会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません 会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

労働契約

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

人を雇うときには、雇用する側(会社)と働く人との間で契約を結びます。このときに結ばれる契約のひとつが「労働契約」です。

労働契約は、労働基準法、労働契約法などの法律によって制約を受けます。また、明らかにするべき事項や作成・交付するべき書面などが定められています。それらを知らないままで契約してしまうと、トラブルが生じてしまうリスクがあります。

そこで、この記事では「労働契約」の基本的な知識についてわかりやすく説明していきます。

「労働契約」の定義

労働契約とは、労働者が使用者の指揮命令に従って働くことを約束し、使用者がその報酬として賃金を支払うことを約束する契約です(労契法6条)。
労働契約は、労働者と使用者が、次の2点について合意することで成立します。

  • 労働者が使用者の指揮・命令の下で労務を提供すること
  • 使用者が対価として賃金等を支払うこと

なお、労働契約の内容は労使間で自由に決められるのが基本ですが、最低基準が労働基準法によって決められています。
また、労働契約法など、「労働法」と呼ばれる様々な法律による規制を受けます。

労働契約と雇用契約の違い

「労働契約」とは別に「雇用契約」という概念もありますが、両概念を実質的に区別しない判例や学説もありますので、本記事では両概念を基本的に区別せず、以下では、「労働契約」に統一して表記しています。

労働契約と業務委託契約の違い

労働契約と業務委託契約は混同されがちな言葉ですが、まったく異なる契約です。

業務委託契約とは、一方(受託者)が他方(委託者)から委託・注文された特定の仕事の処理や仕事の完成を約束し、委託者がその対価として報酬を支払うことを約束する契約です。

労働契約との一番の違いは、業務委託契約の当事者は「労働者」と「使用者」の関係ではないということです。当事者はあくまで対等な立場であり、委託者が受託者に対して具体的な指揮命令を行うことはできません。

なお、形式的には業務委託契約であるにもかかわらず、実際には注文者の指揮命令下で働いているなど、その実態が労働契約であると判断されると、「偽装請負」として、各種の法令違反が認定されてしまうリスクがあることには注意しましょう。

労働契約法とは

労働契約法とは、2008年3月1日に施行された、労働契約に関する基本的なルールを定めた法律です。

労働契約法の条文の多くは判例で確立された考え方を明文化したもので、労使間のトラブルを未然に防ぐために、労働者と使用者がそれぞれ気をつけるべき行動の規範として制定されました。

労働者と使用者が対等な立場で、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにするために、主に次のようなルールが定められています。

  • 労働契約が合意により成立し又は変更されるという合意の原則(労契法1条、同法3条1項)
  • 労働者の健康や安全への使用者の配慮(同法5条)
  • 労働契約の一方的な不利益変更の禁止(同法9条)
  • 労働契約の不利益変更には「合理的な理由」と「周知」が必要(同法10条)
  • 解雇権の濫用の禁止(同法16条)
  • 労働契約が「通算5年」を超えて更新された有期雇用契約の無期雇用契約への転換(同法18条)
  • 有期雇用契約の労働者の契約更新を合理的な理由なく拒否することの禁止(同法19条)

労働契約の基本原則

労働契約法3条には、次のように、労働契約の締結や変更に関する5つの基本原則が定められています。

  • 労使対等の原則
    当事者である労働者と使用者が対等な立場で行った合意がなければ、労働契約を締結・変更できないとする原則です。
  • 均衡考慮の原則
    労働契約を締結・変更するときは、就業の実態に見合った内容にしなければならないという原則です。
  • 仕事と生活の調和ヘの配慮の原則
    使用者は、労働契約を締結・変更する際には、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現に配慮しなければならないという原則です。
  • 信義誠実の原則
    労働契約を結んだ当事者は、信義誠実の原則に基づき、信義に従って誠実に労働契約を守らなければならないという原則です。
  • 権利濫用の禁止の原則
    労働契約の当事者は、たとえ労働契約に基づき与えられた権利であっても、これを濫用することは認められないという原則です。

労働契約の締結

労働契約は、労働者が「使用者の指揮命令の下で労働すること」、使用者が「労働の対価として賃金を支払うこと」に合意することで成立します(労契法6条)。

労働契約は口約束でも成立しますが、それだけでは後でトラブルとなるリスクがあります。そのため、使用者には、労働者に対して一定の労働条件を明記した書面(労働条件通知書など)の交付を義務づけています(労基法15条1項、労働基準法施行規則5条4項)。

労働契約を結ぶにあたって、使用者は、労働契約の内容について、労働者がきちんと理解したうえで労働できるよう努める必要があります(労契法4条1項)。また、労働契約の内容は可能なかぎり書面で確認することが求められています(同条2項)。

労働条件の明示

労働契約を結ぶときは、使用者は労働者に労働条件通知書を送付するなどして、労働条件を明示しなければなりません。
具体的には、次に挙げる絶対的明示事項と相対的明示事項の明示が義務づけられています。

●絶対的明示事項(必ず示さなければならない労働条件、労基法施行規則第5条第1項)

  • ①労働契約の期間に関する事項
  • ②期間の定めのある労働契約を更新する基準
  • ③就業の場所及び従事すべき業務
  • ④始業及び終業の時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇等に関する事項
  • ⑤賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。) の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • ⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

●相対的明示事項(使用者が決まりを設けている場合に示さなければならない労働条件)

  • ①退職手当の定めが適用される労働者の範囲等に関する事項
  • ②臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与等に関する事項
  • ③労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • ④安全及び衛生に関する事項
  • ⑤職業訓練に関する事項
  • ⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • ⑦表彰及び制裁に関する事項
  • ⑧休職に関する事項

絶対的明示事項は書面の交付によって示すことが求められていましたが、2019年4月からは電子メールによる明示も可能となっています。
なお、相対的明示事項は口頭で伝えることも禁止されていませんが、なるべく書面等による交付をすることが望ましいでしょう。

労働条件の明示義務について、詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

労働条件の明示義務

労働契約書(雇用契約書)と労働条件通知書の違い

労働契約書(雇用契約書ともいいます)と労働条件通知書は、書面が作成される目的や、作成する義務の有無といった違いがあります。

労働契約書(雇用契約書)は、労使間で労働契約(雇用契約)が成立したことや、成立した労働契約の内容を証明するために作成される書面です。
これに対して、労働条件通知書は、使用者が労働者に対して、労働条件を明示するために作成される書面です。

また、労働契約書の作成は義務づけられていないのに対して、労働条件通知書は、他に労働条件を明記した書面がなければ必ず作成しなければなりません。

労働契約の期間について

有期労働契約とは、使用者と労働者が契約期間を定めて結ぶ労働契約のことです。
労働契約の期間の上限は、次のように定められています。

  • 原則:3年(労基法14条1項柱書)
  • 例外:5年(専門的知識等のある労働者(弁護士・医師など)や、満60歳以上の労働者と有期労働契約を結ぶ場合)(同項1号、2号)。

期間の定めのない労働契約は、基本的には定年などによって終了するまで継続し、使用者側からの契約の解除(解雇)は、厳しく制限されています。
これに対し、有期労働契約は、基本的には、契約期間が満了すると終了します。

ただし、平成24年の労働契約法の改正により、有期労働契約が通算5年を超えて繰り返し更新されたときは、労働者の申込みによって、無期労働契約に転換することができるようになりました(労契法18条)。

また、雇止め(有期労働契約において、期間満了時に使用者が契約を更新しないこと)に関する規制として、次のような事情があり、使用者による雇止めが客観的にみて合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、労働者からの申込みによりそれまでと同じ労働条件で有期労働契約が成立することとなりました(労契法19条)。

  • 雇止めが社会通念上解雇と同視できると認められること
  • 労働者が有期労働契約の更新を期待する合理的な理由があると認められること

有期労働契約について、より詳しい説明をご覧になりたい方は、下記の記事をご参照ください。

有期労働契約

労働契約の変更

労働契約の内容である労働条件を変更する方法には、労働者と使用者双方が合意する方法(労契法8条)と、就業規則の変更によって労働条件を変える方法があります(同法9条ただし書、10条本文)。

しかし、一方的に就業規則の変更を行って休日の日数を減らすなど、労働者にとって不利益となる労働条件への変更はできないのが原則とされています(同法9条本文)。
そのため、合意に基づかない就業規則の不利益変更は、次の要件を満たす場合にのみ認められます。

  • ①使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させたこと
  • ②変更の内容が合理的であること

労働条件の不利益変更について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。

労働条件の不利益変更

労働契約の終了

期間の定めのない労働契約は、定年退職、休職期間満了による自然退職を除くと、主に次のいずれかによって終了します。

  • 退職:労働者からの申し出によって労働契約を解約すること
  • 合意解約:労使間の合意によって労働契約を解約すること
  • 解雇:使用者が一方的に労働契約を解約すること

これらのうち、「退職」は使用者の許可がなくても、申し込んでから2週間で成立します。
しかし、解雇については、とても厳しい要件が定められています。不当な解雇を行ってしまうと無効になるおそれがあるため、容易にはできません。

一口に退職や解雇といっても、それぞれ複数の種類があり、適切な対応も異なります。トラブルを未然に防ぐためにも、退職・解雇に関する知識をまとめた下記の記事をぜひ一度ご確認ください。

退職・解雇による労働契約の終了と証明書の交付義務

労働契約、就業規則、労働協約、法令の関係

労働契約と就業規則、労働協約、法令について、賃金などの労働条件で異なる定めがあった場合には、それぞれの優先順位は次のようになっています。

法令 > 労働協約 > 就業規則 > 労働契約

一番に優先されるのは、労働基準法等をはじめとする「法令(強行法規)」です。次に「労働協約(使用者と労働組合が合意のうえ定めた取り決め)」が、その次に「就業規則(使用者が定める、労働者が守るべき職場のルール)」が優先されます。

より優先度の高い規定の内容に反した規定を設けることはできないので、労働契約は、他のどの規定にも反しない内容にしなければなりません。

例えば、就業規則で「時給1500円」と定められている場合に、個別の労働契約でそれを下回る「時給1400円」などにすることはできないため、就業規則の内容が適用されて時給1500円となります。

就業規則や労働協約が具体的にどのようなルールを定めているのかなど、気になる方はぜひ下記の各記事をご覧ください。

就業規則とは | 作成の意義と法的効力
労働協約

労働契約の禁止事項

労働契約では、下の表に挙げるような契約を結ぶことはできません。

賠償予定 労働者が労働契約に違反した場合の違約金や、支払わなければならない損害賠償金の額をあらかじめ決めておくことです。
労働契約に賠償予定を盛り込むことはできません(労基法16条)。
前借金相殺 労働者が使用者から金銭を借りて、使用者がその後の賃金から一方的に天引きして返済させることです。
前借金相殺を労働契約に盛り込むことは禁止されています(労基法17条)。
強制貯金 賃金の一部を強制的に貯蓄させる、又は使用者が労働者の貯蓄金を管理することです。
たとえ社員旅行などの積立てであっても、強制貯金の規定を労働契約に盛り込むことは許されません(労基法18条1項)。
黄犬契約 労働者が労働組合に加入しないこと又は労働組合から脱退することを条件とする労働契約のことです。
このような労働契約は、労働組合の団結権を侵害するため禁止されています(憲法28条、労組法7条1号後段)。

これらの契約が禁止されているのは、労働者が会社によって不当に拘束されることや、使用者によって禁じられるべきではないことを禁じられることを防ぐためです。

労働者への安全配慮義務

使用者は、労働契約に基づいて、賃金支払義務のほかに労働者に対する安全配慮義務も負います(労契法5条)。安全配慮義務とは、働くうえで発生する、生命・身体等への危険から労働者を守るために配慮しなければならない使用者の義務のことをいいます。

使用者(安全衛生法では事業主)が講じることが求められる具体的な措置は、労働安全衛生法をはじめとする、労働安全衛生に関連する各種の法令に規定されています。詳しい説明は下記の記事をご覧ください。

労働安全衛生法
ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます