監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
内定取り消しとは、企業が一度出した採用内定を後から撤回することをいいます。
内定取り消しは法律上、労働契約の解約として扱われるため、軽く考えることはできません。対応を誤ると、内定者から裁判を起こされ、多額の損害賠償金を請求されるおそれがあります。たとえ会社側に正当な理由がある場合であっても、内定者と丁寧に話し合い、円満な解決を目指すことが重要です。
この記事では、リスクを避けながら、適切に内定取り消しを行う方法について解説します。
目次
内定取り消しの適切な進め方
内定取り消しは、企業にとっても内定者にとっても大きな影響を及ぼすため、慎重に進める必要があります。対応を誤ると、内定取消しが無効と判断されたり、内定者から損害賠償を請求されたりするリスクもあるため注意が必要です。
内定取り消しの基本的な進め方は、以下のとおりです。
- 内定取り消しの正当性を確認する
- 内定取り消しの根拠となる証拠を準備する
- 面談や書面を通じて内定者に丁寧に説明する
- 内定取消通知書を作成して正式に通知する
①内定取り消しの正当性を確認する
内定取り消しを行う前に、その判断に正当性があるかを慎重に確認することが不可欠です。
判例では、内定当時には把握できなかった重大な事情が後から判明し、それを理由に内定を取り消すことが合理的と判断できる場合に限り、内定取り消しが認められるとされています。
具体的には、学歴や職歴の重大な虚偽申告、病気により就労が困難となった場合、卒業できなくなったケース、想定外の急激な経営悪化などが考えられます。また、すぐに内定を取り消すのではなく、配置転換や入社時期の調整、労働条件の変更など、他の方法で解決できないかを検討することも必要です。
②内定取り消しの根拠となる証拠を準備する
内定取り消しを行うときは、トラブルを防ぐためにも、その根拠となる証拠を準備しておくことが重要です。まずは内定通知書を確認し、内定条件や取り消しが認められる事由が定められているか、今回のケースがそれに当てはまるかを検討します。あわせて、雇用契約書や就業規則などにも目を通し、採用や解雇に関する社内ルールと矛盾がないかを確認しましょう。
さらに、内定取り消しの理由に応じて、経歴詐称なら履歴書との相違資料、健康問題なら健康診断結果、重大な非行なら報道資料、経営悪化なら決算資料など、客観的な証拠を用意しておくことが重要です。
③面談や書面を通じて内定者に丁寧に説明する
内定取り消しは、書面での通知だけでは済ませず、担当者が直接面談して説明するのが望ましいでしょう。電話やメールだけでは誠意が伝わりにくく、内定者の不信感を招き、トラブルやSNSでの悪評につながるおそれがあるためです。直接会って説明することで、企業として真摯に向き合っている姿勢を示すことができます。
面談では、内定通知書や就業規則などの資料を示しながら、内定取り消しに至った理由や経緯を具体的に説明しましょう。また、内定者の不安に配慮し、謝罪の言葉をきちんと伝えることも重要です。必要に応じて、他社の求人紹介などの支援策を示すことも有効です。内定者の気持ちを尊重した丁寧な対応が、不要なトラブルを防ぐポイントとなります。
④内定取消通知書を作成して正式に通知する
内定取り消しは解雇と同様の性質があるため、入社予定日の30日前までに、内定取消通知書を交付することが必要です。通知が早ければ、内定者は次の求職活動に早く動き出すことができ、紛争に発展するリスクも抑えられます。通知書には、内定を取り消すことだけでなく、取り消しの理由や取消日、問い合わせ先などをわかりやすく記載しましょう。
内定取り消しの通知が遅くなるほど、取り消しの無効を争われるリスクも高まります。万が一通知が遅れた場合でも、金銭的な補償や再就職の支援などを行い、内定を取り消された者の不安や負担を軽減するようにしましょう。
そもそも内定取り消しは違法なのか?
