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母性保護規定とは|労働基準法上の定めや企業の対応について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

企業における労働環境の整備は、従業員の健康と安全を守るために非常に重要なものです。特に、妊娠中や産後1年を経過しない女性の従業員に対する配慮は欠かせません。法律においても、母性保護に関しては罰則付きの規定が定められています。

企業が法令を遵守し、妊娠中や出産直後の従業員が安心して働ける環境を提供できるよう、本記事では、労働基準法における母性保護規定について詳しく解説します。

労働基準法における母性保護規定とは

労働基準法では、妊娠中および出産後の女性労働者を保護するための母性保護規定が定められています。
この規定には、以下の内容が含まれます。

  • ① 産前・産後休業
  • ② 妊婦の軽易業務転換
  • ③ 妊産婦に対する坑内業務の就業制限
  • ④ 妊産婦に対する危険有害業務の就業制限
  • ⑤ 妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限
  • ⑥ 妊産婦の時間外労働・休日労働、深夜業の制限
  • ⑦ 育児時間

それぞれの規定について、次項より詳しく解説していきます。

なお、似たような名称で、男女雇用機会均等法には「母性健康管理措置」が定められています。
企業が講ずべき「母性健康管理措置」については、以下のページをご覧ください。

企業が講ずべき「母性健康管理措置」について

産前・産後休業

●産前休業
労働基準法第65条第1項において、妊娠中の女性労働者は産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の休業を請求できる旨定められています。この期間中、女性労働者は仕事を休むことができ、事業主はその請求を拒否することはできません。

●産後休業
労働基準法第65条第2項では、女性労働者は出産後8週間の休業が義務付けられており、事業主は本人が希望しても就業させることはできません。これは母体の回復と健康を守るための重要な保護措置です。
ただし、産後6週間を経過した後に本人が希望し、医師が支障なしと認めた場合に限り、業務に復帰することが可能です。

なお、「出産」とは妊娠4ヶ月以上の分娩を指し、死産や流産も対象となります。また、出産日は産前休業に含まれるため、休業期間の計算には注意が必要です。

産前産後休業について、詳しくは以下のページをご覧ください。

産前産後休業とは|休業期間や労務手続き

妊婦の軽易業務転換

労働基準法第65条第3項には、妊娠中の女性労働者が請求した場合、事業主は他の軽易な業務に転換させなければならない義務が定められています。

軽易な業務には、業務内容の変更だけでなく、労働時間帯の変更なども含まれます。例えば、体力をあまり使わない業務や、夜勤から日勤への変更、短時間勤務へのシフトなどが該当します。

もし軽易な業務がない場合、事業主は新しい業務を創設する義務はありませんが、妊婦が安心して働けるように出来る限り配慮する必要があります。
本人から請求がないのであれば、軽易な業務へ転換する必要はありません。

妊産婦に係る坑内業務の就業制限

労働基準法第64条の2第1号では、妊娠中の女性および坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性について、使用者はこれらの女性を坑内で行われるすべての業務に就かせてはならないと定めています。

妊娠中の女性従業員は一律に、坑内労働が禁止されているのに対して、産後1年以内の女性従業員については会社にそのように申し出た場合に限って禁止されている点がポイントです。

企業は、妊産婦の申し出を受けた場合、速やかに対応し、適切な業務に転換させる必要があります。

なお、同条第2号では、上記以外の満18歳以上の女性について、人力による掘削作業や、その他女性に有害な業務として厚生労働省令で定める坑内業務に就かせてはならないとしています。

妊産婦等の危険有害業務の就業制限

労働基準法第64の3第1項は、妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性(妊産婦)を、重量物を取り扱う業務や有害ガスを発散する場所における業務、その他妊娠や出産などに有害な業務に就かせてはならないとしています。

具体的に、妊娠中の女性については、危険有害業務として女性労働基準規則第2条第1項各号に定められた24業務に就業させることはできません。

以下はその一部です。

【妊娠中の女性に就業させることができない業務】

  • 重量物の取り扱い 年齢に応じて、一定以上の重量物を取り扱う業務
  • 有害ガスの発散場所での業務  鉛、水銀、クロムなどの有害物質を発散する場所での業務
  • 高熱物体の取り扱い 多量の高熱物体を取り扱う業務
  • 著しい振動を与える機械器具の使用 さく岩機、鋲打機などの使用

参照:労働基準法(危険有害業務の就業制限

なお、産後1年を経過しない女性については、次のように就業制限が緩和されています(女性労働基準規則2条2項)。

  • ① 24業務のうちの2業務(深さ又は高さが5メートル以上の場所等における業務で一定のもの等)については、就業させることができる。
  • ② 24業務のうちの19業務(ボイラーの取り扱い・溶接の業務等)については、女性がその業務に従事しない旨申し出ない場合には、就業させることができる。

妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限

労働基準法第66条第1項において、妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性(妊産婦)が請求した場合、変形労働時間制が適用されるケースでも、1日8時間、1週40時間を超えて労働させることはできないと定められています。

具体的に対象となる変形労働時間制は次の3種類です。

  • 1ヶ月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の変形労働時間制

なお、フレックスタイム制は、一定の期間内で総労働時間を定め、その範囲内で日々の始業・終業時刻を労働者自身が自由に調整することができる制度であるため、妊産婦が請求したとしても、この制限の対象外となっています。

変形労働時間制について詳しくは以下のページをご覧ください。

変形労働時間制とは?1ヶ月・1年・1週間単位の違いをわかりやすく解説

妊産婦の時間外労働・休日労働、深夜業の制限

労働基準法第66条第2項・第3項において、妊娠中および産後1年以内の女性労働者(妊産婦)が申し出た場合、以下の労働を制限しなければならないと定めています。

  • 時間外労働(残業)
  • 休日労働
  • 深夜業(午後10時~午前5時)

これらの制限は妊産婦の健康と胎児・乳児の安全を守るための措置であり、使用者は妊産婦の請求があった場合、これらの労働を命じることは禁止されています。
ただし、これらの規定は、妊産婦から請求があった場合にのみ適用される点が特徴です。

育児時間

労働基準法第67条第1項は、生後1歳未満の子を育てる女性労働者に対し、1日2回、各30分以上の「育児時間」を請求できる権利を保障しています。これは通常の休憩時間とは別に与えなければならず、授乳やオムツ替え、保育園送迎など幅広い育児目的に使うことができるとされています。

企業はこの時間中に業務を命じることはできず(同条第2項)、請求があれば必ず育児時間を付与しなければなりません。雇用形態に関係なく、パートや契約社員であってもこの制度の対象となります。

育児時間について、詳しくは以下のページをご覧ください。

労働基準法の育児時間とは|基本的な考え方や労務管理上の注意点

母性保護規定に違反した場合の罰則

労働基準法第119条は、母性保護に関する規定(産前産後休業、妊産婦の時間外・休日・深夜労働の制限など)に違反した事業主に対し、「6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」を定めています。

母性保護に関する規定は、妊産婦や育児中の女性の健康と安全を守るための重要なルールであるため、従業員から産前産後休業や育児時間取得の申出があったにもかかわらず、これを拒否すると労働基準法違反として刑事罰の対象になりかねません。

知らなかったでは済まされないため、企業には厳格な法令遵守が求められます。

母性保護規定における企業の対応・注意点

母性保護規定に関して、企業は妊産婦の健康と安全を守るため、法定の休業や労働制限への対応を適切に行う義務があります。基本的には本人の申出に基づいて対応することになりますが、制度の周知や相談体制の整備、記録の管理はより重要となります。

次に、企業に求められる具体的な対応策や実務上の注意点について詳しく見ていきましょう。

女性労働者が利用できる制度について就業規則に規定する

女性労働者が利用できる母性保護制度(産前産後休業、育児時間、軽易業務転換など)については、就業規則に具体的な取り扱いや手続き方法を明記することが重要です。これにより、労働者が制度の内容を理解しやすくなり、安心して申請・利用できる環境が整います。
具体的には、分かりやすい資料を作成して社内イントラネットへ掲示したり、従業員に配布するなどして周知するのも良いでしょう。

また、従業員から妊娠の申し出があった場合に、作成した資料をもとに個別に説明をすることも大切です。

母性保護措置を理由とする不利益な取扱いは禁止

母性保護措置(産前産後休業、軽易業務転換、深夜業の免除など)を受けたことを理由に、解雇や不利益な取扱いをすることは法律で厳しく禁止されています。これは男女雇用機会均等法第9条第3項に基づくもので、企業は女性労働者の妊娠・出産・育児に関する権利を尊重しなければなりません。

具体的に、不利益取扱いに該当する例として、以下のような行為が含まれています。

  • 解雇や契約更新の拒否
  • 降格や不利益な配置転換
  • 給与・賞与の減額
  • 昇進・昇格の評価での不利な扱い
  • 不利益な自宅待機命令 など

これらの行為は違法とされ、行政指導や企業名の公表(均等法第29・30条)、損害賠償請求の対象となることもあり注意が必要です。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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