監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
近年、ワーク・ライフ・バランスを重視する動きが加速し、男性が育児休業を取りやすい環境づくりは、企業にとって欠かせない課題となっています。国も育休取得率の公表を企業に義務づけるなど、男性の育休取得を強く後押ししています。
ここでは、男性社員の育休取得の促進に向け、会社が取り組むべき内容について解説しますので、ぜひご覧ください。
男性の育休取得促進の義務化の内容は?
男性の育休とは、育児・介護休業法に基づき、父親が子供の誕生後に一定期間、仕事を離れて育児に専念できる制度です。
男性社員の育休取得は権利であり、義務ではありません。ただし、2022年の育児・介護休業法の改正により、企業には男性にも育休を取得しやすい環境整備が求められるようになっています。
義務付けられたのは、以下のような取得促進に向けた取り組みです。
- 育休を取得しやすい雇用環境の整備
- 社員への個別周知と休業取得意向の確認
- 育休取得状況の公表
2025年4月1日からは、常時雇用する労働者が300人を超える会社では、男性社員の育児休業の取得状況を公表することが義務づけられています。
公表の義務などについて、詳しくは以下のページをご覧ください。
育児・介護休業法が改正された背景
育児・介護休業法が改正された背景として、育児の負担が女性に偏り、出産や育児のために女性が退職するケースが多いことが挙げられます。
厚生労働省の調査によると、2024年の民間企業における男性の育休取得率は40.5%であり、女性の育休取得率が80%を超えているのに比べて低い水準になっています(参照元:https://tomoiku.mhlw.go.jp/assets/pdf/activity/document_R6.pdf)。
国は、女性の離職を防ぎ、少子化対策を進めるために、企業が男性の育休取得を積極的に支援することを義務づける法改正を進めているのです。
現状でも、職場の人手不足への懸念や、昇進や評価への影響についての不安などが労働者にあると考えられています。
企業には、管理職の意識改革などにより、男性が育休を取りやすい社会を実現することが求められています。
男性社員が利用できる育休制度と休業期間
育児を行う男性社員を支援するために、国は以下のような育児休業制度を用意しています。
- ①通常の育児休業|原則として子供が1歳に達するまで
- ②産後パパ育休(出生時育児休業)|子供の出生後8週間
- ③パパ・ママ育休プラス|2ヶ月の育児休業延長
- ④保育所に入れない場合など|最長2歳まで育児休業延長
③と④は①の育児休業の延長制度です。
育児休業は、子供が1歳になるまで取得できる長期休業で、育児全般を目的としています。事情があれば、最長2年まで取得することもできます。
一方で、産後パパ育休は、出産直後の母親をサポートするために、子供の出生後8週間以内に取得できる短期休業です。両制度は併用可能で、産後パパ育休を取得した後に育児休業をとることも可能です。
通常の育児休業|原則として子供が1歳に達するまで
育児休業制度とは、1歳未満の子供を養育する従業員に対して、基本的には子供が1歳に達するまでの期間、会社に対して育児休業を申し出ることができる制度です(育介法第5条第1項)。
この制度は、男女を問わずに、子育てをするための休みを取得できる基本的な育児支援制度です。
原則として、育児休業の申し出は、子供1人につき分割して2回まで申請することができます(同法第5条第2項)。
子供が1歳になるまでの取得を基本としていますが、一定の要件を満たせば1歳6ヶ月、さらに最長で2歳になるまで延長することが可能です。
どのような場合に期間を延長できるのかについて、具体的な要件を以下のページで解説していますので、併せてご覧ください。
産後パパ育休(出生時育児休業)|子供の出生後8週間
産後パパ育休制度(出生時育児休業)とは、子供を育てる男性社員が、子供の出生後8週間以内に最大4週間まで休める制度です(育介法第9条の2第1項本文)。
産後パパ育休は、2回に分けて取ることができます。例えば「出産直後に2週間休み、その後職場に復帰し、妻の体調に合わせて再度2週間取る」など、家庭の事情に応じて柔軟にスケジュールを組むことが可能です。
パパ・ママ育休プラス|2ヶ月の育児休業延長
パパ・ママ育休プラスとは、父親と母親がともに育児休業を取得する場合に、1歳2ヶ月になるまでの間で1年間の休業を取得することを認める制度です(育介法第9条の6)。
通常の育児休業では、子供が1歳に達するまでの期間に限って育児休業を取得できますが、母親と取得時期をずらすなどすれば、1歳2ヶ月になるまでは、少なくとも片方が育休を取得した状態を継続できます。
パパ・ママ育休プラスについては、以下の記事で詳しく解説しています。
保育所に入れない場合など|最長2歳まで育児休業延長
育児休業は原則、子供が1歳になるまでですが、以下のようなやむを得ない事情がある場合は、延長することができます。
- 保育所などへの入所申込みをしているが、入所できない場合
- 子供を養育する予定者が死亡、けが、病気などで養育困難な場合
- 離婚などにより養育者と別居になった場合
- 新たな妊娠で6週間(多胎妊娠は14週間)以内に出産予定、または産後8週間を経過しない場合
このような理由がある場合は、まず1歳6ヶ月まで延長でき、その時点でも状況が変わらなければ、再申請により最長2歳まで延長可能です。
あくまで特別対応であるため、1歳の時点で「2歳まで延長したい」という申請はできません。また、延長するには、休業後に職場へ戻る見込みがあることが条件になります。
企業が男性社員の育休取得を促進するメリット
男性社員の育休取得を促進することは、男性社員だけでなく企業にも、以下のような大きなメリットがあります。
- 社員の働きやすい環境になる
- 優秀な人材の確保につながる
- 助成金を受けられる場合がある
男性の育休取得率が低い企業は敬遠されかねないため、企業の採用戦略などへの悪影響を考慮して、取得率の改善を図ることが重要です。
社員の働きやすい環境になる
男性社員の育児休業取得を促進することによって、仕事と家庭を両立しやすい職場環境が整います。
育児や家庭の事情に理解のある会社は、社員に安心感を与え、長期的な定着やモチベーション向上にもつながります。
また、ライフイベントがあっても働き続けられる会社だと社員から評価されて、人材の確保や離職防止といった効果が期待できます。
優秀な人材の確保につながる
男性社員の育児休業取得を促進することによって、企業イメージの向上につながります。
近年は、求職者が給与や待遇だけでなく、仕事と家庭の両立支援制度の充実度を重視する傾向があります。
男性社員による育休の取得実績がある企業は、採用活動においてその点をアピールできるため有利に働きやすく、優秀な人材の確保につながる可能性も高いです。
助成金を受けられる場合がある
男性社員の育児休業取得を促進する企業には、国の助成制度を利用できる場合があります。代表的な制度が両立支援等助成金の出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)です。
この助成金は、男性労働者が育児休業を取得しやすい職場環境を整備したうえで、実際に育休を取得した場合などに支給される制度です。
男性が育休を取得することや、取得率が向上したことが条件とされています。企業にとっては、人材定着や職場環境の改善を図りながら、経済的な支援も受けられる点が大きなメリットといえるでしょう。
男性社員の育児休業中の賃金について
男性の育児休業中の賃金については、法令上その支払いを義務付ける規定は設けられていません。一般的には、就業規則等において定めがなければ、会社からの給与は無給とされることが多いです。
しかし、労働者については、雇用保険法に基づき、休業前の賃金の一定割合が支給される育児休業給付金制度が設けられています。この制度により、経済的な不安は大幅に緩和される可能性が高いです。
企業は、従業員が安心して育休取得できるように、経済面の情報提供も行うことが望ましいでしょう。
労働者が利用できる育児休業給付金制度
育児休業給付金制度とは、育休中の収入を補うため、雇用保険から給付金が支払われる制度です。
もちろん男性社員も対象です。給付額は、育休開始から180日間は休業前給与の67%、その後は50%が支給されます。給付を受けるには、育休開始前2年間に雇用保険に12ヶ月以上加入していることなどが条件です。
給付金を受け取れるのは育休期間中のみです。育休期間は、父親が取得する場合は出産日(出産が遅れたときは出産予定日)から子供が1歳になるまでとなります。ただし、保育園に入れないなどやむを得ない事情があるときは、最長2歳まで育休を延長し、その間も育児休業給付金を受け取ることが可能です。
育休取得中の社会保険料の免除
育児休業を取得している期間について、一定の条件を満たす場合には、健康保険料や厚生年金保険料の負担が免除されます。
男性社員が育休を取得しても労働契約は継続するため、健康保険や厚生年金などの社会保険には加入し続けることになりますが、社員だけでなく会社も支払いが免除されます。
健康保険料が免除されても、社員は医療などの健康保険を利用することが可能です。また、年金についても、免除された期間は納付した期間として扱われるため、将来の年金額にきちんと反映されます。
さらに、育休中は雇用保険料の支払いも不要です。雇用保険とは、給与に対してかかる保険なので、給与が支払われない育休期間中は保険料を払う必要がありません。
出生後休業支援給付金【2025年創設】
2025年4月に、出生後休業支援給付金が創設されました。これは、男性の育児休業取得を後押しすることを目的とした制度です。
一定の要件を満たした場合、父母ともに最長28日間について、従来の育児休業給付に加えて賃金の13%相当が上乗せ支給されます。上乗せにより、給付率は最大80%となります。
育児休業給付は非課税であり、社会保険料も免除されるため、手取りでは10割相当の収入水準となる点が大きな特徴です。
父母ともに14日以上の育休を取得することが要件とされており、支給額の上限があるため給与が高額だと80%にならないケースもあることに注意しましょう。
企業としても、制度を周知することによって男性社員の育休取得を促進しやすくなると考えられます。
男性社員の育休取得促進に向けた企業の取り組み
男性社員が育児休業の取得などを通じて育児に参加しやすい体制を整備するために、会社としては対策を講じることが求められています。
男性社員に育児へ参加してもらうための主な対策として、以下のようなものが考えられます。
- 就業規則などの改定
- 男性育休を取得しやすい環境の整備
- 育休取得を想定した人材配置
- 復職後のフォロー体制の確立
就業規則などの改定
男性社員の育児休業取得を促進するためには、就業規則の見直しが必要です。
育児休業は、就業規則に定めなければならない「休暇」(労働基準法第89条第1号)に関する制度なので、法改正などを確実に反映しなければなりません。
就業規則には、男性の育休取得を促進する義務に対応できるように、育休取得の対象者、申出期限や申出方法、必要書類、休業中の待遇などを具体的に規定し、従業員が利用しやすい制度設計を行いましょう。
男性社員の育休取得を推進する企業方針を明文化しておくことによって、職場全体の理解促進につなげる必要もあります。
男性育休を取得しやすい環境の整備
マタハラに関する会社には、男性が育児休業を取得しやすい環境を整備する義務があります。
適切な環境にするために、会社として相談体制を整備しなければなりません。また、育児休業制度の内容や取得方法を周知することが義務付けられています。
男性社員が配偶者について妊娠や出産を申し出たときには、育休制度についての説明や、取得意向の確認などの対応も必要となります。
育児休業の申出や取得を理由とした不利益な取り扱いを防止することも求められており、男性社員への育休取得を妨げる言動はマタニティハラスメント(マタハラ)・パタニティハラスメント(パタハラ)に該当するおそれがあることにも注意しましょう。
管理職への教育や相談体制の整備を行って、安心して育休を取得できる職場環境を整えることが重要です。
事業者の義務については、以下の記事で解説しています。
育休取得を想定した人材配置
男性社員による育児休業の取得を促進するために、取得することを前提とした人員体制を整備しておくことが重要です。
業務の引継ぎ計画の作成や、担当業務の調整、業務マニュアルの整備、複数担当制の導入などによって、特定の社員しか対応できない業務を減らしておく必要があります。
また、育休取得者の業務を集中させず、業務をチーム全体で分担できる体制を構築し、安心して育休を取得できる職場環境を整えなければなりません。
復職後のフォロー体制の確立
男性社員による育児休業の取得を促進するために、育児休業から復職したときなどに、会社として社員をフォローする必要があります。
育休を取得していた期間に生じた業務の変更点や重要な出来事などの共有といった、職場復帰をスムーズに進めるための体制を整えなければなりません。
また、育児と仕事の両立を支援するために所定外労働を制限するなど、支障が生じないような配慮を行うことが望ましいです。
育児・介護休業法による所定外労働などの制限については、以下の記事で解説しています。
男性社員の育休取得を認めない場合のリスク
男性社員から、法律に定められた要件を満たした育休の申し出があった場合、会社は基本的に拒否することはできません(育介法第6条1項)。また、育休を申請したこと等を理由に、従業員に解雇など不利益な扱いをすることも禁止されています(同法第10条)。
会社が育休申請を拒否すると、都道府県労働局からの指導や是正勧告などを受けるおそれがあります。
勧告に従わなければ、その事実が公表される可能性があるため注意が必要です(同法第56条、56条の2)。
また、従業員が300人を超える企業には、男性社員の育休取得率を年1回以上公表する義務があります(同法第22条の2)。これに違反した場合も勧告の対象となり、従わなければその旨が公表されるリスクがあります(同法第56条、56条の2)。
法律で禁止される不利益取扱いについての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
男性社員の育休に関するQ&A
育休中の男性社員を働かせることはできますか?
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基本的に、会社が一方的に指示して育児休業中の男性社員を働かせることはできません。
どうしても働いてほしい事情がある場合には、労使間で十分に話し合いを行い、子の養育をする必要がない期間に限って、一時的・臨時的に就労してもらうことは可能です。産後パパ育休については、労使協定を締結しており労働者本人の同意を得ている場合に限り、合意した範囲内で就労させることが認められています。
育休制度の趣旨は育児に専念できる環境を確保することである点には、くれぐれも注意しましょう。
男性社員から育児休業の申出があった場合、会社は拒否できますか?
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基本的に、会社は要件を満たした男性社員からの育児休業の申出を拒否できません。
育児休業は育児・介護休業法で保障された権利であり、業務の繁忙や人員不足といった会社側の事情のみを理由に取得を制限することは認められていないからです。法律で認められた権利なので、会社が制度を用意していないといった理由で断ることは認められていないことに注意しましょう。
ただし、例外として、日々雇用される労働者や、労使協定により除外された社員については、育児休業の対象とならない場合があります。除外できるのは、以下のような社員です。
- 入社から1年未満の労働者
- 申出の日から1年以内に雇用期間が終了する労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
男性社員の育休取得を理由とした評価の引き下げは違法ですか?
-
男性社員が育児休業を取得したことを理由に評価を引き下げたり、昇進・昇格で不利益に扱ったりすることは、育児・介護休業法で禁止されています。
もっとも、育休取得そのものではなく、就業規則や人事評価制度に基づき、勤務実績や成果を客観的・合理的な基準で評価した結果として処遇に差が生じることは認められる場合があります。
企業としては、評価基準をあらかじめ明確に定めて、育休取得者に対する公平かつ適正な評価を行うことが重要です。評価の透明性を確保できれば、トラブルの防止につながります。
男性社員の育休取得でお困りの際は、企業労務に強い弁護士にご相談ください
会社には男性の育休取得を促進する義務があり、法令に沿った対応が求められています。対応を誤ると、行政指導や企業名の公表リスクが生じるため、早めに体制を整えることが大切です。
労務に強い弁護士なら、最新の法改正に合わせた就業規則の作成・見直しや、男性社員が育休を取りやすい社内環境づくりをしっかりサポートできます。育休取得率の公表義務や不利益な取扱いの禁止など、会社が守るべきポイントは多いです。専門家のアドバイスを受けることでリスクを未然に防ぐことができます。
「どんな制度を整えればいいのか」「法改正に対応できているか不安」など、男性育休でお困りの場合は、ぜひ企業労務に強い弁護士法人ALGにご相談ください。
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執筆弁護士

- 弁護士法人ALG&Associates
この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