企業による内定取り消しは、自由に行えるものではなく、一方的に行えば違法となる可能性があります。内定が出された時点で、「始期付解約権留保付労働契約」が成立すると考えられており、内定取り消しには解雇と同じ厳しい要件が求められます。
具体的には、客観的に見て合理的な理由があり、社会通念上も相当といえることが必要です。例えば、留年が判明した場合や、重大な病気などにより就労が困難になった場合など、やむを得ない事情があるときに限り、内定取り消しが認められます。
これらの要件を満たさない内定取り消しは、無効となるおそれがあるため注意が必要です。
内定取り消しが認められるケース
内定取り消しが有効とされるのは、通常の解雇と同じく、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえる場合に限られます。
具体的には以下のようなケースが該当します。いずれも採用内定時に企業側が知ることができず、また知ることが期待できないような事実があった場合です。
- 内定後に犯罪行為をした場合
- 重大な経歴詐称が発覚した場合
- 入社までに業務に必要な資格を取得できなかった場合
- 大学等を卒業できなかった場合
- 内定後に健康状態が悪化し、通常の業務ができなくなった場合
- 業績が急激に悪化し、整理解雇の要件を満たす場合
これらに該当しても、必ず内定取り消しが認められるとは限らず、個別の事情に応じた判断が必要です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
不当な内定取り消しを行った場合の企業リスク
不当な内定取り消しを行うと、裁判などで内定取消しが無効と判断されるだけでなく、損害賠償を請求されるおそれがあります。特に次のような理由による内定取り消しは、不当と判断されるリスクが高いため注意が必要です。
- 妊娠していることが判明した
- ホステスのアルバイトをしていた
- 宗教を信仰している
- 社風に合わない、雰囲気が暗い
- 仕事に支障のない持病がある
- 魅力的な応募者が現れたため、そちらを採用したい
- 証拠がないのに、前職での悪い噂だけを理由に内定を撤回した
また、新卒者の内定取り消しについては、以下のケースに該当すると悪質と判断され、企業名が公表される可能性があります。
- 内定取消しを2年連続で行った
- 同一年度内に10名以上の内定を取り消した
- 事業縮小の必要性が認められない
- 取消の理由を十分に説明しなかった
- 就職先確保の支援を行わなかった
社会的信用にダメージを与えかねないため、内定取り消しは慎重に進めましょう。
内定取り消しを円満に行うためのポイント
内定を受けた求職者の多くは、その時点で就職活動を終え、入社を前提に生活や将来の計画を立てています。そのため、内定取り消しは人生設計に大きな影響を与える重大な出来事であり、企業側にはいっそう慎重な対応が求められます。対応を誤れば、深刻なトラブルに発展しかねません。
そこで以下では、不要なトラブルを防ぎ、内定者の理解を得るために、企業が意識しておくべき対応のポイントについて解説します。
内定通知書や誓約書に内定取消事由を記載しておく
円満に内定取り消しを進めるためには、内定を取り消す可能性があることや、その対象となる行為を、内定段階で、内定通知書と誓約書に明記しておくことが大切です。
記載するときは、「会社の判断による場合」といった抽象的な表現は避けましょう。「在学中の学校を卒業できなかった場合」や「重大な経歴詐称が判明した場合」など、できる限り具体的な内容とすることが必要です。理由が曖昧だと、後に不当な内定取り消しとして争われやすくなります。
また、万が一内定取り消しが必要となった場合は、できるだけ早い段階で内定者へ伝える配慮も欠かせません。書面の書き方や、内定取り消し対象者への説得方法などについてわからなければ、弁護士に相談することをおすすめします。
金銭補償や損害賠償の提示をする
内定取り消しを円満に解決するには、内定者が受ける不利益や、精神的苦痛に十分配慮し、金銭補償や損害賠償の提示を検討することが重要です。
内定者の多くは、その内定をもって就職活動に一区切りをつけています。特に入社直前で内定を取り消すと、次の就職先がすぐに見つからず、生活面での影響も大きくなりがちです。そのため、状況によっては補償額を手厚くすることも検討すべきでしょう。
一般的に、内定取り消しに伴う補償金額は数十万円程度とされるケースが多いです。ただし、リーマンショック時の内定取り消しで、迷惑料として100万円が支払われた例もあります。
トラブル防止のために合意書を作成しておく
内定取り消しを通知し、対象者から同意を得ることができたら、必ず合意書を作成することが重要です。口頭での合意だけでは、後で蒸し返されてトラブルになるリスクがあるためです。
合意書には、次のような事項を記載します。
- 内定を取り消す理由
- 内定取り消しの通知日
- 補償内容(解決金の金額や支払方法、支払期限など)
- 本件について互いに追加請求しない「清算条項」
- 第三者に合意内容を漏らさない「口外禁止条項」
- 会社への誹謗中傷を行わない「誹謗中傷禁止条項」
特に内定取り消しがSNSなどで拡散されると、内定者側に問題があった場合でも、ブラック企業と受け取られるおそれがあります。そのため、誹謗中傷を禁止する条項を盛り込むことが重要です。
内定取り消しについて争われた裁判例
事件の概要
【平成9年(ヨ)第21114号 東京地方裁判所 平成9年10月31日決定 インフォミックス採用内定取消事件】
大手外資系企業である甲に10年間勤務していたXは、Yからヘッドハンティングを受け、採用内定を得ました。Xは甲に退職届を提出し、Yへの入社準備を進めていましたが、その後、Yが経営危機に陥りました。XとYとの間で今後の対応について話し合いが行われましたが最終的に合意に至らず、Yは一方的に内定を取り消しました。これに対しXは、内定取り消しは無効であると主張し、Yでの地位保全および賃金仮払いの仮処分を申し立てた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、企業が経営の悪化等を理由に採用内定を取り消す場合には、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきであると指摘しました。
そして、以下の「整理解雇の4要件」を判断基準として採用しています。
- ①人員削減の必要性
- ②人員削減の手段として整理解雇することの必要性
- ③被解雇者選定の合理性
- ④手続きの妥当性
整理解雇と同様の基準を採用するのは、採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれていることを理由としています。
ポイント・解説
当該事案では、上記の「整理解雇の4要件」のうち、①②③は満たされていると判断されましたが、「④手続きの妥当性」に問題があるとされました。
原告Xは、10年間勤めた甲を退職したにもかかわらず、被告Yは、経営悪化を理由として入社予定日の2週間前に採用内定を取り消しており、信義則に反していると裁判所は認めました。さらに、Xの納得が得られるように十分な説明を行う信義則上の義務があると指摘しました。
そして、Yは必ずしもXの納得を得られるような十分な説明をしたとはいえず、Yの対応は誠実性に欠けていたといわざるを得ないと評価し、内定取り消しは無効であると認定しました。
内定取り消しに関してよくある質問
内定取り消しをした場合、企業は金銭を補償する義務がありますか?
-
違法な内定取り消しであれば、企業に損害賠償義務が生じる可能性があります。
正当な理由のない内定取消しは、裁判などで違法と判断され、慰謝料や入社していれば得られたはずの一定期間分の賃金、引越し費用などについて、賠償が命じられるおそれがあります。賠償金については、内定者の同意があれば分割払いで行うことも可能です。
また、法的義務はなくても、トラブルを避けるために企業が自主的に金銭補償を行うことも多いです。対応に迷う場合は弁護士にご相談ください。
取り消し事由が複数ある場合はすべてを通知すべきですか?
-
内定取消事由が複数ある場合は、最初の段階ですべてを通知するのが望ましいでしょう。
後になって理由を追加すると、後付けではないかと疑われ、裁判になったときに企業側が不利になるおそれもあります。最初からすべての理由を示せば、判断の透明性が高まり、内定取り消しの正当性を裏づけることが可能です。
ただし、通知できるのは証拠で証明できる事由に限られます。裏づけの弱い理由まで並べるとかえって信用性を損なうため、理由の選別は慎重に行いましょう。
中途採用の内定を取り消すことは可能ですか?
-
中途採用の内定を取り消すことは可能ですが、簡単にはできません。
内定が出た時点で労働契約が成立すると考えられるため、内定取消しを行うには、正当な理由が求められます。例えば、重大な経歴詐称や犯罪行為、仕事ができないほどの健康悪化、急激な経営の悪化などは、内定取り消しが認められやすい傾向があります。一方で、「社風に合わない」「より優秀な候補者が見つかった」といった企業側の一方的な理由だけでは、違法とされるおそれがあり、慎重な判断が必要です。
内定の取り消しは撤回できますか?
-
内定の取り消しは、条件を満たせば撤回できる場合があります。
企業がいったん内定取消しを伝えた後でも、内定者が撤回に同意し、改めて入社する意思を示していれば、内定を有効なものとして復活させることは可能です。特に内定取消しに十分な理由がなく、違法と判断されるおそれがある場合には、リスク回避の手段として撤回が有効となることもあります。
トラブルを避けるためにも、内定取消しの撤回はできるだけ早めに行い、内定者の同意を得ることが必要です。
内定者に取り消しの可能性を事前に伝えることは違法ですか?
-
内定者に対して、あらかじめ内定取消しの可能性を伝えること自体は違法ではありません。
例えば、経歴詐称が判明した場合や、学校を卒業できなかった場合など、正当な取消し事由を事前に説明しておくことは、実務上も認められています。一方で、「会社の判断でいつでも内定を取り消せる」といった曖昧な説明は、内定者に強い不信感を与え、内定辞退を招くおそれがあります。また、強要のような圧力をかける形で内定辞退を迫ると、違法と判断される可能性があるため注意が必要です。
内定を取り消したいけどトラブルにならないか不安……まずは弁護士にご相談ください
内定取消しは、対応を一つ誤れば損害賠償請求を受けたり、企業イメージの低下につながったりするおそれがあるデリケートな問題です。
内定取消しが認められるかどうかは、正当な理由があるかどうかだけでなく、手続の進め方や内定者への説明方法など、あらゆる事情を踏まえて判断されます。そのため、「このケースなら問題ないだろう」と企業側の判断だけで進めるのは非常に危険です。
弁護士法人ALGには、企業法務に精通した弁護士が多数在籍しており、内定取消しが可能かどうかの見極めから、トラブルを未然に防ぐための対応策まで、実務に即したサポートを行っています。内定取り消しについて不安を感じた場合は、ぜひ弁護士法人ALGへご相談ください。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料※
企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)
会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)
執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

