組織再編に伴う人員整理の手法や注意点
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
組織再編は、複数の会社を統合し、経営力アップを目指す制度です。他社と統合して資金を集めたり、グループを強化したりすることが目的です。
しかし、組織再編では社内整理が行われるため、不要な部署が統合・廃止される場合もあります。それによって余剰人員が生じれば、人員整理せざるを得ないケースも出てくるでしょう。
では、組織再編時の人員整理はどんな手順で進めるべきでしょうか。また、どのような点に留意すべきでしょうか。本記事でわかりやすく解説していきます。
目次
組織再編に伴う人員整理の手法
組織再編で部署が統合されると、配置可能な人数が限られ、余剰人員が生じる可能性があります。その対策として、社内の人員整理によって調整を図るのが一般的です。
では、組織再編における人員整理にはどんな種類があるのでしょうか。また、どのような点に注意すべきでしょうか。以下で1つずつ説明していきます。
組織再編の概要を知りたい方は、以下のページをご覧ください。
配転
配転とは、労働者の職種・業務内容・勤務地などを変更する方法です。また、一時的な異動ではなく、長期間にわたる変更を指します。
組織再編の場合、余剰人員を空きがある他部署に異動させたり、転勤させたりすることをいいます。
配転は、就業規則などに規定があれば認められる可能性が高いため、人員整理の第一歩として行われるケースが多いです。また、規定がなくても、労働者の個別合意を得ることで実施することができます。
この点、他社に移動させる転籍や出向よりも手軽に行うことができるでしょう。
配転命令が違法となる場合
配転は人事権の一環ですが、権利濫用にあたる場合は認められません。具体的には、以下のようなケースが権利濫用にあたります。
- 雇用契約で、労働者の職種や勤務地が限定されている
- 明らかに退職に導く意図がある
- 配転によって給与が下がる
- 労働者の生活に大きな不利益を与える(家族が病気で転勤が難しいなど)
このような事情がある場合、基本的に会社は配転を命じることができません。配転措置が無効になるだけでなく、労使トラブルの元になるためご注意ください。
希望退職制度
希望退職制度とは、退職時の優遇措置を提示し、早期退職希望者を募る制度です。
労働者の人数を直接的に減らすことができるため、人員削減に効果的です。また、退職の判断が労働者に委ねられているので、解雇よりもハードルが低いといえます。そこで、解雇の前段階として実施されるのが通常です。
なお、希望退職の優遇措置には以下のようなものがあります。
- 退職金の割増(通常の退職金に、半年~2年分の給与を上乗せ)
- 有給休暇の買取り
- 転職活動のため、勤務を免除する
- 再就職支援
ただし、希望退職は優秀な人材が辞めてしまうというリスクも伴います。また、応募者が多いと逆に人手不足に陥るおそれもあります。
そこで、募集時に「最終的には会社の承認を要すること」や「募集人数」などを明示しておくのがポイントです。
退職時の流れや注意点は、以下のページでご確認ください。
退職の勧奨
退職勧奨とは、特定の労働者に対し、個別で退職を促す方法です。会社が対象者を選び、1人1人と協議のうえ決定します。
組織再編の場合、希望退職で募集人数に達しなかったときに実施されるケースが多いです。また、希望退職と並行して行うことも可能です。
ただし、退職勧奨では、最終的に退職に応じるかは労働者次第となります。執拗に退職を求める行為(何度も面談を行う、数時間拘束する等)や、解雇を示唆する行為は違法となります。
その場合、退職が無効になるだけでなく、損害賠償責任を負う可能性もあるため十分注意が必要です。
退職勧奨の注意点は、以下のページでさらに詳しく解説しています。
整理解雇
整理解雇は、会社の意思で特定の労働者との雇用契約を終了する方法です。いわゆる「リストラ」にあたります。
ただし、整理解雇は相当の事情がないと認められず、無効になるケースも多いです。また、労使トラブルに発展して訴訟を起こされ、余計な手間がかかるリスクもあります。
したがって、整理解雇は「人員整理の最終手段」と捉えておくのが良いでしょう。
整理解雇の流れは、以下のページで解説しています。
整理解雇の4要件
整理解雇は、以下の4つの要件を満たす場合に限り認められます。
- 解雇の必要性
組織再編をしても赤字が続いている、所属部署自体が廃止された等 - 解雇を回避するための努力
解雇の前に、配転・希望退職・退職勧奨などを試みたか - 解雇の人選基準
会社への貢献度、勤務態度、成績など客観的かつ合理的な基準が設定されているか - 手続きの妥当性
労働者に正しく説明したか、十分に協議を行ったか等
「組織再編によって余剰人員が生じた」というだけでは、上記要件を満たすとはいえません。
整理解雇は簡単に認められるものではなく、慎重な対応が必要だと覚えておきましょう。
整理解雇の4要件は、以下のページでさらに詳しく解説しています。
整理解雇が禁止されている期間
以下の期間は、基本的にどのような事情があっても労働者を解雇することはできません(労働基準法19条第1項本文)。
- 病気や怪我による療養期間および復帰後30日間
- 産前産後休業期間およびその後30日間
ただし、これらの期間も、労働者が休まず就労しているときは制限の対象外となります。
例えば、「怪我で出勤できず家で仕事をしている場合」は、解雇することが可能です。
また、以下のケースでは、解雇禁止期間中でも“例外的に”解雇が認められます。
- 自然災害などやむを得ない事由により、事業を継続できないとき
- 会社が打切補償※を行うとき
※療養後3年経っても治癒しない場合、平均賃金の1200日分を支払う代わりに雇用契約を終了すること
ただし、いずれも労働基準監督署の承認を得ることが必要です。
整理解雇が無効と判断されるケース
整理解雇の4要件を満たさない場合、解雇措置は無効となります。つまり、解雇以外の方法で対処できる余地がある場合、解雇は認められないということです。
例えば以下のケースでは、解雇が無効になる可能性があります。
- 配転、希望退職の募集、退職勧奨などを行わず、いきなり解雇した
- 事業の継続が危ぶまれるほどではない
- 解雇対象者を恣意的に選んでいる(客観的な基準に基づいていない)
- 労働組合員だけを解雇する
- 労働者にしっかり説明せず、十分な協議も行っていない
もっとも、4要件のうちいずれかが欠けても、総合的にみて解雇が相当であれば、解雇が無効になる可能性は低いといえるでしょう。
組織再編に伴う人員整理の進め方
人員整理は、「希望退職の募集→退職勧奨→整理解雇」の順で実施するのが望ましいでしょう。
希望退職は、労働者が自主的に退職を申し出るため、最もスムーズに解決する可能性が高いです。また、退職金などの優遇措置を受けられるため、労働者のメリットも大きいといえます。
退職勧奨も最終判断は本人に委ねられますが、勧奨方法には注意が必要です。“執拗”で“脅し”に近い勧奨は無効になりやすいため、十分配慮しましょう。
整理解雇は、これらの手法で効果を得られなかったときの「最終手段」です。
事前に希望退職や退職勧奨を試みたかどうかは整理解雇の有効性にかかわるため、必ず適切な手順を踏みましょう。
人員整理を行う際の留意点
企業イメージの低下の可能性
整理解雇がメディアで報道されると、「業績が悪化している会社」「簡単にリストラする会社」などのレッテルを貼られます。また、解雇された労働者がSNSに書き込むことで、誹謗中傷が一気に広まる可能性もあります。
これらの事態が起こると、会社のイメージ低下は避けられません。売上低下や取引の解消、採用における応募者の減少など様々なデメリットをもたらすでしょう。
また、社内でも「次は誰がリストラされるのか」と不安が広がり、業務効率が下がるおそれもあります。
紛争防止のため証拠を残す
適切な手順を踏んでも、以下の事情等を理由に、労働者が解雇の無効を訴えてくることがあります。
- 強迫され退職に合意してしまった
- 十分な説明がなく、認識に誤りがあった
- 本心に基づく合意ではなかった
この場合、労働者に訴訟を起こされ、退職(又は解雇)が無効になる可能性があります。手間や時間がかかり、組織再編に支障が出ることもあるでしょう。
余計な労使トラブルを防ぐには、人員整理の証拠を残すことが重要です。例えば、退職の合意や解雇の通知は、口頭ではなく書面上で行いましょう。合意書を取り交わす場合、労働者の署名捺印も必要です。
また、協議の議事録を作成し、きちんと合意した旨を記録しておきましょう。
男女差のある条件は不可
人員整理の条件について、男女差を設けることは禁止されています(男女雇用機会均等法6条)。
人員整理は、成績や勤務態度など客観的な基準に沿って判断しますが、男女で差別的な扱いをしてはいけません。例えば、以下のような条件は違法となります。
- 女性だけを整理解雇や配転の対象にする
- 対象年齢を「女性40歳以上、男性50歳以上」とする
- 対象の勤続年数を「女性10年以上、男性30年以上」とする
労働者への説明責任
人員整理では、労働者に事情を説明し、理解を得ることが重要です。
例えば、整理解雇を行う場合、解雇の必要性や人数・判断基準・時期などを具体的に示す必要があります。また、業績悪化が客観的にわかるデータを開示し、解雇がやむを得ないことを証明すると良いでしょう。労働者から質問があれば、真摯に対応するのもポイントです。
また、希望退職の募集でも、人員整理の必要性を示すことが求められます。
例えば、役員のスリム化や役員報酬のカット、新規採用の停止などを試みたが、それでも人員削減が必要な旨を訴える方法です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある