65歳定年の引き上げはいつから?メリット・検討事項・助成金について
定年後再雇用において給与や賞与の格差が問題となった最高裁判決についてYouTubeで配信しています。
最高裁は、正社員と嘱託社員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法があるとして、破棄し、原審に差し戻しました。
動画では、定年後再雇用の問題がなぜ旧労働契約法20条の問題になるのかも含め、基本給に関する最高裁判決の内容を解説しています。
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
2025年4月から、全ての企業で65歳までの雇用確保が義務化されます。
また、さらなる年金受給年齢の引き上げにあたり、2021年4月には「70歳までの就業機会の確保」の努力義務が課されました。
そこで、この記事では、高年齢者雇用安定法改正による「定年の引き上げ」について、メリット・デメリットや検討すべきこと等を解説していきます。
目次
65歳までの定年引き上げ(延長)とは
高年齢者雇用安定法の改正により、65歳までの雇用確保が義務になりました。2025年4月までは経過措置期間とされていますが、それ以降は雇用機会の確保が例外なく義務化されます。
これにより、定年年齢が65歳未満の企業については、次のいずれかの措置を講じなければなりません。
- ①65歳までの定年の引き上げ
- ②65歳までの継続雇用制度の導入
- ③定年制度の廃止
これら3つの措置を、「高年齢者雇用確保措置」といいます。
なお、定年年齢については、基本的に60歳以上としなければならないので注意が必要です。
高年齢者雇用安定法について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
定年について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
70歳まで定年延長について
2021年4月より、労働者に70歳までの「就業機会確保」の努力義務が定められました。
これにより、労働者が70歳になるまでは、雇用に限らないなんらかの形で継続的に働くことができる機会を確保するように努力しなければなりません。
70歳まで就業機会を確保するために、企業は次のいずれかの方法を選択できます。
- ①70歳までの定年の引き上げ
- ②70歳までの継続雇用制度の導入
- ③定年制度の廃止
- ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- ⑤70歳まで継続的に事業主が実施等している社会貢献事業に従事できる制度の導入
公務員の定年延長について
国家公務員も地方公務員も、現在では基本的に60歳が定年とされます。しかし、公務員の定年年齢に関しても、一般企業と同様に65歳まで引き上げられることになりました。
具体的には、以下のように、2年につき1歳ずつ、段階的に引き上げられます。
2023年4月 | 61歳 |
---|---|
2025年4月 | 62歳 |
2027年4月 | 63歳 |
2029年4月 | 64歳 |
2031年4月 | 65歳 |
海外の定年制度
日本では当たり前のように考えられている定年制度ですが、世界では年齢による差別に該当するとして禁止されている国があります。
また、定年制度のある国であっても、各国で定められている年齢は異なります。しかし、高齢化や人手不足等の影響により、日本と同様に定年年齢の引き上げが議論されている国が多いようです。
定年制度が禁止されている | アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア等 |
---|---|
65歳~68歳程度 | ドイツ、フランス、シンガポール等 |
60歳~64歳程度 | タイ、マレーシア等 |
定年の引き上げにおける継続雇用制度とは
継続雇用制度とは、再雇用制度と勤務延長制度によって構成されています。
再雇用制度とは、一旦定年退職した労働者と新たな労働契約を結ぶ制度です。定年を迎えた労働者に、必要に応じて退職金を払う等したうえで労働契約を終了させ、新たな労働契約で雇用することになります。
このとき、給与等の条件は下がることが多いですが、業務の内容、変更の範囲等が変わらないなど、不合理な労働条件の引き下げは違法となるリスクがあります。
勤務延長制度とは、定年に達した労働者の雇用を継続する制度です。このとき、基本的には従前の労働契約の期間を延長しているので、労働条件等を維持したまま雇用することになります。
継続雇用制度について、より詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
定年引き上げのメリットとデメリット
定年の引き上げは、社会からの要請に応えることであり、労働者にとっては長く働けるため、年金の支給開始年齢が上がっていくなかで収入のない期間が基本的になくなるということです。
さらに、定年を引き上げることは企業にとってもメリットになり得ます。しかし、デメリットも見逃せません。
定年の年齢を引き上げることのメリットとデメリットとして考えられる主なものを表にまとめたのでご覧ください。
メリット | デメリット |
---|---|
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定年の引き上げに関して検討すべき事項
定年を引き上げるにあたっては、以下の項目について検討しましょう。
- ①対象者・仕事内容・役職
- ②労働時間・配置・異動
- ③成果への評価
- ④賃金・退職金
なお、定年に関する変更事項は、必ず就業規則に記載しなければなりません。定年という退職に関する項目は、下記条文のとおり、就業規則に記載すべき「絶対的必要記載事項」だからです。
労働基準法
(作成及び届出の義務)第89条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
①対象者・仕事内容・役職
変更後の定年制度は、基本的にはすべての正社員(期間の定めのない労働者)に適用されます。
そのため、定年を引き上げると、今までであれば定年により退職していた高齢の労働者が働き続けることになります。賃金の引き下げなどを維持することも考慮するのであれば、役職定年制を採用したりすることで、高齢の労働者の仕事内容や役職等を変更する必要が出てくる場合があるでしょう。
そのような場合は、高齢労働者だけでなく、他の労働者からも不満が出ないよう、どのような仕事や役職を担当してもらうことが適切かを慎重に検討して決定しましょう。例えば、専任職といった形で、若手の労働者への技術やノウハウを伝える役割などが用意されることがあります。
②労働時間・配置・異動
定年年齢を引き上げる場合は、労働時間や勤務日数、配置等を変更するようなときのみ、雇用契約を結び直し、雇用契約書や労働条件通知書を作成し直しましょう。
なぜなら、定年年齢を引き上げる場合には、労働条件等はリセットされず、従前の労働契約が続くことになるからです。
定年年齢を引き上げた後の労働条件を変更するのであれば、新たに労働条件を結び直し、労働時間や勤務日数、配置等を変更するようにしましょう。
③成果への評価
定年年齢の引き上げを行ったとしても、労働条件が変更されるわけではありません。また、労働者である以上、公平かつ公正に評価されるべきであることには変わりません。そこで、定年年齢引き上げの対象となったことを前提とした人事制度を構築する必要が出てくると考えられます。
④賃金・退職金
定年年齢の引き上げについて、賃金に関する規制を受けることはありません。また、退職金が支払われる時期は、定年を迎えた後であることに変わりはありません。
定年年齢の引き上げにより、従前に比べて人件費がかかるため、継続雇用制度を導入するよりも慎重にコストを検討しなければならないでしょう。
そこで、定年延長の機会には、賃金や退職金について、能力・職務等の要素を重視する制度に向けた見直しを行いましょう。ただし、高年齢者の生活の安定にも配慮して、計画的かつ段階的に制度を修正する必要があります。
定年の引き上げを実施した企業への助成金
65歳以上への定年の引き上げや、高齢者の無期雇用契約への転換等により、政府からの助成金を受け取ることができます。
高齢の労働者を雇い続けることによる人件費の負担を緩和するために、利用の検討をお勧めします。
65歳超継続雇用促進コース | 就業規則等により、以下のいずれかに該当する新しい制度を実施し、労働基準監督署に届け出たこと
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定年を引き上げるために、専門家やコンサルタントに経費を支出したこと | |
「高年齢者雇用管理に関する措置」を1つ以上実施していること ※教育訓練の実施等 |
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高年齢者評価制度等雇用管理改善コース | 雇用管理整備計画の認定を受けること |
高年齢者雇用管理整備措置を実施し、それに伴う書類を整備していること | |
同一の事由により国等から補助金等を受けていないこと | |
高年齢者無期雇用転換コース | 無期雇用転換計画の認定を受けること |
無期雇用転換計画の期間内に、雇用する50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること | |
同一の事由により国等から補助金等を受けていないこと |
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある