事業主が講ずるべき高齢者に対する再就職支援
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
近年、少子高齢化のため、生産年齢人口(15~64歳)が減少するなか、65歳以上の高齢者の人口が増加しています。2030年には総人口の約3人に1人が65歳以上となる見込みであることを考えると、会社の継続的な発展のためには、高齢者を労働力として確保することが必要不可欠です。また、政府も高齢者の労働への参画を促すべく、事業主に様々な措置を講じることを求めています。
今回は、事業主に求められる措置のひとつである、高齢者の再就職支援について解説していきます。
目次
高年齢者等の再就職支援
高年齢者雇用安定法の改正により、事業主には、定年の引上げや継続雇用制度により高齢な労働者の雇用確保措置の実施が求められるようになりました。加えて、同法にいう高年齢者等※が希望するときは、再就職の支援をするよう努めることを義務づけています。
なぜ事業主に高年齢者等の再就職支援を努力義務として課すのかというと、定年を迎えた後、継続雇用を希望したものの基準に該当しないとして受け入れられなかったために離職し、その後再就職先を見つけられずに引退した高齢者が一定数いると考えられ、また、現実に再就職先を自身で探し続けている高齢者が相当数いるからです。このように、再就職の壁によって潜在的な労働力の活用が阻まれている現状を打開するべく、努力義務を課しているものと考えられます。
※高年齢者等:高年齢者および以下の①②のうち高年齢者に該当しない者
- ①中高年齢者(45歳以上)である求職者(②を除く)
- ②中高年齢失業者等(45歳以上65歳未満の失業者、その他社会的事情等によって就職が著しく阻害されている者)
高年齢者雇用安定法による規定
事業主は、解雇等によって離職する高年齢者等が希望するときは、再就職援助措置(求人の開拓やその他再就職の援助に関して必要な措置)を講じるよう努めなければなりません(高年齢者雇用安定法15条第1項)。
具体的には、できる限り早期に再就職できるよう、高年齢者が在職中に求職活動や職業能力を開発することを支援すること等が求められます。
事業主に求められる、高年齢者等の再就職援助措置の詳細については、下記で説明しているので併せてご覧ください。
高年齢者雇用安定法
(再就職援助措置)第15条
1 事業主は、その雇用する高年齢者等(厚生労働省令で定める者に限る。以下この節において同じ。)が解雇(自己の責めに帰すべき理由によるものを除く。)その他これに類するものとして厚生労働省令で定める理由(以下「解雇等」という。)により離職する場合において、当該高年齢者等が再就職を希望するときは、求人の開拓その他当該高年齢者等の再就職の援助に関し必要な措置(以下「再就職援助措置」という。)を講ずるように努めなければならない。
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国による高年齢者等の再就職支援
高年齢者雇用安定法12条によると、国は、高年齢者等の再就職の促進等をするため、職業指導や職業紹介、職業訓練等の措置が効果的に関連して実施されるように配慮するものと定められています。
具体的には、公共職業安定所(いわゆるハローワーク)に対して、求人の開拓等を行わせるとともに、高年齢者等に関係する求人と求職に関する情報を集め、対象となる求職者と事業主に対して提供するという努力義務を課すことで、高年齢者等の雇用の機会を確保し、再就職の促進等を図っています(高年法13条)。加えて、実効性をより高めるため、高年齢者等である求人者の能力に適する職業の紹介に必要なときに、ハローワークが対象者に対して年齢その他の求人の条件について指導することを認め(同法14条第1項)、高年齢者等を雇用し、または雇用を予定する事業主に対して、高年齢者等の雇用に関する技術的事項等について助言や援助等を行う権限を与えています(同法14条第2項)。
【国による高年齢者等の再就職支援の具体例】
- ・生涯現役支援窓口事業の実施
特に65歳以上の高年齢求職者に対する再就職支援を行う「生涯現役支援窓口」を、全国の主要なハローワーク300箇所に設置する - ・高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業の実施
公益財団法人産業雇用安定センターに、高年齢退職予定者のキャリア情報等を登録し、希望する事業者に情報提供を行う - ・特定求職者雇用開発助成金等の各種助成金の支給
ハローワーク等を通して高年齢者を雇い入れる事業主に対して助成金を支給する - ・高齢者スキルアップ・就職促進事業の実施
事業主団体やハローワーク等と連携し、技能講習や面接会等を実施する
再就職支援の対象となる高年齢者
高年齢者雇用安定法で再就職支援の対象となる「高年齢者等」には、社会的事情等により就職が著しく阻害されている者も含まれていますが、事業主による再就職支援の対象となるのは高年齢者等のすべてではありません。では、事業主による再就職支援の対象となる高年齢者(以下、「離職予定高年齢者」とします)とはどのような者をいうのかというと、「離職日時点で45歳以上65歳未満の者」で、下記の①~③のいずれかに該当する者を指します。
- ①自身に帰責性のない解雇をされた者
- ②継続雇用制度の対象者とならず退職した者
- ③その他事業主の都合によって離職する者
なお、退職や解雇といった制度についての詳しい説明は、下記の各記事に譲ります。
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事業主による高年齢者の再就職支援
事業主は、離職予定高年齢者に対して、対象者が各々有する職業能力や再就職に関する希望等を踏まえたうえで、以下のような再就職援助措置を講じるよう努めなければなりません。
- (1)教育訓練を受講するため、または資格試験を受験するため等、求職活動を行うための休暇を付与する
- (2)(1)の休暇日を有給扱いとする、(1)の活動にかかる実費相当額を支給する等、経済的な支援を行う
- (3)求人の開拓や求人情報の収集・提供、関連企業等への再就職を斡旋(あっせん)する
- (4)再就職に有利に働く教育訓練やカウンセリング等を実施する、または受講等を斡旋する
- (5)事業主間で連携し、再就職の支援体制を整備する
- (6)求職活動支援書を作成する
- (7)助成金制度等を有効に活用して援助する
なお、こうした措置を講じるにあたっては、必要に応じて、ハローワーク等に情報提供や助言・援助を求めたり、ハローワーク等と連携する事業主団体等が行う再就職支援事業を利用したりする等、外部機関による支援を積極的に活用すると良いでしょう。
求職活動支援書の作成・交付義務
事業主は、離職予定高年齢者が希望するときは、早急に当事者の能力や希望等に十分配慮した内容の「求職活動支援書」を作成して交付しなければなりません(高年法17条第1項)。
求職活動支援書とは、対象者の職務経歴や職業能力等、再就職に有利になる事項および事業主が講じる再就職援助措置について記載した書面をいいます。求職活動支援書を作成する際には、対象者が持つ豊富な職務経歴等を記載することが可能な「職業キャリアが長い方向けのジョブ・カード」の様式を積極的に活用することをお勧めします(平成21年2月10日能開発第210004号:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5049&dataType=1&pageNo=1)。
なお、求職活動支援書を作成したうえで、一定の再就職援助措置を実施する場合、労働移動支援助成金を受給できることがあります。そのためには、求職活動支援書を作成する事業主が、当該支援書を作成する前に対象者の希望を十分に把握したうえで労働組合等と協議を行い、「求職活動支援基本計画書」を作成し、さらに労働組合等の同意を得てから都道府県労働局またはハローワークに提出する必要があります。
高年齢者雇用安定法
(求職活動支援書の作成等)第17条
1 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、解雇等により離職することとなつている高年齢者等が希望するときは、その円滑な再就職を促進するため、当該高年齢者等の職務の経歴、職業能力その他の当該高年齢者等の再就職に資する事項(解雇等の理由を除く。)として厚生労働省令で定める事項及び事業主が講ずる再就職援助措置を明らかにする書面(以下「求職活動支援書」という。)を作成し、当該高年齢者等に交付しなければならない。
2 前項の規定により求職活動支援書を作成した事業主は、その雇用する者のうちから再就職援助担当者を選任し、その者に、当該求職活動支援書に基づいて、厚生労働省令で定めるところにより、公共職業安定所と協力して、当該求職活動支援書に係る高年齢者等の再就職の援助に関する業務を行わせるものとする。
求職活動支援書に記載すべき事項
求職活動支援書には、以下の事項を記載しましょう。
- (1)(離職予定高年齢者の)氏名、年齢および性別
- (2)離職することとなる日(決定していない場合は、離職することとなる時期)
- (3)職務経歴(従事した主な業務の内容、実務経験、業績および達成事項を含む)
- (4)保有する資格、免許および受講した講習
- (5)保有する技能、知識その他の職業能力に関する事項
- (6)職務の経歴等を明らかにする書面を作成する際に参考となる事項その他の再就職に関する事項
- (7)事業主が講じる再就職援助措置
義務違反に対する指導・勧告
厚生労働大臣は、離職予定高年齢者が取得を希望しているにもかかわらず、求職活動支援書を交付しない事業主に対して、必要な指導および助言ができます(高年法18条第1項)。さらに、指導および助言をしてもなお、求職活動支援書を交付しない事業主に対しては、当該支援書を作成・交付することを勧告することが可能です(同法18条第2項)。
高年齢者雇用安定法
(指導、助言及び勧告)第18条
1 厚生労働大臣は、前条第一項の規定に違反している事業主に対し、必要な指導及び助言をすることができる。
2 厚生労働大臣は、前項の規定による指導又は助言をした場合において、その事業主がなお前条第一項の規定に違反していると認めるときは、当該事業主に対し、求職活動支援書を作成し、当該求職活動支援書に係る高年齢者等に交付すべきことを勧告することができる。
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多数離職届の提出について
事業主は、1ヶ月以内に、同一の事業所で雇用する高年齢者等が5人以上解雇等によって離職する場合は、離職の1ヶ月前までに当該事業所の所在地を管轄するハローワークの所長に、「多数離職届」を提出しなければなりません(高年法16条第1項、高年法施行規則6条の2)。詳しくは次項をご覧ください。
なお、届出をしない、または虚偽の届出をして当該規定に違反した場合には、10万円以下の過料に処されるため、注意が必要です(高年法57条)。
高年齢者雇用安定法
(多数離職の届出)第16条
1 事業主は、その雇用する高年齢者等のうち厚生労働省令で定める数以上の者が解雇等により離職する場合には、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、その旨を公共職業安定所長に届け出なければならない。
(罰則)第57条
第16条第1項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者(法人であるときは、その代表者)は、10万円以下の過料に処する。
多数離職届の提出が必要なケース
多数離職届を出さなければならない場合とは、同一の事業所において、(1)の対象者が、(2)のいずれかの理由によって、1ヶ月以内に5人以上※離職するケースを指します。
(1)対象者
45歳以上65歳未満で、次のいずれにも該当しない者
- ①有期雇用労働者(ただし、同一事業主に6ヶ月以上継続して雇用されている場合は除きます)
- ②使用期間中の労働者(ただし、同一事業主に14日以上継続して雇用されている場合は除きます)
- ③常時勤務に服することを要しないものとして雇用されている労働者(例:非常勤講師)
(2)理由
- ①自身に帰責事由のない解雇
- ②継続雇用制度の対象者とならず退職した者
- ③その他事業主の都合によって離職する者
※雇用対策法に基づく大量雇用変動届によって既に届け出られた者、および同法に基づく再就職援助計画の対象者については含みません。
募集・採用時の年齢制限に関する規定
事業主が、労働者の募集や採用をする場合に、やむを得ない理由で65歳以下の一定の年齢を下回ることを条件として設けるときは、求職者に対して、厚生労働省令で定める方法によって、当該理由を示さなければなりません(高年法20条第1項)。具体的には、労働者の募集や採用の用に供する書面または電磁的記録に理由を併せて記載します(高年法施行規則6条の5)。
なお、当該理由の提示の有無または理由の内容について、厚生労働大臣が必要があると認めた場合、事業主は、報告を求められるか、または助言・指導もしくは勧告を受ける可能性があります(高年法20条第2項)。
高年齢者雇用安定法
(募集及び採用についての理由の提示等)第20条
1 事業主は、労働者の募集及び採用をする場合において、やむを得ない理由により一定の年齢(六十五歳以下のものに限る。)を下回ることを条件とするときは、求職者に対し、厚生労働省令で定める方法により、当該理由を示さなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項に規定する理由の提示の有無又は当該理由の内容に関して必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
高年齢者の再就職に関する助成金
雇用関係の助成金には様々なものがありますが、ここでは、雇入れ関係の助成金のうち、高年齢者等を対象とする、以下の2つの助成金に関して説明します。
・特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
ハローワーク等※1から紹介を受け、雇用保険の一般被保険者として※2、高年齢者や障害者等の就職困難者を雇い入れる事業主が受給できる助成金です。なお、支給額は表1のとおりです。
- ※1具体例:ハローワーク、地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期すことができる有料・無料職業紹介事業者
- ※2:対象者となる労働者が65歳を迎えるまで継続して雇用し、かつ、雇用期間が継続して2年以上になることが確実であると認められる場合
弧内は、中小企業事業主以外に対する支給額および助成対象期間です。
②特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
ハローワーク等※3から紹介を受け、雇用保険の高年齢被保険者※4として、雇入れ日の時点で満65歳以上の離職者を雇い入れる事業主が受給できる助成金です。なお、支給額は表2のとおりです。
※3具体例:ハローワーク、地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期すことができる有料・無料職業紹介事業者
※4:1年以上雇用することが確実であると認められる場合に限る
括弧内は、中小企業事業主以外に対する支給額および助成対象期間です。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある