
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
近年、ワーク・ライフ・バランスの重要性が叫ばれる中で、育児と仕事の両立に注目が集まっています。
また、男性従業員の育児に対するサポートが重要視されており、会社も男性従業員の育児支援に積極的な取り組みを行うことが求められています。
以下では、男性従業員の育休取得の促進に向け、会社が取り組むべき内容について、育休制度の仕組みの解説とともにご紹介します。
目次
男性が利用できる育休制度とは?
育児を行う男性従業員の支援をするため、国は以下のような制度を用意しています。
育児休業
育児休業制度とは、1歳未満の子供を養育する従業員に対し、原則として子供が1歳に達するまでの期間、会社に対して育児休業を申し出ることができる制度です(育介法第5条第1項)。
原則として、育児休業の申し出は、子供1人につき分割して2回まで申請することができます(同法第5条第2項)。会社は、従業員の育児休業の申し出があったときは、拒否することができません(同法第6条)。
もっとも、利用できる従業員の範囲には一定の制限が設けられており、日々雇用される労働者は、育児休業制度を利用することはできません(育介法第2条第1号)。
有期雇用労働者については、子供が1歳6ヶ月に達する日までに労働契約が満了することが明らかではない場合に育児休業を取得することが認められています(同法第5条第1項但書)。
なお、一定の要件の下で、1歳6ヶ月又は2歳まで育児休業をすることができます(同法第5条3項、4項)。
詳しくは以下のページをご覧ください。
産後パパ育休(出生時育児休業)
産後パパ育休制度(出生時育児休業)とは、子供を養育する従業員を対象として、子供の出生後8週間を経過する日の翌日までの期間内に4週間以内の期間を定めて休業をすることができる制度です(育介法第9条の2第1項本文)。
会社は、従業員の産後パパ育休制度の利用の申し出があったときは、拒否することは認められません(同法第9条の3第1項本文)。
育児休業制度と同様に、日々雇用される労働者は産後パパ育休を利用できません(育介法第2条第1号)。
有期雇用労働者については、子の出生日又は出産予定日のいずれか遅い方から起算して8週間を経過する日の翌日から6ヶ月を経過するまでの間に、労働契約が終了することが明らかではない場合に、取得が認められています(同項但書)。
パパ・ママ育休プラス
パパ・ママ育休プラスとは、父親と母親がともに育児休業を取得する場合、通常の育児休業では子供が1歳に達するまでの期間に限って育児休業を取得することができるものとされているところ、1歳2ヶ月になるまでの間で1年間の休業を取得することを認める制度です(育介法第9条の6)。
この制度は、育児に父母双方が参画できるように、男性従業員に対して育児休業を取得することを促そうとする制度といえます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
男性の育休取得率の現状は?
男性従業員に向けた育休の制度が整えられてきているところですが、実際問題として、男性従業員の育休取得率は約30%と未だ低水準であり、男性従業員の育児への参画を促すことは依然課題とされています。
日本で男性の育休取得が進まない背景
日本において、男性の育休取得が進まない背景として、職場の人手不足、その後のキャリア形成への不安といったものが挙げられます。最近では育児に対する会社の理解も進みつつあるとはいえ、未だ理解が全ての会社に浸透したものとはいえない現状があります。
育介法改正による男性の育休取得促進の義務化
国は、男性の育休取得を促進する仕組みとして、一定の企業には育児休業の取得状況の公表を義務化しています。
具体的には、常時雇用する労働者が300人を超える企業は、以下について公表することが義務付けられています。
- ① 男性の「育児介護休業等の取得率」
- ② 男性の「育児休業等及び育児を目的とした休暇の取得率」
※従前は常時雇用する労働者が1000人を超える企業に限定されていましたが、令和7年4月1日からは常時雇用する労働者が300人を超える企業に対象が拡大されています。
詳しくは以下のページをご覧ください。
企業が男性従業員の育休を促進するメリット
会社が男性従業員の育休取得を促進することは、決して育児に携わる男性従業員のみにメリットがあるわけではありません。
男性従業員も育休が取得しやすい職場環境であることは、ワーク・ライフ・バランスを重要視する求職者が多い昨今において、採用市場における強いアピールポイントになります。
男性従業員の育休取得促進に向けて企業がすべき対策
男性従業員が育休取得を含め、育児に参画しやすい体制を整備するにあたり、会社においては下記のような対策を講じることが考えられます。
就業規則などの改定
育児休業は、就業規則に定めなければならない「休暇」(労基法第89条第1号)に関する制度であるため、会社としては、就業規則上に育児休業に関する規定を設ける必要があります。
もし、就業規則に定めを設けていない場合には、規程の整備が必要です。
育休についての十分な周知
会社は、従業員又はその配偶者が妊娠・出産したことを申し出たときは、従業員に対して、育休制度等について周知するとともに、育休取得についての意向確認のための面談等を行う措置を講じなければならないとされています(育介法第21条第1項)。
相談体制等の整備
また、育休の申出がスムーズに行われるよう、会社は以下のいずれかの措置をとるように義務付けられています(育介法第22条第1項、同法施行規則第71条の2)。
- 育児休業に関する研修の実施
- 育児休業に関する相談体制の整備
- 従業員の育児休業取得に関する事例収集・提供
- 従業員への育休制度と取得促進に関する方針の周知
育休を取得しやすい風土づくり
育休取得に向けた体制整備に加え、会社としては、育休を取得しやすい風土づくりを行う必要があります。育介法は、育休を利用する従業員の就労環境が害されないように、従業員からの相談に応じ、適切に対応するための必要な体制整備や雇用管理上の必要な措置をとることが義務付けられています(同法第25条第1項)。
育休取得を想定した人材配置
法が求めている体制を整備したとしても、育児休業を取得したい従業員としては、職場の人手不足を懸念して、育児休業取得の申出をしにくいと感じてしまう恐れがあります。
会社としては、そのような事態を回避するために、育休取得を想定した人材配置を行うことが必要といえるでしょう。例えば、育休を取得した従業員の欠員を埋めるために、他部署から人員を一時的に配置したり、有期雇用労働者を雇用するといった対策が考えられます。
復職後のフォロー体制の確立
従業員が育児休業から復職した際にも、会社として、当該従業員をフォローする必要があります。
育休取得期間中の業務内容の共有等、職場復帰がスムーズに進む体制を整え、育休から復帰した従業員が円滑に通常業務に戻れるような措置を講ずるのが望ましいです。
男性従業員の育休取得でお困りの際は、企業労務に強い弁護士にご相談下さい
企業法務に強い弁護士であれば、最新の法改正に準じた就業規則の作成・改定や、男性従業員の育休取得に向けた各種対応に関してご相談を承ることが可能です。
男性従業員の育休取得等に関してお困りの際は、是非弁護士にご相談ください。
男性社員の育休に関するよくある質問
男性従業員が育休を取得できる期間はいつからいつまでですか?
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育休制度の下、男性従業員が育休を取得できる期間は、1歳未満の子供を育児する従業員に対し、原則として子供が1歳に達するまでの期間となります。
男性従業員の育休取得期間も延長できますか?
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パパママ育休プラス制度を活用して、子供が1歳2ヶ月になる期間まで休業期間を延長することが可能です。また、一定の要件を充たすと、1歳6ヶ月又は2年まで育休期間を延長することが可能なケースもあります。
男性の育児休業中も賃金を支払う必要がありますか?
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男性の育児休業中の賃金については、法令上その支払いを義務付ける規定は設けられていません。
一般的には、就業規則等において定めがなければ、会社からの給与は無給とされることが多いですが、雇用保険法において、休業前の賃金の一定割合を支給する育児休業給付金制度が設けられています。
育休を取る男性従業員が少ない場合、企業にどのような影響があるのでしょうか?
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育休を取得する男性従業員が少ない場合、ワーク・ライフ・バランスを重視する昨今の状況からすれば、求職者から敬遠される恐れがあり、会社の採用戦略に少なからず影響を与えることが考えられます。
男性従業員の育休取得を促進し、求職者にとって魅力のある職場にすることが会社にとっても利益につながるといえるでしょう。
男性従業員が育休を取得しやすくするためには、職場環境をどのように整備すべきですか?
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育児・介護休業法は、育休を利用する従業員の就労環境が害されないように、従業員からの相談に応じ、適切に対応するための必要な体制整備や雇用管理上の必要な措置をとることを会社に義務付けています(同法第25条第1項)。
会社としては、育休を取得する男性従業員が職場内で不当な扱いを受けないよう、相談窓口を設ける等して体制を整備して、育休を取得しやすい環境を積極的に作っていく必要があるといえます。
男性従業員の育休取得でも社会保険料は免除されますか?
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男性従業員が育休を取得しても労働契約は継続するため、社会保険等は継続して加入し続けることになります。ただし保険料については、子供が満3歳までの休業の場合には、被保険者(従業員)及び会社ともに負担が免除されています(健康保険法第159条、厚生年金法第81条の2)。
男性従業員から育休取得の申請があった際に、企業がやってはいけないことはありますか?
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男性従業員から法律に定められた要件を充たした育休取得の申出があった場合、会社は原則として拒否することはできません(育介法第6条第1項)。また、育休を申請したこと等を理由として、従業員を不利益に取り扱うことは禁止されています(同法第10条)。
詳しくは以下のページをご覧ください。
企業が男性従業員の育休取得を促進しない場合の罰則はありますか?
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会社が男性従業員からの育休取得申請を拒否した場合、厚生労働大臣から対応を是正するように勧告がなされる可能性があります(育介法第56条)。勧告がなされたにもかかわらず、会社が従わなかった場合には、勧告に従わなかった事実が公表される可能性があります(同法第56条の2)。
また、従業員数が300人を超える企業は、男性社員の育休取得率を年1回以上公表することが義務付けられており(育介法第22条の2)、これに違反した場合も厚生労働大臣から勧告がなされ(同法第56条)、公表に関する行政からの勧告に従わなかった場合には、その旨を公表されてしまう可能性があります(同法第56条の2)。
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執筆弁護士
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士榊原 誠史(東京弁護士会)
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士髙木 勝瑛(東京弁護士会)
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある