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通勤実費の調整的相殺の限界

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担当した事務所 ALG 東京法律事務所

事案の概要

通勤交通費として発生した実費を、従業員に支給しているところ、本人へ過剰にこれを支給していた場合、次月給与から過剰分を差し引いていますが、本人が申請した通勤交通費が誤っていた場合や、本人からの申請が遅れて給与締日までに間に合わなかった場合、2か月後や3か月後になってから、過剰分の差引きを行っています。

このような運用は法的に問題ないでしょうか。

「ここからは違法となる」というような目安があれば、それも教えていただきたいです。

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本件は、過払い交通費の返還義務と、給与の支払義務を対当額で相殺(「調整的相殺」と言われています。)することが、賃金の全額払い原則(労働基準法24条1項)に違反しないかが問題となります。

判例は、時期・方法・金額などからみて、労働者の経済生活の安定を脅かす恐れがない場合、賃金全額払いの原則の例外として許容されるとしています(最判昭44.12.18、最判昭45.10.30)。

各項目の考慮の仕方としては次のとおりです。

時期:過払いが発生した日から近接するほど、有効性が高まる。
方法:控除の前の事前予告や、内容を伝えているほど、有効性が高まる。
金額:控除する金額が低いほど、有効性が高まる。

時期については、本人からの申告がなければ会社側として把握しようがなく、かつ、申告後、可能な限り最短の処理で翌々月になる、ということであれば、返還時期について合理性が失われるとは考え難いところです。

方法については、基本的には運用については事前周知して置いたうえで、過剰支給が分かった時点で具体的な金額についても出来る限り早めの事前通知を行うことが望ましいといえます。

金額については、明確な基準があるわけではありませんが、例えば、給与差押えの上限(手取りの4分の1)は一つの指標になるかと存じます。

給与差押えの上限の趣旨も、本人への生活への配慮であり、調整的相殺の制限と類似する趣旨があります。

類似する趣旨かつ裁判所が介在する強制執行手続きである差押えですら、手取額の4分の1を上限としていますので、これを超える控除については、基本的に避ける必要があると考えます。

その他、労基法上、生活保障等の観点から、懲戒処分による減給の限界が10分の1に設定されていることも一つの指標になるかと存じます。

以上踏まえ、あくまで目安として、以下のような考えをもって、運用することが望ましいと考えられます。

  • 控除してはいけない目安:25%
  • 事前予告が要求される目安:10%

どれか一つでも満たさなかった場合に即違法となるものではなく、総合考慮ではありますが、実際の調整的相殺の際には、時期・方法・金額に注意が必要となります。

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