイメージの低下や不当な顧客収集を招くおそれがあるため禁止されています。
また、他人の商品と性質などが全く異なる場合も、著名表示冒用行為は成立するため注意が必要です。
一方、規制対象を不用意に広げないため、「著名な商標や商号」については全国的に需要者以外にも広く知られていることという要件が定められています。
例えば、全国的に有名なチェーン店の名前を用いることは著名表示冒用行為にあたりますが、一部の地域だけで展開している店舗の名前を用いた場合は混同惹起行為に該当します。
③形態模倣商品の提供行為
形態模倣商品の提供とは、他人の商品をまねて作った物を販売・譲渡するなどの行為です。(商品形態模倣行為、不正競争防止法2条1項3号)。
例えば、同じ形のゲーム機や、同じ配置のセット商品を販売する行為が挙げられます。
商品形態模倣行為の判断基準は、商品の名称や性質ではなく「形態」です。つまり、外見上商品の形や構造の同一性を認識できるかがポイントとなります。
ただし、形態が類似していても、その形態が商品の特性上不可欠である場合や、ありふれた形態である場合、保護の必要性が低いため商品形態模倣行為にはあたりません。
また、国内で初めて販売されてから3年以上経過した商品や、第三者が模倣商品を善意無重過失で譲受した場合も、規制の対象外です。
④営業秘密の侵害
窃盗などの不正な手段で営業秘密を取得・利用する行為や、営業秘密を第三者に開示する行為が禁止されています(不正競争防止法2条1項4号~10号)。
「何が営業秘密にあたるのか」については、以下3つの要素を踏まえて個別的に判断しなければなりません。
- 秘密管理性
- 有用性
- 非公知性
例えば、企業の顧客名簿や新規事業計画、製造過程やノウハウなどが営業秘密になり得ます。
一方、秘密であることが重要なので、公開前提の特許技術などは保護されないのが一般的です。脱税のような犯罪行為の手口に関する情報なども、有用性が認められないと考えられます。
営業秘密についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
⑤限定提供データの不正取得等
限定提供データとは、営業秘密には該当しないものの、IDやパスワードによって閲覧者が制限されている情報のことです。
限定提供データを不正に取得・利用などした場合、不正競争行為にあたり損害賠償請求などの対象になります(不正競争防止法2条1項11号~16号)。
例えば、閲覧権限のない者がハッキングを行い、データを勝手にダウンロードする行為が挙げられます。
ただし、閲覧者が限定されていると知らずに情報を得た場合、取得した権限の範囲内であれば、当該情報を開示しても不正競争行為にはあたりません。
また、すでに無料で世間一般に公開されている情報と同内容だった場合も、不正競争行為の対象外となります。
⑥技術的制限手段無効化装置等の提供行為
技術的制限手段無効化装置等の提供行為とは、閲覧者を制限するためのプロテクト技術を無効化する機能のみを有する装置やプログラムを提供(譲渡、貸与、通信販売)する行為をいいます(不正競争防止法2条1項17号、18号)。
例えば、暗号を無効化する装置やプログラムを譲渡する行為です。
また、プロテクト破りをより実効的に抑止するため、プロテクト技術を無力化できるサービスを提供することも禁止されます。
保護対象としては、映像や音楽といったコンテンツの視聴やプログラムの実行、データの処理などが含まれます。
⑦ドメイン名の不正取得等の行為
不正に利益を得たり、他人に損害を与えたりする目的で、他人と同一又は類似のドメイン名を取得・保有・使用する行為が禁止されています(不正競争防止法2条1項19号)。
有名企業のドメイン名を取得し、その知名度を利用して不当に顧客を集めるような行為です。また、不正取得したドメイン名を高額な値段で売買するケースもあります。
その他、他人のドメイン名を取得してアダルトサイトを開設し、相手のイメージを低下させるような行為も違法となります。
⑧誤認惹起行為
商品や広告において、原産地・品質などを取引先や消費者が誤認するような表示をする行為が禁止されています。誤認のおそれがある商品を譲渡する行為も同様です(不正競争防止法2条1項20号)。
具体的には、製造地や原材料の生産地とは全く関係ない地名を、商品名に入れるような行為です。
また、原材料について虚偽の表示をしたり、検査結果を捏造して品質を誤認させたりする行為も不正競争行為にあたります。
表示項目には、国からの認定の有無や口コミの内容、製造方法、用途なども含まれるため注意しましょう。
一方、普通名称や慣用表示を用いる場合は不正競争行為にあたりません。
⑨信用毀損行為
競合関係にある他人の営業上の信用を損なわせるような行為が禁止されています(不正競争防止法2条1項21号)。簡単にいうと、競合している他社の悪口をネットに書き込んだり、虚偽の情報を流したりする行為です。
例えば、他の飲食店について「衛生管理がなってない」、「消費期限切れの材料を使っている」などと虚偽の噂を流すケースがみられます。
また、根拠もなく「競合他社に商標権を侵害された」などと言いふらす行為も不正競争行為になり得ます。
一方、競合関係にない事業者間の誹謗中傷行為については、不正競争防止法ではなく民法上の不法行為として扱われます。
⑩代理人等の商標冒用行為
パリ条約の同盟国などで商標に関する権利を持つ者の代理人が、正当な理由なくその商標を利用する行為です(不正競争防止法2条1項22号)。
本号は、パリ条約における代理人等による商標の登録・使用制限を遵守させるための規定です。国際的な不正競争の防止を図る目的で設けられました。
例えば、輸入代理店を営む者が、本国の許可を得ずにその商標を使って営業したケースや、代理権が失効したにもかかわらず、代理店営業を継続したケースなどが一例です。
不正競争行為の適用除外について
不正競争に形式上該当する場合でも、下表の11の類型にあてはまるときは罰則や差止請求などの規制が適用されません。
例えば、「商品及び営業の普通名称・慣用表示(不正競争防止法19条1項1号)」が不正競争の適用除外となるのは、商品の利便性や機能性の観点から1つの事業者に独占的に利用権限を認めるべきではないと考えられるためです。
| 適用除外の分類 | 対象となる不正競争行為 |
|---|---|
| ①商品及び営業の普通名称・慣用表示の使用 | 混同惹起行為、著名表示冒用行為、誤認惹起行為、代理人等の商標冒用行為 |
| ②自己の氏名の不正の目的でない使用 | 混同惹起行為、著名表示冒用行為、代理人等の商標冒用行為 |
| ③周知性獲得以前からの先使用 | 混同惹起行為 |
| ④著名性獲得以前からの先使用 | 著名表示冒用行為 |
| ⑤日本国内で最初に販売された日から3年を経過した商品 | 商品形態模倣行為 |
| ⑥デッドコピー商品の善意取得者保護 | 商品形態模倣行為 |
| ⑦営業秘密の善意取得者保護 | 営業秘密の侵害 |
| ⑧差止請求権が消滅したあとの営業秘密の使用により生産された製品の譲渡等 | 営業秘密の侵害により生じた物の譲渡・輸出入など |
| ⑨限定提供データの善意取得者保護 | 限定提供データの不正取得等 |
| ⑩限定提供データと同一のオープンなデータ | 限定提供データの不正取得等 |
| ⑪技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる装置等の譲渡行為等 | 技術的制限手段に対する不正競争行為 |
不正競争防止法違反時の措置と罰則
不正競争防止法に違反した場合、以下のような法的措置を受ける可能性があります。
- 民事上の措置
- 刑事上の措置
具体的な措置について、以下で解説していきます。また、以下のページでも詳しく紹介していますので併せてご覧ください。
民事上の措置
不正競争行為に対する民事上の措置は、以下のものがあります。
- 差止請求
不正競争行為によって営業上の利益が侵害された(または侵害されるおそれがある)場合に利用できます。具体的には、侵害行為の停止や予防請求、侵害行為に必要なものの廃棄などを要求できます。 - 損害賠償請求
不正競争行為によって実際に損害が生じたとき、相手に賠償金を請求することができます。 - 信用回復措置請求
ブランドイメージを低下させられるなど、社会的信用が毀損された場合に利用できます。裁判所から相手に対し、謝罪広告の掲示などの“信用回復措置”を命じるのが通常です。
刑事上の措置
不正競争防止法で禁止される行為には、刑事罰が科されるものもあります。刑事罰が適用されるのは、以下の行為です。
- 営業秘密に係る不正競争行為
- 周知表示混同惹起行為
- 著名表示冒用行為
- 形態模倣商品の提供行為
- 技術的制限手段無効化装置等の提供行為
- 混同惹起行為
- 誤認惹起行為
行為者本人だけでなく、所属する法人も刑事罰の対象となります。
特に「営業秘密の侵害行為」については、他の行為よりも重い罰が定められているため注意が必要です。
| 不正競争防止法の違反行為 | 個人の場合 | 法人の場合 |
|---|---|---|
| 営業秘密の侵害の場合 (海外で使用する目的の場合) |
10年以下の懲役もしくは2000円以下の罰金またはその両方(罰金は3000万円以下) | 5億円以下の罰金(10億円以下の罰金) |
| それ以外の侵害の場合 | 5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方 | 3億円以下の罰金 |
不正競争防止法違反に関する判例
【平成29年(ワ)第5423号 東京地方裁判所 平成30年3月26日判決、ルイ・ヴィトン事件】
ルイ・ヴィトン社の著名なロゴを付けて模倣品を販売した行為が、著名表示冒用行為にあたるとして不正競争防止法違反が認められた事案です。裁判所は被告に対し、財産的損害と無形的損害(信用の失墜)について賠償を命じました。
判決の理由としては、商標の著名性やそれによる顧客吸引力を不当に利用する行為であり、原告の長年の企業努力を損なうためとされています。
【平成30年(あ)第582号 最高裁 平成30年12月3日決定、日産自動車営業秘密侵害罪被告事件】
被告が日産自動車から競合他社に転職する際、営業秘密を持ち出した行為が、営業秘密侵害罪にあたると判断された事案です。
被告は「不正の利益を得る目的ではない」と主張しましたが、営業秘密を私物のディスクに保存していることや、正当な目的をうかがわせる事情がないことなどから、裁判所は「不正の利益を得る目的だった」と推認できると判断しています。
不正競争防止法違反に関する時効
不正競争行為に対して損害賠償請求などを行う場合、「時効」に注意が必要です。法律上、以下の期間が経過すると時効が成立し、相手方に損害賠償請求や差止請求ができなくなります。
- 侵害行為及び加害者を知った日から3年
- 侵害行為があった日から20年
例えば、4年前に自社製品を模倣した商品が販売され、当該販売の事実と販売元が判明していた場合、すでに3年以上が経過しているため請求は認められない可能性が高いといえます。
仮に不正競争行為を把握していなくても、行為から20年が経過すると損害賠償請求権は失われるため注意が必要です。
侵害行為が確認されたら、早めに法的措置を検討するようにしましょう。
不正競争防止法の国際約束に基づく禁止行為
不正競争防止法では、国際約束に基づく以下の行為も禁止しています。
- 外国国旗、紋章等の不正使用(16条)
外国の国旗や紋章、外国政府の印章や記号のうち経済産業省令で定めるものを、商標として使用することを禁止しています。外国紋章などを利用し、商品の原産国を誤認させる行為も同様です。 - 国際機関の標章の不正使用(17条)
国際機関の標章のうち経済産業省令で定めるものを使用し、当該国際機関と関係があると消費者に誤認させるような行為が禁止されています。 - 外国公務員等への贈賄(18条)
国際的な商取引において、不正に利益を得る目的で外国公務員等(相手国の公務員や議員、捜査機関職員等)に賄賂などを送る行為が禁止されています。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料※
企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)
会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
