男女雇用機会均等法
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
男女雇用機会均等法とは、職場内での性別による差別をなくし、個々の労働者がその能力を最大限発揮できる環境を作り上げることを目的として、1986年に施行された法律です。
時代の変化に伴い、これまで何度も改正が繰り返されており、それに合わせて、企業の雇用管理体制もアップデートしていく必要があります。
本記事では、男女雇用機会均等法で定められた、募集や採用、昇進や人員配置などにおける差別禁止事項や、企業が違反した際の罰則、労使間で紛争が生じた場合の救済措置などについて解説していきますので、ぜひご一読ください。
目次
男女雇用機会均等法について
男女雇用機会均等法は、会社に雇用されて働く労働者が、性別を理由として差別を受けることがないよう、1986年に施行された法律です。
本法は施行当初、男女の均等な取扱いを努力義務としていましたが、1997年の改正により、労働者の募集や採用、配置や昇進等について、女性に対して差別することが禁止されました。
また2006年の改正により、男性への差別も禁止すること、間接差別の禁止、差別禁止の対象に雇用形態の変更、退職勧奨、雇止め等も追加すること、結婚・妊娠・出産等理由の不利益取扱いの禁止、セクハラ防止措置義務、妊娠中・出産後の母性健康管理等の規定が新設されました。
さらに2017年の改正では、マタハラ防止措置を講じることも義務付けられ、2020年の改正では、セクハラ相談における不利益取扱いの禁止など、セクハラ防止強化の規定も設けられています。
本法は時代とともに変化する法律であるため、それに合わせて、会社の雇用管理体制もアップデートする必要があります。
派遣先に対する男女雇用機会均等法の適用
派遣先の事業主に対しても、男女雇用機会均等法における以下の4点が適用され、派遣労働者に対して、使用者としての責任を負います(労働者派遣法47条の2、47条の3)。
- ①妊娠・出産・産休取得等を理由とする不利益取扱いの禁止(均等法9条3項)
- ②セクシュアルハラスメント防止措置義務(同法11条1項)
- ③妊娠・出産・育児休業等に関するマタニティハラスメント防止措置義務(同法11条の2第1項)
- ④妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(同法12条、13条1項)
したがって、派遣先が派遣労働者の妊娠や出産等を理由に、派遣労働者が十分に働ける状態であるにもかかわらず、派遣契約の更新を行わなかったり、派遣元に派遣労働者の交代を要求したりすることは違法となる可能性があるため、注意が必要です。
公務員等に関する男女雇用機会均等法の適用除外
公務員については、すでに国家公務員法や地方公務員法等において、性別による差別禁止やセクハラ対策、救済制度等が規定されていることから、男女雇用機会均等法における以下の規定が適用除外となります(均等法32条)。
・第2章第1節(性別を理由とする差別の禁止等)、13条の2(男女雇用機会均等推進者の選任)、第2章第3節(事業主に対する国の援助)、第3章(紛争の解決援助等)、29条(報告の徴収等)、30条(公表)は、国家公務員や地方公務員には適用されません
・第2章第2節(13条の2は除く)(セクハラやマタハラの防止措置義務、母性の健康管理など)は、一般職の国家公務員や一定の裁判所職員、国会職員、自衛隊職員には適用されません。ただし、地方公務員には適用されます
募集及び採用における差別
労働者が能力を十分に発揮できる雇用環境を整備するためには、募集・採用という職業生活の入口における男女の均等な機会の確保が重要であり、募集・採用について、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法5条)。
禁止される差別の具体的な内容は、厚生労働省の指針(労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針)(以下、指針といいます)で示されています。
指針では、募集・採用時に禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 一定の職種(総合職、一般職等)や雇用形態(正社員や契約社員等)について、募集・採用の対象を男女いずれかのみとすること
- 「男性歓迎」や「女性向けの職種」等の表示を行うこと
- 男女ともに募集の対象としているのに、応募の受付や採用の対象を男女いずれかのみとすること
- 女性にのみ未婚者や子の不存在、自宅からの通勤等を条件とし、又はこれらの条件を満たす者を優先すること
- 筆記試験や面接試験の合格基準を男女で異なるものとすること
- 採用基準を満たす者のうち、男女いずれかを優先して採用すること
厚生労働省の指針について詳しく知りたい方は、以下をご参照下さい。
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/dl/20000401-30-1.pdf労働条件や労働契約における差別
雇用形態の変更
雇用形態の変更の際に、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法6条3号)。
なお、雇用形態とは、正社員や契約社員、パート・アルバイト等を指します。
指針では、雇用形態の変更時に禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 有期契約労働者から正社員への変更の対象を男性のみとすること
- 女性にのみ婚姻又は子供の存在を理由に、有期契約労働者から正社員への変更の対象から排除すること
- 有期契約労働者から正社員への登用試験の合格基準を男女で異なるものとすること
- パートから正社員への変更基準を満たす労働者のうち、男女いずれかを優先して変更の対象とすること
- 経営の合理化の際、女性のみを正社員から有期契約労働者への変更の勧奨の対象とすること
労働契約の更新
労働契約の更新(雇止め)において、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法6条4号)。
指針では、労働契約の更新の際に禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 経営の合理化の際、男性のみを労働契約の更新の対象とし、女性は契約の更新をしない(雇止め)こと
- 経営の合理化の際、既婚女性についてのみ、労働契約の更新をしない(雇止め)こと
- 男女いずれかのみ、労働契約の更新回数の上限を設けること
- 労働契約の更新時に、男性は平均的な営業成績である場合に更新の対象とするが、女性は特に営業成績が良い場合にのみ更新の対象とすること
- 労働契約の更新の基準を満たす労働者のうち、男女いずれかを優先して更新の対象とすること
人事における差別
配置
労働者の人員配置において、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法6条1号)。
指針では、配置の際に禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 営業職や秘書、企画立案職や事務職など一定の職務への配置の対象を男女いずれかのみとすること
- 女性のみ婚姻や一定の年齢に達したこと、子を有することを理由に、企画立案業務への配置対象から排除すること
- 一定の職務への配置試験の合格基準を、男女で異なるものとすること
- 営業部門への配置基準を満たす労働者のうち、男性を優先して配置すること
- 男性には通常業務のみに従事させ、女性には通常の業務に加え、お茶くみ等の雑用を行わせること
- 営業部門で、男性には顧客の開拓等をする権限を与えるが、女性には付与しないこと
- 経営の合理化に際し、女性のみ出向させること
昇進
労働者を昇進させる際に、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法6条1号)。
指針では、昇進の際に禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 女性にのみ役職への昇進の機会を与えない、又は一定の役職までしか昇進できないとすること
- 女性にのみ結婚したこと、一定の年齢に達したこと、子供がいること等を理由として、昇格できない、又は一定の役職までしか昇進できないとすること
- 昇進試験の合格基準を男女で異なるものとすること
- 一定年齢に達した男性には全員役職に昇進できるようにするが、女性には同じ扱いをしないこと
- 一定の役職への昇進基準を満たす労働者のうち、男性を優先して昇進させること
現在でも、日本の女性の管理職登用比率は低いため、会社として女性労働者の活躍を推進するために必要な措置を講じる必要があります。
降格
労働者を降格させる際に、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法6条1号)。
指針では、降格において禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 一定の役職を廃止する際に、当該役職に就いていた男性については同格の役職に配置転換するが、女性は降格させること
- 女性のみ、結婚又は子供がいることを理由に、降格の対象とすること
- 営業成績が悪い者を降格の対象とする方針を定めている場合に、男性については営業成績が最低の者のみを降格の対象とするが、女性については営業成績が平均以下の者を降格の対象とすること
- 一定の役職を廃止する際に、降格の対象となる労働者を選ぶにあたって、男性よりも優先して女性を降格の対象とすること
退職・解雇における差別
退職の勧奨
退職の勧奨を行う際に、性別を理由とした差別は禁止されています(均等法6条4号)。
なお、退職勧奨とは、会社が労働者に対し「辞めてほしい」と伝え、退職を勧めることをいいます。
指針では、退職の勧奨時に禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 女性にだけ早期退職制度の利用を勧めること
- 女性にだけ子供の存在を理由に退職の勧奨をすること
- 既婚女性にのみ退職の勧奨をすること
- 退職勧奨を行う際に、男性については最低の人事評価がなされている者のみ退職の勧奨の対象とするが、女性については特に優秀な評価がなされている者以外は退職の勧奨の対象とすること
- 男性よりも優先して、女性に退職の勧奨をすること
- 退職の勧奨の対象とする年齢を女性は 45歳、男性は 50 歳などと年齢差を設けること
解雇
労働者を解雇する場合、性別を理由として不当な解雇を行うことは禁止されています(均等法6条4号)。
そのため、例えば、リストラ等を行う際に、女性労働者のみを解雇の対象とすることは認められません。
指針では、解雇の際に禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 経営の合理化の際、女性のみ、又は既婚女性のみを解雇の対象とすること
- 一定年齢以上の女性のみを解雇の対象とすること
- 経営合理化に伴う解雇にあたり、男性には最低の人事評価がなされている者のみ解雇の対象とし、女性には特に優秀な評価がなされている者以外は解雇の対象とすること
- 解雇の基準を満たす労働者の中で、男性よりも優先して女性を解雇の対象とすること
その他障害者雇用における差別
教育訓練
労働者に教育・訓練を行う場合、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法6条1号)。
そのため、例えば、男女いずれかを教育・訓練の対象外としたり、研修の内容や期間を男女で異なるものにしたりすることは認められません。
指針では、教育・訓練の際に禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 一定の職務に従事する者を対象とする教育訓練の対象を男女いずれかのみとすること
- 工場実習や海外留学による研修の対象を男性のみとすること
- 女性にのみ、婚姻や一定の年齢に達したこと、子供がいること等を理由として、将来従事する可能性のある職務に必要な知識を身につけるための教育・訓練の対象から除外すること
- 教育訓練の期間や課程を男女で異なるものとすること
福利厚生
一定範囲の福利厚生において、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法6条2号)。
一定範囲の福利厚生とは、以下の5つを指します。
- ①住宅資金の貸付け
- ②生活資金、教育資金その他労働者の福祉の増進のために行われる資金の貸付け
- ③労働者の福祉の増進のために定期的に行われる金銭の給付(生命保険料の一部補助、奨学金の支給等)
- ④労働者の資産形成のために行われる金銭の給付(財形貯蓄奨励金の支給等)
- ⑤住宅の貸与
指針では、禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 男性にのみ社宅を貸与すること
- 女性のみ結婚を理由として社宅の貸与の対象から排除すること
- 住宅資金を貸付ける際、女性のみ配偶者の所得額を示す資料の提出を求めること
職種の変更
労働者の職種の変更について、性別を理由に差別することは禁止されています(均等法6条3号)。
そのため、例えば、女性労働者だけ、一般職から総合職への転換の機会を与えないようなことは認められません。
指針では、禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 一般職から総合職への変更対象を男女いずれかのみとすること
- 女性にのみ、婚姻又は子供の存在を理由に、一般職から総合職への変更対象から排除すること
- 一般職から総合職への変更試験の合格基準を男女で異なるものとすること
- 一般職から総合職への変更基準を満たす労働者の中から、男女いずれかを優先して変更の対象とすること
- 経営の合理化の際、女性のみを研究職から、賃金その他の労働条件が劣る一般事務職への変更対象とすること
定年
労働者の定年において、性別を理由として、差別的取扱いをすることは禁止されています(均等法6条4号)。
指針では、禁止される差別の例として、以下を挙げています。
- 女性の定年・退職年齢を男性よりも低く設定し、格差を設けること
- 定年年齢の引上げを行う際に、厚生年金の支給開始年齢に合わせて男女で異なる定年を定めること
- 定年年齢の引上げを行う際に、既婚の女性労働者についてのみ、異なる定年を定めること
- 資格別定年制や職種別定年制を取っていて、それが現実には男女別定年制として機能している場合
間接差別の禁止
間接差別とは、一見、性別に関係がない取扱いであっても、運用の結果、どちらかの性別に不利益を与えることをいいます。例えば、「管理職になるためには、転勤が可能であること」と規定した場合、多くの女性が不利になるため、このような措置は間接差別にあたります。
均等法は、以下の3つの措置について、合理的な理由がない場合は、間接差別にあたるとして禁止しています(均等法7条)。
- ①募集・採用において、労働者の身長や体重、体力を要件とすること
- ②募集や採用、昇進、職種の変更にあたって、転居を伴う転勤ができることを要件とすること
- ③労働者の昇進にあたって、転勤の経験を要件とすること
なお、上記の措置以外は均等法違反とはなりませんが、裁判において間接差別として違法と判断される可能性があります。そのため、雇用管理において間接差別を行わないよう注意する必要があります。
婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
結婚、妊娠、出産等をしたことを理由に、女性労働者に対して不利益な取扱いをすることは禁止されています(均等法9条)。
具体的には、以下の措置が禁止されています。
- ①女性労働者が結婚、妊娠、出産した場合には退職する旨をあらかじめ定めること
- ②結婚を理由に女性労働者を解雇すること
- ③厚生労働省令で定める事由(妊娠や出産、母性健康管理措置を求め、又は受けたこと、産前産後休業や育児時間の請求・取得、軽易業務への請求・転換、妊娠・出産による労働能力の低下等)を理由に、不利益な取扱いをすること
なお、妊娠中・産後1年以内の解雇については、事業主が妊娠等を理由とする解雇でないことを証明しない限り、無効となります。
指針では、禁止される不利益な取扱いの例として、以下を挙げています。
- 解雇、雇止め
- 契約の更新回数の上限の引き下げ
- 退職又は正社員を非正規社員とする労働契約の変更の強要
- 不利益な配置変更
- 降格や減給、人事考課での不利益な評価など
マタハラ防止措置義務と母性健康管理措置についての詳細は、以下の各記事をご覧下さい。
性別による差別の禁止の違反とならない場合
職務の性質上、片方の性別でなければならない理由がある職種については、適用外職種として、男性あるいは女性のみの募集・採用行為が例外的に認められています。
適用外職種として、以下の5つが挙げられます。
- ①芸術・芸能分野(俳優、歌手、モデル等)
- ②防犯上の要請から男性に従事させることが必要な業務(守衛、警備員等)
- ③業務の性質上、男女いずれかのみに従事させる必要のある業務(神父、巫女、女子更衣室の係員等)
- ④労基法による女性の就業禁止業務(坑内業務や危険有害業務等)
- ⑤風俗、風習等の違いにより男女いずれかが能力を発揮し難い海外での業務や、性別にかかわらず均等な取扱いをすることが困難な業務
特例として女性の優遇が認められる場合
職場の男女労働者の間において、事実上、現に生じている格差を解消するために行う、「女性のみを対象とする、又は女性を優遇して取扱う措置」は違法となりません(均等法8条)。
「事実上生じている格差」とは、具体的に、男性の労働者と比べて、一定の区分や職務、役職において女性の労働者の割合が全体の4割を下回るような状況であれば、格差が生じていると考えられます。
違法とならない措置の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 募集・採用の際に、情報提供について女性に有利な取扱いをすることや、採用基準を満たす者のうち、女性を優先して採用すること
- 配置や昇進、職種や雇用形態の変更のための受験を女性のみに奨励することや、基準を満たす労働者のうち、女性を優先して配置・昇進させたり、職種や雇用形態の変更対象としたりすること
ただし、一定の区分等において女性の労働者の割合が4割を下回っているからといって、ただ単に女性を優遇したいという目的のみで優遇措置を講じる場合は、違法となります。ご注意ください。
ポジティブ・アクション
ポジティブ・アクションとは、固定的な男女の役割分担意識等が原因となって、「部長以上の管理職の大部分が男性である」など、男女労働者間に事実上生じている格差を解消するために、企業が自主的に行う取組のことをいいます。これらは、女性の活躍の場を広げるための取組みであるため、均等法の禁止する差別にはあたらず、違法とはなりません(均等法8条)。
ポジティブ・アクションの例として、以下が挙げられます。
- 女性の採用の拡大(女性社員のキャリアアップをアピールする等)
- 女性の職域の拡大(女性の少ない職種・職務に、積極的に女性を配置する等)
- 女性管理職の増加 (女性社員に対し、研修や教育訓練への積極的な参加を呼びかける等)
- 女性の勤続年数の伸長(法定以上の育児・介護休業制を導入する等)
- 職場環境・風土の改善など
国もポジティブ・アクションを後押しするために、ポジティブ・アクションに関する情報の提供、自社の女性の活躍推進の状況を自己診断できるツールの紹介等を行うなど、様々な支援を行っています。
ポジティブ・アクションについての詳細は、以下の記事をご覧下さい。
セクシュアルハラスメント対策
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、労働者の意に反する性的な言動によって、労働者が労働条件で不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることをいいます。
均等法は、セクハラを防止するために、事業主に対し、以下の措置を講じることを義務付けています(均等法11条の2)
- ①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- ②セクハラ相談窓口の設置
- ③事後の迅速かつ適切な対応
- ④当事者のプライバシーの保護、相談者等への不利益な取り扱いの禁止
これらの具体的な内容は、厚生労働省の指針(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)に記載されていますので、それらを参考にして、セクハラ防止のために必要な措置を講じる必要があります。
セクハラ対策についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
違反時の罰則
均等法に違反する疑いがある場合は、厚生労働大臣から報告を求められたり、実際に法違反があった場合には、助言や指導、勧告を受けたりすることがあります(均等法29条)。
この場合、事業主は違法な差別を解消するための措置を講じなければなりません。厚生労働大臣からの報告の要求に応じなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合は、20万円以下の過料が科される場合があります(同法33条)。
また、厚生労働大臣の勧告に従わない場合は、企業名公表の対象となります(同法30条)。
なお、セクハラやマタハラについては、均等法違反による制裁以外に、裁判等において、使用者責任や安全配慮義務違反など民事責任を追及される可能性があるため、注意が必要です。
紛争が生じた場合の救済措置
苦情の自主的解決
事業主は、均等法が定める差別禁止事項(労働者の募集・採用に関するものを除く)や、妊娠中・出産後の措置、セクハラ・マタハラの防止措置等について、労働者から苦情を受けた場合は、会社内に設置した「苦情処理機関」に苦情の処理を任せるなどして、自主的な解決に努める必要があります(均等法15条)。
なお、苦情処理機関の構成員は、事業主を代表する者、および会社の従業員を代表する者となります。
均等法は、労使トラブルが発生した場合の解決方法として、苦情処理機関の活用を推奨しており、また、他にも人事担当者による相談なども自主的解決の方法として挙げられます。
紛争の解決の促進に関する特例
事業主と労働者間で、以下の事項に関する男女均等取扱いについてトラブルが生じた場合は、均等法に基づく、「労働局長による紛争解決の援助」や「機会均等調停会議による調停」を利用することが可能です(均等法17条、18条)。
- ① 募集・採用
- ② 配置(業務の配分及び権限の付与を含む)・昇進・降格・教育訓練
- ③ 一定範囲の福利厚生
- ④ 職種・雇用形態の変更
- ⑤ 退職勧奨・定年・解雇・労働契約の更新
- ⑥ 一定範囲の間接差別
- ⑦ 婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い等
- ⑧ セクシュアルハラスメントの防止措置
- ⑨ 妊娠・出産等に関するハラスメントの防止措置
- ⑩ 母性健康管理措置
※募集・採用についての紛争は、調停の対象とはなりません。
紛争の解決の援助
13-2の①~⑩に関する男女均等取扱いについて、事業主と労働者間でトラブルが生じた場合、事業主と労働者の双方、又は一方が都道府県労働局長に支援を求めた場合は、労働局長から必要な助言や指導、勧告を受けることが可能です(均等法17条)。
労働局長が支援を求められた場合には、事業主と労働者双方から事情を聴取し、事実調査を行ったうえで、必要な助言等を行います。調停と比べると、簡単な手続きで、より迅速な解決を目指せるというメリットがあります。
なお、労働者が労働局長にトラブル解決の支援を求めたことを理由として、事業主が労働者に対して、解雇や減給、降格などの不利益取扱いを行うことは禁止されているため、注意が必要です。
機会均等調停会議による調停
13-2の②~⑩に関する男女均等取扱いについて、事業主と労働者間でトラブルが生じた場合に(募集・採用トラブルは除く)、機会均等調停会議による調停を利用することが可能です(均等法18条)。
都道府県労働局に対し、事業主と労働者の双方、又は一方が調停の申し立てをすると、調停がスタートします。
機会均等調停会議では、弁護士や大学教授等の調停委員が、当事者双方から事情を聞いたうえで、トラブル解決の方法として調停案を提示します。ここで、双方が合意すれば、調停成立となります。
労働問題の専門家によって、公平・中立な支援を受けられるというメリットがあります。
なお、労働者が調停の申立てをしたことを理由に、事業主が労働者に対し、解雇など不利益取扱いをすることは禁止されています。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある