事例内容 | 相談事例 |
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雇用 | 解雇予告手当 非正規雇用 |
人事 | 試用期間 |
担当した事務所 | ALG 東京法律事務所 |
相談内容
自社ビルの夜間警備として週1シフトの警備員を採用(給与:13,000円/1日、週1勤務)したものの、雇用条件通知書はなく、相手方との口頭でのやり取りの中で、「研修として、既存の従業員による夜間警備に同行して警備を行ってもらい、2回目の研修を終えた段階で本採用をする」と伝えていたところ、2回目の研修に体調不良で参加できず、その後研修日を調整するため体調が戻ったら連絡するよう伝えていたにもかかわらず、1週間以上連絡がなかったため、本採用しない旨のメールを相手方に送ったら、解雇予告手当として234,000円を請求する内容証明郵便が送られてきたが、対応すべきなのか。
試用期間での本採用拒否であるから、問題なく雇用関係が終了しているという認識であり、仮に解雇予告手当の支払いが必要であったとしても、正式なシフトも組んでおらず、1回目の研修しかしていない状況で、想定月収を超えるような234,000円もの解雇予告手当を払う必要はないのではないか。
前提となる法制度・助言内容
試用期間は、一般的には、採用した労働者の能力や適正を見て、試用期間満了時点で本採用を拒否するか、それとも本採用をして雇用し続けるかを決めることができる制度です。本採用を拒否する場合は、退職に関する事項として、本採用の拒否事由を就業規則へ記載することが必要となります(労働基準法89条3号)。
本件では、試用期間があることや、試用期間がいつまでなのかについて雇用条件通知書がないうえ、当事者間でのメールなどのやり取りも残っておらず、そもそも試用期間を設ける合意や、試用期間を設けるとしてその期間はいつからいつまでなのかといった合意が成立していたのかに疑義があります。
口頭では試用期間に関する説明をしたようですが、もし仮に裁判上、相手方が試用期間に関する説明を受けていないと主張する場合は、会社側での立証が必要となり、本件のような雇用条件通知書がなく、説明の記録がなされていない事案では、会社側に不利な判断がなされる可能性が高いと考えられます。
そこでこのような場合は、試用期間での本採用拒否とみることはできず、一般的な解雇の適法性として検討することが必要となり、1度の体調不良の欠勤と、その後の連絡が十分でなかっただけで解雇が認められるかについては疑義があると言わざるを得ません。リスクを低減しつつ対応するためには、解雇をしない(撤回する)か、解雇したことを前提に解雇予告手当を支払うかのいずれかでの対応を選択するほかありません。
解雇予告手当については、三十日分以上の平均賃金の支払いが必要であり(労働基準法20条1項)、ここでいう「平均賃金」の計算方法も同法で明確に定められています。平均賃金は、①「これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」となります。ただし、②「賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され……た場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十」を下回ってはいいけないとされています。
本件では、上記①の計算では、雇用してからまだ2週間程度しか経っておらず、また研修として1日勤務したのみでその給与は13,000円のみですから、13,000円を雇用してから解雇するまでの十数日で割ることとなり、その金額は1,000円を下回る金額となります。この計算では、30日分の解雇予告手当が発生したとしても、30,000円にも届きません。しかし、上記②の計算では、13,000円を、労働した日数つまり1日で割った金額=13,000円の6割ですので、平均賃金は7,800円となります。この計算では、30日分の解雇予告手当となると、234,000円となります。このように、解雇予告手当は実際の想定月収や本人の働きぶりに見合わない金額で計算されることがあることに注意が必要です。
したがって、事案の割に解雇予告手当が高額になってしまうため、相談者としては勉強代としても解雇予告手当を支払うことに納得がいかないため、解雇をしない(撤回する)選択を行い、出社を命じることが合理的な状況といえます。出社命令に反して出社してこないときには、改めて解雇事由に該当する可能性もあります。
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