
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
公益通報者保護法は令和4年(2022年)6月に改正法が施行され、保護対象や保護内容が拡大されました。従業員は、より安心して企業の不正を通報しやすくなったといえます。
また、企業もさまざまな措置を講じる必要があるため、漏れなく把握することが重要です。
本記事では、公益通報者保護法改正のポイントや注意点、企業に求められる措置などを詳しく解説していきます。
目次
【2022年6月施行】公益通報者保護法の改正とは?
公益通報者保護法とは、企業の不正を通報した従業員が、解雇や降格などの不当な扱いを受けないよう保護するための法律です。2022年6月には、通報者の保護をさらに強化するために改正法が施行されました。
近年、企業による不正や違法行為は後を絶たず、国民の安心や安全が脅かされています。これまでも通報者を保護するためのルールはありましたが、実際は以下のような事態が多発しており、実効性の低さが指摘されてきました。
- 従業員が不利益をおそれ、通報をためらってしまう
- 通報を受けたにもかかわらず、企業が調査を行わない
- 通報した従業員が不当な待遇を受ける
今回の法改正は、従業員が安心して通報できる体制を整え、企業の不正を早期に発見・是正することを目的としたものといえます。
公益通報者保護法の6つの改正ポイント
公益通報者保護法改正のポイントは、以下の6つです。
- ①事業者の体制整備の義務化
- ②内部調査に従事する者への守秘義務
- ③行政機関等への通報の要件緩和
- ④保護対象となる公益通報者の範囲拡大
- ⑤保護される通報対象事実の範囲拡大
- ⑥公益通報者の保護内容の拡大
従来に比べて通報者の保護が手厚くなっているため、法改正によって公益通報がさらに促進されることが期待できます。
①事業者の体制整備の義務化
従業員が300人を超える企業は、内部通報(従業員からの通報)に適切に対応できる体制を整備することが義務付けられました。具体的には、以下のような措置を講じる必要があります。
- 内部通報窓口の設置
- 通報による調査
- 法令違反に対する是正措置
- 経営幹部の影響力が及ばない体制づくり
- 窓口業務や調査、是正措置を担う“従事者”の選定
“従事者”については、内部通報窓口の担当者や責任者を指定するのが一般的です。人事部や総務部、コンプライアンス部などから選ぶケースが多いでしょう。
なお、“300人”の従業員には、パートやアルバイト、契約社員、派遣労働者なども含みます。ただし、「役員」や「繁忙期に一時的に雇用している従業員」は対象外となります。
一方、従業員が300人未満の企業については、これらの措置を講じることが「努力義務」とされています。
②内部調査に従事する者への守秘義務
内部通報業務を担う「従事者」に対し、一定の守秘義務が課せられました。
改正前は、何らかの形で情報が洩れ、通報者が簡単に特定されるケースが頻発していました。
そこで、改正法は、従事者が“正当な理由”なく、通報者を特定できる情報を漏洩することを禁止しています。
情報漏洩に“正当な理由”があるとみなされるのは、以下のようなケースです。
- 通報者本人の同意がある場合
- 法令に基づく場合
- 調査に必要な範囲で、従事者間で情報共有する場合
- 通報者がわかる情報を伝えないと、調査や是正措置を行うのが難しい場合
また、守秘義務が及ぶのは以下のような事項です。
- 氏名
- 社員番号
- 性別
- 経歴 など
守秘義務に違反した従事者は、30万円以下の罰金(刑事罰)を科せられる可能性があります。
口外を禁止するのはもちろんのこと、データにパスワードやアクセス制限をかけたり、保管時の施錠を徹底したりして、情報漏洩を防ぎましょう。
③行政機関等への通報の要件緩和
行政機関や報道機関への通報要件が緩和され、従業員が外部へ通報し易くなりました。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
行政機関への通報の要件 | 通報対象事実があると信じるに足る相当な理由があること |
|
報道機関への通報の要件 | 生命・身体に対する危害が生じると信じるに足りる相当な理由があること |
|
従業員の中には、「社内の人間には通報しづらい」と考える者も少なくありません。外部機関への通報要件緩和によって、従業員が躊躇せず通報できるようになると期待できます。
④保護対象となる公益通報者の範囲拡大
通報の保護対象に「退職者」や「役員」が追加され、保護対象の範囲が以下のように拡大されました。
- 正社員
- アルバイトやパート
- 契約社員
- 派遣社員
- 退職や派遣終了から1年以内の従業員
- 取締役や監査役などの役員
また、取引先の労働者や退職者、役員も保護の対象となります。
取引先の労働者等は、委託元の不正を知り得る立場にありますが、通報によって取引が打ち切られたり、取引量を減らされたりするおそれがあることから、保護対象に含まれています。
⑤保護される通報対象事実の範囲拡大
改正前は、保護対象となる通報は「刑事罰の対象となる事実(犯罪行為)」のみでしたが、改正後はこれに加え、「行政罰の対象となる事実」も保護の対象となりました。
行政罰の対象となる事実は多岐にわたるため、保護される通報の範囲は格段に広がったといえます。
⑥公益通報者の保護内容の拡大
通報者の保護内容に、「損害賠償責任の免除」が追加されました。
これまでも通報者を解雇したり、降格や減給、退職金の不支給といった不利益取扱いをしたりすることは禁止されていました。
一方、通報によって企業の評判や売上が下がった場合、事業者から通報者に損害賠償請求が行われるケースは多く、従業員が通報をためらう一因とされてきました。
今回の法改正では、通報者に対する不利益取扱いだけでなく、損害賠償請求も禁止されたため、従業員がより通報しやすくなったといえます。
公益通報保護者法改正により企業がとるべき措置とは
法改正により、企業は以下のような措置を講じる必要があります。
公益通報対応業務従事者の指定
通報の受付や調査、是正措置などを担う「従事者」を指定する必要があります。
従事者の指定は、書面による通知など、“本人に確実に伝わる方法”で行いましょう。
また、従事者には、「通報者の情報や通報内容について守秘義務を負うこと」「守秘義務に違反すると罰則の対象になること」などもしっかり教育する必要があります。従業員が安心して通報できるよう、従事者の義務や役割について社内で周知すると良いでしょう。
公益通報対応業務を行う体制の整備
通報窓口を設置するだけでなく、制度が機能するよう体制を整える必要があります。
例えば、
- 公益通報保護制度に関する周知や教育を行う
- 内部規程を策定・運用する
- 定期的に制度を見直す
- 通報記録を保管する
- 是正措置の実施後は、改善状況を定期的にチェックする
といった措置が求められます。
公益通報者保護法の改正に関するQ&A
公益通報者保護法の改正に基づく措置を行わない場合に罰則はありますか?
-
公益通報に対する措置を講じていなくても、罰則を受けることはありません。
指針は大枠に過ぎず、企業に具体的な措置を義務付けるものではないためです。ただし、公益通報への措置が不十分な場合、内閣総理大臣から報告を求められたり、助言・指導・勧告を受けたりする可能性があります。
また、勧告に従わなければ企業名を公表されるほか、虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料に処されるおそれもあります。
従業員300人を超える関係会社が複数ある場合、関係会社ごとに通報窓口を設けなければなりませんか?
-
グループ全体ではなく、関係会社ごとに通報窓口を設置する必要があります。
公益通報者保護法では、「独立した法人格をもつ事業者ごと」に適切な措置を講じるよう定められているためです。ただし、子会社の通報窓口を親会社に委託することは可能です。その場合、委託の旨を子会社の規程で明示し、かつ従業員に十分周知する必要があります。
内部通報の外部窓口を弁護士に依頼することは可能ですか?
-
通報窓口は、弁護士に委託することも可能です。
「社内の人間には通報しづらい」と感じる従業員も、外部の弁護士であれば躊躇せずに通報できる可能性があります。また、弁護士は法律上の守秘義務を負っているため、情報が外部に漏れる心配もありません。さらに、企業問題に詳しい弁護士であれば、通報の受付から調査、是正措置まですべて任せることができます。適切な措置をスピーディーに講じることで、より高い効果が得られるでしょう。
公益通報者保護法の改正への対応は企業法務に詳しい弁護士にご相談ください。
公益通報者保護法の改正後も、必要な措置を講じていない企業も多いのが現状です。そのため、今後ますます罰則が強化されることが想定されます。
また、従業員数が300人以下の中小企業は“努力義務”にとどまりますが、法令違反や不正を未然に防ぐため、適切な措置を講じるのが望ましいといえます。
しかし、指針の内容は膨大ですし、措置の具体例も多岐にわたるため、事業主が1人で対応するのは困難です。弁護士に相談のうえ、自社に合った実効性の高い措置を講じるのが良いでしょう。
弁護士法人ALGは、400社を超える企業と顧問契約を締結しており、豊富な知識と経験を有しています。公益通報についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所プロフェッショナルパートナー 弁護士田中 真純(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある