【2025年最新版】労働安全衛生法の改正一覧とポイント

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働安全衛生法は、労働災害の発生を未然に防ぎ、労働者の健康と安全を守るための法律です。長時間労働の防止やリスクアセスメントの実施など、会社に様々な措置を義務付けています。
労働安全衛生法は毎年のように改正されているため、事業主は改正点のポイントを把握し、適切な措置を講じることが重要です。
このページでは、近年の労働安全衛生法改正のポイントに焦点をあて、2025年の最新の改正点も含めてわかりやすく解説していきます。
目次
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康を守り、快適な職場環境を整えるための法律です。主に労働災害の発生を防ぐため、事業主に様々な措置を義務付けています。
例えば、以下のような措置が定められています。
- 職場の安全・衛生管理を担うスタッフの配置
- 危険物又は有害物に対する措置
- リスクアセスメントの実施
- 労働者への安全衛生教育
- 労働者の健康管理
義務付けられる措置の範囲については、会社の規模や事業内容によっても異なります。詳しくは以下のページをご覧ください。
2025年の改正内容・ポイント
2025年1月1日より、労働安全衛生に関する手続きの一部について「電子申請」が原則義務化されました。これまで紙媒体で行っていたものを電子化することで、事業主(報告者)の手間や負担を大きく減らすのが主な目的です。また、統計処理の簡易化や、ヒューマンエラーの削減等の効果も期待できます。
電子申請が義務付けられるのは、以下の報告です。
- 労働者死傷病届
- 総括安全衛生管理者/安全管理者/衛生管理者/産業医の選任報告
- 定期健康診断結果報告
- 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告
- 有害な業務に係る歯科健康診断結果報告
- 有機溶剤等健康診断結果報告
- じん肺健康管理実施状況報告
ただし、電子申請が難しい場合は、経過措置として紙媒体での報告も認められています。
2024年の改正内容・ポイント
労働安全衛生法は、2024年4月1日にも以下のような大幅な改正が行われました。
- ラベル表示等による通知をしなければならない化学物質の追加
- 危険性・有害性が確認された物質につき、労働者へのばく露を最小限度にすること(ばく露を濃度基準値以下にすること)
- 皮膚等障害化学物質への直接接触の防止(健康障害を起こすおそれのある物質関係)
- 化学物質による労災発生事業場等への労働基準監督署長による改善指示
- リスクアセスメントに基づく健康診断の実施・記録作成等
- 化学物質管理者・保護具着用責任者の選任義務化
- 雇入れ時等における労働衛生教育の拡充
- 安全データシート(SDS)等による通知事項の追加及び含有量表示の適正化
- 第三管理区分事業場の措置強化
これらのうち、主な改正点について次項より解説します。
規制化学物質の追加
化学物質による労働災害が多発していることから、新たな化学物質の規制制度が導入されました。具体的には、国のGHS分類によって危険性・有害性が認められたすべての物質を対象に、以下の措置を講じることが義務付けられます。
- ラベル表示、安全データシート(SDS)等による通知(234物質が追加)
- リスクアセスメントの実施
ラベル表示やSDSの交付については、今後も対象物質が順次追加される予定です。
また、事業主はリスクアセスメントの結果に基づき、労働者の化学物質へのばく露濃度を最小限に抑えるための措置も講じる必要があります。
リスクアセスメントの実施方法については、以下のページで解説しています。
化学物質管理者の選任の義務化
化学物質管理者とは、化学物質等の管理のために必要な能力を有しており、事業場において化学物質の管理にかかる技術的事項を管理する人です。
選任が必要となるのは、以下のような事業場です。
- リスクアセスメント対象物を製造し、または取り扱う事業場
- リスクアセスメント対象物の譲渡または提供を行う事業場
上記2つのいずれかに該当する場合、業種・規模を問わず、すべての事業場で化学物質管理者の選任が必要となります。また、化学物質管理者は、工場や支店などの「事業場ごと」に選任する必要があります。
さらに、選任後は管理者の氏名を掲示するなどして、労働者に周知しなければなりません。
リスクアセスメントは、事業場に潜在するリスクを見積り、労働災害の発生を未然に防ぐための重要な措置です。対象物質を扱う事業主は、必ず実施するようにしましょう。
選任要件
化学物質管理者は、基本的に事業者の裁量で選任できますが、化学物質の専門的な知識や能力を有する人にする必要があります。そこで、化学物質管理者には以下のような選任要件が設けられています。
- リスクアセスメント対象物の製造事業場では、化学物質の管理に関する講習を修了した者等
- リスクアセスメント対象物の製造事業場以外の事業場では、資格要件はないものの、専門的講習等を受講した者の選任を推奨
コンサルタントに依頼する等、外部の人間を選任することも可能ですが、なるべく事業場の労働者から選任するのが望ましいとされています。
必要となる講習
化学物質管理者に選任されるための講習は、下表のとおりです。
| 科目 | 時間 | |
|---|---|---|
| 講義 | 化学物質の危険性及び有害性並びに表示等 | 2時間30分 |
| 化学物質の危険性又は有害性等の調査 | 3時間 | |
| 化学物質の危険性又は有害性等の調査の結果に基づく措置等その他必要な記録等 | 2時間 | |
| 化学物質を原因とする災害発生時の対応 | 30分 | |
| 関係法令 | 1時間 | |
| 実習 | 化学物質の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づく措置等 | 3時間 |
2023年の改正内容・ポイント
2023年4月1日の改正では、新たに以下の措置が追加されました。
- 危険有害な作業を行う事業者の保護措置
- 新たな化学物質規制の導入等
これらの改正点について、以下で解説します。
危険有害な作業を行う事業者の保護措置
2023年4月1日の法改正により、直接的な雇用関係がない“一人親方”や“資材搬入業者”等についても、以下の措置を取ることが義務づけられました。
- 局所排気装置等の設備を稼働させる措置又は使用を許可する措置
- 義務づけられている特定の作業方法を周知する措置
- 保護具を使用する必要がある旨を周知する措置
- 化学物質の有害性等について、その場所にいる労働者以外の人も見やすい箇所に掲示する措置
この改正は、アスベストが労働安全衛生法の適用外だった一人親方等に被害を及ぼしたことから、適用する対象を拡大するために行われたものです。
新たな化学物質規制の導入等
従来、危険性が不明な化学物質については“規制対象外”でしたが、それらの物質による労働災害が頻発している状況を踏まえ、2023年4月1日より化学物質の規制が強化されました。対象業者は、以下のような適切な措置を講じなければなりません。
- ばく露を最小限度にすること(ばく露を濃度基準値以下にすること)
- ばく露低減措置等の意見聴取、記録作成・保存
- 皮膚等障害化学物質への直接接触の防止(健康障害を起こすおそれのある物質関係)
- 衛生委員会付議事項の追加
- がん等の遅発性疾病の把握強化
- リスクアセスメント結果等に係る記録の作成・保存
- がん原性物質の製造等の作業記録の保存
- 職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大
- 安全データシート(SDS)等の「人体に及ぼす作用」の定期確認及び更新
- 事業場内で化学物質を別容器に保管する時の措置の強化
- 化学物質の製造等の仕事を注文する者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大
2019年の改正内容・ポイント
2019年4月1日からは、働き方改革の開始を受け、以下のような改正が行われました。
- 労働時間の把握の義務化
- 産業医・産業保健機能を強化
- 長時間労働者に対する面接指導を強化
労働時間の把握の義務化
事業主は、すべての労働者の労働時間を、以下のような“客観的な方法”によって適正に把握することが義務付けられました。
- タイムカードの打刻履歴やパソコンの使用時間のチェック
- 労働者名簿や賃金台帳の保存(3年間)
- 労働時間が自己申告制の場合、書面で申告させ、適宜実態を調査すること
また、1ヶ月の時間外・休日労働が80時間を超えた労働者については、その旨を本人に通知しなければなりません。さらに、本人から申告があった場合、医師による面接指導を実施することが義務付けられています。
なお、これらの義務に違反しても罰則はありませんが、労働者の安全と健康を守るため必ず実施しましょう。
産業医・産業保健機能の強化
産業医とは、労働者の健康管理について、専門的立場から助言や指導をする医師のことです。従業員数が50人以上の事業場では、産業医を1人以上選任することが義務付けられています。
2019年の法改正では、この産業医の役割を強化し、産業保健機能の向上が図られました。主な改正点は、以下の2つです。
- 産業医への「健康管理に関する情報」の提供
月の時間外労働が80時間を超えた労働者がいる場合、産業医にその情報を提供しなければなりません。また、労働者からの希望があれば、産業医との面談を実施する必要があります。 - 産業医による勧告
産業医による面接・指導が行われた場合、事業主は労働者の健康状態を改善するために必要な措置を講じなければなりません。適切な措置を怠った場合、産業医は事業主に対して「勧告」を行うことが可能となりました。
また、労働者のプライバシーに関する情報漏洩などを防ぐため、事業主には「健康情報管理規程」の作成も義務付けられています。詳しくは以下のページをご覧ください。
長時間労働者に対する面接指導の強化
法改正に伴い、産業医による長時間労働者・高ストレス者への面接指導を強化する旨も定められました。
具体的には、面接指導の対象者の範囲が「(月の時間外・休日労働時間の合計が)100時間を超える労働者」から「80時間を超える労働者」へと拡大され、より多くの者が面接指導の対象になりました。
また事業者には、労働時間の状況を把握することや、面接指導対象者に自身の労働時間に関する情報を知らせるといった義務も課せられています。
これらの改正により、事業者に対する健康管理義務は厳格化されたといえるでしょう。
事業者に望まれる具体的な対応については、下記のページで説明しています。
労働安全衛生法の改正で企業に求められる対応
事業主は、法改正の内容を踏まえ、職場環境の整備や制度の見直し等を実施する必要があります。特に、労働安全衛生法は毎年のように改正されているため、情報をアップデートしながら適切な措置を講じることが重要です。
また、雇入れ時や作業内容の変更時には、労働者に「安全衛生教育」を行うことも義務付けられています。これにより、労働者自身が労働災害のリスクについて認識を深め、自ら災害の発生防止に努めることが可能となります。
安全衛生教育については、以下のページで詳しく解説しています。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
