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変形労働時間制の導入手順や注意点

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

業務の性質上、繁忙期と閑散期が分かれている職場では、変形労働時間制の導入により、労使ともにプラスの効果がもたらされることが期待できます。

もっとも、適切な手順を経て導入しなければその効力は発揮されず、適正に運用されなければ過重労働や未払い賃金が生じるリスクがあります。
制度の有効な活用のためにも、変形労働時間制の導入に際し、使用者が知っておくべき導入手順や注意点について、理解を深めていきましょう。

変形労働時間制の導入にあたり

変形労働時間制とは、労働時間を週・月・年単位で調整することで、繁忙期などに労働時間が増えたとしても、時間外労働とは扱わない制度をいいます。

法定労働時間は、「1日8時間、週40時間」と定められており、これを超えた時間分は、時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。
しかし、変形労働時間制では、例えば1ヶ月トータルで法定労働時間の上限内に収まっていれば、時間外労働にはなりません。

忙しさや仕事量が異なる、いわゆる繁忙期と閑散期が分かれている事業場に本制度を導入すれば、特定日だけ労働時間を9時間、特定の週だけ50時間にするなどして、効率的に働くことが可能です。
その結果、残業代の削減や生産性の向上など、企業にプラスの効果をもたらすことが期待されます。

変形労働時間制の種類

変形労働時間制は、対象期間の長さなどに応じて、以下の4つの種類に分けられ、導入の際には自社に適したものを選択します。

  • 1ヶ月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の変形労働時間制
  • フレックスタイム制

対象期間中の労働時間を週平均40時間(特例事業は44時間)に収めれば、1日8時間超えの日や週40時間超えの週があっても、残業代の支払いは必要ありません。
下表のとおり、それぞれ対象事業場や労働時間の上限等が定められているためご確認ください。

「1ヶ月単位」は、夜間業務や特定の曜日が忙しい業務(運送業や飲食業など)で多く採用され、「1年単位」は、特定の季節が忙しい業務(百貨店やホテル業など)で導入されています。

「1ヶ月単位」の導入時は、就業規則への定めのみでも可能ですが、「1年単位」や「1週間単位」の導入時は、労使協定の締結・届出が必須です。

また、「1週間単位」の対象事業は30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店に限定されています。

1ヶ月単位の変形労働時間制 1年単位の変形労働時間制 1週間単位の変形労働時間制
労使協定の締結
※就業規則への
定めでも可
労使協定の届出
特定の事業・規模のみ
労働者数30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店
休日の付与 週1日または
4週4日の休日
週1日
※連続労働日数の上限は原則6日
週1日または
4週4日の休日
労働時間の上限 1日10時間
1週52時間
1日10時間
1週平均の労働時間 40時間
※特例措置対象事業は
44時間
40時間 40時間

4つのうち、どの変形労働時間制を採用するかにあたっては、以下のページで各制度の概要を説明していますので、こちらも併せてご覧ください。
また、リンク先には、変形労働時間制を導入するメリット・デメリット等も掲載していますので、導入の適否を検討する際の参考としてご活用ください。

フレックスタイム制|仕組みや導入要件、運用の注意点など
変形労働時間制とは?メリット・デメリットを含めて分かりやすく解説

変形労働時間制の導入方法と流れ

変形労働時間制の導入手順は、以下のとおりです。

  1. 自社の労働者の勤務実績を調査
  2. 対象者や労働時間等を決定する
  3. 就業規則の見直し
  4. 労使協定の締結
  5. 労働基準監督署へ届け出
  6. 労働者への周知
  7. 制度の適正な運用

以下で、各詳細についてみていきましょう。

自社の労働者の勤務実績を調査

制度導入の前に、自社の労働者の勤務実績を調査し、現状を把握するところから始めます。この調査は、変形労働時間制の採否の判断のために、また、変形労働時間制を導入する場合に、繁閑の時期等を見極め、対象期間や所定労働時間の割り当てを適切に設定するために、必要となります。

対象者や労働時間等を決定する

変形労働時間制の導入の際には、<就業規則の見直し>や<労使協定の締結>が必要になります。
そのため、それらに定める内容を、勤務実績の調査結果に基づき決めておかなければなりません。

決定すべき事項として、以下が挙げられます。

  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間および起算日
  • 特定期間(1年単位の変形労働時間制のみ)
  • 労働日および労働日ごとの労働時間
  • 労使協定の有効期間など

就業規則の見直し

就業規則の作成・届出義務のある従業員数10人以上の事業場において、変形労働時間制を導入する際は、就業規則の見直しが基本的に必要です。
本制度の導入は、就業規則の絶対的必要記載事項である「始業・終業時間」などの記載にかかわるだけでなく、労働者のワークスタイルに大きな影響を及ぼすものであるからです。

なお、従業員数9人以下の事業場において変形労働時間制を導入する場合は、就業規則に準ずる書面への定め・周知といった方法でも可能です。

労使協定の締結

変形労働時間制の導入には労使協定の締結が必要です。
<対象者や労働時間等を決定する>で決めた内容等について、使用者と労働者代表との合意の上で協定を結びます。
なお、1ヶ月単位の変形労働時間制は、労使協定ではなく就業規則等への記載でも可能です。

労働基準監督署へ届出

<就業規則の見直し>や<労使協定の締結>を経た就業規則および労使協定は、所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。なお、労使協定には有効期間があるため、制度の運用を継続する場合には、期間を徒過する前に改めて届け出なければなりません。
また、残業や休日出勤が生じることが想定できる場合には、36協定も同時に届け出るのが通例です。

なお、フレックスタイム制において清算期間が1ヶ月以内の場合、労使協定の作成は必要ですが、届出は不要です。
仮に就業規則の届出義務を怠った場合は、労働基準監督署より是正勧告を受けたり、悪質な場合は30万円以下の罰金が科されたりする可能性があります。また、労使協定を届け出なかった場合も、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となるため注意が必要です。

労働者への周知

実際に変形労働時間制を運用するためには、労働者に対して本制度の導入、有用性の説明を行うとともに、届出を終えた就業規則や労使協定の内容等をきちんと周知し、労働者に理解してもらわなければなりません。労働時間、賃金等、労働者にとって重要な労働条件にかかわることですから、十分な理解が得られるよう、周知の方法にも配慮すべきでしょう。

制度の適正な運用

変形労働時間制の導入後は、就業規則や労使協定に定めた規定に則った運用がなされなければなりません。例えば、各日で所定労働時間が異なると、労働時間と残業時間との境目が曖昧になり、適正な残業代(割増賃金)の支払いができていないといったトラブルが生じるおそれがあります。担当部署の負担が懸念されるものの、勤怠管理を徹底し、残業代の計算方法を明瞭化する等、特に制度導入当初は法令違反とならないよう慎重な確認作業が求められるでしょう。

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1年単位の変形労働時間制の導入の注意点

変形労働時間制の導入により、基本的には労働時間が週平均で40時間を超えなければ、繁閑に応じた労働日数・労働時間の設定をすることができます。ただし、無制限に設定できるわけではありません。

以下、1年単位の変形労働時間制を運用するにあたって注意すべき一定の「上限」を確認していきましょう。

対象期間における労働日数の上限

1年単位の変形労働時間制を導入し、対象期間が3ヶ月を超える場合は、1年あたり「280日」が労働日数の上限になります。
具体的には、3ヶ月を超え、1年未満の労働日数の上限は、以下の計算式で算出します。(端数は切り捨てとなります)。

対象期間が3ヶ月超1年未満の労働日数の上限=280日×(対象期間の暦日数÷365)

例えば、対象期間が4月1日から7月31日の4ヶ月間(122日間)だとすると、当該期間の労働日数の上限は93日(端数切り捨て)ということになります。
なお、対象期間が3ヶ月以内の場合には、労働日数の上限を1年あたり280日にする必要はありません。

対象期間における1日及び1週間の労働時間の上限

1年単位の変形労働時間制においては、以下のとおり、1日・1週間あたりの労働時間の上限が定められています。

●1日あたり:10時間(隔日勤務のタクシー運転者のうち、一定のものは16時間)
●1週間あたり:52時間

さらに、対象期間が3ヶ月を超える場合には、以下の2つの要件を満たす必要があります。(ただし、積雪地域において一定の業務に従事する者については、制限はありません。)

●対象期間中に労働時間が週48時間を超える週は、連続で3週以内
●対象期間を3ヶ月ごとに区分した各期間において、労働時間が週48時間を超える週は初日から数えて3回以内

これらの上限は、各日・週の労働時間に過度なかたよりが生じ、労働者に長時間労働を強いることを防止するために設けられたものです。

対象期間及び特定期間における連続して労働させる日数の上限

本制度の対象期間において連続して労働できる日数は6日までです。
なお、労使協定において特定期間(対象期間中、特に忙しいといえる期間)を指定していれば、当該期間は1週間に1日の休日が確保できる日数を限度としています。

つまり、1週目の初日と2週目の最終日に休日を設定すれば、最大12日の連続勤務が法的には可能ということになります。

1ヶ月単位の変形労働時間制の導入の注意点

1ヶ月単位の変形労働時間制では、本制度の対象期間における労働日・労働時間について、週平均が40時間を超過しないよう注意しながら、シフト表・カレンダー等を用いて、すべて具体的に設定しておかなければなりません。

この点、就業規則等に具体的な変更事由の記載があるといった場合を除き、特定した労働日・労働時間を使用者の裁量で自由に変更することは認められません。

満18歳未満の年少者は変形労働時間制の適用外

原則として、満18歳未満の年少者を変形労働時間制の対象者とすることはできません。
ただし、満15歳以上満18歳未満の義務教育修了者については、以下の制限付きで、変形労働時間制により労働させることが可能です(労基法60条第1項、同第3項)。

●1ヶ月単位:1日8時間、1週48時間の範囲内
●1年単位:1日8時間、1週48時間の範囲内
●1週間単位:1日の労働時間を4時間以内とすれば、同じ週の1日を10時間まで延長可能

年少者への労働時間の制限等について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

未成年・年少者の労働条件について
ちょこっと人事労務

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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