配置転換と人事異動の違いとは?企業が注意すべき点や成功のポイント

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

年度末が近づくと話題になるのが、人事異動。
人事異動と一言にいっても、人事異動には出向や転籍等、いくつかの種類があります。会社から人事異動の命令が下されると、命令が下された従業員は、基本的には会社の指示命令に従って、会社が指定した異動先に異動することとなります。

他方で、会社は、従業員に対して無制限に人事異動命令を行うことができるわけではありません。場合によっては、会社が従業員に行った人事異動命令が裁判所から違法と判断されてしまうケースもあります。以下では、そもそも人事異動とは何か、人事異動を命令する際の注意点について詳しく解説していきます。

人事異動と配置転換の違いとは?

人事異動とは

人事異動とは、会社組織の中の従業員の地位・配置ないし勤務条件を変えることをいいます。
人事異動の中には、いくつか種類があり、同一の会社の中での職務内容や勤務場所の変更等を行う「配転」、在籍している会社との間での労働契約を維持したままで他の会社の業務に従事させる「出向」、従前在籍していた会社との間における労働契約を解消した上で他の会社の業務に従事させる「転籍」といったものがあります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

配置転換とは

配置転換とは、配転の一種で、同一事業所内での部署の変更をいいます。配転のうち、転居を伴うものについては一般的に「転勤」と呼ばれることがあります。

企業が配置転換を行う目的とは?

日本企業においては、毎年9月末又は3月末に定期的に配置転換が行われるところが多く、頻繁に配置転換がなされる傾向があります。

このように、企業が配置転換を行う目的としては、長期雇用慣行を採用する日本企業において、①複数の職場を経験させることでジェネラリストを養成する、②市場の変化にかかわらず雇用を維持できるよう柔軟性のある人事を行うといったことが挙げられます。

配置転換命令が無効・違法となるケースもある

日本企業では頻繁に行われる配置転換ですが、会社は、配置転換の命令を無制限に行うことができるわけではありません。

配置転換命令が有効とされるためには、配置転換を命じる権利を根拠づける労働契約や就業規則の規定が必要です。つまり、会社が従業員を雇用していることのみをもって、直ちに配置転換を命じる権利があると認められるわけではないのです。

また、配置転換を命じる権利が定められた規定があるとしても、労働契約等において、従業員の職務内容や勤務地の限定がなされている場合、従業員と合意した職務内容や勤務地の範囲の限りでの配置転換を行うことしかできません。

さらに、配置転換を命じる根拠規定があり、かつ職務内容や勤務地限定もなかったとしても、配置転換命令権の行使それ自体が権利の濫用であるとして、無効になってしまうケースもあります。以下では、配置転換命令が権利の濫用にあたらず、有効であると判断された裁判例をご紹介します。

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配置転換命令が有効と判断された裁判例

事件の概要(昭59(オ)1318号・昭和61年 7月14日・最高裁第二小法廷・上告審)

配置転換命令を繰り返し拒否した従業員に対し、会社が懲戒解雇処分を下したことにつき、解雇の有効性が争われた事案です。その中で、会社が行った配置転換命令の有効性が問題となりました。

本事件においては、会社が配置転換を従業員に打診したものの、従業員側が単身赴任せざるを得なくなるといった家庭の事情を理由に拒否したため、別の部署への配置転換を打診したもののこちらも同様の家庭の事情を理由に拒否したため、会社が従業員に対して、懲戒解雇処分を下しました。

なお、従業員と会社の間には勤務地を限定する合意はありませんでした。


裁判所の判断

裁判所は、転勤は労働者の生活に大きな影響を与えるため、無制限に配置転換が認められるものではないとし、次の場合には、配置転換命令は無効になり得ると判断基準を示しました。

① 業務上の必要性が存在しないこと
② 業務上の必要があるとしても、不当な動機・目的が認められること
③ 従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じること

その上で、本事案においては、会社において人事異動を行う業務上の必要性があったと認定し、従業員側が転勤によって被る不利益については、通常甘受すべき程度のものと判断した結果、配置転換命令を有効なものと判断しました。


ポイント・解説

本事件のポイントは、会社に配置転換の権利があるとしても、配置転換命令権の行使につき、権利の濫用があると認められた場合には、配置転換が無効になることを示した点です。

上記でご紹介した判例の他に、複数の判例において、配置転換が権利濫用にあたり、無効であると判断されるか否かの考慮要素が示されており、
① 配置転換につき業務上の必要性がないこと
② 不当な動機・目的があること
③ 従業員に著しい不利益が生じること
④ 配置転換対象者の選択が合理的ではないこと
といった要素を挙げています。

上記事例は、配置転換命令につき、単に就業規則を整備するのみならず、その運用にも注意しなければならないことを示したケースといえます。

従業員から配置転換を拒否された場合の対処法

会社が従業員に配置転換を命じた場合、従業員の側から拒否されるケースも少なくありません。しかし、配置転換命令は業務命令であり、従業員が拒否することは基本的にできません。

会社としては、従業員に配置転換を拒否された場合、就業規則の定めに業務命令に違反したことが懲戒事由に該当する旨の定めがあれば、これを根拠として懲戒処分を下すことも考えられます。

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配置転換を成功させるためのポイント

会社が配置転換を従業員に命じた場合、その命令の効力が否定されたり、従業員から拒否されて、トラブルになる可能性があります。では、会社として、配置転換を円滑に行うためにはどのようにすればいいのでしょうか。

雇用契約書や就業規則を見直す

配置転換を行うには、配置転換を行う根拠となる雇用契約書や就業規則の規定が必要です。

会社が従業員を雇用している立場にあることのみをもって、従業員を自由に配置転換ができると誤解していると、後々に従業員から配置転換には根拠がないと主張されるおそれもあります。また、雇用契約書の中に、配置転換の範囲について限定が付されている場合には、当該範囲を超えた配置転換は基本的には許されません。

そこで、仮に雇用契約書や就業規則の中に配置転換に関する定めがないのであれば、改めて雇用契約書や就業規則の中に、会社が従業員を配置転換することが出来る旨の合意内容や規定を設けるようにしましょう。

また、雇用契約書の中に、従業員の職務範囲や勤務地範囲の限定が付されていると、配置転換に制約がかかってしまいますので、会社として、当該従業員に職務範囲等の限定を付しても良いか(広範な職務に従事することや勤務地異動が想定されないか)を慎重に検討するようにしましょう。

配置転換について従業員と十分に話し合う

会社が配置転換を行う根拠がある場合でも、配置転換について従業員と十分に話し合うことも必要です。

配置転換は、権利の濫用と捉えられた場合には、その効力が無効となってしまう場合があります。従業員との間で事前に配置転換についての話し合いの場を設けることにより、配置転換について従業員の理解・同意を求めること、配置転換に難色を示された場合には、何が原因で難しいのか、難色を示す点について会社としてどのように対処・ケアすることができるのかといった点について話し合うことができます。

これにより、従業員の不利益の程度を確認して権利の濫用にならないかチェックをすることができますし、結果として会社が従業員に生じ得る不利益について配慮したことを示す材料にもなり得ます。

配置転換後の従業員のケアも重要

法的な視点を離れて、配置転換を行った後の従業員を業務内容や業務量等の面からしっかりとケアを行うことも肝要です。

配置転換後の業務内容が従業員にとって不向きな内容であるにもかかわらず、敢えてこれを漫然と放置している場合、後に裁判所から、従業員の自主退職を図った不当な動機・目的による配置転換であったのではないかと疑われる一つの要因になるおそれがあります。

人事異動でトラブルを避けるために、企業労務に強い弁護士がアドバイスいたします。

配置転換は、会社の裁量でいかようにもできると思われがちですが、しっかりとした制度設計・運用をしていないと、後に配置転換命令の効力が否定される結果にもなりかねません。配置転換に関して、トラブルが生じた際には、是非弁護士にご相談ください。

配置転換と人事異動に関するよくある質問

人事異動には配置転換以外に何がありますか?

人事異動には、配置転換以外に、在籍している会社との間での労働契約を維持したままで他の会社の業務に従事する「出向」、従前在籍していた会社との間における労働契約を解消した上で他の会社の業務に従事する「転籍」といったものがあります。

配転にはどのような種類がありますか?

配転には、配置転換および転勤の2種類があり、一事業所内での部署の変更を配置転換、中でも転居を伴うものについては「転勤」と呼ばれます。

配置転換と出向の違いは何ですか?

配置転換と出向の違いは、労働契約を締結している会社の業務に従事するか否かという点にあります。すなわち、配置転換は労働契約を締結している会社の部署内での異動といったものが想定される一方で、出向は、元々在籍している会社に籍を置いたままで、労働契約を締結していない会社の業務に従事することになります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

配置転換と転籍の違いは何ですか?

配置転換と転籍の違いは、従前在籍していた会社との間で労働契約を維持しているか否かという点です。転籍は、従前在籍していた会社との間における労働契約を解消した上で他の会社の業務に従事するものですので、雇い主が変わってしまうという効果があります。

詳しくは以下のページをご覧ください。

配置転換を行うメリット・デメリットを教えて下さい。

配置転換を行うメリットとしては、部署異動によって従業員に幅広い経験を養ってもらうことが可能になることが挙げられます。一方で、転勤を伴う場合には、従業員に少なからず負担を課してしまうことはデメリットといえます。

配置転換を命じる際に従業員の同意は必要ですか?

配置転換を命じる場合、基本的には従業員の同意は不要です。しかし、強制的に配置転換を行ってしまうと、後々配置転換命令の効力を争われる等のリスクがありますので、基本的には従業員と面談を行う等して、配置転換に理解・同意を求めることが望ましいです。

減給を伴う配置転換は違法ですか?

必ずしも減給を伴う配置転換が違法になるわけではありませんが、手続きを慎重に行わないと、従業員を退職させるために行った不当な動機・目的に基づく配置転換であったと判断されるおそれがあります。

従業員が人事異動や配置転換を拒否できる正当な理由とは何ですか?

一般的には、雇用契約の際に、職務内容や勤務地の限定がなされていたにもかかわらずその限定の範囲外への配置転換がなされることや、転勤によって通勤時間が極めて長時間になってしまうこと、転勤によって家族の介護に極めて重大な影響が生じてしまうといったものが挙げられます。

仮に、このような事情があるにもかかわらず、配置転換を強行すると、配置転換命令が無効になってしまうおそれがあります。

配置転換がパワハラになるのはどのようなケースですか?

基本的に配置転換は、会社の業務上の必要性がある場合には行うことができます。
しかし、従業員の事情を一切無視して無理な配置転換を命令するような場合、パワハラに該当するおそれがあります。他には、もっぱら妊娠や出産だけを理由として配置転換をすることもハラスメントに該当することがあります(いわゆるマタハラ)。

従業員から人事異動の希望があった場合、応じる義務はありますか?

従業員から人事異動の希望があった場合、これに応じる義務は基本的にはありません。
しかし、例えば、職場の上司からパワハラを受けている社員から、人事異動の申し出があった場合、会社としては安全配慮義務の下、当該社員を他の部署に異動させる義務を負うことがあります。

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執筆弁護士

弁護士 榊原 誠史
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士榊原 誠史(東京弁護士会)
弁護士 中村 和茂
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所弁護士中村 和茂(東京弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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