離席の多い従業員の対処法

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

「離席」と一口に言っても、その理由は様々です。喫煙やトイレ、私用電話などが一般的ですが、その時間や頻度によっては周囲の従業員にとって不満の種となる可能性があります。
では「あの人は離席ばかりしている」と問題になったとき、会社としてはどうするべきでしょうか?単純に「離席=悪」とするのも早合点です。会社に求められるのは一方的な感情による処分ではなく、調査のうえで適切に対応することです。
離席をよくする従業員がいるな、と思われたら本稿の内容をご確認下さい。

従業員の離席が多いことで考えられる問題点とは

よく離席する従業員がいると職場でどのような影響が発生するでしょうか。良い影響で無いことはもちろんですが、会社として特に気をつけておくべきは以下の2点です。

周囲の従業員が不満を持つ

離席が制限なく許されてしまうと、最小限の離席でしっかり仕事をしている優秀な従業員ほど損をしているように感じてしまいます。

もちろん、実態上は昇給や賞与の面でその頑張りを評価し、会社としてはきちんと差をつけているかもしれません。しかし、離席によって実質的に業務時間が減っている従業員に満額の給料が支払われていれば、不満を持つなと言う方が難しいでしょう。

さらに、その従業員が特に注意されず、会社がなにも対応しないのであれば、会社に対しての不信感に繋がってしまいます。

生産性の低下に繋がる

離席の多い従業員は業務が頻繁に中断するので、集中力が途切れがちです。そのため生産性が低下するというのは想像に難くないでしょう。
しかし、さらに問題なのは、本人の生産性の問題だけでは終わらない可能性がある点です。

職務怠慢な従業員がいる環境では周りの従業員の生産性も低下する恐れがあると言われているのはご存じでしょうか。ある心理学の実験では、怠慢な人物が1人居るだけでチームの生産性が30~40%低下したという報告もあるくらいです。そうなってしまうと会社にとって大きな損失ですので、生産性低下が周りに波及しないよう早急に対処することが大切です。

必要以上の離席に違法性はあるのか?

では必要以上に離席することは違法だといえるでしょうか。
合理的な理由も無く、不必要に離席を繰り返した場合には、その行為に違法性が認められる可能性はあります。しかし離席のすべてが従業員の悪意によるものではありません。やむを得ずといった事情もあり得ることを認識しておきましょう。

判断のポイントについて解説していきます。

従業員は職務に専念する義務を負う

従業員は会社と雇用契約を結ぶことで、就業時間中は与えられた職務を誠実に行う「職務専念義務」が発生します。もし、離席に合理的な理由がなく、必要以上に行っているのであれば、この職務専念義務に違反しているといえるでしょう。
就業規則の服務規定として記載していることも多いので、一度規則の内容をご確認下さい。

職務専念義務の詳細については以下のページをご参照下さい。

会社が許容すべき離席理由とは

単純に離席回数が多いと言っても全てが職務専念義務に違反するわけではありません。例えば体調不良や病気などでトイレの回数が多くなるといった場合や、保育園や家族の急を要する事情で各所へ電話するといったケースもあるでしょう。

このように、離席に合理的な理由がある場合は仕事と両立する上で必要な対応となりますので、相当程度内であれば会社としては許容すべきといえます。

離席の多い従業員にはどう対応すべきか?

何度も離席をしている理由が職務専念義務違反にあたるものなのか、もしくは許容すべき内容なのかをまず確認することが必要です。確認した上で、会社としての対応を検討しましょう。

ただし、離席の理由がなんであれ、会社の対応が遅ければ周囲の従業員のモチベーション低下に繋がってしまいますので、迅速な対応が求められます。
手続きの流れは以下の通りです。

離席回数の記録・離席理由の調査

実際にどの程度の離席が発生しているか記録を取っておきましょう。
これは従業員と面談するに当たって「離席が人より多い」と抽象的に話すよりも、「1時間に10分の離席を繰り返しているので、合計で1日1時間以上の離席になっている」と客観化・具体化したほうが従業員にも重大さが伝わります。そのうえで、離席となった理由をヒアリングしましょう。

ヒアリングにあたっては会社として許容すべき理由である可能性もありますので、「怠慢だ」等の先入観をもって行わないよう注意しましょう。

口頭・書面による注意

記録・調査の結果、合理的な理由がないのであれば、まずは口頭もしくは書面による注意を行いましょう。その際には指導票を作成し、「いつ」「誰が」「どのような指導を行ったか」を記録します。

こうした記録を残すことで、何回指導したのか、どのように指導したのかを可視化することができます。記録があれば、その後の離席を繰り返した場合に対処もしやすくなります。

懲戒処分の検討

口頭・書面による注意を経ても改善が見られない場合には懲戒処分を検討することになります。まずは会社の就業規則にどのような懲戒処分が規定されているのか確認しましょう。離席の程度や悪質性にもよりますが、軽度の懲戒から対応していくことが一般的ですので、譴責等比較的軽い処分の検討から始めます。

懲戒処分の程度を決定するにあたっては今までの経緯も考慮することになりますので、注意の際に作成していた指導票が活用できます。どのような指導をどれだけ行っていたのかも踏まえて処分を決定しましょう。

懲戒処分については以下のページで詳しく解説しています。

離席が多いというだけで解雇することは困難

では、懲戒処分を段階的に上げていき、最終的には離席が多いという理由だけで解雇が可能かというと難しいと言わざるを得ません。

現在の司法においては、解雇は解雇権の濫用等厳しい判断が下されることが多くなっています。もし、離席が多いという事由に加えて、その他の重大な背信行為等があった場合には、総合判断として解雇の選択が可能になる可能性はあります。

いずれにしても、従業員の解雇を検討する場合は、専門家にあらかじめ相談しておきましょう。

他の従業員からの苦情が出た場合の対応

他の従業員から苦情が出るということは、既に周囲の従業員の生産性に影響が出ている状況です。会社は早急に対応する必要があります。会社として問題を認識しているのか、認識しているのであればどのように対応していくつもりなのか等、ある程度の情報開示を行う事も有効でしょう。

しかし、合理的な離席理由があるのであれば会社として配慮方法を検討しなければなりません。調査した上で、従業員の個別事情として会社が認めたのであればその旨を周囲の従業員にも理解してもらう必要があります。その際、従業員の私生活にかかわる点など情報開示をどこまでするのかについては、あらかじめ当該従業員とよく協議しておきましょう。

離席回数を制限することはできるのか?

離席回数の制限は妥当性のある目的であれば有効ですが、あまりにも従業員へ大きな負担をかけてしまうような制限は違法となる可能性があります。

喫煙であれば制限しても問題ないと思われますが、トイレなどの生理現象を制限することには限界があります。職務専念義務があるとはいえ、1日に1回しかトイレの離席を認めない、というのは現実的ではありません。制限する程度や行為の具体性については慎重に検討しましょう。

制限を設定したとしても一律に対応するのでなく、体調が悪いといった事情があればその点は考慮が必要です。

従業員の離席を許可制としても良いか?

許可制とする場合にも一定の妥当性は必要です。どのような行為について許可を必要とするのか具体的にしておきましょう。しかし、すべてのケースで許可制が可能ということではありません。離席理由によっては許可制とすること自体が不適切であると判断される可能性もあります。

離席の許可制が違法となるケース

許可制を導入する場合にはどのような理由で、どのような行動を制限するのか明確にしておきましょう。通常、トイレ利用は生理現象なのでそもそも不許可とすること自体が困難と考えられます。

私用電話についても緊急の場合にまで許可が必要となると、許可する上司がいなかった場合、従業員へ大きな不利益を招く恐れもあります。許可制を導入する目的とその合理性が明確で無い場合は違法になる可能性があることを十分認識しておくべきでしょう。

ただし、特に体調不良などの理由無くトイレに長時間こもってスマートフォンでゲームをしているなど、明らかに怠慢といえる状況であれば許可制如何にかかわらず注意と指導を行いましょう。

離席の多い従業員の残業を禁止できるか?

離席が原因で、所定労働時間の業務が終わらず残業が発生しているのであれば、無益な残業代が発生することになるので会社としては禁止したいところです。残業を事前許可制とし、上司から残業の必要性を確認すれば、所定労働時間内の働き方について指導する良い機会にもなります。

ただし、禁止したからといって、従業員が無断で行った残業が無効になるとは限りません。残業していることを知っていながら注意せず残業を行わせていたのであれば、それは黙示の残業指示となるので残業代の支払が必要です。残業を認めないと判断した場合には、従業員が居残らないように注意しましょう。

頻繁な離席を防止する社内ルール・就業規則

頻繁に離席しないよう会社のルールとして就業規則に規定することは可能です。
一般的服務事項として「勤務中は、上司の許可無く職場を離れないこと」等と規定している会社も多いのではないでしょうか。

服務規定違反を懲戒事由の1つとして定めておけば、懲戒処分の対象として検討することは可能です。ただし、懲戒にあたっては過剰な処分とならないよう慎重に判断することが必要です。

すでに該当社員がいるのであれば、朝礼や社内通達などで改めて「必要性のない離席を繰り返さないように」と注意を促すことで改善が見込める場合もあります。まずは会社として理由の無い頻繁な離席は認めていないという姿勢を明らかにしましょう。

就業規則については下記ページにて解説しています。

メンタルヘルス不調との関連性について

離席理由は様々ですが、なかにはメンタルヘルスの不調によって離席してしまうケースがあることはご存じでしょうか。

社内の職場環境が悪化し、直接的に被害者になる等、自席にいることが苦痛になっていることもあります。特にハラスメントなどでは被害者ではない周囲の人間も、その環境にいることで精神的ストレスを抱えてしまうことがあります。

会社として慎重に対応すべき事案ですので、離席理由をヒアリングする場合には、メンタルヘルス不調の可能性も考慮しながら行いましょう。

メンタルヘルスの不調に陥っている場合には、職場環境の改善に加えて従業員へ医師との面談や休職など必要な対応が発生します。
ただの離席と軽視せず、大きな問題が隠れている可能性も考えて対処しましょう。

メンタルヘルスについての詳細と対応は下記ページにて解説しています。

業務中の離席が争点となった判例

業務中の離席で大きく問題になるのは、離席中の時間が労働時間に該当するのか、といった点でしょう。
仕事をしていないのだから労働時間ではないと考える方が多いと思いますが、離席時間を労働時間としてカウントするのかどうかについては、裁判でも判断が分かれています。離席して労務提供がなかったという一事だけをもって判断するのでは無く、その他の事情も踏まえた総合判断となる可能性が高いでしょう。

喫煙時間が労働時間に当たると肯定された裁判例をご紹介します。

【事件の概要】
居酒屋チェーン店の店長Xが急性心筋梗塞を発症した労災事件について、長時間労働が原因となっているかが争われた事案です。

Xは1日20~40本程度喫煙しており、一審では、この喫煙時間は休憩時間であり、労働時間には含めないと判断されました(休憩時間があり、過労死ラインとなる長時間労働に当たらないと判断された)。しかし控訴審では、この喫煙時間は休憩時間には当たらず、手待時間(待機時間)として労働時間に含めるべきと判断されました(長時間労働を原因とする急性心筋梗塞であると認定された)。

【裁判所の判断(平成21年(行コ)第7号・平成21年8月25日・大阪高等裁判所・控訴審)】
休憩時間とは、労働者が休息のために「労働から完全に解放されることを保障される時間」であることが明示されました。

本事案においては、Xとアルバイト1人で店舗を運営している時間がほとんどであり、店舗内の更衣室で喫煙していてもアルバイトで対応できない場合には直ちにXが対応する必要がありました。このように、なにかあれば即、実労働に戻ることが必要とされるような状況は、休息が保障されているとは言い難く、本事案における喫煙時間は、休憩時間では無く、「手待時間」であり、労働時間と評価するべきである、とされています。

【ポイント・解説】
本事案では、飲食店という業態柄、一斉のまとまった休憩が難しく従業員も少なかったため、Xが「完全に」労働から解放される休憩時間をとることが困難になっていました。また、喫煙場所も店舗内に限定されており、喫煙していても、対応の必要が生じればすぐに対応できる状況であったことを総合評価すると、Xの喫煙時間は完全に労働から解放されているとはいえず、労働時間に当たると判断されました。

喫煙時間自体は労務に服しているわけではありませんが、労働から解放される状況では無かった点を踏まえて労働時間として評価されています。

この裁判では、喫煙時間を労働時間としてカウントしていますが、自社では喫煙時間をどのように考えているでしょうか。
非喫煙者にとって喫煙は単なる嗜好の時間と捉えがちですが、一方、喫煙者からするとタバコミュニケーションで仕事の一種だとする考えもあるでしょう。喫煙時間の制限等を行う場合には社内の公平感を保つ面から、双方に配慮したルール作りを行いましょう。

必要以上に離席が多い従業員への対処法でお悩みなら、企業の労働問題を得意とする弁護士にご相談ください

もし離席が多いなと感じたら、もし周りの従業員から苦情があったら、会社としては素早い対処が必要になります。
しかし、すべてが怠慢による離席とは限りません。丁寧に調査すると大きな問題をはらんでいる可能性もあります。どう調査するべきか、どう対応するべきか。少しでも悩まれたなら弁護士法人ALGへご相談下さい。
企業の労働問題を得意とする弁護士であればヒアリング調査から懲戒処分、防止策としての就業規則など幅広くアドバイスが可能です。

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執筆弁護士

執行役員 弁護士 谷川 聖治
弁護士法人ALG&Associates 執行役員 弁護士谷川 聖治(愛知県弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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