会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません 会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

労働基準監督署の是正勧告とは|従わない場合のリスクや対処法

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働基準法などのルールに違反した場合、企業は厳しい取り締まりを受けます。その一例として挙げられるのが、労働基準監督署による「是正勧告(ぜせいかんこく)」です。
是正勧告を無視すると、企業名の公表や書類送検が行われるリスクがあるため注意が必要です。

このページでは、是正勧告で指摘されることの多い違反例や、従わない場合のリスク、是正勧告への対処法などについて解説していきますので、ぜひご一読ください。

労働基準監督署の是正勧告とは

是正勧告とは、法令違反が認められる企業に対し、労働基準監督署が違反事項の改善を求めることをいいます。

労働基準監督官による立ち入り調査(臨検)の結果、労働基準法や労働安全衛生法などの労働関係法令違反が見つかった場合は、「是正勧告書」が交付されます。交付された企業は、指定された期日までに違反の状態を解消し、労働基準監督署に「是正報告書」を提出しなければなりません。

是正勧告で多く指摘される違反例として、未払い賃金や過度な長時間労働、36協定の未締結、就業規則の未作成などが挙げられます。
臨検は事前の予告ありで行われるケースが多いですが、抜き打ちで行われることもあります。

事業主・担当者への聴き取りや帳簿の調査などが実施され、法律違反が確認された場合に、是正勧告がなされます。臨検を拒否すると、罰金が科されたり、後に強制捜査が行われる可能性があるため、基本的に拒否することはできないものと考えておきましょう。

是正勧告の法的拘束力

是正勧告は、行政指導であって、行政処分にはあたらないため、法的拘束力は伴いません。
よって、勧告に従わないことを直接の理由として罰則を受けることはなく、改善するかどうかの判断は企業に委ねられています。

もっとも、行政指導には、助言→指導→勧告と3段階あり、勧告が最も重い指導となります。そのため、自社の過ちを真摯に受け止め、違反の改善を図る必要があります。
また、法令違反が指摘されている以上、無視を続けるなどして悪質と判断されると、書類送検されたり、企業名が公表されたりするリスクもあるため注意が必要です。

是正勧告に従わない場合のリスク

是正勧告は行政指導のため、これに従わないことを理由に罰則を受けることはありません。
ただし、労働基準監督官から法令違反の事実があると指摘されている状況に変わりはないため、勧告を無視し続けると以下のようなデメリットが起こり得ます。

企業名の公表

一定の法令違反が認められる企業は、送検される以前の“是正勧告を受けた段階”で社名が公表される可能性があります。
公表の対象となる企業については、以下のように定められています(平成29年1月20日基発0120第1号)。

複数の事業場を有する社会的に影響力の大きい企業(中小企業に該当しない企業)であって、概ね1年程度の期間に2ヶ所以上の事業場で、次の実態が認められる企業


  • 1事業場で10人以上又は4分の1以上の労働者について、あるいは過労死等の被災労働者について、1ヶ月あたり80時間を超える時間外・休日労働が認められ、かつ、労働時間関係違反の是正勧告等を受けていること
  • 重大悪質な労働時間関係違反等が認められること

なお、公表制度の目的は、遵法意識の啓発、法令違反の防止の徹底や自主的改善の促進により、同種事案の防止を図ることにあり、企業への制裁は目的ではありません。
とはいえ、社名が公表されれば、社会的信用の低下は避けられないでしょう。是正勧告にはきちんと従うのが賢明です。

なお、時間外労働の規定や罰則は以下のページで解説しますので、併せてご確認ください。

時間外労働とは | 特殊な勤務形態における時間外労働

検察庁への送検

勧告の事由は法令違反に該当する事実ですので、刑事事件に発展し、労働基準監督官が司法警察権を発動し送検手続きをとる可能性があります。

これは、労働基準監督官は警察と同等の権限をもつ「司法警察官」にあたるためです(労基法102条)。つまり、“何度是正勧告をしても改善の意思がみられない”“是正勧告に対して虚偽の報告をした”といった重大・悪質な事案に対しては、事業主を逮捕・送検することが認められています。

送検手続きがとられると、起訴をされ、裁判で有罪判決が下されるおそれもあるため注意が必要です。

労働基準監督官の権限について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

労働基準監督署の権限|司法警察員としての権限

是正勧告で指摘されることの多い違反の例

是正勧告の対象となるのは、労働基準法・労働安全衛生法・最低賃金法といった「労働関係法令」に違反しているケースです。
是正勧告で指摘されることの多い違反例を下表にまとめましたので、ご確認ください。

労働時間
  • 36協定の締結・届出をせずに、1日8時間、週40時間を超える時間外労働や、法定休日に休日労働をさせている
  • 36協定や特別条項付き36協定で定められた、時間外労働の上限時間を超えて働かせている

※36協定:月45時間、年360時間
※特別条項付き36協定:年720時間、複数月平均80時間以内(休日労働含む)、月100時間未満(休日労働含む)、月45時間超えは年6回

賃金、割増賃金
  • 労働時間の過少申告等により、未払いの残業代がある
  • 時間外労働や休日労働、深夜労働について、正しい割増賃金が支払われていない
  • 地域別最低賃金、産業別最低賃金より低い賃金を支払っている
年次有給休暇、休日、休憩
  • 入社後6ヶ月以上経ち、全労働日の8割以上出勤している従業員に、年次有給休暇を付与していない
  • 有給の取得申し出を拒否する
  • 法定休日(週1日、4週4日以上)に休ませていない
  • 休憩時間(6時間超え8時間以下は45分、8時間超えは1時間)を与えていない
就業規則
  • 常時10人以上の労働者を雇用する企業で、就業規則の作成・届出・周知を行っていない
  • 就業規則に絶対的必要記載事項(労働時間、賃金、退職など)や相対的記載事項(退職金、表彰・制裁など)を盛り込んでいない
法定帳簿 法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等)の作成と保存をしていない
安全衛生管理体制 法定の要件を満たすのに、産業医や衛生管理者、安全管理者、総括安全衛生管理者などを選任していない
健康診断
  • 雇入れ時と年1回の健康診断、特定業務従事者への6ヶ月に1回の健康診断を実施していない
  • 特定の有害業務を常時従事する従業員に対し、特殊健康診断やじん肺健診、歯科医師による健診などを行っていない。

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

労働基準監督署による是正勧告の流れ

労働基準監督署による是正勧告の流れは、以下のとおりです。

  1. 労働基準監督署から調査実施の予告(又は突然の来訪)
  2. 立ち入り調査の実施
  3. 是正勧告書の交付
  4. 是正報告書を提出

労働基準監督署による立ち入り調査(臨検)は、あらかじめ連絡が入るケースが多いですが、事前連絡なしに、抜き打ちで実施される場合もあります。

臨検では、就業規則やタイムカードなどの帳簿類を確認されたり、事業主や担当者からの聴き取り調査が行われます。調査の結果、法律違反が認められた場合は、是正勧告書が交付されます。是正勧告を受けた場合は、指摘された事項について指定期日までに改善し、労働基準監督署に是正報告書を提出しなければなりません。

是正勧告の流れについては、こちらのページでも解説していますので、併せてご覧下さい。

労働基準監督署の調査の流れと企業の対応

是正勧告書の交付

「是正勧告書」とは、労働基準監督署による調査の結果、法令違反が認められた場合に交付される書面です。主に違反事項とその根拠条文・是正期日等が記載されます。

なお、是正勧告書は当日交付されるのではなく、後日、事業主や責任者が労働基準監督署に出頭して受け取るのが一般的です。このとき、受領日・受領者職・受領者名の署名捺印が求められます。

是正勧告書が交付された場合、企業は是正期日までに違反事項を改善し、その旨を労働基準監督署に報告する必要があります。

指導票との違い

「指導票」とは、法令に直接違反するものではないものの改善の必要がある事項がある場合に交付される書面です。例えば、36協定の範囲内ではあるが、長時間労働が続いているようなケースです。

また、労働技官(労働基準監督署の技術職員)から労働安全衛生に関する指導を受けた場合も交付されることがあります。

労働技官|労働基準監督署の職員構成

一般的に、指導票には事業場の問題点や危険性・改善方法等が記載されます。また、是正勧告書と同じく、交付時は受領日・受領者職・受領者名の署名捺印が求められます。

指導票にも法的拘束力はありませんが、指摘事項を改善し、その旨を報告する必要があります。法令違反はなくても一種の“警告”といえるため、きちんと応じることが重要です。

使用停止等命令書との違い

「使用停止等命令書」とは、労働者が就業する施設や設備に安全衛生基準の違反が見つかり、労働者に急迫した危険があると判断された場合に交付される書面です。これは、労働基準法103条、96条の3第1項の規定に基づき交付されます。

ポイントは、是正勧告や指導とは異なり、使用停止等命令は法的拘束力をもつ行政処分であるということです。よって、命令に従わない場合、「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」という罰則が科せられます(労安衛法119条)。

使用停止等命令書が交付された場合、企業は適切な措置をとり、その旨を労働基準監督署に報告する必要があります。ただし、不服がある場合、行政不服審査法や行政事件訴訟法に基づく不服申立てを行うことも可能です。

是正報告書の提出

報告書作成のポイントについて、以下で見ていきましょう。

提出期日

指摘された内容を改め、指定された期日までに「是正報告書」を提出します。
期日を守らなかった場合、労働基準監督署に「改善できていない」と疑われ、再調査が行われる可能性があります。再調査はより厳しい調査となるおそれがあり、抜き打ちで行われる場合もあるため注意が必要です。

なお、是正勧告日から報告書提出までは1ヶ月程しかないのが通例です。例えば、未払い残業代の計算や就業規則の作成等では相当の時間がかかるため、期日に間に合わないことも想定されます。

期日までの提出が難しければ、労働基準監督署に正直に申し出ましょう。遅延に正当な理由があると認められれば、期日を延長してもらえる可能性があります。

記載内容

是正報告書には所定の書式がないため、企業が自由に作成することができます。ただし、以下の項目については必ず記載しましょう。

  • 違反事項とその根拠条文
  • 是正内容
  • 是正完了年月日

重要なのは、「指摘された内容を適正に是正した」ことがきちんと伝わることです。“どんな対応をしたのか”“今後どのような対策をとるのか”等、是正内容を具体的に記載して違反事実が解消されたことを明確に記載することがポイントです。

法令違反を弁解するような内容は避けましょう。例えば、「違反になると知らなかった」「悪意はなかった」等と記載しても、是正勧告が撤回されることはありません。
また、虚偽の報告は絶対にしてはいけません。虚偽の報告をした場合、悪質と判断され、逮捕や送検がなされるおそれがあります。

是正勧告の不服申立てについて

是正勧告に対して不服申立てや取消訴訟を提起することはできません。なぜなら、是正勧告は行政指導にあたり、行政不服審査法や行政事件訴訟法における手続きが利用できないためです。

これが行政処分であれば、処分を下した機関への異議申立てや審査請求など、不服を申し立てる制度が用意されていますが、法的拘束力のない行政指導にはそのようなシステムはありません。
したがって、実質的には是正勧告に従わざるを得ないといえます。

つまり、労働基準監督署による立ち入り調査の際に、自社の言い分をできる限り主張することが重要となります。

労働基準監督署の是正勧告への対処法

是正勧告を受けた場合は、違反事項を確認し、労務管理の問題点について社内で協議した上で、改善のために必要な措置を講じる必要があります。そして、違反を改善した後は、労働基準監督署に報告書を提出しなければなりません。

また、是正勧告を再び受けることのないよう、日ごろから労働基準法などのルールに従い、労働条件・労働環境を整えるよう徹底する必要があります。
例えば、以下の対策が挙げられます。

  • 労働時間、休憩、休日等の正確な管理
  • 就業規則の整備
  • 36協定の届出や内容チェック
  • 残業代の適切な計算
  • 有給休暇の付与や取得状況の確認など

なお、是正勧告への対応に不安がある場合は、弁護士に調査立ち会いを任せるという方法もあります。弁護士であれば、法的知識に基づき、労働基準監督官からの質問に対し適切に回答することが可能です。また、実際に是正勧告が出された場合は、今後の改善策についてのアドバイスが受けられます。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます