監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
昨今、企業コンプライアンスとして、企業内の不祥事の早期発見を目的とした内部通報制度の重要性が高まっています。
令和2年6月には、公益通報者保護法が改正されたことにより、事業者に内部通報制度の整備を義務付けられました(従業員300名以下の事業者については努力義務)。
内部通報制度の設計で重要になるポイントの1つが、内部通報窓口・公益通報窓口をどうするかという点です。そして、企業によっては、内部通報窓口の社外窓口として弁護士を活用する例もあります。
そこで、本コラムにおいては、内部通報の社外窓口として、弁護士に依頼することのメリットを解説します。
目次
- 1 内部通報窓口を設置する必要性とは?
- 2 内部通報制度において社外窓口を設けるべき理由
- 3 内部通報制度の社外窓口を弁護士に依頼する6つのメリット
- 4 内部通報の社外窓口として弁護士ができるサポート
- 5 内部通報窓口を弁護士に依頼した場合の費用
- 6 内部通報の社外窓口に向いている弁護士とは?弁護士選びのポイント
- 7 内部通報の社外窓口を設置するなら、企業コンプライアンスに精通したALGにお任せ下さい
- 8 内部通報窓口に関するよくある質問
- 8.1 内部通報制度の社外窓口の設置は義務ですか?
- 8.2 弁護士には内部通報の助言だけでなく調査も依頼できますか?
- 8.3 調査の必要性や不正行為の有無についても弁護士に判断してもらえますか?
- 8.4 行為者に対する処分について弁護士に相談できますか?
- 8.5 ハラスメントの通報についても、弁護士に対応してもらうことは可能ですか?
- 8.6 マスコミ対応やSNS炎上などの社外対応についても対応してもらえますか?
- 8.7 従業員数が少なくても弁護士に社外窓口を依頼できますか?
- 8.8 弁護士による通報の受付はどのような方法で行われますか?
- 8.9 弁護士に社外窓口を依頼した場合の対応フローについて教えて下さい。
- 8.10 従業員が安心して通報できる環境を作るにはどうしたらいいですか?
内部通報窓口を設置する必要性とは?
内部通報制度とは
内部通報制度とは、企業が企業内の不正を早期に発見し、企業と従業員を守るため、組織内の不正行為に関する通報・相談を受け付け、調査・是正する制度をいいます。
公益通報者保護法が改正されたことにより、事業者に内部通報制度の整備が義務付けられ、整備がなされていない場合には、行政庁による指導や勧告の対象となり(同法15条)、勧告に従わなかった場合には、公表されることとなるため(同法16条)、企業としては、小規模であったとしても、内部通報制度の整備が必要となります。
詳しくは以下のページをご覧ください。
内部通報制度において社外窓口を設けるべき理由
内部通報制度においては、社内の窓口のみならず、社外窓口も設けることが効果的と考えられます。
理由としては、以下の4つが挙げられます。
経営幹部から独立した通報ルートを確保するため
内部通報の対象となるような不祥事の中には、従業員が不正を行う場合のみならず、役員等の経営者側の人間が不正に関与することも容易に想定されます。
経営者側の人間が不正に関与するケースは、その性質上、不正の発覚がしにくく、また発覚時の影響も大きくなる傾向にあります。
そのため、内部通報制度を整備する際には、経営者側の人間による不正も想定して、経営陣からは独立した通報ルートを確保しておくことが適切です。
従業員が安心して通報できるようにするため
会社において十分な内部通報制度が整備されていても、不利益取り扱いをすることはないという説明をしても、社内の窓口のみでは、「制度を利用したことで不利益を被るかも知れない」という不安が生じうるため、制度を安心して利用できない可能性があります。
社内窓口のみならず、社外窓口を設けることで、従業員に安心して制度を利用してもらうことが期待できます。
制度運営にかかる手間や時間を軽減するため
内部通報制度を構築するにあたっては、窓口を設置するだけでは足りず、従業員に対し、その設置の事実や通報の受付方法について、十分かつ継続的に周知することが必要となります。
また、従業員数が300人を超える企業にあっては、窓口の設置は、「公益通報対応業務従事者」を定めることとなります。
さらに、実際に通報を受けた場合には、通報内容について調査が必要かどうかを公正に検討し、調査が必要であればすみやかに調査を行わなければならないこととなります。そして、調査が必要かどうかの検討や、調査の実行には専門的なノウハウが必要です。
これらを社内のみで行うには多大な時間と労力を要することとなるため、社外窓口を設置することで、そのような手間を軽減することができます。
コンプライアンスを対外的にアピールするため
内部通報制度の運営に当たって、仮に、通報受付・調査機関が、会社の内部者のみによる組織である場合、経営側の人間による不正に対しては、十分な調査・是正をすることができない可能性があるため、会社内からはもちろん、社会からの信頼も得ることができません。
そのため、内部通報制度の運用に当たって、外部の弁護士等の専門家を交えた、会社からの独立性の高い外部の専門的な通報窓口を活用することで、経営陣の不正をも対象とした調査ができるとアピールが可能です。
内部通報制度の社外窓口を弁護士に依頼する6つのメリット
①会社からの独立性が保たれる
社外窓口を弁護士に委託することで、会社からの独立性の高い活動を行うことができ、経営者側の人間による不正についての通報も受けやすくなる可能性が高まります。②守秘義務により通報者の秘密が守られる
弁護士は、弁護士法上、職務上知りえた秘密を保持する義務を負っています(同法23条)。
そのため、より確実に通報者の秘密が守られることとなるため、通報者としても安心して内部通報制度を利用することができます。
③公正な調査が可能となる
通報された事実について調査が必要かどうか、調査するとして調査をどのような方法で行うかについては専門的な知識経験が必要となります。
そして、内部通報に関する業務以外にも仕事をかかえている社内窓口の担当者が、そのようなノウハウを獲得することは困難です。
また、ノウハウがないことにより調査が遅れたり、通報受領後に調査を依頼する外部専門家の選定に時間がかかったりすると、通報者から、会社が適切に対応していないとの疑いを持たれる可能性があります。
そのため、専門的な知識経験を有する弁護士が調査することで、通報に対して適切な対応を取れる可能性が高くなるうえ、通報者にとっても適正な調査を行っているとの印象を与えることができます。
④法的リスクを最小化しながら解決へと導く
内部通報があった場合に、その初動対応を誤ると、通報者に会社の対応に対する不信感を与える可能性があるほか、迅速な対応ができなかったり、通報内容が漏洩してしまった場合には、通報者から損害賠償請求がなされる可能性があります。
そのため、弁護士に内部通報窓口を依頼することにより、判断の客観性が担保されるほか、損害賠償のリスクが生じる可能性を極力下げるような対応もすることができます。
⑤専門的知見により是正措置と再発防止策を講じる
弁護士に内部通報窓口を依頼した場合には、弁護士による当該通報に対する適切な調査・対応を実施できるだけでなく、専門的な知識経験に基づいて是正措置を行うことができ、さらに、今後、同種の問題が生じないようにするにはどのようにすれば良いのかについての助言を行うこともできます。
⑥内部通報制度の設計についてもアドバイスできる
内部通報制度については、秘密保持の徹底、経営陣からの独立性保持、通報時の適切な対応など留意すべき点が数多くあります。
また、新しく導入する場合は、会社内での説明、周知が必要になります。外部窓口のみならず、社内窓口も設ける場合は、窓口担当者が通報に対して正しく対応できるように研修を行う必要があります。
弁護士に社外窓口を依頼することにより、そのような内部通報制度の制度設計についても弁護士がサポートでき、適切な制度設計が可能となります。
内部通報の社外窓口として弁護士ができるサポート
内部通報の社外窓口として、弁護士が行うサポートとしては、以下のものが考えられます。
- 内部通報・公益通報の窓口対応
- 通報時の対応方法や調査の要否についての判断のサポート
- 内部通報制度の構築、通報規程の作成
- 内部通報制度の社内説明・運用研修の実施
内部通報窓口を弁護士に依頼した場合の費用
内部通報制度に関する業務を弁護士に依頼する場合の費用については、弁護士毎に異なり得るため、一概に金額を明示することは、困難ですが、一定の目安としては、以下のとおりであると考えられます。
いずれについても、従業員数や通報件数等によって幅がある点には留意が必要です。
窓口対応・調査に対する助言 | 月額3万円程度~ |
---|---|
内部通報制度・公益通報制度の構築 | 十数万円~数十万円程度 |
内部通報制度の社内説明・運用研修の実施 | 十数万円~数十万円程度 |
内部通報の社外窓口に向いている弁護士とは?弁護士選びのポイント
企業法務に関する経験・知識が豊富か
内部通報制度において重要となるのが、実際に通報があった場合の調査の要否判断等の適切な対応ができるように準備することです。
そして、「調査の要否の判断」、「調査方法の判断」については、企業法務や企業コンプライアンスについての専門的な知識経験が必要となります。
そのため、内部通報の社外窓口を弁護士に依頼する場合には、企業法務や企業コンプライアンスに関する知識経験が豊富な弁護士を選択することが望ましいと考えられます。
内部通報後の処理まで対応してくれるか
内部通報があった場合には、調査の要否判断をし、調査が必要となった場合には、必要な措置をとることが必要となります。
また、内部通報により寄せられた相談から損害賠償請求等の具体的紛争に発展する可能性も否定できません。
そのため、単に内部通報の窓口となるのみならず、その後の処理の流れまで理解した上で対応できる弁護士に依頼することが望ましいです。
顧問弁護士に兼任させる場合は要注意
企業によっては、顧問弁護士がいるから、そちらに外部の通報窓口が委託できると思われがちですが、想定される通報の内容によっては、顧問弁護士に通報窓口を委託することにはリスクがある点にも注意が必要です。
というのも、通報の内容が、通報者と企業との間で紛争が生じるようなもので、企業としては、当該通報者との間で交渉をしたいと考えた場合(例えば、上司のパワハラを通報されたが、どちらかというと通報者に問題がある場合等)に、かかる通報を顧問弁護士が受けてしまっていると、顧問弁護士は、通報者から通報の内容を「相談」されてしまっていると評価しうることから、ケースによっては、顧問弁護士が、企業の代理人として当該通報者との交渉を行えない場合も想定されるからです。
もちろん、あらゆるケースが、通報者との間で利益相反になるものではないと考えられますが、ケースによっては、会社の内情を知る顧問弁護士を使えないリスクを負ってまで、顧問弁護士に通報窓口を委託しておくべきかどうかは、慎重に検討すべきでしょう。
内部通報の社外窓口を設置するなら、企業コンプライアンスに精通したALGにお任せ下さい
内部通報制度の体制整備については、社会のコンプライアンスに対する関心が高まるにつれ、よりニーズが高まってくる分野です。
また、内部通報制度に関する法規制については、具体的な罰則も想定される厳しいものに変遷してきており、今後の対応は、専門家のサポートを受けることが推奨されるものでしょう。
弁護士法人ALGでは、お気軽にご相談いただける体制を整えていますので、ぜひ一度お問い合わせください。
内部通報窓口に関するよくある質問
内部通報制度の社外窓口の設置は義務ですか?
-
社外窓口を設置することは法律上の義務ではありません。 しかし、社外窓口を設置することには、コンプライアンスの充実としてメリットが大きいため、設置することが望まれます。
弁護士には内部通報の助言だけでなく調査も依頼できますか?
-
弁護士への委託の方法として、窓口対応のみならず、事実調査についても依頼することができます。
調査の必要性や不正行為の有無についても弁護士に判断してもらえますか?
-
調査の要否や調査方法の判断、不正行為の事実調査についても弁護士へ依頼し、専門的知見に基づく判断を仰ぐことができます。
行為者に対する処分について弁護士に相談できますか?
-
被通報者に対して、どのような処分をするのが適切であるかの判断に当たっては、弁護士の専門的な知識経験が有用であると考えられるため、弁護士に相談することができます。
ハラスメントの通報についても、弁護士に対応してもらうことは可能ですか?
-
ハラスメントの通報についても、内部通報制度と併せて弁護士に依頼することができます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
マスコミ対応やSNS炎上などの社外対応についても対応してもらえますか?
-
企業不祥事における会見への立会いやサポート等についても弁護士に依頼することができます。
従業員数が少なくても弁護士に社外窓口を依頼できますか?
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従業員数に関わらず、社外窓口を設置する場合には、弁護士に依頼することができます。
弁護士による通報の受付はどのような方法で行われますか?
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委託先の弁護士によって様々ですが、基本的には、電話、メール、郵便といった適宜の方法によって受付をすることができると考えられます。
弁護士に社外窓口を依頼した場合の対応フローについて教えて下さい。
-
基本的な流れとしては、通報があった場合は、弁護士において内容を整理したうえで、通報者にヒアリングを行い、その内容を会社の内部通報の担当者に報告するということが基本的な対応フローになります。
なお、通報者の利益を害することのないように、会社へ報告する場合には、通報者の特定につながる内容が含まれないような態様で行うこととなります。
従業員が安心して通報できる環境を作るにはどうしたらいいですか?
-
従業員に対して、内部通報制度の設置や利用方法について説明を行うほか、社外窓口を設置することで、通報に対する心理的な負担を減らすことができ、安心して内部通報制度を利用できると考えられます。
なお、内部通報制度の積極的な利用を促進するため、弁護士による制度趣旨の説明などを実施するケースもあるため、必要に応じて検討しましょう。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士田中 佑資(東京弁護士会)
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士アイヴァソン マグナス一樹(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある