会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません 会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

就業規則

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

就業規則は、一定の条件を満たす事業場において、作成及び労働基準監督署に対する届出が義務付けられています(労基法89条)。また、変更したときには「就業規則変更届」を遅滞なく届け出なければなりません(同条)。

しかし、具体的にどのような規定をすれば良いのか、作成することによってどのようなメリットが得られるのか等、疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

実は、就業規則は社内の規律の維持等に欠かせないものであり、丁寧に作成することによってトラブルを防止できる等のメリットがあります。

本記事では、就業規則に関する疑問にお答えするべく、その概要について解説していきます。

就業規則とは

就業規則とは、労働基準法等に基づき、労働条件や服務規律について定めた規則で、常時10人以上の労働者を雇っている事業場に以下が義務付けられています。

  • 就業規則の作成
  • 管轄の労働基準監督署への届出
  • 労働者への周知

これらの義務に違反すると30万円以下の罰金が科せられるおそれがあります(労基法120条柱書及び1号)。

雇用契約書(労働契約書)との違い

就業規則が雇用(労働)契約書と違うのは、会社全体の規律であり、複数の労働者に統一して適用されることです。そのため、例外的な労働者の存在にも対応できるような記述が必要となります。

一方で、雇用(労働)契約は、会社と個々の労働者が個別に結ぶものであるため、雇用(労働)契約書の効力は契約当事者にのみ及びます。

なお、両者の内容が矛盾する場合には、より労働者側に有利なルールに従えば良いとされています。

就業規則の意義

就業規則を作成するメリットをまとめると、次のとおりです。

  • ①トラブル発生時に対処できる
  • ②事務処理の負担が軽減できる
  • ③人材の定着率を高めることができる
  • ④会社の秩序や利益を守ることができる

これらのメリットについて、以下で解説します。

トラブル発生時の対処

職場等で起こり得る問題への対処方法を就業規則に定めておくことで、適切に対処することが可能になります。

例えば、無断欠勤や遅刻を繰り返す労働者がいたとしても、こうした労働者の処分に関する明確なルールが就業規則に定められていなければ、会社は減給や解雇といった懲戒処分を行うことはできません。仮に、就業規則を作成せずに懲戒処分を行った場合には、裁判等において会社側が不利になってしまいます。

事務処理の負担の軽減

就業規則を作成すると、労働条件等を各労働者について個別に決める必要がなくなるので、事務処理の負担が軽くなります。

人材の定着率を高める

就業規則によって、賃金や退職金、育児休業や介護休業等に関する事項が明確に決められていれば、労働者が自分の労働条件を理解しながら安心して働くことができるため、人材の定着率が高まることも期待できます。

会社の秩序や利益を守る

就業規則によって、職場の秩序や会社の利益を守ることが可能になります。例えば、宗教活動やビラの配布、ハラスメントに該当する言動等を禁止したり、秘密情報の流出を防止するための規定を設けたりすることにより、就業規則に禁止されている事項が行われることが事前に抑止され、ひいては会社や社員を守ることにもつながります。

就業規則がない場合のリスク

就業規則を作成する義務がある場合、作成しないことによって罰金が科せられるおそれがあります。
また、就業規則を作成する義務がない場合であっても、作成しないことで次のような不利益が生じるリスクがあります。

  • ①会社都合で年次有給休暇を付与できない
  • ②労働者に懲戒処分を行うことができない
  • ③雇用関係助成金の申請ができない

これらのリスクについて、以下で解説します。

会社都合で年次有給休暇を付与できない

年次有給休暇のうち5日を除いた分については、会社都合で付与することが認められています。そのためには、就業規則によって、年次有給休暇の計画的付与を導入する旨を明示しなければなりません。

労働者に懲戒処分を行うことができない

就業規則に、減給や出勤停止といった懲戒処分の規定がなければ、懲戒処分に値する行動をした労働者に対して、懲戒処分を行うことができません。したがって、就業規則が作成されていなければ、適正に労働者を管理・監督できません。

雇用関係助成金の申請ができない

厚生労働省からの公的な給付金である、雇用関係助成金の受給要件のひとつとして、就業規則の作成と備え付けが含まれていることは少なくありません。そのため、就業規則を作成していないと、助成金を迅速に受給することができません。

就業規則を作成する手順

就業規則を作成する手順は、以下のようなものです。

  1. 原案作成
    就業規則に記載する内容について、厚労省が公表しているモデル就業規則を参考にしながら、職場の状況を反映させて、法令に反しないように内容をまとめます。
  2. 労働者からの意見聴取
    ①の原案を、労働者の過半数代表者に確認してもらい、意見を聴取します。
  3. 届出・周知
    完成した就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出て、その内容を労働者に周知します。

なお、この手順について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

就業規則の作成の流れ

就業規則の作成する際のポイント

就業規則を作成するときに重要なポイントとして、以下のようなことが挙げられます。

  • 各種の法令や通達等を理解して、それらに違反しない規則にすること。
  • 正社員だけでなく、すべての雇用形態の労働者についての就業規則を作成すること。
  • 記載しなければならない事項を漏らさず記載すること。
  • 各事業場の実態に合致した内容にすること。
  • 誤解を招かないように、わかりやすく、一義的な文言によって記載すること。

なお、規程の内容が就業規則の定義・性質に該当するのであれば、もしも「就業規則」とは異なる名称を用いていたとしても、労働基準法89条に規定される就業規則の範囲に含まれると解されます。

また、就業規則とは異なる取扱いが長年継続している実態があると、「労働慣行」として実質的な就業規則だとみなされることがあるため注意しましょう。

テンプレートやモデル就業規則を利用する際の注意点

厚生労働省がモデル就業規則を掲載していますが、モデル就業規則やテンプレートのようなものを利用すると、自社に合わない就業規則になってしまうおそれがあります。例えば、労働者の多数をアルバイトが占めている会社では、そのことを前提とした就業規則を作ることが望ましいと考えられます。

また、インターネット上に残っている古いものを利用してしまうと、現行の法律や新たな労働問題に対応しておらず、必要な記載が漏れてしまうおそれがあることに注意が必要です。ハラスメントや精神疾患を発症した労働者等に対応できるのかについて、十分に検討するべきでしょう。

就業規則の「別規定化」について

就業規則の作成方法としては、いわゆる「本則」には主要な規程だけを定め、詳細な内容については「別規定」として定めるものとすることができます。他にも、職種別、雇用形態別に就業規則を作成することや、記載事項別に規程を分けることも可能です。

これらの方法で就業規則を作成しておけば、例えば、賃金に関する規定について小さな修正があった場合でも、別規定化していた賃金規定のみを修正して届け出れば足りるようになるため、就業規則全体に変更を加える手間がかからず経済的です。

就業規則の記載事項

記載事項 内容
絶対的必要記載事項 労働に関すること ・始業および就業の時刻
・休憩時間
・休日 等
賃金に関すること ・賃金の決定
・計算方法
・支払方法 等
退職に関すること 退職・解雇・定年の事由 等
相対的必要記載事項 退職手当に関すること ・対象となる労働者の範囲
・計算方法
・支給方法 等
労働者の費用負担に関すること ・食費
・作業用品 等
職業訓練に関すること ・訓練の種類
・時期
・対象者 等
表彰や制裁に関すること 表彰・制裁の種類 等
任意的記載事項 ・就業規則を制定した趣旨
・企業理念
・就業規則の用語の解説 等

なお、就業規則の記載内容について、より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

就業規則の記載内容

就業規則の届出

常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、就業規則を作成する義務だけでなく、作成した就業規則を管轄の労働基準監督署に届け出る義務があります(労基法89条)。

届け出る前には、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者等の意見を聴取して意見書を作成し、就業規則と併せて提出しなければなりません(労基法90条)。

なお、意見書は労働者側に記入してもらうことになっており、記入を断られたときには、代わりに経緯等を記載した報告書を提出する必要があります。

なお、労働者の意見聴取について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

労働者の意見聴取

就業規則の周知

就業規則は、作成して届け出るだけでなく、労働者に周知しなければなりません(労基法106条1項)。

もしも周知しなければ、就業規則は効力を持たないことになってしまいます。周知するとは、簡単に言えば「労働者が誰でも見られる状態にしておく」ということであり、事業場内に掲示したり、データを共有フォルダに入れたりして、いつでも閲覧できるようにしておくのが望ましいでしょう。

なお、就業規則の周知義務について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

就業規則の周知義務

就業規則の変更について

就業規則を変更する場合についても、変更案を作成し、労働者側の意見を聴取して意見書を作成し、労働基準監督署への変更届を提出しなければならないため、新たな就業規則を作成する場合と同様の手順を踏む必要があります。

このとき、不利益変更をするためには、基本的にすべての労働者の同意が必要となります。

会社にとって大変な負担となりますが、些細な変更であっても正しい手続きが必要であり、これを行わなければ変更が無効とされるおそれがあります。それでも、テレワークの導入等、就業規則を見直すことによって時代に即した労働環境を作ることができるでしょう。

不利益変更における注意点

就業規則の不利益変更とは、労働者の収入や待遇等が引き下げられるような変更であり、例えば給料の削減や休日の削減、手当の廃止等が該当します。就業規則を、労働者にとって不利益になるように変更することは、基本的に認められないので注意が必要です。

就業規則の不利益変更が認められるのは、変更することに合理性があり、変更した就業規則を周知した場合に限られます。なお、合理性があるとは、変更が必要であり、なるべく不利益を削減する努力をした等の意味です。

就業規則の法的効力

就業規則には、法的な効力があります。
この点、労働条件などをめぐる法的な効力を有するものには、優先順位に沿って以下の4つが挙げられます。

法令(労働基準法等) > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約

下の順位が定める部分が上の基準に反するものは、基本的に無効となります。(例外もあるため、留意が必要です。例えば、労働契約において、就業規則よりも労働者に有利な内容が定められている場合には、当該労働者に有利な内容の部分は、労働契約の内容が優先されます。)
例えば、就業規則で定める基準未満の労働条件を定めた労働契約や、就業規則が法令や労働協約に違反する部分がある場合などは、“その部分”について無効となります。

就業規則が有効に作成・届出・周知されても、それによって法令を無効にできるわけではないため、法令が優先されます。また、労働協約は労使間で比較的対等に取り決めたと考えられるため、使用者側が一方的に作成できる就業規則よりも優先されることになっています。

なお、就業規則が労働契約に対して及ぼす効力について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

就業規則の労働契約に対する効力

就業規則の適用範囲

就業規則の適用対象は「労働者」であり、制限を設けなければ、正社員だけでなく契約社員、パート・アルバイト、派遣社員といった雇用形態にかかわらず適用されます。これは、労働基準法9条により、「労働者」とは会社に雇用されるすべての社員を指すからです。

なお、役員や業務委託(外注)したスタッフには就業規則が適用されないのが原則ですが、それらの立場が名目的なものであり、事実上は雇用された労働者であるとみなされるケースでは、就業規則の効力が及ぶおそれがあります。

なお、就業規則の適用範囲について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

就業規則の適用範囲について

就業規則と混同されやすい「内規」とは

「社内規定(内規)」を設けている会社もあります。社内規定(内規)は、業務に関係する内容も多く重要であるため就業規則と混同されがちですが、2つには次のように明確な違いがあります。

【社内規定(内規)】
会社の裁量で取り決める規則の全般を指し、経営に関する事項や権限の所在、意思決定プロセスといったあらゆる事柄に関するルールを包含します。この規定は、労使間の合意の有無にかかわらず適用されますが、合意に基づいて提供された場合を除き、法的拘束力はありません。

【就業規則】
定めることができるのは、基本的に就業に関するルールに限られます。この規則を労働者に適用するためには、合意を形成し周知することが必要となりがあります。そして、この規則には法的拘束力があります。

なお、実務上、社内規定の多くが就業規則を運用する際の解釈や細則として機能していますが、内容によっては就業規則として扱われることもあります。特に、「労働者に対する周知」がなされているケースではその可能性が高まり、内規を根拠とした請求を受けるケースがあるため注意が必要です。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-630-807

平日 10:00~20:00 / 土日祝 10:00~18:30

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます