業務命令に従わない問題社員(モンスター社員)への処分について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者が忠実に業務命令に従うか否かは、企業にとって最重要事項の一つです。
労働者が業務命令に反抗的で、使用者側の指示に従わない場合、円滑に組織を運営することはできません。そのため、使用者側としては、業務命令に従わない労働者に対して、適切な形で処分をする必要があります。

ここでは、業務命令に従わない労働者への適切な処分に焦点をあて、わかりやすく解説していきますので、ぜひ最後までお目通しください。

業務命令に従わない労働者への処分はどうするべきか?

業務命令に従わない労働者に対しては、懲戒処分もしくは懲戒解雇をすることが考えられます。

しかし、業務命令に従わないとしても、安易に懲戒処分もしくは懲戒解雇した場合には、不当解雇として、労働者より法的措置を採られかねません。以下においては、使用者側が懲戒処分もしくは懲戒解雇を労働者に対してする場合に気をつけるべきポイントを列挙します。

労働者が負う「誠実労働義務」とは

労働者は、労働契約上、使用者に対して、誠実労働義務を負っています。

誠実労働義務とは、使用者からの指揮命令に従って労務を提供する義務だけでなく、就業時間中に職務に専念する義務を含む概念とされます。誠実労働義務が問題となった事案として、業務時間中に、労働組合の活動の一環として、一部の労働者がバッジを着用し、業務を行っていたケースがあります。このケースにおいては、業務遂行上の実害とは関係なく、職務専念義務に反するとされました(最高裁 平成10年7月17日第2小法廷判決)。

服務規律における誠実労働義務については、以下のページでも詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。

業務命令に従わないことを理由に解雇はできるか?

業務命令に従わないことを理由に懲戒解雇することは可能です。
ただし懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり、法律でも厳しく制限されているため、以下の①→②の順で慎重に検討する必要があります。

① 業務命令の有効性

  • 業務命令を行う根拠があるか(就業規則などで定められており、それが労働契約の内容になっているか)
  • 業務命令の行使が正当か(業務上の必要性はあるか、行使の目的に不当性はないか)

業務命令が有効であると判断したら、命令に違反した従業員の懲戒処分について、以下の点を検討します。

② 懲戒処分の有効性

  • 懲戒処分を行う根拠の有無
    懲戒処分をするためには、就業規則に懲戒の種別(種類と程度)と事由を明確にした合理的な懲戒規定を設け、従業員に周知していることが必要です。
  • 懲戒処分の行使が正当か(濫用になっていないか)
    懲戒処分は、①客観的に合理的な理由と②社会通念上の相当性がない場合には権利濫用として無効になります(労契法第15条)。そのため、業務命令違反の深刻さと懲戒処分の内容が釣り合っていることが求められます。

懲戒解雇について、より詳しくは以下のページをご覧ください。

業務命令違反を根拠とする解雇の有効性が争われた裁判例

【平28(ワ)2149号 ・ 平29(ワ)130号 東京地方裁判所立川支部 平成30年3月28日判決】

事件の概要

従業員が、職場内において、再三上司からボイスレコーダーを用いた録音を止めるよう業務命令を受けていたにもかかわらず録音を止めなかったことから、会社側が当該従業員を解雇した事案です。

裁判所の判断

従業員側は、就業規則やその他の規定上、従業員に録音を禁止する根拠がないことを理由に、録音禁止を内容とする業務命令の無効を主張していました。

これに対し、裁判所は以下の①~③を認定し、本件における普通解雇は、「客観的に合理性があり、社会通念上相当なものである」とし、普通解雇は有効と判断しました。

  • ① 使用者側は当該従業員に対し、労働契約に基づく指揮命令権や施設を管理する権限を有していたことから、就業規則に明文がなくても、労働者に対する録音禁止の指示をすることができる
  • ② 使用者側が当該従業員に対して発した録音禁止の業務命令は、必要性があると同時に、秘密漏洩の防止のみならず職場環境の悪化を防ぎ職場の秩序を維持するためにも重要なものであったことから、正当なものである
  • ③ 当該従業員に対し、二度の弁明の機会を付与し、かつ、けん責の懲戒処分という段階を経ているにもかかわらず、反省の意思を示さず録音を継続した当該従業員との関係においては、就業規則上の「やむを得ない事由があるとき」に該当する

ポイント・解説

当該裁判例のポイントは、以下の2つです。

①労働契約や就業規則に明文の規定がなかったとしても、必要性が認められ、かつ、正当なものといえる業務命令に関しては、労働者に対する指揮命令権が及ぶこと

②必要性・正当性が認められる業務命令に対して労働者側が再三に渡りこれを拒絶し、かつ、使用者側が、しかるべき手続を経ているにもかかわらず、労働者側の状況が変わらない場合には、労働者に対する解雇は、客観的に合理的な理由が認められ、かつ社会通念上の相当なものと判断されること

②のポイントにおいて、即座に懲戒解雇とせず、譴責という段階を踏んでいた点は、重視された事情と思われます。

業務命令違反による懲戒処分が認められるための要件

業務命令による懲戒処分が認められるためには、以下の5つの要件を充足する必要があります。

  • ①業務命令が有効である
  • ②業務命令違反の事実が存在する
  • ③就業規則に懲戒事由として業務命令違反が規定されている
  • ④懲戒処分の程度が相当である
  • ⑤懲戒手続が適正に行われている

①業務命令が有効である

使用者は労働者に対して、労働契約や合理的な就業規則に基づく相当な範囲において業務命令を下すことができます。そのため、業務命令の根拠となる就業規則が合理的なものであり、業務命令が相当な範囲のものと認められる場合、業務命令は有効とされる可能性が高いです。

ただし、業務命令が労働契約や合理的な就業規則に基づくものであったとしても、業務命令によって使用者側が得る利益に比べて労働者が被る不利益の程度が著しい場合や、業務命令の目的に違法・不当なものが認められる場合には、「権利濫用」として、無効になる可能性があります。

②業務命令違反の事実が存在する

業務命令違反が存しない場合には、そもそも、処分の前提となる事実を欠くことになるので、懲戒処分が認められることはありません。業務命令違反を認定するうえで、業務命令の内容を示す資料が必要になってくると考えられます。

③就業規則に懲戒事由として規定されている

懲戒処分を行うためには、前提として、懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されている必要があります。
この点、詳しくは以下のそれぞれのページも併せてご覧ください。

④懲戒処分の程度が相当である

懲戒処分は、その程度が“相当なもの”と認められる必要があります。

ここでいう“相当なもの”とは「当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なもの」をいいます。業務命令違反の性質・態様や被処分者の勤務歴に照らして、懲戒処分の程度が相当ではないと判断される場合には、懲戒処分「無効」の判断がなされる可能性があります。

⑤懲戒手続が適正に行われている

労働契約や就業規則において、懲戒解雇をする前に組合との協議や労働者への弁明機会の付与が求められている場合、これらの手続を欠くと懲戒解雇が無効と判断される可能性が高まります(東京地方裁判所 平成8年7月26日判決、東京高等裁判所 平成16年6月16日判決)。

また、労働契約や就業規則に弁明機会の付与が規定されていない場合でも、弁明の機会を労働者に与えなかった場合には、解雇に至るまでの手続に妥当性がないとし、懲戒権の濫用とされることがあります。

このようなリスクがあるため、懲戒処分を行う際には、労働者に弁明の機会を与えるなどの手続を踏む方が安全です。

業務命令違反に対する懲戒処分の進め方と注意点

業務命令違反を理由として懲戒処分を進める場合には、以下のような適正な手続を経る必要があります。

  1. 弁明や是正の機会を与える
  2. 段階的に処分を実施する
  3. 合意による退職を目指す
  4. 最終的には懲戒解雇を検討

これらの手続を経ず懲戒処分をした場合には、処分が無効になる可能性があります。
詳細について以下でみてみましょう。

弁明や是正の機会を与える

懲戒処分が有効と判断されるためには、適正な手続を踏む必要があります。
例えば、就業規則上に事情聴取や弁明の機会の付与等の規定が設けられているにもかかわらず、これらの手続を経ずに、懲戒処分をしてしまった場合、当該処分は社会通念上の相当性を欠いているとして、無効と判断される可能性があります。

段階的に処分を実施する

懲戒処分を選択するとしても、懲戒事由が軽度であるにもかかわらず、いきなり最も重い処分である懲戒解雇をした場合には、社会通念上の相当性を欠くとして、懲戒処分が違法と判断される可能性が高まります。

したがって、軽度の業務命令違反が認められるに過ぎない場合には、まずは比較的軽い懲戒処分である注意・指導もしくは譴責などを段階的に踏んでいく必要があります。これらの段階を踏んでも、労働者による業務命令違反が続くようでしたら、もっとも重い懲戒解雇の手段を採るなど、段階的に処分を実施していく必要があります。

合意による退職を目指す

解雇により、労働者との雇用関係を解消する場合、労働者との紛争を呼び起こしかねません。そのため、できる限り合意による退職を目指していくことが良いと考えられます。
その手段として、“退職勧奨”があります。詳しくは以下のページをご覧ください。

最終的には懲戒解雇を検討

労働者に対する退職勧奨も奏功せず、かつ、労働者が会社に居座り続ける選択をした場合には、最終手段として、懲戒解雇を考える必要があります。
懲戒解雇は、労働者との関係を決裂させる手段であるため、当該手段を採用する際には慎重に判断が要求されることから、弁護士に相談される方が良いと考えられます。

具体的な進め方については、以下の各ページも参考になさってください。

業務命令に従わない社員の処分でお困りなら弁護士にご相談ください

常習的に業務命令違反を行う社員がいる場合には、社内の士気低下につながってしまいます。会社としても、こうした社員を何とかしたいと考えるはずです。

しかし、多くの会社は、こうした社員に対し、どのように対応すれば良いかわからないのではないでしょうか。このような場合に、弁護士に依頼していただければ、適切な対応をとることも可能ですので、お気軽に相談していただければと思います。

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執筆弁護士

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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