Ⅰ 事案の概要
原告は、自動車運送等の物流事業等を営む被告会社の配送センターにおいて、派遣社員として勤務していました。原告は、被告会社との間で期間の定めのある有期雇用契約を締結しており、契約書には「当社における最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない」との更新上限条項が設けられていました。原告と被告会社との有期雇用契約は、4回ほど更新されていましたが、当初の契約開始時から約6年が経過した時期に、被告会社が原告に対して本件雇用契約の終了を書面にて通知しました(以下「本件雇止め」といいます。)。
これを受けて、原告は、本件雇止めは、労働契約法19条に照らし相当性を欠くものであり、被告会社との間ではなお雇用関係は存在すること等と主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めて訴えを提起しました。
本判決の原審である東京地判令和2年10月1日は、原告の請求を棄却したため(判決確定後の金員の支払いを求める部分については却下しています。)、原告は東京高等裁判所に控訴しました。
Ⅱ 争点
本件の争点は、期間の定めのある有期雇用契約のなかに、更新上限条項や不更新条項が定められていた場合に、労働契約法18条や同法19条に照らし違法な雇止めにあたるのか否かでした。
Ⅲ 判決のポイント
東京高等裁判所は、雇止めの適法性に関する従前の判例法理を概ね踏襲したうえで、以下のような判断枠組みを提示しました。
- 労働契約法18条は、「有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期雇用労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換する仕組みを設けることによって、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的とする」が、他方で「5年を超える反復更新を行わない限度において」「短期雇用の労働力を利用することは許容されていると解されるから、その限度内で有期労働契約を締結し、雇止めをしたことのみをもって」「濫用的な有期労働契約の利用であるとか、同条を潜脱する行為であるなどと評価されるものではない」。
- 労働契約法19条2号の要件に該当するか否かは、「当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無等の客観的事情を総合考慮して判断すべきであ」り、この場合、「労働者がその旨を十分に認識した上で…使用者と労働者とが更新期間の上限を明示した労働契約を締結することは…上記にいう契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無といった考慮事情と並んで、契約の更新への期待の合理的理由を否定する方向の事情として…考慮要素となる」。
- 「有期労働契約が反復して更新される間に、労働者が既に契約更新への合理的期待を有するに至った場合において、新たに更新上限を定めた更新契約を締結するようなときは…労働者が新たに更新上限を導入することを自由な意思をもって受け入れ、既に有していた合理的期待が消滅したといえるかどうかについて…慎重に判断すべき場合があると解される」。
以上の判断枠組みを踏まえて、東京高等裁判所は、①について、本件の不更新条項等は労契法18条に違反し無効とは言えないこと、②③について、本件不更新条項等は原告が「何らかの期待を形成する以前である、本件雇用契約の締結当初から明示されていたものであり、しかも、本件雇用契約書及び説明内容確認票の各記載内容…は一義的に明確であること」、支店の管理課長が原告に対して「そのことを明示・説明したこと」、原告も「本件不更新条項等の存在を十分認識して契約締結に至ったものであ」り、「自由な意思に基づかないで合意がされたとの事情があったとは言い難い」として、労契法19条に照らしても違法な雇止めとは言えないと判断しました。
Ⅳ 本事例からみる実務における留意事項
期間の定めのある有期労働契約については、本来、期間の終了に伴い労働契約が終了するといえます。しかし、これでは、有期労働契約者の法的保護があまりにも図られないため、日立メディコ事件最高裁判決以降、裁判所は、更新に対する合理的期待がある場合に、解雇規制法理と同様の制限(雇止めの合理性・相当性がなければ、雇止めを行うことは許されない、とする制限)を設ける雇止め法理を形成してきました。こうした判例法理は、平成24年に労働契約法19条として明文化されており、以降、裁判例でも、19条1号ないし2号の解釈のなかで、雇止め法理の理論が精緻化されてきています。
本判決は、こうした労契法19条に関する裁判所の判断枠組みを概ね踏襲したうえで、労働者からの無期転換規定の適用を逃れようとするもので、事前放棄と同視し得る不当な内容であるという主張に対して、更新上限条項や不更新条項の存在は、あくまでも上記雇止め法理の合理的期待の有無・程度の判断のなかの考慮要素のひとつとして位置付けられるとの判断を下しています。
更新限度条項の問題は、単に、そうした条項が存在するかどうかだけではなく、それが示された段階・時期に注意する必要があるといえます。つまり、更新限度条項が問題となる事案には、(ア)当初の有期労働契約締結時から更新限度条項が示されている場合と、(イ)有期労働契約の途中から更新限度条項が設けられた場合とが存在し、継続雇用に対する合理的期待は、後者よりも前者の方が否定されやすい傾向にあるといえます。本判決は、このうちの前者に属する事案ですので、更新限度条項の存在が、雇用継続に対する合理的期待を否定する働きは強いと言えるでしょう。
ただし、本判決も指摘するように、更新限度条項の存在のみをもって、ただちに合理的期待が否定されるわけではないことには注意が必要です。契約当初から更新限度条項等が明示されていた本判決においても、例えば、業務の恒常性が認められたり、更新回数や雇用期間が長大だったり、使用者側が雇用継続の期待を抱かせるような言動を行っていたりする場合には、なお、19条2号に基づいて違法な雇止めと判断され得る可能性があると言えるでしょう。
なお、本判決は上告されており、今後、最高裁が判断を行う可能性があります。
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