無期転換の年齢上限|高年齢者の特例措置や第2定年の定め
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
少子高齢化による人手不足が進む中、60歳以上のパート・アルバイトを積極的に活用している会社は少なくないでしょう。
そこで、通算5年の「無期転換ルール」がこのような高年齢の有期雇用者にも適用されるのかという疑問が生じるかもしれませんが、無期転換ルールには年齢の上限がないため、一部の特例はあるものの、無期転換ルールが適用されます。
無期転換された高年齢者は、文字どおり終身雇用となるため、会社側で第2定年を設けるなどの特別な対応が求められます。
本記事では、会社側の視点から、高年齢者が無期労働契約となった場合の問題点、高年齢者の無期転換ルールの特例とその申請方法、一定の年齢制限を設ける場合の対応などについて解説していきます。
目次
無期転換に年齢の上限はない
無期転換ルールとは、同じ会社との間で、有期労働契約が更新されてトータル5年を超えたとき、労働者の申込みにより、期間の定めのない無期労働契約に転換されるルールをいいます。
通算5年のカウントは、2013年4月以降に開始した有期労働契約が対象となります。
また、対象者は契約社員やパート・アルバイト、派遣社員など雇用形態は問わず、全ての有期契約労働者です。
無期転換申込権を取得した労働者から無期転換の申込みがあった時点で、無期労働契約が成立するため、会社は拒否することができません。具体的には、現在結んでいる有期労働契約が終了する日の翌日から、無期労働契約へと転換されます。
無期転換ルールには年齢上限がないため、60歳以上の高年齢の有期雇用者が通算5年を超えて契約更新となる場合は、基本的に無期転換ルールが適用されます。
ただし、「定年後も同じ事業主に引き続き雇用される有期契約労働者」については、無期転換ルールが適用されないという特例が設けられています。詳しくは次項で見ていきましょう。
無期転換申込権については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧下さい。
高年齢者の無期転換ルールの特例措置
無期転換ルールには年齢上限がないため、通常は、定年後に引き続き雇用される有期契約労働者についいても無期転換申込権が発生します。
ただし、有期雇用特別措置法により、
・適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主の下で
・60歳以上の定年後も同じ事業主に引き続き雇用される
有期契約労働者(継続雇用の高齢者)については、その事業主に定年後引き続き雇用される期間は、無期転換申込権が発生しないとする特例が設けられています。
ただし、これはあくまで定年前まで正社員のように無期雇用されていた者に限定されており、60歳未満から有期労働契約が反復されている労働者については、無期転換ルールが適用されるため注意が必要です。
なお、この特例を利用するためには、事業主が本社を管轄する都道府県労働局に認定申請を行う必要があります。詳しくは以下でご説明します。
特例措置を受ける手続き
定年後も引き続き雇用される高齢者について、無期転換ルールの特例の適用を受けるには、会社単位で都道府県労働局の認定を受ける必要があります。
具体的な手順は以下のとおりです。
- 継続雇用の高齢者の能力が有効に発揮される雇用管理措置の計画を作成する。
- 第二種計画認定・変更申請書を作成し、就業規則等を添付して、本社・本店管轄の都道府県労働局に提出し、計画が適当である旨の認定を受ける。
- 継続雇用の高齢者に、無期転換ルールの特例が適用される。
(ただし、有期労働契約の締結・更新の際に、無期転換ルールの特例の適用を明示する必要あり)
なお、①の雇用管理措置とは以下を指し、少なくとも1つ以上の措置を計画・実施する必要があります。
- 高年齢者雇用等推進者の選任
- 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等
- 作業施設・方法の改善
- 健康管理、安全衛生の配慮
- 職域の拡大
- 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進
- 賃金体系の見直し
- 勤務時間制度の弾力化
上記のうち「高年齢者雇用推進者の選任」は担当者を決めるだけなので、無期転換発生を阻止する目的だけであれば、最も取り組みやすい措置であるといえます。
高齢者の特例措置における注意点
高齢者の無期転換ルールの特例措置を受けることで、定年後に引き続き雇用される有期雇用労働者の無期転換の回避が可能です。
ただし、以下の労働者については、「定年後も引き続き雇用される有期契約労働者」に当たらず、高齢者の特例措置の対象外となります。
●60歳を超えて新たに雇用した有期契約労働者
例えば、別会社にて定年退職した後、新たに自社と有期労働契約を結んだ労働者については、自社で定年を迎えていないため、通算契約期間が5年を超えた時点で、無期転換の申込権が発生します。
●60歳以上の定年前に雇用した有期契約労働者
例えば、56歳で自社と有期労働契約を結んだ労働者については、定年後からの有期雇用ではないため、会社として無期転換ルールの特例認定を受けていても、通算契約期間が5年を超える61歳以降に、無期転換の申込権が発生します。
一定の年齢制限を設ける場合の対応
高齢者の特例措置が適用されない労働者、つまり、60歳の定年前か、又は60歳の定年を過ぎてから雇用された有期契約労働者については、契約が通算 5年を超えた時点で、無期転換権が発生します。
例えば、58歳で有期雇用された労働者であれば、63歳以降に無期転換権が発生し、この者が無期転換を申し込むと、無期雇用へと転換されます。
このように、定年のすり抜けが生じる無期転換者については、終身雇用となるため、自己都合退職や、年齢による能力・体力を理由とした解雇、退職の勧奨等以外に退職の機会がないことになります。
しかし、労災発生の防止や業務遂行能力などの観点から、会社としてある程度の年齢上限を設けたいこともあるでしょう。このような場合は、あらかじめ労働者と結ぶ雇用契約書に「年齢による契約更新の上限」を定めるか、就業規則に「無期転換した場合の第2定年」を設けるなどの対応が必要になります。
雇用契約書への明記
年齢による契約更新の上限を定める場合は、雇用契約書に必ず記載し、労働者に明示することが必要です(絶対的明示事項)。
例えば、66歳のパート従業員を新たに雇用する際に、70歳を雇用の年齢上限としたい場合は、あらかじめ「契約更新の上限年齢は70歳までとする」などと雇用契約書に明記した上で、雇用契約を結ぶ必要があります。
以下に記載例を挙げましたので、ご確認ください。
(契約更新の有無と判断基準等)
1 本人が希望し、かつ、一般社員の就業規則○条(退職事由)又は○条(解雇事由)に当たる事由がない場合は、満70歳まで1年ごとに契約を更新する。
2 ただし、契約期間満了の○ヶ月前までに労働条件について書面で合意に達しない場合は更新しないことがある。
3 更新する場合であっても、同一の労働条件を保障しない。
就業規則へ「第2定年制」の規定
無期転換後の労働者については、無期雇用であるため、「定年」を設けなければ、契約を終了させることができません。そのため、正社員と同じく、契約社員用の就業規則等に「定年」を設けることが必要です。
通常の会社であれば、無期転換者の定年は正社員と同じく60歳と定めて問題ありません。
ただし、介護や飲食業など、高齢の有期雇用者が多く働く会社であれば、無期転換した場合の第2定年、第3定年などを設けることが望ましいでしょう。
例えば、無期転換者の定年は基本的に60歳とした上で、60歳を過ぎて無期転換した場合は65歳、65歳を過ぎて無期転換した場合は70歳を定年とするなどの対応が挙げられます。
以下に規定例を挙げましたので、ご確認下さい。
第○条(契約社員の無期転換)
1 平成25年4月以降に締結された、複数の有期労働契約の通算契約期間が5年を超える労働者が、無期労働契約の締結を希望したときは、会社はこれを承諾し、現に締結している有期労働契約の満了日の翌日から当該労働者に本規則を適用する。
2 この規則に定める労働条件は、無期転換後も引き続き適用する。ただし、無期転換後の定年年齢は、無期転換後の契約の初日が属する日の年齢に応じ、以下に掲げる年齢とする。
・60歳未満:60歳
・60歳以上65歳未満:65歳
・65歳以上:70歳
なお、企業には、高年齢者雇用安定法による「65歳までの雇用機会確保義務」と「70歳までの就業機会確保の努力義務」が課されています。そのため、第2定年等を決める際には、できる限り定年を引き上げる方針のもと、60歳以上の有期雇用者の数、労災発生の防止や業務行能力、体力や気力などを考慮した年齢とするのが適切でしょう。
定年年齢の引き上げについては、以下の記事で詳しく述べていますのでご覧下さい。
無期転換における労務上の注意点
無期転換における労務上の注意点として、以下が挙げられます。
・契約締結・更新時の更新上限等の明示義務
2024年4月より、有期労働契約の締結と更新のタイミングごとに、更新上限(通算契約期間、更新回数の上限)の有無と内容の明示や、就業場所・業務の変更の範囲の明示が義務付けられます。
・無期転換の申込機会、無期転換後の労働条件の明示義務
2024年4月より、無期転換権が発生する更新時に、無期転換が申し込める旨と無期転換後の労働条件の明示が義務付けられます。
・無期転換の申込み方法
無期転換の申込みは口頭でも有効ですが、トラブル防止のため、書面で取り交わすこと(無期転換申込書、無期転換申込受理通知書など)が望ましいでしょう。
・無期転換後の雇用形態、労働条件
無期転換後の雇用形態を正社員、勤務地・職務等限定社員、契約期間のみが無期の社員など、いずれとするかについては、会社ごとに判断します。また、無期転換後の給与等の労働条件は、別段の定めがある以外は、直前の契約と同じ労働条件となります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある