高度プロフェッショナル制度の導入要件
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
高度プロフェッショナル制度は、使用者が導入したい、あるいは労働者が適用を受けたいと思っただけで、導入・適用できるものではありません。制度を利用するにあたっては、いくつかの要件を満たす必要があります。
そこで、本記事では、高度プロフェッショナル制度の導入要件について解説します。高度プロフェッショナル制度に関する他の記事と併せてご覧いただき、理解を深めていただければ幸いです。
目次
高度プロフェッショナル制度の導入にあたって
本記事で導入要件について解説する「高度プロフェッショナル制度」とは、専門的な知識を有し、一定の年収要件等を満たす労働者に対して、労働基準法所定の労働時間の規制対象から除外したうえで、成果に応じて報酬が決まる賃金体系を適用する制度をいいます。2018年6月の労働基準法の改正により新設され、2019年4月に施行されました。
制度の概要や導入することで生じるメリット、デメリット等、詳細については下記の記事でご確認ください。
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高度プロフェッショナル制度導入の要件
高度プロフェッショナル制度を導入するためには、(1)労使委員会で「必要事項」を決議し、(2)決議内容を所轄の労働基準監督署長へ届け出たうえで、(3)制度適用の対象業務に就いている等、一定の要件を満たす労働者から(4)制度を適用する旨について書面で同意を得る必要があります。
ここでいう労使委員会とは、労働者側の代表者2人以上と使用者側の代表者1人以上で成り立つ、労働者側の代表者が過半数を占める委員会です。高度プロフェッショナル制度を導入するためには、必要事項について、委員の5分の4以上の賛成を得て決議する必要があります。
今回は、上述の高度プロフェッショナル制度の導入要件(1)~(4)のうち、特に(1)で問題となる、労使委員会で決議すべき「必要事項」に重点を置いて解説します。
【労使委員会で決議すべき必要事項】
- ① 対象業務
- ② 対象労働者の範囲
- ③ 健康管理時間の把握
- ④ 休日の確保
- ⑤ 選択的措置
- ⑥ 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
- ⑦ 同意の撤回に関する手続
- ⑧ 苦情処理措置
- ⑨ 不利益取扱いの禁止
- ⑩ その他厚生労働省令で定める事項
対象業務の要件
高度プロフェッショナル制度を適用できるのは、対象となる業務(以下、「対象業務」といいます)に就く労働者だけですから、当該制度を導入する前提として、自社の業務内容に対象業務が含まれていなければなりません。
「対象業務」とは、高度の専門知識等を必要とし、かつその性質上従事した時間と成果との関連性が高くないと認められる業務をいいます(労基法41条の2第1項1号)。具体的には、以下の業務が挙げられます。
- ①金融商品の開発業務:金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発業務
- ②ディーリング業務:金融知識等を活用した自身の投資判断に基づく資産運用業務又は有価証券の売買その他の取引業務
- ③市場や株式等に関するアナリストの業務:有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づいて投資に関する助言を行う業務
- ④コンサルタント業務:顧客の事業運営に関する重要事項の調査又は分析、及びこれに基づいて業務改革に関する提案又は助言をする業務
- ⑤研究開発業務:新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務
なお、上記5つに該当する業務であっても、使用者から従事する時間に関して具体的な指示があり、労働者から当該業務に従事する時間に関する裁量が失われているような場合は、対象業務とはなりません。ただし、使用者が業務の開始時に当該業務の目的や目標、期限等の基本事項を指示したり、業務途中で経過の報告を受け、基本事項に関して変更を指示したりすることは、裁量を失わせるような指示には当たりません。
また、対象業務は、部署全体で管轄するものではなく、労働者個人に従事させるものである必要があります。
対象業務となり得ない業務の例
対象業務に該当するように思えるものの、実際には対象業務となり得ない業務があります。具体例について、次項以下で対象業務別に挙げましたのでご確認ください。
①金融商品の開発業務に当たらない例
- ・金融商品の販売、提供又は運用に関する企画立案・構築業務
- ・保険商品又は共済の開発に際してアクチュアリーが通常行う業務
- ・商品名の変更や既存商品の組み合わせのみで行う金融商品の開発業務
- ・もっぱらデータの入力又は整理をする業務
②ディーリング業務に当たらない例
- ・投資判断を伴わない、顧客からの有価証券の売買等の注文の取次業務
- ・ファンドマネージャー、トレーダー、ディーラーの指示を受けて行う業務
- ・金融機関における窓口業務
- ・個人顧客に対する預金、保険、投資信託等の販売・勧誘業務
- ・金融以外の事業を営む会社における自社資産の管理・運用業務
③市場や株式等に関するアナリストの業務に当たらない例
- ・一定の時間を設定して行う相談業務
- ・もっぱら分析のためのデータ入力又は整理を行う業務
④コンサルタント業務に当たらない例
- ・調査又は分析のみを行う業務、あるいは助言のみを行う業務
- ・主に時間配分を顧客の都合に合わせなければならない相談業務
- ・個人顧客を対象とする助言業務
- ・商品・サービスの営業・販売として行う業務
- ・サプライヤーが代理店に対して行う助言又は指導の業務
⑤研究開発業務に当たらない例
- ・既存の商品やサービスに留まり、技術的な改善を伴わない業務
- ・既存の技術等の単なる組み合わせに留まり、新たな価値は生み出さない業務
- ・他者のシステムの単なる導入に留まる業務
- ・専門的・科学的な知識や技術がなくとも行い得る既存の生産工程の維持・改善業務
- ・完成品の検査や品質管理を行う業務
- ・研究開発に関する権利取得に係る事務のみを行う業務
対象労働者の範囲
労使委員会では、高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者(以下、「対象労働者」といいます)の範囲についても決議する必要があります。なお、対象労働者は、通常業務として対象業務に従事していることに加えて、下記の要件を満たしていなければなりません(労基法41条の2第1項2号)。
【対象労働者の要件】
- ①使用者との合意に基づき、職務が明確に定められている
- ②使用者から支払われると見込まれる年間の賃金額が1075万円以上である
※要件①のポイント
- ・「使用者との合意」の方法とは
使用者は、書面(職務記述書)に労働者の署名を受けることによって、職務の範囲について労働者の合意を得ます。なお、書面には、“業務の内容”、“責任の程度”、“求められる成果”の内容を明示しておく必要があります。 - ・「職務が明確に定められている」とは
高度プロフェッショナル制度では、職務の内容が明確に定められていなければなりません。具体的には、(1)業務の内容や責任の程度、職務において求められる成果等の水準が具体的に定められ、職務内容が他の業務と客観的に区別されており、(2)使用者の一方的な指示によって業務を追加することができず、(3)働き方の裁量を失わせるような業務量や成果が求められていないものである必要があります。
※要件②のポイント
- ・「1075万円以上」とは
年収も対象労働者の要件となっています。正確には、基準年間平均給与額の3倍を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上の年収を得ていることが要件とされます。
健康管理時間の把握
労使委員会の決議によって、使用者が対象労働者の健康管理時間を把握する措置を実施すること、及び当該事業場内での健康管理時間の把握方法を明らかにする必要があります。併せて、健康管理時間の開示手続、及び使用者が健康管理時間の状況とともに健康状態を把握することの決議も必要です。
また、医師の面接指導を適切に実施するためにも、日々の健康管理時間の始期・終期(始業・終業時刻)や健康管理時間の時間数を記録するだけでなく、1ヶ月当たりの時間数の合計も把握しなければなりません。
なお、健康管理時間は、後述するとおり客観的な方法によって把握する必要があります。ただし、事業場外で労働した場合でやむを得ない理由があるときは、事業場外で労働した時間について自己申告することが認められています。
健康管理時間とは
「健康管理時間」とは、対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間を合計した時間です。
健康管理時間から労働していない時間を除くことも可能ですが、そのためには、この労働していない時間について、内容や性質を具体的に明らかにしたうえで、客観的な方法によって時間数等を把握しなければなりません。なお、この労働していない時間に手待ち時間を含めることは認められませんし、一定時間を一律に健康管理時間から除くことも認められません。
客観的な方法の具体例
健康管理時間は、「客観的な方法」で把握しなければなりません。具体的には、タイムレコーダーを用いた打刻記録、パーソナルコンピュータ内の勤怠管理システムへのログイン・ログアウト記録、ICカードによる出退勤時刻又は事業場への入退場時刻といった記録に基づき、把握することになります。
やむを得ない理由とは
事業場外での労働時間について自己申告できる、「やむを得ない理由」がある場合とは、具体的には次のような事情があり、勤怠管理システムへログイン・ログアウト等ができない場合を指します。
- ・顧客先に直行・直帰している
- ・事業場外で、資料の閲覧等のパーソナルコンピュータを使用しない作業を行っている
- ・海外出張等をしている
休日の確保
使用者は、高度プロフェッショナル制度の対象労働者に対して、年間104日以上かつ4週間を通じて4日以上の休日を付与しなければならず、労使委員会の決議によって、休日の取得手続を具体的に明らかにする必要があります(労基法41条の2第1項4号)。
なお、長時間労働による労働者の健康障害が発生するリスクが高い当該制度では、使用者は、対象労働者に確実に休日を取得させ、長時間の連続勤務を防止することが重要になります。そのためにも、次の2点に配慮することが望ましいでしょう。
- ・労働者が自身で決定した、年間を通じた休日の取得予定を使用者に通知させ、休日の取得状況を明らかにすること
- ・休日の適切な取得が重要である旨について、あらかじめ対象労働者に周知しておくこと
選択的措置
使用者は、下記の1~5のいずれかに該当する措置、つまり選択的措置を決議で定め、実施する必要があります(労基法41条の2第1項5号)。
なお、いずれの措置とするかを決定する際には、対象となり得る労働者から意見を聴取するべきです。また、複数の対象業務が存在する場合には、対象業務の性質等に応じ、個別に決議することが望ましいとされます。
- 1 勤務間インターバルの確保(始業時刻から24時間以内に11時間以上の休息期間を確保すること)+深夜業の回数制限(1ヶ月に4回以内とすること)
- 2 健康管理時間の上限措置(1週間当たり40時間を超過した時間が、1ヶ月につき100時間以内又は3ヶ月につき240時間以内とすること)
- 3 休日の付与(1年に1回以上、連続2週間の休日を与えること)
※労働者本人が請求した場合は、連続1週間×2回以上とすることができます。 - 4 臨時の健康診断の実施(1週間当たり40時間を超過した健康管理時間が、1ヶ月当たり80時間を超えた労働者に対して実施義務を負う)
※上記の要件に該当しないものの受診を申し出た労働者に対しては努力義務を負います。
健康管理時間の状況に応じた措置
使用者は、決議によって、下記1~6のいずれかから健康管理時間の状況に応じてなすべき措置を定め、実施しなければなりません(労基法41条の2第1項6号)。
- 1 (選択的措置として決議で定めた措置を除いた)残り3種類の選択的措置のいずれか
- 2 医師による面接指導
- 3 代償休日又は特別な休暇の付与
- 4 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
- 5 適切な部署への配置転換
- 6 産業医等による助言指導又は保健指導
当該措置の決定にあたっては、使用者は対象労働者に労働時間に関する具体的な指示はできないものの、労働契約法5条に基づく安全配慮義務を免れるわけではないことに留意する必要があります。
同意の撤回に関する手続
高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、当該制度の適用期間中に同意を撤回することができます。そのため、当該制度の導入にあたっては、対象労働者の同意の撤回に関する手続についても決議しておかなければなりません(労基法41条の2第1項7号)。
決議では、撤回の申出先となる部署や担当者、撤回の申出の方法等、具体的な内容を明らかにする必要があります。加えて、同意を撤回した後の配置及び処遇、又はこれらの決定方法についても決議で定めておくべきでしょう。
なお、同意を撤回したことを理由として、使用者が当該労働者を不利益に取り扱うことは許されないため、同意撤回後の配置等を定める際にはこの点に注意する必要があります。
苦情処理措置
労使委員会では、対象労働者が申し入れた苦情の処理に関する措置を使用者が実施すること及びその具体的な内容についても決議する必要があります(労基法41条の2第1項8号)。具体的には、クレームを申し入れる部署や担当者、どのような苦情を取り扱うか、どのような手順で処理するかといった内容を明らかにしなければなりません。
このとき、使用者や人事担当者等、対象労働者が苦情を申し入れにくい者を担当者に据えることは避けましょう。また、高度プロフェッショナル制度の実施に関する苦情だけしか受け付けないのは妥当ではありません。評価制度や、その他制度に付随する問題に関する苦情も受け付けましょう。
なお、既にある苦情処理制度を利用する旨を決定したときには、高度プロフェッショナル制度の下でも正しく機能するよう、注意を払うことが求められます。
不利益取扱いの禁止
高度プロフェッショナル制度の適用に反対した労働者に対して、不利益な取扱いをしてはならないことも決議する必要があります(労基法41条の2第1項9号)。つまり、使用者は、不同意を理由に、当該労働者の配置及び処遇について不利益に取り扱うことは許されません。
その他厚生労働省令で定める事項
高度プロフェッショナル制度を適用するためには、その他厚生労働省令で定める以下の事項についても決議しなければなりません(労基法41条の2第1項10号)。
- 1 決議の有効期間の定め、及び当該決議は再度決議をしない限り更新されないこと
- 2 労使委員会の開催頻度及び開催時期
- 3 常時50人未満の事業場である場合には、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任すること
- 4 下記①②を1の決議の有効期間中、及びその満了後3年間保存すること
①労働者の同意及びその撤回、合意に基づき定められた職務の内容、支払われると見込まれる賃金の額、健康管理時間の状況、休日確保措置、選択的措置、健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の実施状況に関する対象労働者ごとの記録
②3の選任に関する記録
導入要件をふまえた高度プロフェッショナル制度導入の手続の流れ
高度プロフェッショナル制度は、①労使委員会で必要事項を決議し、②決議内容を所轄の労働基準監督署長へ届け出たうえで、③対象業務に就業する等の要件を満たす労働者から④制度を適用する旨に関して書面で同意を得るといった手続を経ることで導入できます。
手続の流れに関しては下記の記事でご確認ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある