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内部告発とは|公益通報との違いや告発を受けた場合の対応

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

内部告発とは、企業で行われている不正や法令違反を、従業員など内部の者が外部へ通報することをいいます。

昨今はコンプライアンス意識の高まりやSNSの普及により、内部告発が多発しており、企業にとって決して他人事ではありません。内部告発への対応を誤ると、社会的信用の低下や法的責任の追及など、深刻な事態を招くおそれがあります。

そこで、本記事では、内部告発が企業に与える影響や企業が取るべき対応、予防策などについて、実例を交えて解説します。

内部告発とは

内部告発とは、従業員や役員が社内の違法行為について、行政機関やマスコミ、SNSなど社外へ通報することをいいます。不正会計や食品の産地偽装、製品不具合の隠ぺいといった問題だけでなく、パワハラやセクハラなどのハラスメントも内部告発の対象に含まれます。

内部告発によって法令違反が明るみに出れば、企業イメージの低下は避けられず、企業にとって不利益となる面があるのも事実です。しかし、内部通報をきっかけに不正が発覚すれば、問題が深刻化する前に是正措置を講じることができ、報道による大きなダメージを防げる可能性もあります。

企業にはコンプライアンス(法令遵守)が強く求められています。不正を放置せず、自ら積極的に対応するようにしましょう。

内部告発と公益通報の違い

内部告発と似た言葉に、公益通報があります。
公益通報とは、公益通報者保護法で定められた、以下の要件を満たす違法行為の通報をいいます(公益通報者保護法(以下、「法」といいます。)2条)。

  • 通報者が従業員や役員など法律で認められた立場にある(法2条1項各号)
  • 通報先が会社の内部窓口や行政機関、報道機関など法定の窓口である
  • 通報内容が通報者の役務提供先に関するもので、罰則の対象となり得る法令に違反する事実である
  • 不正の目的がない

これらの要件を満たす場合、通報者は公益通報者として法律で保護され、企業が解雇など不利益な扱いをすることが禁止されます。内部告発者も、この要件に当てはまれば保護されます。
内部告発と公益通報の具体的な違いは、下表をご覧ください。

内部告発 公益通報
法律用語か否か 法律用語ではない 法律用語である
通報先 社外が中心
(行政機関や報道機関、SNSなど)
社内外の定められた窓口
(社内窓口や弁護士、行政機関、報道機関など)
法律上の要件 特になし 公益通報者保護法の要件を満たす必要がある
通報者の保護 公益通報者保護法の要件を満たす場合に限り保護される 公益通報者保護法により保護される

公益通報者保護法について詳しく知りたい方は、こちらの解説をご覧ください。

公益通報者保護法|概要や2022年6月の改正点をわかりやすく解説

内部告発が企業に与える影響

内部告発が行われると、単なる一時的なトラブルでは済まず、経営を揺るがすリスクに直面する可能性があります。具体的には、次のような問題が発生するおそれがあります。

  • 損害賠償責任
  • 行政処分や行政指導
  • 刑事責任
  • 取引先や顧客からの信用低下
  • 業界イメージの悪化

損害賠償責任

内部告発で違法行為が発覚し、企業の関与や対応不足があれば、損害賠償責任が生じる可能性があります。例えば、企業が違法な時間外労働やハラスメントを放置していた場合は、安全配慮義務を怠ったとして、従業員から損害賠償を求められるおそれがあります。

また、不正な会計が発覚して株価が大きく下落すれば、誤った情報を信じて投資した株主から損害賠償請求を受けるリスクもあるでしょう。さらに、内部告発をきっかけに取引停止が生じ、取引先に損害が発生した場合には責任を追及される可能性があり、企業にとって大きなリスクとなります。

行政処分や行政指導

内部告発の内容に信ぴょう性があると判断されると、監督官庁は本格的な調査に乗り出します。

調査は書面の提出要求から事業所への立入検査まで幅広く行われ、企業は相応の労力をかけて対応する必要があります。その結果、法令違反が認められれば、業務停止命令や措置命令などの行政処分を受ける可能性があり、特に業務停止命令は経営に深刻な影響を与えかねません。

また、行政処分が科されない場合でも、行政指導を受けることがあります。その際には法令違反の解消や再発防止策の徹底など、実質的に重い対応を求められるため、影響は決して小さくありません。

刑事責任

内部告発された行為が犯罪に該当する場合は、関係者が逮捕・起訴される可能性があります。なかでも深刻なのは、経営陣の逮捕が報道されることで生じる社会的信用の低下です。

例えば、会社の資金を私的に流用したとして、特別背任の疑いで取締役が逮捕され、テレビ報道されたとします。この場合は、たとえ捜査段階であっても「企業ぐるみで不正を行っていたのではないか」という疑念が一気に広がるおそれがあります。その結果、ブランドイメージの悪化や株価の急落などに発展し、企業経営に深刻なダメージを与えかねません。

取引先や顧客からの信用低下

内部告発の情報が社外に伝わると、報道やSNSを通じて一気に拡散する可能性があります。そうなると企業への不信感が高まり、取引先や顧客からの信頼を失う事態につながりかねません。

特にSNSでは、事実と憶測が入り混じった情報が広まりやすく、一度失われた信用を取り戻すのは容易ではありません。信用が落ち込めば、取引先がリスク回避のために契約を見直したり、取引量を減らしたりすることも考えられます。さらに、顧客離れが進めば、売上が悪化するリスクもあるため注意が必要です。

業界イメージの悪化

内部告発で企業の不正が明らかになると、一社の問題にとどまらず、業界全体の悪習と疑われて批判が強まることがあります。

実際に自動車業界では、ある企業で完成検査の不正が発覚したことをきっかけに、他社でも同様の不正が相次いで明らかになり、社会的な注目を集めました。その結果、消費者だけでなく、取引先や海外の規制当局からの信頼まで揺らぎ、業界全体が厳しい批判にさらされる事態となりました。

このような状況では、内部告発の対象となった企業が率先して、問題の是正や信頼回復に取り組むことが強く求められます。

内部告発を受けた企業がとるべき対応

従業員から内部告発を受けた場合、企業はその内容を放置することはできません。事実関係を速やかに確認し、状況に応じて社外への説明や適切な措置を講じる必要があります。具体的には、次のような対応が求められます。

  • 内部調査委員会・第三者委員会などの設置
  • 不祥事など事実関係の調査
  • 対外的な公表や関係者への説明
  • 警察の捜査や監督官庁の調査への協力

内部調査委員会・第三者委員会などの設置

まずは、内部告発された行為を調査するための組織を立ち上げましょう。
適切な組織を設けることで公正な調査が可能となり、事実の見逃しを防ぐことにもつながります。

調査組織として、経営者や従業員など社内メンバーで構成される「内部調査委員会」と、弁護士や公認会計士など外部専門家が調査する「第三者委員会」があげられます。内部調査委員会は、短期間で立ち上げられて費用も抑えられますが、調査の公平性を疑われやすいのがデメリットです。

これに対し、第三者委員会は独立性や信頼性が高く、社会的な信用回復に効果的ですが、相応の費用や調査時間がかかります。不正の内容や影響の大きさに応じて、適切な調査体制を選択することが大切です。

不祥事など事実関係の調査

内部告発があった場合、まず行うべきなのは、告発内容が事実かどうかを確認することです。

関係者へのヒアリングなどを通じて、問題となる行為が実際に起きていたのか、違法性があるのか、違法行為に該当する範囲が全体なのか一部なのかを慎重に調査する必要があります。あわせて、その事実を社内の誰がどの程度把握していたのかも明らかにしなければなりません。さらに、関係者のメール履歴や取引の経緯を調べるなど、できる限り客観的な証拠を集めることも重要です。

内部告発後の調査は初動が肝心といえます。調査が不十分なまま公表を行うと、企業の信用をさらに損なうおそれがあります。内部告発があれば、まずは迅速な調査に注力しましょう。

対外的な公表や関係者への説明

内部告発の調査で不正が事実と判明した場合、企業はできるだけ早く外部への公表を検討する必要があります。特に人の健康や命に関わる問題であれば、緊急性をもって調査を進め、すぐに消費者などに情報を公開しなければなりません。公表が遅れると、事実の隠ぺいを疑われ、企業の信用が大きく失墜するおそれがあります。

また、説明すべき相手は、取引先や株主などのステークホルダーも含まれます。説明が不十分な場合、取引の縮小や株価の下落といった二次的な影響につながりかねません。調査結果や再発防止策を分かりやすく示し、信頼の回復に努めましょう。

警察の捜査や監督官庁の調査への協力

内部告発を受けて不正の疑いが生じた場合、警察や監督官庁が捜査や調査に乗り出すことがあります。企業に求められるのは、こうした要請に対して誠実に協力する姿勢です。関係資料やデータの提出、関係者への聞き取りなどに真摯に応じることで、事実関係の解明がスムーズに進みます。

また、調査に協力することで、不正の内容が正確に把握され、過度に重い刑事責任や行政処分を避けられる可能性もあります。捜査・調査への対応は、企業の信頼を左右する重要なポイントです。

内部告発リスクを抑えるための予防策

内部告発のリスクを抑えるためには、問題が起きてから対応するのではなく、日頃から予防策を講じておくことが重要です。社内の体制やルールを定期的に見直し、トラブルの兆しを早い段階で把握できる仕組みを整えておくことが求められます。
代表的な予防策として、以下があげられます。

  • 社内コンプライアンスの見直し
  • 内部通報制度の導入

社内コンプライアンスの見直し

内部告発の発生を防ぐためには、社内のコンプライアンス体制を見直すことが欠かせません。まずは、法令遵守の意識が社内に浸透しているかを確認しましょう。

例えば、ハラスメント防止規程が整備されていても、現場で軽く扱われていたり、経費処理のルールが形骸化し不正な利用が黙認されていたりするケースは少なくありません。

社内の理解が不十分だと感じる場合は、コンプライアンス研修を実施し、具体的な事例を交えて法令遵守の重要性を周知することが必要です。

内部通報制度の導入

内部通報制度とは、会社の不正行為に気づいた従業員が、会社が設けた専用窓口へ通報できる制度です。常時301人以上の労働者を雇用する企業では、内部通報体制の整備が義務づけられています(法11条2項)

この制度を導入しておけば、不正が外部に告発される前に企業自ら問題を把握し、早期に対応することが可能となります。その結果、信用の失墜や行政処分といったリスクを抑えられます。従業員300人以下の企業は努力義務にとどまりますが、規模を問わず導入するのが望ましいでしょう(法11条3項)。

通報窓口は、正社員だけでなく、契約社員やパートなども利用できるようにし、電話やメールなど複数の通報手段を周知します。通報に関する秘密を守り、通報者の立場が守られることは、特に重点的に伝えるべきでしょう。

内部告発をした労働者の処分について

従業員が内部告発した場合、そのことだけを理由に懲戒処分を行うのは危険です。内部告発では、社内の重要な情報の提供を伴うことが多く、形式的には秘密保持義務違反や名誉毀損に当たる可能性があり、懲戒処分の対象となり得ます。

しかし、内部告発が公益通報者保護法に基づく公益通報に当たる場合は、懲戒処分を含めた不利益な取り扱いが禁止されます。公益通報の対象となるのは、横領や不正会計、違法な残業など、法令で定められた幅広い違法行為です。

また、公益通報に当たらなくても、告発内容に真実性があり、公益目的で相当な方法により行われた場合には、正当な内部告発と評価されます。このような内部告発を理由とする懲戒処分や解雇、配転も違法・無効となるため、企業には慎重な対応が求められます。

懲戒処分の判断基準について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

懲戒処分の判断基準とは|対象事由ごとの基準や7つの原則について

内部告発の事例

内部告発で有名な事例として、以下のケースが挙げられます。

【大王製紙事件】目的の公益性が否定されたケース

内部告発の事例として、大王製紙事件(東京地方裁判所 平成28年1月14日判決)があります。

これは、大王製紙の従業員(以下「X」といいます。)が、同社においてマネーロンダリングや不適切会計があるとして、外部役員に告発状を送付し、業界新聞にもその内容が掲載されたという事件です。同社は、Xを降格処分として出向を命じましたが、Xがこれに応じないため懲戒解雇としました。

裁判では、Xの告発は、経営陣を失脚に追い込むことが告発の主たる目的であったとして、目的の公益性が否定され、降格処分は有効とされましたが、降格処分に応じなかったことは懲戒事由に当たらないとして、懲戒解雇は無効とされました。

【オリンパス事件】報復人事が行われたケース

別の事例として、オリンパス事件(東京高等裁判所 平成23年8月31日判決)が挙げられます。

これは、上司が取引先から機密情報を持つ社員を引き抜こうとしていたこと(不正競争防止法違反の可能性があります。)を社内のコンプライアンス室に内部告発した労働者が、配置転換やパワハラ等を受けたとして、配置転換の無効確認等を訴えた事件です。

一審は労働者側敗訴でしたが、二審では、配転命令が制裁人事であったと認められ、労働者側が逆転勝訴(平成24年6月28日上告棄却により勝訴が確定)しました。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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