企業におけるハラスメント対応|3つの対策や発生時のフローなど

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
ハラスメントによる労働トラブルは増加傾向にあり、その種類も多様化しています。これを受け、企業もハラスメントを防止するための策を講じることが義務付けられました。
では、具体的にどんな対策を行えばよいのでしょうか。また、万が一社内でハラスメントが発生した場合、どのように対応すれば良いのでしょうか。本記事で詳しく紹介します。
目次
企業のハラスメント対応の重要性
ハラスメントは企業に大きなダメージを与えるため、日頃からしっかり対策することが重要です。例えば、労働者の離職やメンタルヘルス不調、社会的信用の失墜といった影響が考えられます。
また事業主は、パワハラやセクハラの防止措置を講じることが法律で義務付けられています。実際に求められる対応は法令や指針にまとめられているため、十分理解し適切に対応する必要があります。
なお、ハラスメント防止措置を講じなかった場合、厚生労働省から助言・勧告を受ける可能性があります。また、是正勧告を受けたのに改善を怠った場合、企業名が公表されます。
さらに、厚生労働省に虚偽の報告をしたり、報告を怠ったりすると、20万円以下の過料が科されるおそれもあります。
以下では、各ハラスメントとそれに対応する法律を紹介しています。
ハラスメントの種類 | 関連法 |
---|---|
セクシュアルハラスメント(セクハラ) | 雇用機会均等法11条 |
マタニティハラスメント(マタハラ) | 雇用機会均等法11条の3 |
パタニティハラスメント(パタハラ) | 育児・介護休業法25条 |
パワーハラスメント(パワハラ) | 労働施策総合推進法30条2 |
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ) | 雇用機会均等法11条 |
ハラスメントが企業にもたらすリスク
ハラスメント行為は、企業に多くのリスクをもたらします。
例えば、以下のようなものです。
- ① 損害賠償請求を受けるリスク
- ② 人材の流出によって労働力が減少するリスク
- ③ 労働者の意欲・モラルが低下するリスク
- ④ 企業イメージが悪化するリスク
①について、ハラスメント被害者は、加害者だけでなく企業に対しても損害賠償請求ができます。これは、企業の使用者責任に基づくものです(民法715条、709条)。
さらに、労働者に対する安全配慮義務違反として、債務不履行に基づく損害賠償請求を受ける可能性もあります(民法415条)。
また、②③④が同時に発生すると、労働者のモチベーションや生産性が下がり、ハラスメントがさらに横行するという悪循環に陥りかねません。職場環境が悪いと、今後の採用にも影響が出てしまうでしょう。
ハラスメントの定義と種類
ハラスメントとは、他者を不快にさせる執拗な嫌がらせやいじめのことです。
職場におけるハラスメント行為だけでも、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント等、さまざまな種類があります。これらすべてのハラスメントに共通するのが、職場環境を悪化させて、労働者のやる気を低下させる行為であるということです。
このうち、企業に対応が義務付けられているハラスメントについて解説していきます。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、他の労働者を不快にさせる性的な言動をいいます。
また、その言動に抵抗したことで降格や解雇を強制されることや、性的な言動によって職場環境が悪化し、労働者の能力発揮が阻害されることもセクハラとみなされます。
例えば、男性労働者が女性労働者の身体に断りなく触れることや、社内で性的な動画を見ること、特定の労働者に関する性的な噂を流す等が挙げられます。セクハラによって労働者の意欲が低下すれば、仕事の能率が落ちたり退職者が増えたりするおそれがあります。
セクハラは、早い時期から法律で対策が義務付けられており、企業が対応するべきハラスメントの代表的なものです。特にきめ細かい対応が必要となりますので、下記のページでぜひご確認ください。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメント(パワハラ)とは、以下の3つの要素を満たす言動をいいます。
- ① 優越的な関係を背景としていること
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
- ③ 労働者の就業環境を害すること
具体例としては、上司が部下を過剰に叱責することや体罰を加えること、明らかに処理するのが困難な分量の仕事を与えること、一人だけ部屋の隅に座席を設置して社員の皆で無視すること等が挙げられます。
パワハラは、改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)によって対策が義務付けられています。詳しい内容は、以下のページをご覧ください。
その他のハラスメント
セクハラやパワハラ以外にも、職場におけるハラスメントには以下のようなものがあります。
【マタニティハラスメント(マタハラ)】
妊娠中の女性社員に対する嫌がらせ行為
例:産休育休を申請した女性社員に退職を促すこと
【パタニティハラスメント(パタハラ)】
育児休業を申請した男性社員に対する嫌がらせ行為
例:育児休業を申請した男性社員に降格や降給をほのめかすこと
【ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)】
性別を理由とした差別や嫌がらせ行為
例:特定の業務を男女どちらかにのみ対応させること
【アルコールハラスメント(アルハラ)】
飲酒に関する嫌がらせ行為
例:飲み会への参加を強制させること、飲み会での飲酒を強要すること
【カスタマーハラスメント(カスハラ)】
顧客による理不尽なクレームや言動
例:店員に土下座を強要すること、自ら壊した商品を「壊れていた」と主張すること
ハラスメントを予防するための3つの対策
企業に求められるハラスメント防止措置は、以下の3つがあります。
- 労働者への周知・啓発
- ハラスメント規程の整備
- 相談窓口の設置
それぞれ詳しくみていきましょう。
労働者への周知・啓発
相談窓口を設置し、ハラスメント規程を整備しても、労働者がその旨を知らなければ意味がありません。
そのため、窓口の設置後はその旨を社内で周知し、利用を促すことが重要です。また、「ハラスメントに関することであればどんな相談でも受け付けることを伝え、労働者が気軽に利用できるよう努めましょう。
さらに、作成したハラスメント規程の内容も公示し、ハラスメントに関する労働者の規範意識を高める必要があります。
ハラスメント規程の整備
ハラスメントを防止するには、明確な規定や罰則を設けるのも有効です。
規定を設ける際は、以下の点を押さえるのがポイントです。
- ハラスメント行為の例を具体的に列挙すること
- ハラスメント行為は懲戒処分の対象とすること
- 就業規則の懲戒規程にハラスメントを追加すること
これにより、労働者がどんな言動を控えるべきかが明確になるため、ハラスメントの発生を抑えることができます。
なお、就業規則の変更やハラスメント規程の新設を行った際は、労働基準監督署への届出も忘れずに行いましょう。
ハラスメントの防止に役立つ情報は、厚生労働省の「パワーハラスメント防止導入マニュアル」でも詳しく紹介されていますので、一度ご確認ください。
相談窓口の設置
事業主は、労働者に向けたハラスメントの相談窓口を設置することが義務付けられています。
窓口では、労働者が相談だけしたいという場合、話を聞く“一次対応”のみで問題ありません。
一方、会社に対応や改善を求めている場合、詳細なヒアリングや事実確認を行い、解決策を検討する必要があります。
窓口を設置する際は、会社の内部または外部いずれかに設置します。
内部の場合、人事部や総務部から担当者を決め、相談対応にあたるのが一般的です。ただし、相談者のプライバシーは保護するよう十分教育しておきましょう。
外部の場合、企業が委託機関と契約を結び、労働者が直接相談できるようにします。社内の人には話しにくいことも気軽に相談できるのがメリットです。
相談方法は、電話やメール、書面、ビデオ通話、LINEなど複数用意しておくのがよいでしょう。
職場でハラスメントが発生した時の対応フロー
ハラスメントが起きてしまったときは、以下の流れで対応するのが一般的です。
- 被害者からの相談
- 事実関係の確認
- 加害者に対する処分
- 被害者へのフォロー
- 再発防止策の検討
ハラスメントを放置すると、被害者の苦痛が増すだけでなく、さらに大きなトラブルとなる可能性があります。そのため、「初動対応」は特に重要といえるでしょう。それぞれの手順について、詳しくみていきます。
①被害者からの相談
被害者には、まず秘密やプライバシーは守られること、相談しても不利益は受けないことを説明しておきます。
また、相談窓口は話を聞くことが目的なので、それがパワハラにあたるかどうか勝手に判断するのは避けましょう。
さらに、被害者は動揺している可能性もあるため、急かしたり無理に話を聞き出したりしないようにする必要があります。また、軽微な内容でもじっくり話を聞き、被害者に寄り添う姿勢が求められます。
もし精神的に不安定な様子が見られたら、産業医などに連携することも検討しましょう。
②事実関係の確認
被害者の了承を得たうえで、加害者やほかの労働者に事実確認を行います。その際、加害者には、仮に誤解があったとしても被害者を責め立てたりしないよう注意しておきます。
また、被害者と加害者の意見が一致しない場合、同じ部署の別社員(第三者)などにもヒアリングを行います。その際、第三者にはヒアリング内容を口外しないよう伝えておきましょう。
事実確認では、中立的な立場でヒアリングを行うのがポイントです。また、関係者から聞き取った内容や客観的な事実関係を総合的に踏まえ、ハラスメントが認められるかを判断します。
③加害者に対する処分
加害者への処分は、被害の大きさや行為の悪質性などを踏まえて決定します。
一般的には、被害者への謝罪をさせたり、今後接触を避けるための配置転換を実施したりします。
一方、重大なハラスメント行為が認められる場合、懲戒処分の対象となる可能性もあります。
懲戒処分の内容は企業によって異なりますが、減給や降格、けん責、出席停止、懲戒解雇などが一般的です。
ただし、懲戒処分を行うには、就業規則や懲戒規程で定められていることが必要です。具体的には、「ハラスメント行為は懲戒処分の対象になる」旨を明記しておく必要があります。
また、重すぎる懲戒処分は無効になったり、労働トラブルの元となったりするため、判断に悩む場合は弁護士に相談することをおすすめします。
④被害者へのフォロー
被害者に対しては、本人の意向を確認したうえで、被害者と加害者の関係改善に向けた援助や、反対に引き離すための配置転換、被害者の労働条件等の不利益の回復、加害者からの謝罪、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応といった措置を講じます。
この際、原則として被害者に対する不利益処分を行うことはできないことに、十分留意する必要があります。
⑤再発防止策の検討
加害者を処分するだけではなく、ハラスメント行為が繰り返されないよう対策することが重要です。
具体的には、行為者への研修や外部セミナーの実施、社内コミュニケーションの活性化などが考えられます。なお、これらの取組みは定期的に検証・見直しを行うことでより効果を発揮します。
また、ハラスメントに関する社内規程(就業規則やハラスメント規程)を見直すことも重要です。見直す際は、以下の点が明記されているか確認しましょう。
- ハラスメントに該当する行為が禁止されていること
- 加害者を処分することが明確にされていること
- 就業規則の懲戒規定と結びついていること
- 加害者に懲戒処分等を行った場合には、それを公表すること
さらに、具体的なハラスメント行為を紹介することで、労働者の理解がより深まります。厚生労働省のホームページでは、ハラスメントに関する裁判例や取組み例が掲載されていますので、参考にするとよいでしょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある