公益通報者保護法とは|改正や違反時の罰則などわかりやすく解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
社内不正が明るみに出るきっかけは一人の声です。しかし、その声が正しく守られなければ、企業は大きなリスクを見逃すだけでなく、信頼そのものを失いかねません。
公益通報者保護法は、こうした通報者を守り、企業の健全な経営を支えるルールです。2025年の改正により、2026年12月からは通報者保護が強化され、企業に求められる対応も大きく変わります。
本記事では、公益通報者保護法の基本から最新の改正ポイント、企業が取るべき対応などについて解説します。
公益通報者保護法とは
公益通報者保護法とは、公益通報(いわゆる内部告発)を行った労働者を守るための法律です。
公益通報とは、わかりやすくいうと、会社の中で行われている不正を、従業員や役員などが内部や外部の通報先に通報することです。昨今では、社内の不正リスクの早期発見・是正につながる重要な制度として注目されています。通報の対象となる人には、従業員だけでなく、退職者や役員等も含まれるケースもあります。
もっとも、すべての通報が保護されるわけではありません。法律で守られるためには、「通報する人」「内容」「通報先」などについて定められた要件を満たす必要があります。これらの要件をクリアしていなければ、公益通報者保護法による保護は受けられません。
公益通報の概要を知りたい方は、以下のページをご覧ください。
公益通報者保護法の目的
公益通報者保護法の主な目的は、企業内の不正を通報した通報者を保護することとされています。
また、保護の対象となる事象や通報先などを具体的に定め、労働者が安心して通報できる体制を整えることが求められています。
公益通報者保護法によって企業に適切な対応を義務付けることで、通報者を保護するだけでなく、不正を明らかにして国民の利益や安全を守ることにもつながります。
また、公益通報制度を導入すれば、企業のコンプライアンスの向上にもつながります。それによって、取引先からの信用も高まるでしょう。
公益通報の対象事実
公益通報の対象事実とは、公益通報者保護法が定める刑罰や過料の対象となる行為、または刑罰や過料につながるおそれのある行為のことです。
具体的には、以下のような法律に違反する行為があげられます。
| 公益通報者保護法別表に掲げられたもの | • 刑法 • 食品衛生法 • 金融商品取引法 • 日本農林規格等に関する法律 • 大気汚染防止法 • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律 • 個人情報の保護に関する法律 |
|---|---|
| 公益通報者保護法別表8にて、政令に定められたもの | • 労働基準法 • 労働者災害補償保険法 • 職業安定法 • 労働組合法 • 厚生年金保険法 • 国民健康保険法 等 |
誤解されやすい点ですが、セクハラやパワハラといったハラスメントは、直接的な刑事罰が定められていないため、基本的に公益通報者保護法の対象にはなりません。
ただし、ハラスメントの内容が暴行や脅迫、強制わいせつなどの犯罪に当たる場合は、例外的に対象となる可能性があります。
公益通報ができる通報先
公益通報ができる通報先として、以下の機関が挙げられます。
- ① 役務提供先(が定めた者):社内の通報窓口など、企業内部への通報
- ② 権限のある行政機関:行政指導や行政処分などの権限を有する機関
- ③ その他被害の発生・拡大の防止に必要と認められる機関:報道機関、消費者団体、事業者団体、労働組合等
公益通報として保護されない場合はあるのか?
以下のものは対象外となる可能性があります。
- 通報者が、労働基準法9条における「労働者」にあたらないなど、通報の主体に該当しない場合
- 通報内容が、労働者にとっての「労務提供先」の不正行為でない場合
- 一定の法律に違反する犯罪行為や過料行為につながる行為でない場合
- 通報の目的が「不正の目的」である場合(不正に金品を得るため、企業の信用を失墜させるためなど)
- 通報先が定められた行政機関や報道機関などではない場合
上記のいずれかにあたる場合、公益通報者保護法における保護が適用されず、信用毀損に該当してしまうおそれがあるため、通報者は注意が必要です。
ただし、労働契約法やその他の法令によって通報者が保護される可能性もあります。
【2026年12月施行】公益通報者保護法の改正ポイント
2025年6月に公益通報者保護法の一部を改正する法律が成立し、2026年12月1日より施行される予定です。
今回の改正は、公益通報制度をより実効性のあるものとし、通報者が安心して通報できる環境を整備することを目的としています。これにより、企業における内部通報制度の運用や、通報者の保護のあり方はこれまで以上に重要な課題となります。
主な改正ポイントは次のとおりです。
- 体制整備の強化と実効性向上
- 通報妨害や通報者を探索する行為を禁止
- 通報を理由とする解雇などの抑止・救済
- 公益通報者として保護される範囲の拡大
①体制整備の強化と実効性向上
従業員が301人以上の企業では、通報窓口や公益通報対応業務従事者の設置など、公益通報に対応する体制を整えることが義務づけられています。ただし現状では、この義務に違反しても監督官庁による指導や勧告及び公表にとどまり、十分な強制力があるとはいえません。
しかし改正後は、勧告に従わない場合に監督官庁が命令や立入検査を行えるようになり、企業へのチェックが大きく強化されます。命令に従わない場合や検査を拒否した場合には、30万円以下の罰金が科される可能性もあります。さらに、公益通報体制の内容を従業員に周知することも義務化されるため注意が必要です。
| 改正前 | 公益通報に対応する体制整備の義務に違反した場合は、監督官庁による報告徴収や助言、指導、勧告が行われ、勧告に従わない場合は企業名が公表される可能性がある。 |
|---|---|
| 改正後 | ●現行法の指導や勧告などに加えて、監督官庁に対し勧告に従わない場合の命令権、立入検査権が与えられる。 ●命令に従わない場合や検査を拒否した場合、報告拒否や虚偽報告した場合の刑事罰(30万円以下の罰金)が新設される。 ●公益通報対応体制の周知が義務化される。 |
②通報妨害や通報者を探索する行為を禁止
改正後は、企業が従業員に「公益通報はしない」と誓約させるなど、正当な理由なく通報を妨げる行為は禁止されます。たとえそのような誓約書を取り交わしていたとしても、法律上は無効とされ、効力は認められません。
また、公益通報を行った可能性のある従業員に対して「通報したかどうか」を尋ねるなど、正当な理由なく通報者を特定しようとする行為も禁じられます。これにより、不当な圧力や監視を受けることなく、安心して公益通報ができる環境の整備が進むことになります。
③通報を理由とする解雇などの抑止・救済
今回の改正では、公益通報を行った従業員が不当な扱いを受けないよう、保護の仕組みが大きく強化されます。
これまで、通報後に解雇や懲戒処分が行われた場合、それが通報を理由とするものであることを通報者自身が証明しなければならず、大きな負担となっていました。そこで改正後は、通報から1年以内に行われた解雇や懲戒処分については、基本的に「公益通報を理由にしたもの」と推定されることになりました。これにより、通報者の証明の負担が軽減されます。
さらに、通報を理由に不当な解雇や処分を行った場合の罰則も新たに設けられます。
具体的に関与した個人には6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、企業に対しても3,000万円以下の罰金が科される可能性があります。
企業には報復行為の防止がこれまで以上に強く求められるため注意が必要です。
④公益通報者として保護される範囲の拡大
今回の改正では、公益通報者として保護される対象が拡大され、新たにフリーランスも含まれることになりました。
これまで保護されるのは、正社員や派遣社員、アルバイト・パートといった従業員のほか、役員や退職者等に限られていました。改正後は、企業と業務委託契約を結んで働くフリーランスも保護されます。そのため、フリーランスが通報したことを理由に契約を打ち切るなど、不利益な扱いをすることは認められなくなります。
さらに、保護の対象は契約中のフリーランスだけではありません。契約終了後であっても、1年以内であれば引き続き保護が及びます。企業としてはフリーランスを通報対象に含め、不利益取扱いを禁止することを社内規定に明記し、従業員に周知することが重要です。
| 改正前 | ●雇用している労働者 ●退職後1年以内の退職者(労働者であった者) ●派遣労働者 ●派遣終了から1年以内の者 ●当該企業の役員 ●下請け業者や取引先の労働者又は役員等 |
|---|---|
| 改正後 | 現行法の保護対象者に加えて、フリーランスが追加される。 |
改正公益通報者保護法で企業が取るべき対応
改正公益通報者保護法によって、企業には一定の対応が求められるようになりました。
取るべき対応については、消費者庁のガイドラインによって主に次のようなものが定められています。
- ① 公益通報対応業務従事者の選任
- ② 公益通報対応業務を行う体制の整備
- ③ 公益通報者を保護する体制の整備
- ④ 内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置
公益通報対応業務従事者の選任
公益通報対応業務従事者について、労働者の人数が300人を超える事業者は選任する義務がありますが、労働者が300人以下の事業者は努力義務にとどまります。
公益通報対応業務従事者を定めるときには、コンプライアンス部門や人事部門の担当者を定めるケースが多いです。しかし、それ以外の部門の担当者であっても、社外取締役や監査役、顧問弁護士等、事業者から独立した立場にある者を案件ごとに公益通報対応業務従事者として定める必要があります。
公益通報対応業務を行う体制の整備
通報に対応する体制を整備するための措置として、以下のものが挙げられます。
- 内部公益通報受付窓口の設置等
事業者内の部署に設置するのではなく、事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置する、あるいは事業者の内外双方に設置する - 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
- 取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)にも報告を行う
- 上記の監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を行う
- 公益通報対応業務の実施に関する措置
匿名通報も公益通報として受け付ける、そのために匿名での連絡を可能とする仕組みを導入する - 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
- 調査の結果により実質的に不利益を受ける者を対応従事者から排除する
- 公益通報者や被通報者と一定の親族関係がある者を対応従事者から排除する
- 顧問弁護士に内部公益通報をすることをためらう者が存在することに留意する
公益通報者を保護する体制の整備
通報者を保護する体制を整備するための措置として、以下のものが挙げられます。
- 不利益な取り扱いの防止に関する措置
- 労働者等及び役員に対する教育や周知を行う
- 内部公益通報受付窓口において不利益な取扱いに関する相談を受け付ける
- 行政機関やその他の事業者外部に対し公益通報をした者に対しても、不利益な取扱いを防止する
- 範囲外共有や通報者の探索を防止する
- 範囲外共有等の防止に関する措置
- 通報事案に係る記録・資料を閲覧・共有することが可能な者を必要最小限に限定し、その範囲を明確に確認する
- 通報事案に係る記録や資料を施錠管理する
- 公益通報に関する記録の保管方法やアクセス権限等を明確化する
- 公益通報者を特定させる事項の秘匿性に関する社内教育を実施する
内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置
通報に対応する体制を実効的に機能させるための措置として、以下のものが挙げられます。
- 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
- 労働者等及び役員の立場や経験年数等に応じた研修を用意する(階層別研修等)
- 周知のツールに多様な媒体を用いる(イントラネット、社内研修、広報物の配布、ポスターの掲示等)
- 是正措置等の通知に関する措置
通知するまでの具体的な期間を示す(受付から20日以内に調査開始の有無を伝える等) - 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
- 記録の保管期間として適切な期間を定める
- 文書記録の閲覧やデータへのアクセスに制限を付す
- 運用実績を開示するときには、公益通報者を特定させる事態が生じないよう十分に留意する
- 内部規程の策定及び運用に関する措置
ルールを規程として明確に定める
公益通報者保護法に違反した場合の罰則
公益通報者保護法に違反すると、企業にはさまざまなペナルティが課される可能性があります。具体的には、解雇の無効や損害賠償請求に加え、行政措置や刑事罰の対象となるケースもあります。
違反の内容によって企業のリスクは大きく異なるため、あらかじめ理解しておくことが重要です。以下で詳しく見ていきましょう。
解雇等の無効
公益通報者保護法では、公益通報を理由に解雇や降格、減給などの不利益な扱いをすることが禁止されており、そのような処分は無効とされます(同法3条)。
通報者に対する処分を検討する場合には、「公益通報を理由とする処分ではないか」と後に争われるリスクを踏まえ、慎重に判断しなければなりません。
もし不当解雇と認められれば、職場復帰や、解雇期間中の賃金の支払いを命じられるおそれもあります。また、不利益な取り扱いには、不当な配置転換や退職強要、退職金の不支給や減額なども含まれます。
これらも通報を理由に行われた場合には無効となるため、幅広い対応に注意が必要です。
損害賠償
公益通報を理由に解雇や不利益な扱いを行うと、通報者から損害賠償請求されるおそれがあります。
例えば、不当解雇と認められれば、従業員から精神的苦痛への慰謝料や、労務提供をすることができなかった期間の賃金相当額の支払いを求められる可能性があります。
また、こうしたリスクは役員にも及ぶため注意が必要です。公益通報を理由に役員を解任した場合は損害賠償請求の対象となり、残存任期分の報酬相当額が争われるなど、高額な請求につながるおそれがあります。
行政措置
公益通報に対応する体制整備の義務に違反した企業には、段階的な行政措置が取られます。
まず監督官庁から違反の是正を促す指導や勧告が行われ、企業に自主的な改善が求められます。
しかし、こうした勧告に従わず、問題が解消されない場合には、勧告に係る措置をとるよう命令がされ、企業に対して命令をしたことを公表される可能性があるため注意が必要です。
企業名の公表は、社会的信用の低下を招きます。取引先や顧客からの信頼を失い、取引の停止や縮小に発展するおそれもあるでしょう。さらに、企業イメージの悪化は採用活動にも影響し、人材確保が難しくなるなど、中長期的な経営への影響も避けられません。
こうしたリスクを避けるためにも、企業は日頃から公益通報体制をしっかり整備し、法令遵守を徹底することが重要です。
刑事罰
公益通報対応業務従事者または従事者であった者が、通報者を特定できる情報を正当な理由なく外部に漏らした場合、30万円以下の罰金が科されます。また、監督官庁から求められた報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合は、20万円以下の過料に処されます。
さらに、2026年12月からは、以下のとおり罰則が強化されるため注意が必要です。
- 公益通報を理由として解雇または懲戒を行った個人は6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、企業に対しては最大3,000万円の罰金が科される。
- 監督官庁の命令に違反した場合や立入検査を拒否した場合、報告拒否や虚偽報告をした場合は、30万円以下の罰金が科される。
企業としては適切な通報対応体制の整備と、通報者情報の管理を徹底することが不可欠です。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
