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懲戒処分の減給とは|労働基準法における限度額や計算方法、期間など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

非違行為をした社員に対する懲戒処分のひとつとして、「減給」が規定されていることがあります。「減給」とは、文字通り労働者の給与を減らす処分ですが、収入に影響することから法律によって減給幅や期間に制限が設けられています。

大幅な減給処分を下した場合、その減給が違法と判断される可能性があるため慎重に対応しましょう。

本記事では、懲戒処分による減給の限度額や計算方法、懲戒処分以外で減給する方法、減給を行う際の注意点などをわかりやすく解説していきます。

懲戒処分としての減給とは

減給とは、労働者の給与を減額する処分または措置のことです。就業規則に規定された非違行為を行った労働者への懲戒処分として行われる例が多いと考えらます。

ただし、減給は労働者の生活に大きく影響するため、労働基準法91条で一定の上限額が設けられています。上限額を超えて減給を行った場合、使用者は30万円以下の罰則が科せられるため注意しましょう(同法120条1号)。

また、懲戒処分としての減給を行う場合、前提として就業規則上の規定が必要です。
具体的には、懲戒処分のひとつに“減給”が定められており、また、どのような行為が減給の対象となるのか(懲戒事由)も明示しなければならないと考えられます。

なお、懲戒処分の内容は、減給の他に

  • 戒告
  • 譴責
  • 出勤停止
  • 降格
  • 諭旨解雇
  • 懲戒解雇

などがあります。各処分の内容や重さについては、以下のページで詳しく解説しています。

懲戒処分の種類や違法とならないための判断基準・手順について
懲戒処分の判断基準とは|対象事由ごとの基準や7つの原則について

懲戒処分としての減給の限度額

懲戒処分による減給には上限額があり、これを超える減給処分は認められません(労働基準法91条)。
具体的には、以下2つのルールを守る必要があります。

①減給は平均賃金の1日分の半額までとする
減給額は、1回の減給処分につき平均賃金の1日分の半額以下とする必要があります。

(例)1日あたりの平均賃金1万円→減給額は1万円の半額の5000円までとすること

②減給の総額は、賃金総額の10分の1を超えてはならない
複数の問題行為を起こした場合、懲戒処分も別々に科すことができます。ただし、減給の総額は「一賃金支払期の賃金総額の10分の1以内」に収める必要があります。

(例)月給30万円→減給の総額は3万円までとすること

減給限度額の計算方法

1回の減給における限度額は、1日あたりの平均賃金の半額までとする必要があります。
平均賃金については、月給と暦日数をもとに以下のように計算します(労基法12条本文)。

【1日あたりの平均賃金=直近3ヶ月の賃金総額÷該当期間の総日数】

(例)月給30万円、給与締め日が月末、10月5日に懲戒処分を行ったケース
   ・直近3ヶ月分の賃金総額=30万×3=90万円
   ・該当期間の総日数=31日(7月)+31日(8月)+30日(9月)=92日
   ・1日あたりの平均賃金=90万÷92日=9783円(小数点以下四捨五入)

また、平均賃金には“最低額”があり、これを下回る金額は認められません(同条ただし書1号)。

【平均賃金の最低額=直近3ヶ月の賃金総額÷該当期間における出勤日数×0.6】

(例)月給30万円=直近3ヶ月の賃金総額90万円、3ヶ月の出勤日数60日のケース
・最低額=90万÷60日×0.6=9000円

1日あたりの平均賃金が最低額を下回っている場合、最低額をそのまま平均賃金とみなすのが基本です。

平均賃金の計算方法についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。

平均賃金の計算|必要なケースや計算方法について

懲戒処分として減給できる期間

1度の問題行為に対して、減給できるのは1回(1ヶ月分の給与)のみです。よって、数ヶ月や1年など長期にわたって減給処分を科すことはできません。

なお、報道などで「行為者を1年間〇%の減給処分とした」等と報じられることがありますが、これは取締役等の役員が対象であり、労働者には適用できないため注意しましょう。

また、問題行為が複数回行われた場合、それぞれの行為に対して減給処分を科すことができますが、減給の限度額を超えないよう注意が必要です。

懲戒処分以外で減給処分を行うことができるケース

減給は、懲戒処分だけでなく以下のような方法で行われることもあります。

  • 労働者との合意に基づいた減給
  • 人事評価の降格による減給
  • 出勤停止処分に伴う減給
  • 賞与の減額

労働者との合意に基づいた減給

労働者の同意があれば、給与を減額することが可能とされています。

また、労働者との合意に基づく減給の場合、懲戒処分に基づく減給ではないことから、労働基準法における「減給の限度額」が適用されません。そのため、具体的な減給幅も労働者と話し合って決めることができます。

ただし、減給後の給与が最低賃金法における最低賃金額を下回らないよう注意が必要です。

なお、減給などの賃金引き下げは「労働条件の不利益変更」にあたるため、適切な手順に沿って行われなければ、無効となる可能性が高いため、注意が必要です。

詳しくは以下のページをご覧ください。

賃金引き下げによる労働条件の変更について
最低賃金制度とは|目的や企業の義務、罰則などをわかりやすく解説

人事評価の降格による減給

降格には、「人事権の行使としてのもの」と「懲戒処分としてのもの」があります。
このうち、人事権の行使としての降格に伴う減給については、労働基準法第91条の規制が及びません。

行政解釈においても、降格や降職を行う場合であって、職務によって異なった基準の賃金を支給することが定められている場合においては、法91条の規制に抵触しないとされています。

降格人事の詳細は、以下のページで解説しています。

降格人事とは│人事異動としての降格の伝え方や理由、違法性のある降格について

出勤停止処分に伴う減給

出勤停止処分とは、就業規則に規定された懲戒事由に該当する行為をした労働者の就労を、一定期間禁止し、賃金を不支給とする処分のことです。

出勤停止も懲戒処分のひとつですが、減給処分と違って労働基準法91条の「減給の限度額」が適用されません。よって、出勤停止期間中は完全に無給とすることができます。

ただし、出勤停止は労働者の収入に多大な影響をもたらすため、処分を下すか慎重に判断すべき点は、他の懲戒処分と変わりません。

詳しくは以下のページをご覧ください。

【懲戒処分】出勤停止(自宅謹慎)に該当する懲戒事由や期間など

賞与からの減給

賞与を支給するか否かは、基本的には、事業主の裁量によるため、賞与から減給をしても、労働基準法第91条の規制は及ばないのが一般的です。

ただし、就業規則で賞与制度が定められ、その算定期間、支給基準、計算方法などが明記されており、就業規則の規定のみによって支給額が確定する場合、事業主は賞与の支払い義務を負うと判断される可能性が高いです。
その場合、賞与も労働基準法上の“賃金”に該当し、労働基準法第91条の規制が及ぶことになります。

賞与を減額する際の注意点などは、以下のページで解説しています。

賞与の減額(ボーナスカット)と違法性について

懲戒処分として減給する際の注意点

懲戒処分としての減給を行う場合、以下の点に留意する必要があります。対応を誤ると、処分が無効になるおそれがあるため注意が必要です。

  • 減給の懲戒処分通知書を作成する
  • 就業規則に基づいて減給処分を行う
  • 懲戒権の濫用に当たらないように配慮する(弁明の機会を与えるなど)

減給の懲戒処分通知書を作成する

減給の内容を記載した「懲戒処分通知書」を作成し、労働者に交付します。

なお、減給処分の通知方法に法的なきまりはないため、口頭でも効果は発生しますが、トラブルを避けるため書面で通知するのが望ましいでしょう。
対象者と面談の場を設け、処分の内容を読み上げたうえで通知書を手渡すのが一般的です。また、受領書に署名・捺印をもらっておくとなお安心です。

通知書の受領を拒否された場合郵送またはメールで本人に送るようにしましょう。

就業規則に基づいて減給処分を行う

減給を行うには、就業規則の懲戒規定に「減給を行う可能性がある旨」が明記されていなければなりません。また、処分の対象となる問題行為が、就業規則上の「懲戒事由」に該当する必要があります。

就業規則に定めがない場合、基本的に減給処分を下すことはできません。
さらに、「懲戒委員会を開いて処分を決定する」といったルールが定められている場合、その手順にも従う必要があります。

また、就業規則は社内に周知されて初めて効果が発生します。
適切な内容で作成されていても、周知がなされていなければ処分は“無効”と判断される可能性が高いため注意が必要です。

就業規則の周知義務とは│従業員への周知方法や違反時の罰則など

懲戒権の濫用に当たらないように配慮する

問題行為に対して処分の内容が重すぎると、「懲戒権の濫用」にあたり処分が無効になる可能性があります。

例えば、仕事上の軽微なミスや数回の遅刻、常習性がない無断欠勤などは、戒告や譴責、厳重注意などの処分が一般的なので、いきなり減給にすると懲戒権の濫用と判断される可能性が高いです。

まずは注意や指導、軽い処分などを重ね、それでも改善がみられない場合は減給処分を下すのが望ましいでしょう。

ただし、妥当な処分を判断するには専門知識や経験が必要ですし、過去の裁判例なども踏まえて判断する必要があるため、弁護士のサポートを受けるのが得策でしょう。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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