企業が行うべきハラスメント対応|対策や発生時のフローなど

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
職場でのハラスメントは、いまやどの企業にも起こり得る身近な経営リスクです。パワハラやセクハラに加え、昨今はカスタマーハラスメントなど新たな問題も増え、企業規模や業種を問わず対策が不可欠となっています。
企業には法的にハラスメント防止措置を講じる義務があり、対応を誤れば損害賠償につながる可能性も否定できません。本記事では、企業が今から備えるべき予防策と、万が一ハラスメントが発生した場合の対応方法について解説します。
企業におけるハラスメント対応の義務
企業には、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントについて、防止措置を講じることが法律上義務づけられています。さらに、2026年10月からは、カスタマーハラスメントや求職活動中のセクハラについても対策が義務化される予定です。
また、企業には、従業員が安全に働ける環境を整える「安全配慮義務」が課されています(労働契約法第5条)。そのため、これらに限らず、職場で起こり得るあらゆるハラスメントについて未然防止に努め、発生時には適切に対応することが重要です。
| ハラスメントの種類 | 関連法 |
|---|---|
| セクシュアルハラスメント(セクハラ) | 雇用機会均等法11条 |
| マタニティハラスメント(マタハラ) | 雇用機会均等法11条の3 |
| パタニティハラスメント(パタハラ) | 育児・介護休業法25条 |
| パワーハラスメント(パワハラ) | 労働施策総合推進法30条2 |
| ジェンダーハラスメント(ジェンハラ) | 雇用機会均等法11条 |
ハラスメントが企業にもたらすリスク
ハラスメントは、企業に以下のようなリスクをもたらします。
-
損害賠償請求
加害者だけでなく、企業も使用者責任を問われ、被害者から損害賠償請求される可能性があります。さらに、ハラスメントの防止体制が不十分であれば、安全配慮義務違反として賠償責任を負うおそれもあります。 -
人材流出・従業員の意欲低下
職場環境の悪化により、従業員のモチベーション低下や離職が進み、生産性の低下や新たなトラブルの連鎖を招きかねません。 -
行政指導・企業名の公表
ハラスメント防止措置を講じていないと、労働局から勧告を受ける可能性があります。改善が見られない場合は企業名が公表される可能性があります。 -
罰則の可能性
労働局への虚偽報告や報告義務違反があった場合は、20万円以下の過料が科されるおそれがあります。
ハラスメントの定義と種類
ハラスメントとは、他者を不快にさせる執拗な嫌がらせやいじめのことです。
職場におけるハラスメント行為だけでも、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント等、さまざまな種類があります。これらすべてのハラスメントに共通するのが、職場環境を悪化させて、労働者のやる気を低下させる行為であるということです。
このうち、企業に対応が義務付けられているハラスメントについて解説していきます。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、他の労働者を不快にさせる性的な言動をいいます。
また、その言動に抵抗したことで降格や解雇を強制されることや、性的な言動によって職場環境が悪化し、労働者の能力発揮が阻害されることもセクハラとみなされます。
例えば、男性労働者が女性労働者の身体に断りなく触れることや、社内で性的な動画を見ること、特定の労働者に関する性的な噂を流す等が挙げられます。セクハラによって労働者の意欲が低下すれば、仕事の能率が落ちたり退職者が増えたりするおそれがあります。
セクハラは、早い時期から法律で対策が義務付けられており、企業が対応するべきハラスメントの代表的なものです。特にきめ細かい対応が必要となりますので、下記のページでぜひご確認ください。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメント(パワハラ)とは、以下の3つの要素を満たす言動をいいます。
- ① 優越的な関係を背景としていること
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
- ③ 労働者の就業環境を害すること
具体例としては、上司が部下を過剰に叱責することや体罰を加えること、明らかに処理するのが困難な分量の仕事を与えること、一人だけ部屋の隅に座席を設置して社員の皆で無視すること等が挙げられます。
パワハラは、改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)によって対策が義務付けられています。詳しい内容は、以下のページをご覧ください。
その他のハラスメント
セクハラやパワハラ以外にも、職場におけるハラスメントには以下のようなものがあります。
-
【マタニティハラスメント(マタハラ)】
妊娠中の女性社員に対する嫌がらせ行為
例:産休育休を申請した女性社員に退職を促すこと -
【パタニティハラスメント(パタハラ)】
育児休業を申請した男性社員に対する嫌がらせ行為
例:育児休業を申請した男性社員に降格や降給をほのめかすこと -
【ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)】
性別を理由とした差別や嫌がらせ行為
例:特定の業務を男女どちらかにのみ対応させること -
【アルコールハラスメント(アルハラ)】
飲酒に関する嫌がらせ行為
例:飲み会への参加を強制すること、飲み会での飲酒を強要すること -
【カスタマーハラスメント(カスハラ)】
顧客による理不尽なクレームや言動
例:店員に土下座を強要すること、自ら壊した商品を「壊れていた」と主張すること
ハラスメント対策の3つの具体例
ハラスメント対策は、問題が発生してから対応するだけでなく、あらかじめ予防することが重要です。また、日頃から適切な対策を講じておくことで、万が一問題が起きた場合にも再発防止につなげることができます。
企業に求められる主なハラスメント防止措置は、以下の3つです。
- ハラスメント規程の整備
- 相談窓口の設置
- 労働者への周知・啓発
ハラスメント規程の整備
ハラスメントを防止するには、明確な規定や罰則を設けるのも有効です。
規定を設ける際は、以下の点を押さえるのがポイントです。
- ハラスメント行為の例を具体的に列挙すること
- ハラスメント行為は懲戒処分の対象とすること
- 就業規則の懲戒規程にハラスメントを追加すること
これにより、労働者がどんな言動を控えるべきかが明確になるため、ハラスメントの発生を抑えることができます。
なお、就業規則の変更やハラスメント規程の新設を行った際は、労働基準監督署への届出も忘れずに行いましょう。
ハラスメントの防止に役立つ情報は、厚生労働省の「パワーハラスメント防止導入マニュアル」でも詳しく紹介されていますので、一度ご確認ください。
相談窓口の設置
事業主は、労働者に向けたハラスメントの相談窓口を設置することが義務付けられています。
窓口では、労働者が相談だけをしたい場合、話を聞く“一次対応”のみで問題ありません。
一方、会社に対応や改善を求めている場合、詳細なヒアリングや事実確認を行い、解決策を検討する必要があります。
窓口を設置する際は、会社の内部または外部いずれかに設置します。
内部の場合、人事部や総務部から担当者を決め、相談対応にあたるのが一般的です。ただし、相談者のプライバシーは保護するよう十分教育しておきましょう。
外部の場合、企業が委託機関と契約を結び、労働者が直接相談できるようにします。社内の人には話しにくいことも気軽に相談できるのがメリットです。
相談方法は、電話やメール、書面、ビデオ通話、LINEなど複数用意しておくのがよいでしょう。
労働者への周知・啓発
ハラスメント規程を整備し、相談窓口を設置しても、従業員に十分に知られていなければ、実際の対策として機能しません。そのため、パンフレットや社内ホームページなどを活用して、規程の内容をわかりやすく周知することが大切です。
「ハラスメントを許さない」という企業の姿勢とともに、どのような行為が問題となるのかを具体的に示しましょう。
また、相談窓口については、利用方法や守秘義務が徹底されることを丁寧に伝え、安心して相談できる環境を整える必要があります。
さらに、研修を通じた啓発活動も欠かせません。ハラスメントの具体例や起こりやすい背景、管理職に求められる対応などをテーマにすることで理解を深め、職場全体の意識向上につなげましょう。
職場でハラスメントが発生した時の対応フロー
ハラスメントが起きてしまったときは、以下の流れで対応するのが一般的です。
- 被害者からの相談
- 事実関係の確認
- 加害者に対する処分
- 被害者へのフォロー
- 再発防止策の検討
ハラスメントを放置すると、被害者の苦痛が増すだけでなく、さらに大きなトラブルとなる可能性があります。そのため、「初動対応」は特に重要といえるでしょう。
①被害者からの相談
被害者から相談を受けたら、まずプライバシーは確実に守られること、相談したことで不利益を受けないことを説明しておきます。被害者は精神的に不安定になっていることも多いため、無理に詳細を聞き出そうとせず、相手のペースに合わせて話を聞き、気持ちに寄り添うことが大切です。
また、相談窓口はあくまで話を聞く場であるため、その場でハラスメントに当たるかを断定するのは避けるべきです。聞き取った内容は議事録としてまとめて、本人の署名を得ておきましょう。
被害の拡大が懸念される場合は、部署移動などにより加害者との接触を避ける措置を検討する必要があります。強いストレスや体調不良が見られるときは、産業医などと連携し、適切なケアを行うことも欠かせません。
②事実関係の確認
被害者の了承を得たうえで、加害者に対し、行為の有無や経緯について事実確認を行います。加害者には、たとえ誤解の可能性があっても、被害者を責め立てたりしないよう注意しておくことが必要です。
被害者と加害者の主張が食い違う場合には、両者の同意を得た上で、同じ部署の従業員など第三者にもヒアリングを実施します。その際、第三者にはヒアリング内容を口外しないよう伝えておきましょう。
事実確認は、中立的な立場で進めることが大前提です。また、関係者からのヒアリング内容だけで結論を出すのは適切ではありません。証言には思い込みや記憶違いが含まれる可能性があるため、客観的な裏づけが不可欠です。
メールやチャットの履歴、業務日報、録音データなどを確認し、ヒアリング内容と照らし合わせて、慎重にハラスメントの有無を判断することが大切です。
ハラスメント調査や、事実認定の方法について詳しく知りたい方は、以下の各ページをご覧ください。
③加害者に対する処分
加害者への処分は、被害の大きさや行為の悪質性などを踏まえて決定します。
一般的には、被害者への謝罪をさせたり、今後接触を避けるための配置転換を実施したりします。
一方、重大なハラスメント行為が認められる場合、懲戒処分の対象となる可能性もあります。
懲戒処分の内容は企業によって異なりますが、減給や降格、けん責、出席停止、懲戒解雇などが一般的です。
ただし、懲戒処分を行うには、就業規則や懲戒規程で定められていることが必要です。具体的には、「ハラスメント行為は懲戒処分の対象になる」旨を明記しておく必要があります。
また、重すぎる懲戒処分は無効になったり、労働トラブルの元となったりするため、判断に悩む場合は弁護士に相談することをおすすめします。
懲戒処分についてより詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
④被害者へのフォロー
被害者に対しては、本人の意向を確認したうえで、被害者と加害者の関係改善に向けた援助や、反対に引き離すための配置転換、被害者の労働条件等の不利益の回復、加害者からの謝罪、被害者のメンタルヘルス不調に関する相談対応といった措置を講じます。
この際、原則として被害者に対する不利益処分を行うことはできないことに、十分留意する必要があります。
従業員のメンタルヘルスケアについては、以下のページで詳しく解説しています。
⑤再発防止策の検討
加害者を処分するだけではなく、ハラスメント行為が繰り返されないよう対策することが重要です。
具体的には、行為者への研修や外部セミナーの実施、社内コミュニケーションの活性化などが考えられます。なお、これらの取組みは定期的に検証・見直しを行うことでより効果を発揮します。
また、ハラスメントに関する社内規程(就業規則やハラスメント規程)を見直すことも重要です。見直す際は、以下の点が明記されているか確認しましょう。
- ハラスメントに該当する行為が禁止されていること
- 加害者を処分することが明確にされていること
- 就業規則の懲戒規定と結びついていること
- 懲戒処分を行った場合の取扱い(公表の有無・方法)が定められていること
社内の規律維持や、他の従業員に対するハラスメント抑制・再発防止を目的として懲戒処分の事実を社内に公表することは有効です。しかし、就業規則に根拠となる規定がないまま公表してしまうと、逆に名誉毀損として会社が訴えられるリスクがあります。そのため、就業規則にはあらかじめ「処分の概要を公表することがある」旨を記載しておきましょう。
なお、懲戒処分の公表にあたっては、処分を受けた本人の氏名は公表しないことが原則です。氏名まで公開してしまうと、名誉毀損に当たるおそれがあるためです。また、セクハラなどの事案では、被害者のプライバシーにも十分に配慮しなければなりません。社内の規律維持や再発防止の観点から、必要最小限の範囲での公表にとどめることが必要です。
以下の厚生労働省のホームページでは、ハラスメントに関する裁判例や企業の取組み例が紹介されていますので、参考になさってください。
企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
