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障害者虐待防止法|企業が行うべき防止措置などわかりやすく解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

令和4年度の調査によると、障害者への虐待に関する通報・届出があった事業所は約1200ヶ所で、対象の障害者数は1400人を超えています。
障害者への虐待は「障害者虐待防止法」で禁止されており、事業主はその内容を十分理解する必要があります。また、障害者の自立や社会参加を支援するのも、会社の重要な責務といえます。

本記事では、障害者虐待防止法の具体的な内容や、事業主に求められる対応などをわかりやすく解説していきます。

障害者虐待防止法とは

障害者虐待防止法は以下について定めた法律で、障害者虐待の防止等に関する施策を促進し、もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的としています。

  • 障害者虐待の防止等に関する国等の責務
  • 障害者虐待を受けた障害者に対する保護及び自立支援のための措置
  • 養護者に対する養護者による障害者虐待の防止に資する支援のための措置 等

具体的には、以下の3つが虐待として定義されています。

  • 【養護者による障害者虐待】
    養護者とは、障害者を現に養護(障害者の身の回りの世話や金銭管理を行うこと)する者であって障害者福祉施設従事者等及び使用者以外のものをいいます。同居の家族が一般的ですが、親族や知人が該当することもあります。
  • 【障害者福祉施設従事者等による障害者虐待】
    障害者福祉施設従事者とは、障害者支援施設で介護にあたる者や、障害福祉サービス事業にかかわる者のことです。
  • 【使用者による虐待防止】
    使用者とは、障害者を雇用する事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者をいいます。

本記事では主に、使用者による虐待防止について解説していきます。

障害者虐待防止法における「障害者」

障害者虐待防止法の「障害者」とは、以下の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいいます。

  • 身体障害者
  • 知的障害者
  • 精神障害者(発達障害を含む)
  • その他心身の機能に障害があり、日常生活や社会生活で継続的に相当な制限を受けている者

なお、障害者手帳の有無は問いません。

障害者雇用の基本的な流れについて知りたい方は、以下のページをご覧ください。

障害者雇用

障害者虐待防止法における「使用者」

障害者虐待防止法における使用者とは、障害者を雇用する事業主や事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為する者のことです(障害者虐待防止法2条5項)。

例として、次に挙げるものが使用者に該当します。

  • 障害者を雇用する事業主:法人
  • 事業の経営担当者:法人の代表者
  • 事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者:工場長、労務管理者、人事担当者

使用者による障害者虐待の具体例

「使用者による虐待」には、下の表のような行為が該当します。

身体的虐待 障害者が外傷を負うような暴力、正当な理由のない身体拘束
性的虐待 障害者にわいせつ行為をすること、またはさせること
心理的虐待 障害者への激しい暴言、拒絶的な対応、障害者に著しい心理的外傷を与える言動
放棄・放置 障害者が衰弱するほどの著しい減食、長時間の放置、障害者虐待を放置すること
経済的虐待 障害者の財産を不当に処分すること、または障害者から不当に財産上の利益を得ること

これらの行為に該当すれば、たとえ使用者や障害者自身に虐待をした・されたといった自覚がなくても虐待にあたります。
なお、企業内では「経済的虐待」が圧倒的に多く、次いで、「心理的虐待」、「身体的虐待」の順に多くなっています。

それぞれの虐待について、以下で解説します。

身体的虐待

身体的虐待とは、障害者の身体に外傷が生じ又は生じる恐れのある暴行を加えたり、正当な理由なく身体を拘束する行為をいいます(障害者虐待防止法2条8項1号)。たとえば、以下のような行為です。

  • 殴る、蹴る、平手打ちにする、叩きつける
  • つねる
  • やけどさせる
  • 縛り付ける
  • 部屋に閉じ込める
  • 食べ物や飲み物を無理やり口に入れる
  • 危険または有害な場所での作業を強いる

性的虐待

性的虐待とは、障害者にわいせつな行為をすること又はさせることをいいます(障害者虐待防止法2条8項2号)。
たとえば、以下のような行為です。

  • 目の前でわいせつな会話をする
  • 性的な行為を強要する
  • 正当な理由なく身体を触る
  • 裸の写真やビデオを撮る
  • わいせつな画像を無理やり見せる

心理的虐待

心理的虐待とは、障害者に著しい暴言を吐くことや、拒絶的な対応をとることなど、障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うことをいいます(障害者虐待防止法2条8項3号)。たとえば、以下のような行為です。

  • 怒鳴る、罵る、悪口を言う
  • 人格を否定する
  • 無視する
  • 仲間外れにする
  • 他の社員と差別する
  • わざと恥をかかせる

放棄・放置

放置・放棄とは、障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護を著しく怠ることをいいます。
具体例は、以下のような行為です。

  • 食事時間をとらせない
  • 仕事を何も与えない
  • 他の社員が障害者を虐待行為しているのを放置する

経済的虐待

経済的虐待とは、障害者の財産を不当に処分する、または不当に財産上の利益を得ることをいいます(障害者虐待防止法2条8項5号)。具体例は、以下のような行為です。

  • 賃金を支払わない
  • 残業代、休日出勤手当、退職金を支払わない
  • 最低賃金を下回る金額で雇用契約を結ぶ(都道府県労働局長の許可がある場合を除く)
  • 通帳を強制的に管理する

なお、障害者であることを理由に、賃金などで他の労働者と差別することも禁止されています。詳しくは以下のページをご覧ください。

障害者への差別禁止

使用者による障害者虐待を防止するための措置

障害者への虐待を防ぐため、事業主は以下の措置を講じることが求められます。

  • 労働者への研修の実施
  • 苦情処理体制の整備
  • 通報・届出による不利益な取扱いの禁止

それぞれどんな対応が必要なのか、具体的にみていきましょう。

労働者への研修の実施

社員へ虐待防止に関する研修を行うことや、各種研修会への参加を勧めるなどの対応を行います。
研修の内容としては、次のようなことを周知するようにしましょう。

  • 障害者の人権
  • 様々な障害の特性
  • 障害の特性に合わせた関わり方
  • 虐待にあたる行為の内容
  • 従業員が虐待の事実を見つけたときに求められる行動
  • 虐待の報告を受けた企業としての対応

また、職場の社員同士がオープンに意見を交換できるような風通しの良い環境をつくるために、事業主をはじめとした事業所全体で取り組むことが重要です。

障害者の特性や行うべき配慮等について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

障害者の特性

苦情処理体制の整備

事業主は、雇用する障害者やその家族からの苦情・相談を受ける窓口を開設し、その窓口について周知する必要があります。
また、万が一虐待が発生したときに関係各所(相談窓口担当・労務管理・人事担当など)が迅速に連携を図れるよう体制を整えておくことが重要です。

通報・届出による不利益な取扱いの禁止

障害者が虐待を受けているのを発見した者は、自治体へ通報する義務があります。虐待の疑いをもった場合、事実の確認ができなくても通報義務が生じます。また、虐待の被害にあった障害者は、その旨を届け出る“権利”があります。

これに対し、企業は、虐待の報告・届出を行った労働者に「不利益取扱い」をすることが禁止されています。不利益取扱いとは、以下のようなものです。

  • 解雇
  • 降給や降格
  • 人事評価でのマイナス査定
  • 雇用契約の更新を拒否する
  • 正社員から非正規雇用(パートやアルバイト)への転換

このように、報告や届出を行ったことを理由に、何らかの不利益な取り扱いをすることは認められません。

使用者による障害者虐待が発生した場合の流れ

使用者による障害者への虐待が発生した場合には、次のような流れで対応します。

  1. 市町村又は都道府県への通報・届出
  2. 市町村への通報・届出がなされた場合には、市町村から都道府県への通知
  3. 都道府県から都道府県労働局への報告

虐待が疑われるときには、所轄の都道府県労働局の職員などが企業に出向き、調査や指導を行います。

障害者への虐待は、職場での理解が不足していることが原因となる場合が多いため、障害者の人権や障害者への接し方についての理解を広げるための努力をする必要があります。

①市町村への通報・届出

虐待に関する通報・届出先は、会社がある市町村又は都道府県の窓口です。「〇〇市障害者虐待防止センター」「〇〇県権利擁護センター」といった名称が一般的です。
通報義務があるのは、虐待を発見した者だけでなく、その相談を受けた上司や管理者も同様です。

通報を受けた市町村又は都道府県は、まず「通報が虐待に関するものか」「内容に虚偽がないか」などを判断するため、発見時の状況などのヒアリングをします。そして、必要に応じ事実確認等を行います。

なお、通報の内容が明らかに使用者による障害者虐待ではなく(すなわち、障害者である労働者とその他労働者の区別なく発生しているもので)、以下のような“労働相談”に該当する場合は、以下の適切な窓口に引き継がれることになります。

労働相談の例

  • 賃金不払い:労働基準監督署
  • 離職票、失業手当に関する手続き:公共職業安定所
  • 育児介護休業等:労働局雇用均等室

②市町村から都道府県への通知

通報や届出が市町村に行われた場合、まず市町村から都道府県に“通知”がなされます(障害者虐待防止法23条)。通知の際には、次の事項を記載した「労働相談票」を添付します。

  • 虐待を受けた障害者の情報
  • 虐待があった事業所の情報
  • 具体的な虐待の内容 等

労働相談票の内容から必要だと考えられる場合には、都道府県は労働局などと協力をしながら、生活支援等の対応を行うことになります。

③都道府県から都道府県労働局への報告

障害者虐待の発見者からの“通報”、障害者本人からの“届出”、あるいは市町村からの“通知”を受けた都道府県は、事業所を所轄する都道府県労働局に“報告”します(障害者虐待防止法24条)。

都道府県労働局は“報告”の内容から、ハローワークや労働基準監督署等の対応部署を決め、事実確認及び対応を行います。

企業は、障害者雇用促進法、労働基準法、雇用機会均等法などの法令に従って、助言や指導を受けることになります。そして、それらに従う等して対応することが求められます。

使用者による障害者虐待の状況の公表

使用者による障害者虐待の状況は、年度ごとに厚生労働大臣によって公表されることとなっています。また、使用者による障害者虐待の事実があった場合には、障害者虐待の状況と併せて次にあげる事項も公表の対象となっています(障害者虐待防止法28条)。

  • 事業所の業種・規模
  • 使用者と虐待を受けた障害者との関係
  • 障害者虐待に対する措置(助言・指導等)

使用者による障害者虐待と通報後の対応事例

ここでは、千葉県健康福祉部障害福祉課から公表されている、使用者による障害者への虐待と通報後の対応事例について、2件をご紹介します。

【身体的虐待及び心理的虐待の事例】
この事例は、知的障害のある障害者が、仕事が忙しくなると集中が切れて騒ぐことが増えるため、使用者が叩いていた事例です。
支援機関の担当者からの通報により対応したところ、使用者は反省して暴力を振るうのをやめました。そして、障害者に問題行動が出た場合には、家に帰らせることで対応するようになりました。

引用元:障害者虐待事例集|千葉県

【心理的虐待及び経済的虐待の事例】
この事例は、精神障害のある障害者が体調を崩して休んだ際に、一方的に勤務時間の変更をされ出勤を強要されたため退職を申し出たところ、未払い賃金の支払いを使用者から拒否された事例です。

本人と母親の通報により対応したところ、未払い賃金は即日支払われました。また、使用者に対しては、障害者の特性に合わせた仕事内容について助言・指導が行われました。

引用元:障害者虐待事例集|千葉県

障害者虐待防止法に違反した場合の罰則

障害者への虐待が疑われる場合において、障害者の生命などに重大な危険が生じているおそれがあるときに、行政機関による立ち入り調査を拒んだり、調査に対して虚偽の報告をしたりしたときには、30万円以下の罰金に処せられることがあります。

また、虐待行為そのものが犯罪に該当するケースでは、刑事罰の対象になることもあります。どのような罪が成立するおそれがあるのかについては、下の表でご確認ください。

虐待行為の類型 該当する刑法の例
①身体的虐待 刑法第199条殺人罪、第204条傷害罪、第208条暴行罪、第220条逮捕監禁罪
②性的虐待 刑法第176条強制わいせつ罪、第177条強制性交等罪、第178条準強制わいせつ罪、準強制性交等罪
③心理的虐待 刑法第222条脅迫罪、第223条強要罪、第230条名誉毀損罪、第231条侮辱罪
④放棄・放置 刑法第218条保護責任者遺棄罪
⑤経済的虐待 刑法第235条窃盗罪、第246条詐欺罪、第249条恐喝罪、第252条横領罪
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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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