持続的に企業経営をしていくうえで必要な人財定着

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

数十年前までは終身雇用が一般的でした。そのため、「人財定着」について取り組む企業は少なかったのではないでしょうか。しかし、現代においては非常に重要な課題となっています。
持続的に企業経営を行っていくには優秀な人財を登用しなければいけませんが、定着させるのはさらに難しい問題です。2022年に経産省から人材版伊藤レポート2.0が公表されてから、人的資本経営という言葉を目にする機会も増えているでしょう。
安定的な経営には「人」を重要な資本として根付かせることが必要不可欠なのです。本稿では、人財定着の必要性や定着させるための具体的な取組まで解説していきます。自社の離職率が気になる、幹部となる人財が定着しないなどのお悩みがあれば是非参考にしてください。

目次

持続可能な経営のために必要となる「人財定着」

ある論文によると、AIによって20年後には今の仕事の50%近くが代替可能になるといわれています。実際に、アプリの活用等によって銀行の窓口人員の減少などを実感されている方も多いことでしょう。

では、コンピューター等ITツールを導入すれば、人財は必要なくなるかといえばそうではありません。採用人数を減らすことは可能かもしれませんが、会社を運営していくためには新しい観点や意見を発信してくれる多様な人財、機関部門を支える人員など、会社の屋台骨となる従業員が会社に定着しなければ安定的に持続することはできません。コンピューターによる効率化が実現したとしても、優秀な「人財」が不要になるということは決して無いのです。

人手不足が深刻化している背景

人手不足が深刻化している原因は主に2つ考えられます。
まず、1点目は少子高齢化の進行が上げられます。内閣府の高齢社会白書によれば、生産年齢人口である15~64歳人口は、2065年にピーク時の半分まで減少することが見込まれています。さらに出生数の減少についてはすでに、80万人を割っており、予測値を上回るスピードで少子化が進行しています。今後若い労働力の獲得がますます難しくなっていくことは容易に想像できるでしょう。

人手不足の原因の2点目は転職市場の活性化です。
現代では、終身雇用という考え方は希薄になりつつあります。転職を選択する心理的ハードルは低くなり、自身のキャリアやより良い労働条件を求めて転職する傾向は高まっています。転職希望者は2016年以降、毎年増加傾向となっており、現在では約968万人に上るというデータもあります。

労働力人口の減少と転職が容易になったことで、人財定着は企業の喫緊の課題となりました。

人手不足を助長する離職者の増加と企業への影響

採用をしても人が定着せず、離職者が増えると慢性的な人手不足に繋がります。しかし、企業への影響は短期的な人手不足という問題だけではありません。中長期的な視点で見れば、人手不足が継続することで、会社の基幹となる人財を育成することができず経営に大きな打撃を与える可能性もあります。

以前は「入社3年はその会社で頑張る」という風潮がありましたが、近年では3ヶ月未満での離職者も増えています。離職者が増加するということは、新しい従業員の採用や教育コストが積み上がっていくことに繋がります。

また、人手不足によって在籍している従業員に業務が集中してしまうと残業が増え、過労のリスクも発生します。離職者の増加は企業の人事面や財務面など多方面に影響を及ぼす問題といえます。

退職および解雇については下記ページより詳細をご確認ください。

従業員が離職する主な原因とは?

従業員が離職してしまう原因は何でしょうか。
もちろん転職市場が活性化したことによって、より条件の良い会社へ転職するための離職もあります。しかし、すべてがキャリアアップのための離職ではありません。

育児や介護などの社内制度が整っておらず、家庭の事情によって離職する従業員もいます。離職には前向きな理由だけでなく、やむを得ず離職するケースもまだまだ多く存在します。近年増加している離職理由について解説していきます。

近年増加しているメンタルヘルス不調による離職

近年メンタルヘルス不調によって休業・退職する従業員が増えています。
メンタルヘルスとは心の健康状態を指します。メンタルヘルス不調となれば、たとえ休職等に至らなくても生産性の低下は避けられません。メンタルヘルス不調は企業にとって大きな損害に繋がる重大な問題なのです。

労契法第5条にも使用者の義務として、社員の心身健康を損なうことがないように注意することが定められています。ストレスチェックの活用やカウンセリングの導入などメンタルヘルス不調を未然に防ぐ対策をとることで、貴重な人財を損なうリスクを軽減できるでしょう。

メンタルヘルス不調の主な原因は、長時間労働・人間関係(ハラスメント等)・職場不適当(配置転換等)があげられます。
労務管理や職場改善によって長時間労働、人間関係を改善していくことはある程度可能です。しかし人事戦略上、配置転換等はやむを得ない側面がありますので、昇進や配置転換などの役割の変化が起きた従業員に対しては、初期に定期面談を行う等フォロー体制を構築しておくと良いでしょう。メンタルヘルス不調を未然に防ぎ、安心して活躍できる職場環境作りを目指しましょう。

メンタルヘルスが人財定着に及ぼす影響については下記ページよりご確認ください。

メンタルヘルスについての詳細は下記ページをご覧下さい。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う「コロナうつ」

日本の就業環境に大きな影響を与えた新型コロナウイルス。現在は第5類に分類され季節性インフルエンザと同じ扱いとなりましたが、発生当初は環境変化の激動によっていわゆる「コロナうつ」になる労働者も多く見られました。

「コロナうつ」は正式な診断名ではありませんが、一般的には新型コロナウイルス感染症による環境の変化等が引き起こすうつ症状を指します。在宅勤務やオンライン会議、時差出勤などワークスタイルの急激な変化や、外出制限によってストレス解消が難しくなるなどが主な原因としてあげられます。

外出制限はなくなりましたが、リモートワークの継続などは人によっては苦痛に感じることもあり得ます。コロナが収束すれば、コロナうつも収束するということではありません。コロナウイルスによって起きた大きな環境変化が、いまだに従業員の心身に大きく影響を及ぼしている可能性もあります。

これを契機として、今一度従業員の心の健康を考えてみましょう。

人財定着を目指す「リテンション・マネジメント」とは?

「リテンション・マネジメント」を行う企業は年々増加しています。
リテンションとは一般的に、保持・継続などの意味があり、マーケティングにおいては顧客を対象とする用語ですが、人事上は従業員を対象としています。つまりリテンション・マネジメントとは、優秀な人財が長期的に組織で能力を発揮するための管理施策といえます。

優秀な人財、または今後が期待される人財という点で、従来は若手の従業員が主な対象とされてきました。しかし、近年では人手不足の影響もあり、対象となる従業員は若手にとどまらず経験を見込んだ中途採用者やそれ以外の非正規社員も対象とする企業が増えています。

リテンション・マネジメントとは人財の定着を目指す取組です。つまり、従業員にとって働き続けたいと思える就業環境がどのようなものなのかを把握することから始めてみましょう。

企業がリテンション・マネジメントを行うメリット

リテンション・マネジメントは離職者を減らし、人財定着の向上を目指して行う取組ですが、一朝一夕で効果が得られるわけではなく、継続的な取組が必要です。

また、企業が行うマネジメント施策は、採用・教育や人事評価制度、就業環境の整備など多岐にわたりますが、まずは現状を把握し、自社の課題に合わせた施策を行うようにしましょう。

リテンション・マネジメントを行うにはコストと労力が必要です。しかし、リテンション・マネジメントを行うことで企業には以下のようなメリットが見込まれます。

  • ① 採用や教育コストの抑制
  • ② 従業員エンゲージメントの向上
  • ③ 業務効率や生産性の向上
  • ④ 社内ナレッジの蓄積
  • ⑤ 企業経営の安定性

リテンション・マネジメントの具体的な取り組み

リテンション・マネジメントの具体的な取り組みは企業によって様々です。厚生労働省の調査では以下のような具体的施策が対象となっています。

  • 職場での意思疎通の向上
  • 本人の能力・適性にあった配置
  • 採用前の詳細な説明・情報提供
  • 教育訓練の実施・援助
  • 労働時間の短縮・有給休暇の積極的な取得奨励

上記は一例に過ぎません。自社の状況に合わせてどのような施策が効果的なのかを検討した上で実施しましょう。
検討にあたっては第三者としての専門家のアドバイスも参考にするとよいでしょう。リテンション・マネジメントとしての具体例をいくつかご紹介していきます。

EAP(従業員支援プログラム)の導入

EAPとはメンタルヘルス不調者の復帰支援など、働く人の業務パフォーマンスやモチベーション向上を目的とした専門サービスをいいます。厚生労働省の指針には、メンタルヘルスには以下の「4つのケア」が重要とされています。

  • ① 労働者自らが行う「セルフケア」
  • ② 管理監督者が行う「ラインによるケア」
  • ③ 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
  • ④ 事業場外資源によるケア

EAPは④のケアに該当し、ストレスや過重労働、ハラスメント問題等によって影響を受けている従業員に専門的な援助を行うことが主な目的となっています。

EAPのサービスは、個別カウンセリングやストレスチェック・人事担当者等へのアドバイスや社員教育等多岐にわたります。そのため、各団体によってそれぞれ得意分野や特徴が異なります。自社のニーズや利用目的を明確にした上でEAPプロバイダーを検討しましょう。

EAPを導入するうえでのメリットについては下記ページにて解説しています。

仕事と生活の調和がとれた働き方を実現

ワーク・ライフ・バランスという概念は広く浸透していますが、バランスは個々の従業員によって異なります。
子育てや介護の時間が必要な従業員もいれば、キャリア構築のため仕事に専念したい人もいるでしょう。

仕事と生活を両立させるためには、従業員がライフステージに合わせて働ける体制も重要なポイントとなってきます。少なくとも育児・介護の制度整備や有給休暇取得が法定以下の内容となっていないか、労働時間の管理体制が適切に運用されているのかなどは確認しておくべきでしょう。その上で、自社の従業員のニーズに合った多様な働き方を検討することで、従業員が長く働ける職場環境作りに繋がっていきます。

法定の制度について不安がある場合には、弁護士など専門家のチェックを受けてみると良いでしょう。

育児・介護休業についての詳細は下記ページよりご確認下さい。

休暇については下記ページで解説しています。

労働時間については下記ページをご確認ください。

入社後のミスマッチを防ぐ採用時の対策

厚生労働省の雇用動向調査で毎年上位を占める離職理由は、以下の4点です。

  • ① 労働時間・休日等の労働条件が悪かった
  • ② 給与等収入が少なかった
  • ③ 仕事の内容に興味を持てなかった
  • ④ 職場の人間関係が好ましくなかった

①の労働条件については残業時間を実態よりも低く見積もって伝えていたり、実は休日出勤があるなど、想定と現実に乖離がある場合に離職に繋がることが多いでしょう。③についても仕事の具体的な内容を面接時に説明できていなかったり、求める能力が曖昧であると入社後のギャップに繋がります。

入社後のミスマッチを防ぐには、まず採用時に求める能力や人物像を明確にし、採用担当者間で共有しておきましょう。
人物像が明確にならない場合には、自社で長く活躍している従業員の共通点を探ることで、自社とマッチする特性を絞り込む事もできます。

また、労働条件や仕事内容についても実態に則した説明を行いましょう。入社を促すために、実際よりも良く見せようとする説明は入社後の早期退職に繋がってしまいます。急がば回れ、ではありませんが、早期退職になる可能性が高い状態で採用しても、結局は採用コストを増加させる悪循環に繋がってしまいます。

採用については下記ページよりご確認ください。

キャリアアップ・スキル向上の支援

人的資本経営の高まりとともにリスキリングについても注目されています。
新たな知識やスキルの習得を後押しできる環境は、キャリアアップを考える従業員にとっては魅力的な職場です。意欲のある従業員の獲得に繋がりますので、今後積極的に取り組む企業も増えてくるでしょう。社内で教育の機会を設ける以外にも、社外の教育期間の費用負担や、受験直前の特別休暇の付与なども支援となります。副業・兼業を認める体制も、従業員のキャリアアップやスキル向上に繋がる施策です。

働き方改革の浸透によって「働きやすさ」は改善傾向にあるでしょう。しかし、それだけでは人財定着は難しいといわれています。
近年、「成長」を実感できる職場を求める労働者が増えています。今後は「働きやすさ」と成長できる職場環境、つまり「働きがい」のある職場の両輪がリテンション・マネジメントの重要な要素となるでしょう。

福利厚生の充実

福利厚生としてのリテンション・マネジメントは、以下のような施策が例として挙げられます。

  • テレワーク・在宅勤務の導入
  • リフレッシュ休暇
  • カフェテリアプラン
  • 資格取得補助・手当
  • スポーツジム利用など健康増進支援
  • 子育て支援

これらは法律で規定されるものではなく、会社が独自の取組として行うものです。
従業員がずっと頑張って働きたいと思える環境を作るには、どのような内容が適しているのか吟味する必要があります。やみくもに実施するよりは、従業員へアンケートを実施して施策内容を決定する方が、従業員満足度の向上にも繋がるでしょう。

福利厚生の内容は求人の掲載ではアピールポイントにもなりますので、活用した従業員の声を集めるなど、導入後も今後に活かす工夫を行いましょう。

人財定着を向上する上で必要な取り組みについて、経験豊富な弁護士がアドバイスさせて頂きます。

人財を定着させるためには就業環境を健全に保つことが大切です。まずは、労務管理や制度整備について確認した上で、定着率向上に向けた社内ニーズの把握を行いましょう。

しかし、新たに導入したマネジメント施策も不備があればうまく機能しなくなってしまいます。導入した施策をうまく活用するには、第三者からのアドバイスも有効です。リテンション・マネジメントの取組に疑問があれば弁護士へご相談ください。弁護士であれば法律に則った制度導入をサポートできるだけでなく、自社独自の取組内容についてのリーガルチェックを行うこともできます。

人財定着に関するQ&A

人財定着はいまや企業にとって最重要課題の1つといえるでしょう。
労働力人口の減少は今後も加速することが予想されます。AIの活用は対策の1つとしては有効ですが、それだけで人手不足を完全に解消することはできません。人的資本経営の高まりも影響し、企業は単なる「人材」ではなく、「人財」として活躍してもらえる環境を整えていく必要があります。

本稿では、人財定着に向けてどのような対策が必要とされるのか、その代表例をQ&A方式で解説していきます。ぜひ最後まで読んでいただき、貴社の事業経営にお役立てください。

風通しの良い職場環境を作るには、どのような方法が有効でしょうか?

風通しの良い職場環境に定義はありませんが、一般的には職場の上下関係がフラットで、自分の意見を述べやすい環境を指すことが多いでしょう。
風通しの良い職場では、社内コミュニケーションが活発となりますので、新たなアイデアの創出や、情報共有による社内ナレッジの蓄積、従業員のモチベーションアップなどが期待できます。このような職場では人間関係もトラブルが少なく、従業員の意欲も高いため、離職率が低下するといわれています。

風通しの良い職場環境作りとして、1on1ミーティングや心理的安全性の構築、フリーアドレスの導入など、企業によって手段は様々です。コミュニケーションを促進し、意見交換を活発化させることが目的ですので、まずは挨拶の励行や雑談できるカフェスペースの確保などから始めても良いでしょう。

気をつけて頂きたいのは、自分勝手を許すことが風通しの良い職場では無いということです。自由な意見を尊重するべきですが、間違った行動や発言に対して適切に指摘できることも風通しの良い職場の条件です。

ストレスチェックの実施は、メンタルヘルス不調による離職の防止に繋がりますか?

ストレスチェックの実施を、メンタルヘルス不調による離職防止に繋げることは可能でしょう。ただし、ただ実施するだけでは不十分です。ストレスチェックは、以下の2点を目的として行いましょう。

  • ストレスチェックの結果から従業員自身が、自分の心の健康を振り返る
  • データを分析して自社の現状を把握し解決策を講じる

ストレスチェックの結果は従業員本人にのみ通知されますので、チェックと合わせて従業員へセルフケアの講習を行うなど、従業員自身にも心のケアを考えてもらう必要があります。あわせて管理職に対してはラインケアの研修を行いましょう。

高ストレスと選定された場合、医師による面談指導を受けることができますが、実際に申し出るのは高ストレス者の5%程度といわれています。従業員自身に自分のメンタルヘルスを意識させ、不調が発生する前に相談できる体制作りを進めておくことで離職を防止することができます。

会社が個々の結果を把握するにはあらかじめ従業員の同意を得ることが必要ですが、集団分析のデータを確認することはできます。各部署の経時変化を追うことで、前年以前の状況と比べたり、他部署と比べるなど、相対的な傾向分析が可能です。

気になるデータがあれば調査し、問題点を改善する対策を行いましょう。ストレスチェックを活用したPDCAを繰り返すことで職場環境が向上し、離職防止の効果に繋がっていきます。

ストレスチェックの詳細について下記ページをご参考下さい。

人財定着を促進するためには弁護士に依頼した方が良いですか?

人財定着促進には「働きやすさ」と「働きがい」の2点が重要なポイントとなってきます。
「働きやすさ」を実践するには、まず法定の労務管理や労働環境の整備を行った上で、在宅勤務やフレックス制度、特別休暇等、人財定着を促進する制度について検討していくことになります。

しかし、これらの制度はいずれも法律を正確に把握した上で導入しなければ、制度が瓦解し未払賃金問題等に繋がる可能性があります。働きやすい職場作りがトラブルの種とならないよう専門家を交えて社内制度の整備をすることはとても大切です。

また、「働きがい」についても、人事評価制度等、弁護士が対応できる分野はあります。
人事評価制度は賃金規程にも繋がっていく重要な社内規則ですので、第三者による法的アドバイスは非常に有効といえるでしょう。また、単に導入するだけでは運用としては不十分です。弁護士などの専門家が、管理職などの評価者に対して評価者研修を行うことも重要です。

過重労働による離職を防止するために会社が配慮すべきことを教えて下さい

一般的に過重労働とは長時間の残業や休日出勤等が原因で、労働者の身体・精神に大きな負担が生じる働き方を指します。過重労働が続けば病気やメンタルヘルス不調に繋がるおそれもあり、離職に大きく影響する要素の1つです。

過重労働を防止するには、まず労働時間管理が徹底されているのか今一度体制を見直しましょう。
タイムカードをとっているから、と現場管理がおざなりになってないでしょうか。定時にタイムカードをきった後にサービス残業をしているという状況が社内慣行となっていれば、データには残らなくても、過重労働が発生している可能性があります。

この状況を防ぐのは、システム導入だけでは難しいでしょう。
直接部下の働き方を見ている管理職が労働時間管理の重要性と、過重労働の危険性を正しく認識することがとても重要です。システムによる記録化と管理職による現場管理が両立できれば、過重労働を見逃すことなく、離職を防止できるでしょう。

労働時間の管理体制が整っているのであれば、業務の棚卸しをしてみましょう。属人化した業務が必要性とは関係なく継続していることもあります。無駄な業務をなくし、マニュアル化できれば業務効率化となります。

また、2019年より有給休暇取得促進が義務化されましたが、有給休暇取得を促進することは過重労働の防止に効果的です。どのような制度が自社の状況に効果的なのかは、弁護士など専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。

使用者による労働時間の適性把握義務については下記ページより詳細ご確認ください。

使用者の配慮義務については下記ページで解説しています。

キャリアパス制度の導入は、従業員の離職防止に繋がりますか?

キャリアパス制度が導入されていると、自身のキャリアプランを描きやすく、働きがいのある職場となります。

特に成長実感を求める従業員にとって、今後のキャリアの見通しが立たないということは大きなデメリットです。キャリアパス制度は意欲のある人財にこそ効果的な離職防止措置といえるでしょう。

また、キャリアパス制度があることで、会社が求めるスキルや人財像を明確に示すことができます。方針を共通認識できるようになれば、人事評価の基準も明確になり公平な評価に繋がるでしょう。

評価面談の際にも、昇進のためにどのスキルが不足しているのかなどをアドバイスすることができます。採用場面においても、内定者のスキルや経験に対する役職や等級決定が容易となるでしょう。

キャリアパス制度の導入には労力が必要ですが、従業員のモチベーション向上や優秀な人財確保といったメリットが期待できます。

ハラスメントによる離職を防止するために、企業はどのような措置を講じるべきでしょうか?

ハラスメントには代表例としてセクハラ、パワハラ、マタハラ等がありますが、いずれも離職に繋がる要因となり得ます。

職場のハラスメント防止は、企業に対応義務があります。まずはハラスメントを許さないというトップからのメッセージを発信しましょう。あわせて就業規則の整備や相談窓口を設置し従業員へ周知することも必要です。

さらに管理職へのハラスメント研修を定期的に行い、ハラスメントを防ぐ体制作りを行いましょう。そのほか法律で定められてはいませんが、定期的に従業員へアンケートを行うことも効果的とされています。窓口へ相談に行くよりもアンケートに記入する方が、心理的ハードルが下がりますので、相談の促進に繋がります。一人で悩まずに相談してもいいんだ、という風土が浸透すれば離職になる前に対処できる事案も増えてくるでしょう。

ハラスメントによる離職者は約90万人ともいわれます。厚生労働省の調査では、ハラスメント対策によって求職者や離職者の減少に繋がったという評価もあります。もし社内のハラスメント対策が未着手なのであれば、すぐに取りかかりましょう。法定の制度整備等、不安があれば弁護士へご相談ください。

ハラスメントについては下記ページをご確認ください。

ハラスメントを防止するために取るべき対応策については下記ページで解説しています。

EAPの導入研修はどのように進めていくと良いでしょうか?

EAP(従業員支援プログラム)を導入するにあたっては、まず自社の課題把握から始めましょう。サービス内容が自社のニーズと合っていなければ利用率が上がらず、成果が上がらない可能性があります。
EAP導入の目的を明確にしたうえで、サービスデザインを行うとよいでしょう。EAP導入の目的は下記のようなものが多くなっています。

  • 従業員の福利厚生のため
  • メンタルヘルス不調防止のため
  • 社外の相談窓口を設置したい
  • 産業保健体制の強化

導入研修には必ず管理職や人事労務担当者を対象にいれましょう。管理職や人事労務担当者にはメンタルヘルスの重要性を社内へ普及するための核となってもらわなければいけません。

導入研修で理解を促すだけでなく、実際に相談サービスを試してもらうなども理解を深めるのに効果的でしょう。管理職や人事労務担当者がメンタルヘスに対して積極的な姿勢を示せば、部下など他の従業員もEAPサービスを活用しやすい職場環境となります。

研修については初めに1回やれば十分というわけではありません。管理職のメンバー変更等もあるでしょうし、知識は定期的にアップデートしなければ意識することができません。EAP研修は定期的に行うようにしましょう。

研修方法は対面・オンライン・E-learningなどいろんな手法が選択できるようになっています。管理職等へ過度な負担とならない研修方法を検討し、導入するようにしましょう。

従業員の離職率が高くなると、ブラック企業に認定されてしまいますか?

ブラック企業の定義はありませんが、離職率の高い企業に就職するのは求職者としては避けたいという心理が働くでしょう。ブラック企業の一般的な特徴は以下のようなものが挙げられます。

  • ① 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
  • ② 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い

離職率の高さがこのような劣悪な労働環境に起因しているのであればブラック企業といえます。
離職の原因が上記のような労働環境によるものでなければ、社内の判定としてはブラック企業ではないかもしれません。しかし、対外的な評価はどうでしょうか。
離職率の高さの原因は社外の人間にはわかりません。そのため、離職率が高い企業はブラック企業の可能性が高いと認定されてしまうのは避けられないでしょう。

もし、従業員の離職率が高いのであればその原因が何なのか調査を行いましょう。問題を解決し、離職率改善に努めなければ、今いる人財の流出だけでなくこれからの人財の獲得機会も逃してしまうことになります。

従業員の離職防止として、上司と部下のコミュニケーションを活性化するために有効な方法を教えて下さい。

上司と部下のコミュニケーションを活性化するには、機会の創出とコミュニケーションのとり方が重要です。
まず、コミュニケーションを増やすには1on1ミーティングの導入や、雑談スペースの活用、フリーアドレス導入などが挙げられます。

テレワーク社員が多いのであればコミュニケーションツールの導入を検討してもよいでしょう。日本マイクロソフト社では、雑談に限定したTEAMS会議を開催するなど、在宅勤務時のコミュニケーション機会を意識的に作っています。
そのほか、ウォーキング・ミーティングなどのユニークな取り組みを行う会社もあります。会社の業務体制など含めて、取り入れやすい方法を検討してみましょう。

コミュニケーション機会を増やせたら、接し方も工夫しましょう。
上司と部下という関係性を前提に高圧的な態度で行うコミュニケーションは離職防止になりません。以下のような点に注意すれば、円滑なコミュニケーションとなり信頼関係構築に繋がるでしょう。

  • 結論から分かりやすく話す
  • 自分のことを自然に開示する
  • 上司から話しかける
  • 相手が関心を持っていることを話題にする
  • 相手の話をよく聞く
  • 話題を仕事内容に限定せず、雑談も取り入れる

雑談というと、勤務時間の無駄話というマイナスイメージがあるかもしれません。しかし、雑談は相手の考えや重要視するポイントなどを知ることができ、強いチームワークの構築や新しいアイデアにつながるといわれています。

人手不足が問題となっている現状ではチームワークをよくすることで生産性を上げることは非常に重要です。また、コミュニケーションが活発になり、自分の意見を臆することなく発言できるようになれば、職場の心理的安全性が向上し、人財が定着する働きやすい職場となるでしょう。

新入社員の早期退職を防ぐためには、どのような対策が必要ですか?

新入社員が早期退職してしまう理由の多くは、入社前のイメージと入社後のギャップにあります。このギャップを埋められれば、早期退職防止に繋げられるでしょう。

そのためには、面接や求人広告の内容で業務内容や職場環境、条件等をできるだけ具体的に伝えることが大切です。最近であればSNSを活用し、業務中の社内動画をアップし、会社の雰囲気を知ってもらうといった採用手法をとる企業もあります。

入社時の労働契約締結の際にも、条件等について新入社員と認識の齟齬がないか確認しておくとよいでしょう。そのほか、事前に社内の人間が職場環境を伝えられるリファラル採用も、早期退職防止には効果的と考えられます。

また、業務内容に問題がなくても、人間関係による離職もあります。人間関係による悩みは相談できる相手がいるのかが大きなポイントです。しかし、新入社員が上司や人事に相談するのは難しいことが多いでしょう。新入社員には教育係だけでなく、日々の相談ができるメンターを設定しておくと悩みのフォローができます。

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執筆弁護士

執行役員 弁護士 谷川 聖治
弁護士法人ALG&Associates 執行役員 弁護士谷川 聖治(愛知県弁護士会)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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