会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません 会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。

人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

休職した従業員の復職を支援する「リハビリ出勤制度」について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

休職者を本格復帰させる前に、「リハビリ出勤(勤務)」を実施する会社が増えています。
いきなり通常業務に戻ることは労働者にとって大きな負担となりますし、会社としても再休職に至るリスクがあるため、徐々に身体を慣らすことはとても重要です。

そこで本記事では、復職前の「リハビリ出勤(勤務)制度」に焦点をあて、具体例や運用上の注意点、給与の取扱い等について詳しく解説していきます。

リハビリ出勤(勤務)制度について

リハビリ出勤(勤務)制度とは、休職者の復職をスムーズに進めるため、本格的な復職の前段階として、労働者を試行的に勤務させる制度のことです。「試し出勤」と呼ばれることもあります。

法定の制度ではないため明確な定義はなく、導入するか否か、どのような運用にするかは、会社が任意に決定できます。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、リハビリ出勤(試し出勤)の例として、模擬出勤・通勤訓練・試し出勤の3つが挙げられています。事業主は、休職者の状況や希望に応じて、適切な措置を講じることが推奨されています。

リハビリ出勤を実施する目的

リハビリ出勤を実施する目的には、以下のようなものがあります。

  • 復職可否の判断材料
    リハビリ出勤中の休職者の様子を確認し、復職が本当に可能かどうかを判断します。リハビリ出勤中に体調不良等が生じた場合、本格復帰はまだ早いと考えられます。
  • 休職者本人の不安の緩和
    リハビリ出勤により仕事に対する不安を緩和することで、スムーズな復職を実現できる可能性があります。また、実際に復職が可能かどうか、本人が確認する機会にもなります。
  • 再発リスクの低減
    無理のないペースで徐々に仕事に慣れてもらったり、休職中の生活リズムから就業規則どおりの規則正しい生活リズムへの移行を支援することで、仕事による心身への負担を軽減し、休職の原因となった疾病等の再発リスクを抑えることが可能です。

医師(産業医)との連携の重要性

リハビリ出勤制度の運用にあたっては、医師(産業医)の意見の踏まえながら柔軟に対応することが重要です。例えば、「リハビリ出勤を行うことでかえって労働者の心身に負担がかかる」と産業医が判断した場合、制度の適用は控えるべきといえます。

また、模擬出勤・通勤訓練・試し出勤のどれを実施するかについても、主治医の診断書や本人との面談結果を踏まえ、産業医に意見を仰ぐことが重要です。現状に見合わない手段を選ぶと、リハビリ出勤の意味がなく、かえって休職を長引かせる原因にもなります。
この点、産業医は医学だけでなく社内の事情にも精通しているため、より効果的なアドバイスを受けられるでしょう。

産業医の選任義務については、以下のページをご覧ください。

産業医の選任義務|必要人数や業務内容について

リハビリ出勤は会社の義務であるか

リハビリ出勤は義務ではないため、実施しなくても問題はありません。実施の有無や制度の内容については、会社が任意で選択できます。

なお、リハビリ出勤を導入する際は就業規則等の社内規程でルールを明確化しておくことが重要です。
特にリハビリ出勤中の賃金・手当、就業時間等の条件は休職者にとって重要な事項なので、できるだけ具体的に定めておきましょう。

リハビリ出勤を実施する際の注意点

リハビリ出勤は「労働者のスムーズな復職を支援すること」が目的なので、焦らず徐々に進めることがポイントです。事業主は、以下のような点に留意しましょう。

  • 医師(産業医)と定期的に連携する
    無理なリハビリ出勤を行うと、病状が悪化し、復職が遅れてしまう可能性があります。リハビリ出勤中も定期的に医師(産業医)との面談を行い、過度な負担がかかってないか確認しましょう。
  • 負担が小さい勤務体制にする
    労働者のストレスを減らすため、徐々に通常の勤務体制に戻すのが望ましいといえます。
    例えば、1日1時間ずつ勤務時間を増やす、軽度な作業から任せるなど、労働者が少しずつ感覚を取り戻せるよう配慮することが重要です。
  • 周囲に理解を促す
    リハビリ出勤中は、1人だけ業務量が少ないことに後ろめたさを感じる休職者や、リハビリ出勤に関し他の社員から理解を得る際に困難が生じるケースもあり得ます。上司や同僚が事情をしっかり理解することで、休職者の気持ちも楽になると考えられます。

リハビリ出勤の種類

リハビリ出勤(試し出勤)制度にはいくつかの種類があります。ここでは、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」で例示されている、模擬出勤・通勤訓練・試し出勤の3つについて解説します。

模擬出勤

模擬出勤とは、通常の勤務時間帯にデイケア等で模擬的な軽作業を行ったり、図書館等で時間を過ごしたりすることをいいます。まずは一定時間外に出て、外部の環境に慣れるのが主な目的です。
円滑な復職のためのリハビリ訓練といった目的で行われることが多いようです。

通勤訓練

通勤訓練とは、自宅から職場付近まで通勤経路を利用して移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅することをいいます。
特にメンタル不調の場合、通勤途中で気分が悪くなるケースが少なくありません。実際に職場付近まで出向くことで、スムーズな復職につながる可能性があります。

試し出勤

試し出勤とは、本来の職場等に、一定期間継続して試験的に出勤することをいいます。リハビリ目的だけでなく、復職の可否の判断資料としても有効です。

リハビリ出勤の給与・傷病手当金

リハビリ出勤中の“給与”や“傷病手当金”の取扱いは、リハビリ出勤の実施時期によって異なります。
具体的には、以下2つのケースに分けられます。

  • 休職期間中に実施する場合
  • 復職後に実施する場合

それぞれの給与や傷病手当金の取扱いについて、次項から解説します。

休職期間中に実施する場合

休職期間中のリハビリ勤務が法的にどのような性質をもつかは事案によるとされています。ただ、休職期間中のリハビリ出勤は、従前どおりの労務提供が可能な状態ではない方を想定したものという理解から、労働はさせずに無給とする、というのが基本的な発想となります。

もっとも、労働をさせたかどうかは客観的に判断されることになりますので、形式上リハビリ勤務中であっても、当該労働者が使用者の指揮監督下のもとで労務提供をしていたと認められる場合は無給とはできませんのでご注意ください。

「傷病手当金」 については、会社から賃金が支払われていなければ引き続き受給が可能です。
一方、賃金の一部が支払われた場合、傷病手当金を受給できるかはケースバイケースとなります。例えば、本来の業務とは関係のない軽作業を短時間のみ行う程度の場合、「通常の就労は不可能」と判断され、傷病手当金の受給が認められる可能性があります。
ただし、これらの判断基準は保険者によって異なるため、事前に保険者へご確認ください。

なお、リハビリ出勤という名目でも、上司の指揮命令下で仕事を行う場合や、休職前と同等の業務を行わせる場合等は、賃金の支払い義務が生じるのが通常です。また、労災保険も通常どおり適用される可能性が高いため、リハビリ出勤中の業務や拘束時間は慎重に判断することが重要です。

休職中の給与や保険金については、以下のページで詳しく解説しています。

私傷病休職制度とは?期間や給与などの基礎知識を紹介

復職後に実施する場合

復職後にリハビリ出勤を実施する場合は、労務提供の一環とみなされるため、使用者は賃金の支払い義務を負うのが基本です。もっとも、軽作業のみ行う場合や、労働時間を大幅にセーブする場合、負担軽減に相応して賃金を減額できる余地はあります。ただし、賃金の減額を行う場合はその旨や減額基準等を就業規則に明記し、労働者に十分説明しておく必要があります。

また、リハビリ出勤という名目でも、復職後に有給で行う場合は傷病手当金の支給対象外となります。仮にリハビリ出勤日の賃金が傷病手当金より低額であっても、差額を請求することは基本的にできません。

また、使用者の指揮命令下で業務にあたる場合、労災保険も通常どおり適用されるのが一般です。よって、業務中の事故で労働者が負傷・休業した場合、事業主は一定の休業補償を支給する義務を負います。

リハビリ出勤の実施期間

リハビリ出勤の期間は、長くなりすぎないよう注意が必要です。目安としては2週間~1ヶ月、長くても3ヶ月以内とするのが望ましいでしょう。

リハビリ出勤が長期にわたると、身体が軽微な作業に慣れてしまい、通常業務に戻るのが難しくなるおそれがあります。また、無給扱いにしている場合は賃金を請求されるリスクも高まるため、注意が必要です。

ただし、必要なリハビリ期間には個人差があるため、主治医や産業医の意見も聞き、本人としっかり話し合った上で適切な期間を定めることが重要です。

リハビリ出勤後の復職・退職

リハビリ出勤の結果、職場復帰しても問題ないと判断できれば、休職期間満了を待たずに復職させることができます。
一方、復職はまだ早いと判断した場合、リハビリ出勤を取りやめ、再び療養を命じることも可能です。

なお、休職期間が満了しても職場復帰が困難な場合、就業規則の定めに従い、休職期間満了に伴う「自然退職」または「解雇」として扱うのが通常です。
休職期間満了時の対応については、以下のページをご覧ください。

休職後の復職に関する判断基準や休職期間満了時の退職・解雇について
ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-423-030

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます