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個別労働紛争解決手続|制度の概要や各手続きについてわかりやすく解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社と労働者間のトラブルは「個別労働紛争」といわれ、年々増加傾向にあります。また、ハラスメントや嫌がらせなど、紛争の原因も多様化しつつあります。

これらの紛争を迅速に解決するには、「個別労働紛争解決手続」を利用するのがおすすめです。また、紛争を未然に防ぐため、社内で対策を講じることも重要です。

本記事では、個別労働紛争が起こってしまったときの対応や、紛争の防止策などについて詳しく解説していきます。

個別労働紛争の範囲

個別労働紛争とは、個々の労働者と事業主との間で発生する労働関係に関する紛争のことです(個別労働関係紛争解決促進法1条)。簡単に言うと、労働者と事業主間における労働トラブルです。
具体例は、以下をご覧ください。

【個別労働紛争に該当するもの】

  • いじめや嫌がらせ
  • 自己都合退職
  • 解雇
  • 賃金の引下げ
  • 出向や配置転換
  • 採用内定取消
  • パワーハラスメント

一方、労働組合と使用者の間で起きた紛争は、個別労働紛争ではなく「集団的労働紛争」にあたります。
また、以下のような紛争も、個別労働紛争解決手続の対象外となります。

  • 労働者同士の紛争
  • 他の法律で紛争解決援助制度が設けられている紛争
  • 裁判で係争中、または確定判決が出ているなど、他の制度で対応している紛争
  • 労働組合と事業主の間で問題として取り上げられており、自主的な解決を図るべく話し合いが進められている紛争

個別労働紛争解決促進法の制定

労働トラブルの解決に関する法律には、個別労働関係紛争解決促進法(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律)があります。
これは、個別労働紛争を早期かつ円滑に、また労働者の負担を減らして解決することを目的として、平成13年10月1日に施行されました。

同法が制定された背景には、長期の不況に伴う個別労働紛争の増加が挙げられます。特に、リストラ・解雇や賃金の引下げ等が問題視されてきました。その他にも、非正規雇用の増加による雇用形態の多様化や、成果主義の導入による労働条件の個別化等も制定の背景といえます。

個別労働関係紛争解決制度について

出典:個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)(厚生労働省)

個別労働紛争解決制度とは、わかりやすくいうと、会社と労働者の間で起きたトラブルを、第三者を挟んで速やかに解決しようという制度です。個別労働紛争解決法に基づき、平成13年から実施されています。具体的には、以下の流れで進みます。

  1. 都道府県労働局による労働相談
    問題に関する情報(法令や裁判例)を提供し、紛争に発展するのを未然に防ぎます。また、状況に応じて、裁判所や法テラスなどの機関を紹介することもあります。
  2. 助言・指導
    都道府県労働局長が、問題点を指摘し解決の方向性を示すことで、当事者の自主的な解決を促します。ただし、当事者になんらかの対応を強制することはできません。
  3. あっせん
    第三者が当事者双方の意見を整理しながら、話し合いによる解決を目指します。また、具体的なあっせん案が提示されることもあります。

これら行政による手続きは、以下のページでも解説しています。併せてご覧ください。

【働き方改革】行政による履行確保措置・裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備について

個別労働紛解決のための手続き

個別労働紛争を解決するための手続きには、多様なものがあります。どのような手続きがあるのか、1つずつみていきましょう。

任意交渉

会社と労働者だけで話し合い、和解を目指す方法です。他の手続きを利用する場合に比べ、費用をかけず、早期に解決できるのがメリットです。
ただし、解決には双方の合意が必要ですので、お互いが全く譲らない状況では解決が難しいといえます。弁護士を代理人に立て、交渉してもらうのが賢明でしょう。

任意交渉の流れや注意点については、以下のページをご覧ください。

個別労働紛争における任意交渉の進め方

ADR(裁判外紛争解決手続)

ADRとは、裁判以外の方法で紛争を解決するための制度です。中立な第三者が当事者の間に入り、“話し合い”による迅速な解決を目指します。
具体的には、以下の3つの手続きに分けられます。

  • あっせん
  • 調停
  • 仲裁

ADRの利用方法は、まず当事者が実施機関に申立てを行います。ただし、双方の合意がないと開始されないため、相手が応じなければADRは利用できません。

実際の手続きでは、あっせん人や調停人が当事者の間に入り、双方の意見を整理しながら話し合いを進めます。また、「調停」や「仲裁」では、妥当な“解決案”を提示してくれるのが一般的です。

なお、ADRには以下の3種類があり、事案によって使い分けがなされています。

実施機関
【行政型ADR】 ・国民生活センター
・消費生活センター
など
【民間型ADR】 ・弁護士会
・社会保険労務士会
・土地家屋調査士会
など
【司法型ADR】 裁判所(民事調停・家事調停・裁判上の和解など)

個別労働紛争などの労働問題は、行政型ADRで扱われるのが一般的です。ただし、事案によっては、弁護士会などの民間型ADRが扱うこともあります。

労働審判

労働審判は、個別労働紛争を取り扱う「司法型ADR」のひとつです。基本的に、あっせんや調停では解決しなかったケースで利用されます。
裁判と比べて費用が安く、スピーディーに進められるのがメリットです。

流れとしては、まず「労働審判委員会」が双方の主張や証拠を整理しながら、話し合いを進めます。その後、話し合いがまとまらなければ、「労働審判」という解決策の提示を行います。
労働審判には基本的に判決と同じ効力があり、異議申立てがなされなければここで確定となります。

一方、労働審判に対してどちらかが異議申立てをした場合、通常の訴訟に移行します。

労働審判については、以下のページでも詳しく解説していますので、ご覧ください。

個別労働紛争の労働審判の進め方

民事訴訟

調停や審判でも解決しない場合、訴訟に移行します。訴訟では、当事者の主張や証拠に基づき、裁判所が終局的な判決を下すため、紛争の確実な解決が可能です。

なお、訴訟提起前や裁判中は、「民事保全手続き」を検討するのもおすすめです。民事保全手続きとは、判決が出るまでの間に不利益が発生しないよう、裁判所に仮の決定(仮処分)を下してもらう手続きです。一般的に、労働者側が申し立てるケースが多いようです。

裁判は他の手続きに比べて長期間かかるため、将来的な権利の実現を保全するためにも有効な手段といえるでしょう。

民事訴訟や民事保全手続きの流れや具体例は、以下のページをご覧ください。

個別労働紛争における民事訴訟手続きについて
個別労働紛争における民事保全手続きについて

個別労働紛争解決手続きによる違い

労働紛争を解決する方法はいくつもありますが、どれを選ぶべきか悩むことでしょう。そこで、以下のポイントを比較して選ぶのがおすすめです。

解決までに要する時間

紛争が長引くと負担も大きくなるため、できるだけ迅速に解決するのが望ましいでしょう。それぞれの手続きにかかる平均期間は、以下のようになっています。

任意交渉 お互いに譲歩できれば早期解決が可能
ADR 約4ヶ月(審理回数は約3回)
労働審判 約3ヶ月(基本的に、3回以内の審理で終了)
民事訴訟 約1年半

事案の性質

紛争の内容を踏まえ、適切な手続きを選ぶことも重要です。それぞれの手続きで扱われやすい事案を以下でご紹介します。

【ADR】
・いじめや嫌がらせ
・パワーハラスメント
・少額事案(証拠集めが難しいもの)

【労働審判】
・解雇や雇止め
・賃金の未払い
・退職金請求(労働者の生活や収入に関わり、迅速な解決が必要なもの)

【民事訴訟】
・整理解雇
・賃金請求
・損害賠償請求(複雑な事案で争点が多いもの、請求額が高額なもの)

手続きに要する費用

利用にかかる費用は、手続きによって大きな差があります。申し込む前に、一度確認しておきましょう。

【ADR】
基本的に無料(ただし、弁護士会や社会保険労務士会などの「民間型ADR」は、費用がかかることがあります。)

【労働審判】
・申し立て手数料:請求額によって異なる
例:請求額が100万円なら5000円、500万円なら1万5000円、1000万円なら2万5000円
・郵便切手代:およそ2000~3000円

【民事訴訟】
・申し立て手数料:請求額によって異なる
例:請求額が100万円なら1万円、500万円なら3万円、1000万円なら5万円
・郵便切手代:およそ5000~6000円

なお、「労働審判」から「訴訟」に移行した場合、訴えを起こす際にこれらの各手続き費用の差額を納めることになります。

また、訴訟の申し立てにかかる費用は、最終的に敗訴した側が支払うという判決がなされるのが基本です。一方、労働審判の場合、費用は各自(申し立てた側)が負担します。

個別労働紛争防止策

労働審判や訴訟に発展すると、解決までに費用も手間もかかります。このようなリスクを未然に防ぐためにも、労働紛争が起こらない環境を整えることが最も望ましいでしょう。
では、紛争の防止策にはどういったものがあるでしょうか。2つご紹介します。

就業規則等の見直し

労働紛争を未然に防ぐには、就業規則や社内規程を見直すことが重要です。具体的には、必ず記載が必要な事項(労働時間や賃金の計算方法など)のほか、社内ルールがある事項についても明確化しておくのが良いでしょう。
例えば、以下のような項目を記載するのが一般的です。

  • 業務中の私的行為やハラスメントを禁止する服務規律
  • 安全衛生に関する遵守事項
  • 人事考課規程

具体的な規定を設けることで、労働者も理解しやすくなり、認識の相違による紛争を未然に防止できます。さらに、規則違反を懲戒事由として定めることで、万が一紛争が起こった場合も事実関係を証明しやすくなります。

社内制度の運用の見直し

人事記録の管理が適切に運用されているか確認することも重要です。特に、出退勤時刻の記録(出勤簿やタイムカードの打刻履歴)や有給休暇の取得状況は漏れなく管理しましょう。

長時間労働や休暇の取得は労働紛争に発展しやすいため、日頃から管理を徹底し、早めに適切な措置を講じることが重要です。

また、社内制度を充実させるのも有効です。例えば、ハラスメント防止に関する社内研修を実施したり、いじめの相談窓口を設置し、労働者が気兼ねなく利用できるようにしたりするのが良いでしょう。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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