年次有給休暇の時間単位・半日単位付与の取り扱い
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働者が年次有給休暇を取得する場合には、通常であれば仕事を丸1日休むことになります。周囲への業務負担等の懸念から、休暇の取得を遠慮してしまう労働者も少なくありません。
そこで、半日・時間単位の有給休暇の取得を認めることによって、労働者がより有給休暇を取得しやすくなることが期待できます。
このページでは、【時間単位年休】(時間単位の年次有給休暇)、【半日単位年休】(半日単位の年次有給休暇)について解説します。制度の導入検討の一助になれば幸いです。
目次
時間単位の年次有給休暇
時間単位の年次有給休暇(時間単位年休)制度とは、1日単位での付与が原則である年次有給休暇について、1時間単位での付与を認める制度のことです(労基法39条4項)。
時間単位年休制度は、2010年4月1日に施行された労働基準法の改正により導入されました。本制度は、中小企業であっても導入することが制限されていません。
なお、本制度を導入しても、労働者には時間単位年休の取得が義務づけられるわけではありません。
時間単位年休の上限日数
時間単位で付与できる年次有給休暇は、1年につき5日分までです。この上限は、労働者の疲労の回復などのために「丸一日の取得が望ましい」としながらも、労働者の事情によって柔軟に年次有給休暇を取得できるようにするために設けられました。
もしも時間単位年休が5日分を超えてしまうと、超えた分の年次有給休暇は基本的には付与しなかったのと同じ扱いを受けることになります。すると、給与の支払いや、改めて一日単位の有給休暇を請求されたときにトラブルになるおそれがあります。
時間単位年休のメリット・デメリット
時間単位年休制度を導入することには、企業にとって次に挙げるようなメリットとデメリットがあります。
【メリット】
- 有給休暇の取得率の向上が期待できる
- ワークライフバランスの実現により生産性が向上し、人材の定着にもつながる
- 企業の社会的な評価を高められる
- 積極的に付与することで、採用において求職者にアピールできる
【デメリット】
- 有給休暇の管理方法が複雑になる
- 1日単位での取得がかえって少なくなるおそれがある
- 繁忙期であっても時季変更権が認められにくくなる
時間単位年休の導入方法
時間単位年休制度の導入にあたっては、次の手続きが必要になります。
- 労使協定の締結
- 就業規則への規定
これらの手続きについて、以下で解説します。
労使協定の締結
使用者は、事業場の過半数で組織する労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と、書面による労使協定を締結する必要があります。
労使協定に定めなければならないのは、主に次の事項です。
- ①時間単位年休の対象労働者の範囲
- ②時間単位年休の日数
- ③時間単位年休1日の時間数
- ④1時間以外の時間を単位とする場合のその時間数
①時間単位年休の対象者の範囲
時間単位年休の対象とする労働者の範囲は、労使協定で定めます。一部の労働者を対象外とする場合は、その範囲についても定める必要があります。
パートやアルバイトなどの非正規雇用労働者を時間単位年休の対象外とすることも可能です。ただし、正社員と同視すべき非正規雇用労働者については、正社員と同等の取扱いが求められることから(パートタイム労働法8条)、対象外とすべき合理的な理由のない限り、時間単位年休の対象から除外すべきではないという点には注意が必要です。
②時間単位年休の日数
年次有給休暇は、基本的には労働者に丸1日の休暇を取得させて疲労の回復等をはかるものであるため、時間単位年休は、年間5日に相当する時間数を上限とした範囲内で与えることとされています。
パートタイム労働者などの非正規労働者で、年次有給休暇の付与日数が5日未満である場合には、その日数の範囲内で定めることとなります。
なお、勤務日数や勤務時間がフルタイムで働く労働者よりも少ない労働者が、働いた日数や時間に比例して有給休暇を付与されることを「有給休暇の比例付与」といいます。
③時間単位年休1日分の時間数
年次有給休暇1日分が、時間単位年休の何時間分に相当するかを労使協定で定める必要があります。
通常の場合には、次のように決められます。
①1日の所定労働時間に端数がないケース
例えば、1日の所定労働時間が8時間や7時間といった時間であれば、所定労働時間数を1日分とすれば問題ありません。
時間単位年休の日数を5日に定めたとき、1日分が7時間であれば「7時間×5日=35時間」により35時間が上限となります。
②所定労働時間に1時間未満の端数が生じるケース
例えば、1日の所定労働時間が7時間30分であれば、8時間に切り上げて1日分とします。
時間単位年休の日数を5日に定めたとき、1日分が8時間であれば「8時間×5日=40時間」により40時間が上限となります。
④1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
1時間以外の時間を取得単位とする場合は、その時間数を労使協定で定める必要があります。例えば、2時間や3時間といった単位が考えられますが、1日の所定労働時間と同じ時間数、あるいはそれを上回る時間数を取得単位とすることはできません(労基則24条の4第2号)。また、30分等、1時間に満たない時間数も同様に認められません。
就業規則への規程
時間単位年休について労使協定に定めた内容や、時間単位年休制度を利用した場合の賃金額について、就業規則に記載する必要があります(労基法89条1項)。
就業規則を変更するときには、労働者代表の意見書を添付して、管轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません(労基法90条)。また、労働者への周知も必要です(労基法106条1項)。
就業規則には、下のように規定します。
就業規則
(時間単位の年次有給休暇)第〇条
労使協定に基づき、前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲内で時間単位年休を付与する。付与の方法は以下のとおりである。
(1)●●部に所属する従業員を対象者とする。
(2)1時間単位で付与する。
(3)1日の年次有給休暇に相当する時間数は、所定労働時間によって次のとおりに定める。
①5時間を超え6時間以下の者 6時間
②6時間を超え7時間以下の者 7時間
③7時間を超え8時間以下の者 8時間
(4)時間単位年休に支払われる賃金額は、通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。
(5)上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。
時間単位年休の賃金
時間単位年休や、以降で解説する半日単位年休のいずれの場合も、1日単位の取得時と同様の方法で賃金額を算出します。
賃金額を計算する式は次のとおりです。
時間単位年休1時間分の賃金額=「下記①~③のいずれか」÷「その日の所定労働時間数」
①平均賃金
②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
③標準報酬日額(労使協定が必要)
また、3つのうちどの方法で賃金額を算出するか、就業規則に明記されている必要があります。
年次有給休暇の賃金に関する詳しい内容は、以下のページをご覧ください。
割増賃金の取扱い
時間単位年休や半日単位年休を取得した場合、これらを取得しなかった場合の終業時刻を超えて残業をしたとしても、1日の実労働時間が8時間を超過しない可能性があります。
その場合、基本的に割増賃金の支払いは必要なく、通常の時間単位の賃金を支払うことで対応します。
なお、“実労働時間主義”を採用する労働基準法に照らせば、1日の実労働時間が法定労働時間(8時間)を超えたときに限って、2割5分の割増賃金が発生することとなります。
割増賃金に関する詳しい内容は、それぞれ以下のページをご覧ください。
時間単位年休と他制度との関係
年次有給休暇には様々な制度があるため、時間単位年休との関係について把握する必要があります。
これについて、以下で解説します。
時季変更権の行使
時間単位年休についても、通常の年次有給休暇と同じように、使用者が時季変更権を行使することは可能です。
時季変更権とは、事業の正常な運営を妨げる場合には、労働者から請求された時季とは異なる時季に有給休暇を与えることができる権利です。
ただし、時間単位年休が「事業の正常な運営を妨げる」と認められることは少ないでしょう。
また、日単位での請求を時間単位に変更して与えることや、時間単位での請求を日単位に変更して与えることはできないので注意しましょう。
年次有給休暇の時季変更権について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
計画的付与制度の対象
時間単位年休や半日単位年休は、労働者が請求した時季に与えるものであるため、計画的付与の対象とすることはできません。
計画的付与とは、労働者に付与される有給休暇のうち5日を超える分について、会社から取得日を指定できる制度です。有給休暇の取得率の向上やワークライフバランスの実現、長期間に渡る有給休暇の申請を原因とするトラブルの防止といったことを目的として用いられます。
年次有給休暇の計画的付与に関する詳しい内容は、それぞれ以下のページをご覧ください。
年5日以上の有給取得義務への算入
1年に10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については、年次有給休暇を1年に5日以上取得させる義務があります(労基法39条7項)。
時間単位年休の取得分は、この義務の日数に算入できません。そのため、たとえ時間単位年休を5日間取得したとしても、それとは別に5日の有給休暇を取得させる義務が残ってしまいます。
年次有給休暇の取得義務について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
時間単位年休の繰り越しについて
未消化分の年次有給休暇は、次年度に繰り越されます。この場合でも、時間単位年休を取得させることができる時間数は、繰越分を含め5日が上限となるので注意しなければなりません。
なお、時間単位年休の取得によって、1日未満の端数が生じた場合について、端数を翌年に繰り越すのか、1日単位に切り上げて1日として当年度に与えるのか、その方法をあらかじめ定めておく必要があります。
半日単位の年次有給休暇
半日単位の年次有給休暇とは、午前か午後、あるいは1日の労働時間の半分を有給休暇として与えるものです。
半日単位の年次有給休暇(半日単位年休)に関する事項は、労働基準法などで法定されてはいません。そのため、使用者には労働者に対して半日単位年休を必ず付与する義務はあまりません。また、労働者に対してその取得を強制することもできません。
労働者が希望して使用者が同意した場合には、半日単位年休の付与が可能になります。このとき、労使協定の締結などが求められることはありません。
なお、半日単位年休制度を導入する際には、その旨を就業規則に明記しておかなければなりません。あわせて、半日単位年休を与える日の始業・終業時刻についても、就業規則に明示しておく必要があります(労基法89条1項)。
なお、半日単位で与えた有給休暇については、年5日以上を付与する義務に含めることが可能です。
半日単位の考え方
半日単位の数え方として、次のものが挙げられます。
(1)午前と午後とで区切る(例:午前3時間、午後5時間)
(2)所定労働時間を2等分する
実務上は(1)の方法で、昼休憩を挟んで午前休、午後休とすることが一般的です。
例えば、始業・終業時間が9:00~18:00、休憩時間が12:00~13:00の場合には、午前休であれば9:00~12:00、午後休であれば13:00~18:00を有給休暇として与えます。
この場合、午前休と午後休とで時間に不公平感が生ずるおそれがあります。
しかしながら、これは制度上免れ得ないものとされており、(1)・(2)のどちらを採用する場合であっても、0.5日分の消化とカウントすることになっています。
半日単位年休の上限日数
半日単位年休の取得日数について、法律上は上限が設けられていません。しかし、半日単位年休の取得は労務管理も煩雑になり、まとまった労務提供を受けることに支障が生じやすくなります。
そこで、例えば取得回数を5回や10回までというように、会社が独自に上限を設け、就業規則に定めて運用する方法が考えられます。
基本的に、年次有給休暇は一日単位での付与が望ましいとされているため、上限を定めておいた方が良いでしょう。
時間単位年休と半日単位年休の併用
時間単位年休と半日単位年休の制度は、併用することが可能です。
なお、労働基準法に定められている時間単位年休と、法律上の定めがない半日単位年休とでは、それぞれ扱いが異なります。
そのため、法改正による時間単位年休を導入したからといって、半日単位年休への影響は特にありません。
例えば、労働者に半日単位年休を与えたとしても、当該労働者の時間単位年休の残時間数が減ってしまうというようなことはありません。
時間単位・半日単位の年次有給休暇に関する裁判例
時間単位年休に関する裁判例
【東京地方裁判所 平成5年12月8日判決、東京国際郵便局事件】
この事例は、労働者である原告らが、所属する組合が計画した他の課の要請行動に参加する目的で、年次有給休暇の1時間の時季指定をしたところ、原告らの上司が時季変更権を行使した事例です。
原告らの上司は、原告らの指定どおりに年次有給休暇を与えると、他の課の“事業の正常な運営が妨げられる”としました。
裁判所は、時季変更権が行使できるかは、当該労働者の所属する事業場を基準に判断するべきであり、原告らの時季指定によって、原告らが勤務する課において支障が生じると予想されたわけではないとしました。
また、時季変更権が行使できるかは取得目的によって決めるのではなく、当該労働者が働かないこと自体によって“事業の正常な運営を妨げるか”によって決すべきものであるとしました。そして、本件はその要件を欠いているとして、時季変更権の行使を無効と判断しました。
半日単位年休に関する裁判例
【東京地方裁判所 平成7年6月19日判決、学校法人高宮学園事件】
この事例は、原告らが当日午後の半日単位年休について、「私事都合」として午前中の勤務終了間際に請求、取得し、所属する組合活動を行う等したところ、被告は後日になって、本来の有給休暇の目的趣旨に反する休暇であるとして原告らを半日欠勤の扱いとした事例です。
本件では、主に原告らの半日単位年休の有効性が争われました。
裁判所は、半日単位年休について、労働基準法によって禁止されているわけではないと判断をしました。
そして、被告では半日単位年休を認める旨の明文規定を置いていなかったものの、労働慣行として半日単位年休の制度が存在していたと判断しました。
また、本件時季指定権の行使について、“被告は請求を受けた日の午後までに時季変更権を行使しておらず、本件半日単位年休は有効に成立した”と判断し、“休暇の取得目的や利用結果を理由として後日これを取り消すことはできない”と判断しています。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある