事例内容 | 相談事例 |
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人事 | 異動 配置転換(配転) 転勤 |
担当した事務所 | ALG 東京法律事務所 |
相談内容
当社では、安全配慮義務の観点から、現在、一定の通勤距離又は通勤時間を超える社員については、通勤不可と判断し、転居指示としております。
この時、転居指示を含めた異動辞令が出ている社員において、転居指示に従わない社員に対し、「転居命令」として会社から命令をすることができるのでしょうか。
また、転居命令を出せない場合、仮に、労働者が通勤中に事故を起こした場合には、当社は、安全配慮義務違反に問われてしまうのでしょうか。
前提となる法制度・助言内容
裁判例上、使用者は、就業規則の規定により、労働者との個別の合意なくして、当該労働者の勤務場所を決定し、勤務先の変更に伴って居住地の変更を命じて労務の提供を求める権限を有し、配置転換等の業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所や居住地を決定することができるとされています。
一方で、転勤命令(転居命令)につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合には、当該転居命令は権利の濫用として違法となると考えられています(東京地方裁判所平成30年6月8日判決参照)。
今回のご質問では、会社における業務の必要性等の具体的な事情が明らかではないですが、遠方から通勤しているという一事情のみでは、就業規則の規定に基づき、現在、遠方から通勤している労働者に対して、懲戒処分を下す等の強制力を伴って、勤務地から一定の範囲の地点へ転居することを命じることは困難であると考えられます。
しかし、同裁判例においては、使用者が労働者に対し、赴任手当等の金銭的負担(就業規則や旅費規程に則った合理的なもの)の上で転居する機会を与えていることから、安全配慮義務を一定程度果たしているといえ、それを超えて転居を命令する義務があるとまではいえない旨判示していることからすると、転居に伴って赴任手当等の金銭的負担をする等の措置を取っていてもなお、転居しない労働者との関係で安全配慮義務違反に問われる可能性は高くないものと考えられます。
そのため、会社としては、一定の通勤距離又は通勤時間を超える社員労働者に対しては、通勤手当として支給できるのは就業規則に規定された上限までであり、通勤に要する費用全額を支給できない旨及び転居した場合には就業規則に定める赴任手当等を支給する旨示して、まずは、転居の勧奨を実施することで、一定程度安全配慮義務を果たしていると考えられます。
そして、それでもなお、転居に応じない労働者については、現状のままでの通勤を認めることでも、安全配慮義務違反となる可能性は高くないものと思料いたします。
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