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化学物質のリスクアセスメント|3つの対象項目や実施手順など

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

化学物質を扱う事業場では、労働災害防止のため、リスクアセスメントを実施することが義務付けられています。また、リスクアセスメントの対象となる化学物質は、2024年4月時点で896物質にのぼっています。

化学物質のリスクアセスメントとは

化学物質のリスクアセスメントとは、対象物質の危険性や有害性を職場全体で十分に理解し、健康被害のリスク低減措置を検討することをいいます。

対象物質を扱うすべての事業主には、リスクアセスメントを実施することが義務付けられています。これは、平成28年の労働安全衛生法改正により義務化されたものです(労働安全衛生法28条の2)。

また国では、リスクアセスメントの対象物質以外でも、化学物質を扱う場合はリスクアセスメントを実施するよう呼びかけています。

リスクアセスメント実施の目的と効果

リスクアセスメントを実施する目的・効果には、以下のようなものがあります。

【目的】

  • 災害が起こるリスクを取り除き、労働災害が生じない職場にすること
  • 職場の構成員(経営トップ、各級の管理者、現場の作業者等)が参加することで、事業場の安全衛生管理を組織的、継続的に実施していくこと

【効果】

  • 化学物質の潜在的なリスクを早期発見できる
  • 化学物質のリスクについて感受性が高まる
  • リスクの内容や程度を事業場で共有できる
  • リスク低減対策の優先順位が明確になる
  • 作業手順等を見直すことで、職場の安全衛生の向上につながる
  • リスクアセスメントの結果を作業者の安全衛生教育等に活用できる

化学物質リスクアセスメントの対象項目

では、具体的にどのような方にリスクアセスメントの実施義務があるのでしょうか。
対象項目はリスク・化学物質・事業場に分けられるため、自社が該当するか確認が必要です。
以下でそれぞれ詳しくみていきましょう。

リスク

化学物質がもたらすリスクには、人の健康障害や環境汚染、爆発や引火等さまざまなものがあります。このうち、リスクアセスメントの対象となるのは以下の2つです。

  • 工場や職場等の事業場における作業者への健康リスク(化学物質の“有害性”に基づくリスク)
  • 設備等の発火や引火、またそれらに伴う爆発や火災のリスク(化学物質の“危険性”に基づくリスク)

なお、法令等では、「危険性又は有害性の調査」を行うことが義務付けられていますが、危険性と有害性どちらかに絞れば良いわけではありません。くれぐれも対象となるすべてのリスクについて、リスクアセスメントを実施しなければならないことにご注意ください。

化学物質

リスクアセスメントの対象物質は、2024年4月時点で896物質となっており、今後も順次追加される予定です。対象物質の一覧は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」で検索することができます。

また、これらのリスクアセスメント対象物は、その危険性や取扱い方法などを「ラベル表示」や「SDS(安全データシート)交付」によって通知することも義務付けられています。

さらに、対象物質に該当しなくても、労働者に健康障害をもたらすおそれのある化学物質を譲渡・提供する場合は、ラベル表示やSDS交付をすることが努力義務となっています。

化学物質に係るラベル表示・SDS交付義務について

リスクアセスメントの対象物質を第三者に譲渡・提供する場合、「ラベル表示」や「SDS(安全データシート)交付」を実施することが義務となっています。

【ラベル表示】
化学物質の危険有害性をわかりやすく伝えるため、製品の包装に絵表示などを貼り付けることです。可燃性や引火性、発がん性、環境への影響など9つの有害性に分類されており、該当する絵表示を添付します。

【SDS交付】
化学物質の有害性などを詳しく伝えるための資料を交付することです。危険有害性の詳細、取扱い方法、事故発生時の応急措置などを記載します。

なお危険物を取り扱う事業場では、リスクアセスメント以外にもさまざまな安全対策を講じる必要があります。また、労働者のメンタルヘルスやストレスにも十分配慮が必要です。
詳しくは以下のページをご覧ください。

過重労働による健康障害の防止措置|事業者が講ずべき対策や改正など
労働安全衛生法上の危険物・有害物・機械等に関する規制
労働安全衛生法とは|事業者の義務や改正内容をわかりやすく解説

事業場

対象物質の製造・取扱いを行うすべての事業場に、リスクアセスメントの実施が義務付けられています。
また、業種や事業場規模を問わないため、一見化学物質とは無関係と思われる企業も対象となり得るのがポイントです。製造業や建設業はもちろんのこと、清掃業・卸売業・小売業・外食産業・医療福祉業等も注意すべきでしょう。

化学物質リスクアセスメントの実施体制と実施時期

実施体制

まず、社長などの経営トップがリスクアセスメントの実施を表明し、運営体制を決定します。
運営体制の構築では、安全衛生委員会のメンバーや外部の専門家なども幅広く参画させるのがポイントです。下表で一例をご紹介します。

参考:化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)(厚生労働省)
担当者 実施内容
総括安全衛生管理者など
(事業の実施を統括管理する人・事業場のトップ)
リスクアセスメントなどの実施を統括管理
安全管理者または衛生管理者 作業主任者、職長、班長など
(労働者を指導監督する地位にある人)
リスクアセスメントなどの実施を管理
化学物質管理者
(化学物質などの適切な管理について必要な能力がある人の中から指名)
リスクアセスメントなどの技術的業務を実施
専門的知識のある人
(必要に応じ、化学物質の危険性と有害性や、 化学物質のための機械設備などについての専門的知識のある人)
対象となる化学物質、機械設備のリスクアセスメントなどへの参画
外部の専門家
(労働衛生コンサルタント、労働安全コンサルタント、作業環境測定士、インダストリアル・ハイジニストなど)
より詳細なリスクアセスメント手法の導入など、技術的な助言を得るために活用が望ましい

なお事業主は、リスクアセスメントの運営を担う労働者に対し、必要な教育を行うことも求められています。また、職場の危機管理体制を統一するため、リスクアセスメントの評価方法をマニュアル化しておくことも重要です。

安全管理者や衛生管理者などの安全衛生体制については、以下のページで詳しく解説しています。

安全衛生管理体制とは|委員会や管理者の設置についてわかりやすく解説

実施時期

リスクアセスメントの実施時期は、労働安全衛生規則34条の2の7で以下のとおり定められています。

  • 対象物を原材料等として新規に採用したり、変更したりするとき
  • 対象物の製造又は取扱い業務の作業方法や作業手順を新規に採用したり、変更したりするとき
  • 上記の他、対象物による危険性・有害性に変化が生じたり、生じるおそれがあったりするとき(新たな危険有害性の情報が、SDSで提供された場合等)

また、厚生労働省が公表する「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」では、以下の時期にリスクアセスメントを行うことが“努力義務”とされています。

  • 労働災害が発生し、過去のリスクアセスメントに問題があるとき
  • 化学物質の危険有害性について、新たな知見を得たとき
  • 過去のリスクアセスメント実施以降、機械設備の経年劣化や、労働者の入れ替わりに伴う知識経験の変化、労働安全衛生に関する新たな知見の収集等があった場合
  • 過去にリスクアセスメントを実施したことがないとき

化学物質リスクアセスメントの実施手順

リスクアセスメントでは、化学物質による危険有害性を特定し、考えられるリスクを洗い出す必要があります。詳しい手順は以下のとおりです。

  1. 化学物質などによる危険性または有害性の特定(法第57条の3第1項)
  2. リスクの見積もり(安衛則第34条の2の7第2項)
  3. リスク低減措置の内容の検討(法第57条の3第1項)
  4. リスク低減措置の実施(法第57条の3第2項 努力義務)
  5. リスクアセスメント結果の労働者への周知(安衛則第34条の2の8)

ただし、業種によってリスクは異なりますし、有効なリスク低減措置を考えるのが難しいケースもあります。その場合、弁護士などの専門家に相談するとスムーズに進む可能性があります。

また、厚生労働省のホームページでは、リスクアセスメントの実施事例集も紹介されているため、参考にすると良いでしょう。

①化学物質等による危険性・有害性の特定

まず、化学物質等による危険性又は有害性の特定に必要な単位で作業を洗い出し、「どのような危険性・有害性があるか」を検討します。このとき、安全データシートや作業手順書、過去の災害事例等の情報を参考にすると良いでしょう。

その後、「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(GHS)で定められた分類に則して、作業ごとに危険性・有害性を特定していきます。

なお、GHSとは、化学物質の危険有害性の種類を分類し、絵表示等でわかりやすく表示したものです。例えば、「可燃性・引火性ガス」、「金属腐食性物質」、「急性毒性」といった種類があります。

②化学物質等のリスクの見積り

化学物質によるリスクの大きさを見積もります。考慮するのは「労働災害が発生する可能性」と「負傷や疾病の重篤度」の2点で、それぞれの度合いによりリスクの大きさを判断します。
具体的な見積方法は、以下の3つが一般的です。

  • 数値化法
  • マトリクス法
  • 枝分かれ図

それぞれの手順やメリット・デメリットは、以下のページでご覧いただけます。

リスクアセスメントにおけるリスクの見積りと評価方法

なお、化学物質のリスクアセスメントでは、「物質の有害性」と「物質へのばく露濃度」を基準に用いることもあります。

③リスク低減措置の検討

見積り結果を踏まえ、具体的なリスク低減措置を検討します。

まず、労働安全衛生法や労働安全衛生規則、その他予防規則で定められた措置については、必ず実施する必要があります。
その他の措置については、以下の優先順位で実施しましょう。例えば、リスクが高いものは代替物質への変更、比較的リスクが低いものは個人の保護具の着用などで対応します。

④リスク低減措置の実施

検討したリスク低減措置を速やかに実施します。
このとき、労働安全衛生法や予防規則で定められた措置は必ず実施しなければなりません(義務)。
一方、法令に規定がない措置については、事業主の判断で実施することになります(努力義務)。

具体的なリスク低減措置の例は、以下のようなものがあります。

  • 有害危険性の高い物質から低い物質に変更する
  • 温度や圧力を調整し、発散量を減らす
  • 化学物質の形状を飛散しにくいものに変更する(粉状から粒状など)
  • 容器を密閉する、作業場に拡散防止のための間仕切りを設置する
  • 作業手順を見直し、周知する
  • 防毒マスクを着用させる

なお、死亡や後遺障害につながる重大なリスクに対しては、暫定措置を速やかに実施する必要があります。

⑤リスクアセスメント結果の周知・記録

リスクアセスメント実施後は以下の項目を労働者に周知します。

  • 対象物質の名称
  • 対象業務の内容
  • リスクアセスメントの結果(特定した有害危険性やリスク)
  • 実施するリスク低減措置の内容

周知方法は、以下のいずれかです。

  • 作業場に常時掲示する、または備え付ける
  • 書面を労働者に配布する
  • 電子媒体(USBやディスク)に保存し、閲覧可能なパソコンなどを作業場に設置する

労働者に周知している間は、周知事項を記録・保存しておくのが望ましいです。
さらに、雇入れ時や作業変更時の教育でも、上記事項の説明が義務付けられています。

化学物質リスクアセスメントの実施義務違反への罰則

リスクアセスメントの実施自体には、罰則が設けられていません。つまり、リスクアセスメントを実施しなくても、刑事罰を受けることはありません。
しかし、実施義務を怠れば法律違反になるので、労働基準監督署の行政指導の対象となります。また、営業停止処分となるおそれもあるため必ず実施しましょう。

一方、ラベル表示義務に違反した場合は、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されます。
また、SDS交付義務違反については、罰則はないものの法律違反として行政処分の対象となります。

労働者の健康と安全を守るのは事業主の責務ですので、罰則の有無にかかわらず必要な措置は必ず実施しましょう。

活用できる化学物質リスクアセスメントツール

「リスクアセスメントのやり方がわからない」という方に向け、厚生労働省はさまざまな支援ツールを提供しています。また、ほかの研究機関も支援ツールを公開しており、リスクアセスメントの実施を支援しています。

例えば、厚生労働省の「コントロール・バンディング」というツールがあります。
これは、労働者のばく露濃度を自動で判定し、必要な対策などを提示してくれるものです。液体作業用と粉じん作業用に分かれているので、適切な方を選びましょう。

このように、ツールの特徴や作業場の状況を踏まえ、適切なツールを使用すれば、リスクアセスメントをスムーズに実施することができます。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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