会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません 会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

手待時間は労働時間になるのか|判断基準や具体例を使って詳しく解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

接客業などで、客がいない時間があることは珍しくありませんが、その時間は労働者が働いていないように見えます。場合によっては、ゲームをしているかもしれませんし、仮眠をとっているかもしれません。
そのような「手待時間」が労働時間に該当するのかについて、悩んでしまう方も多いのではないでしょうか。

まずは、労働基準法における「手待時間」の取扱いを確認しましょう。そのうえで、具体的にどんなケースが「手待時間」にあてはまるのか、そして、どんなことに注意して労務管理をするべきなのか等を、このページを通して整理していきましょう。

手待時間とは

手待時間は、実際に業務に従事し、作業をしていなかったとしても、使用者から指示があった場合は、すぐに作業に取り掛かれるような状態で待機している時間のことをいいます。このような状態にある時間は使用者の指揮命令下にあると考えられており、手待時間休憩時間ではなく、基本的に労働時間として扱われます。

手待時間に該当するか否かの判断は、使用者の指揮命令下にあるかどうかがポイントとなります。そのため、労働者が自由に過ごしていると思われる時間も、従事すべき業務が発生した場合にすぐに対応できる状態にしておく必要があるのなら、使用者の指揮命令下にあるとみなされ手待時間に該当し、「労働時間」として扱われます。

なお、「休憩時間」、「労働時間」にまつわる諸問題について詳しく知りたい方は、別途以下のページでそれぞれ解説していますので、ぜひご覧ください。

労働基準法上の休憩とは
労働時間

手待時間と休憩時間の判断基準

手待時間 労働者が使用者の指揮命令下にあり、使用者からの指示があればすぐに作業を始めなければならない
休憩時間 労働者が労働から開放されることが保障される時間であり、使用者の指揮命令下から離れて自由に過ごすことができる

作業をしていない時間が「手待時間」と「休憩時間」のどちらに該当するかの判断基準は、使用者の指揮命令の支配下から完全に解放され、労働者が自由に利用できる時間であるか否かによります。

判断が難しいケース

手待時間で法定労働時間を超えた場合 残業代の支払いが必要
手待時間に他の仕事の指示をした場合 労働時間として賃金の支払が必要
手待時間で移動していた場合 移動時間も手待時間であるため賃金の支払いが必要

手待時間によって法定労働時間を超えると、時間外労働割増賃金が発生します。
勤務中に発生する移動時間は、基本的に労働時間だと判断されます。そのため、手待時間に移動を指示しても、休憩時間にはなりません。

手待時間の具体例

手待時間として、次のような時間が挙げられます(※ただし、手待時間となるかはケースバイケースです。)。

  • 店番の待機時間
  • タクシー運転手の客待ち時間
  • 休憩時間中の電話や来客対応
  • 仮眠時間
  • 貨物の到着待ちの時間

これらの時間について、以下で解説します。

店番の待機時間

客がいないときには適宜“休憩”しても良いとする雇用条件で働く場合であっても、この“休憩”は「手待時間」であり、労働基準法上の「休憩時間」にはあたらないとした裁判例があります(大阪地方裁判所 昭和56年3月24日判決、すし処「杉」事件)。

このように、接客業のスタッフ等は、客がいない時間帯であっても店内で待機しています。店番中は、スタッフの判断で持ち場を離れる等して、その時間を自由に使うことはできません。つまり、使用者の指揮命令下にある「労働時間」に該当するといえます。

タクシー運転手の客待ち時間

タクシー運転手には、お客様を送迎している時間のほか、客待ち時間が生じます。この時間も、基本的には「手待時間」として「労働時間」にカウントされます。

また、労働協約上に客待ちの場所等を制限する規定があっても、それに違反して客待ちをした時間が労働基準法上の「労働時間」にあたるかどうかは実態に即して判断すべきとした裁判例があります(大分地方裁判所 平成23年11月30日判決、中央タクシー割増賃金請求事件)。

この裁判例では、指定場所以外での客待ちが約定にて制限されていましたが、そのほか営業上非効率と思われる閑散地での待機時間や、駅待ちで長蛇の列に並んでいる時間も、実態として使用者の指揮命令下にあると判断され、「労働時間」に該当するとされました。

休憩時間中の電話や来客応対

「休憩時間」中に、電話や来客対応の必要が生じた場合、対応にあたった分の時間は「手待時間」として「労働時間」の扱いとなり、改めてその分の時間を確保するなどして休憩をとらせる必要があります(昭和23年4月7日基収1196号、昭和63年3月14日基発150号、平成11年3月31日基発168号)。

特に、当番制等で「休憩時間」中の電話や来客対応を指示している使用者は要注意です。電話や来客対応が通常業務の一環であることは明白であり、“休憩時間”という名称で括られた時間であっても労働者が業務から解放されているとはいえず、その実態は丸々「労働時間」であると判断され得るからです。つまり、結果的に労働者に「休憩時間」を与えていない、さらには「労働時間」に対する賃金が未払いの状態となっているおそれがあります。

仮眠時間

拘束時間が長い業務では仮眠をとることがあります。その時間は完全に業務から離れ、仮眠をとることのみに充てられるという場合には、「休憩時間」と考えることができます。
しかし、所定の仮眠場所がある場合や、仮眠時間中に緊急対応を命じる可能性がある場合には、仮眠時間を「労働時間」と判断され得るでしょう。夜間警備の業務などがイメージしやすいかと思います。

では、長距離トラックのドライバーが2名以上で交代しながら運転している中、運転者以外の者が仮眠をとっている時間はどうでしょう。

手待時間が大半を占めていたとしても、トラックという一定の場所に拘束されているため使用者の指揮命令下にあり、緊急時の交替・故障修理の対応要員として備えていると解され、仮眠をとっている時間を「労働時間」として扱われる可能性があります(昭和33年10月11日基収6286号)。

貨物の到着待ちの時間

貨物の積み込み作業のために貨物トラックの到着を待っている時間については、労働者が出勤を命じられ、一定の場所に拘束されているため「手待時間」にあたると考えられます(昭和33年10月11日基収6286号)。

一方で、その時間を労働者が自由に利用できるのであれば「休憩時間」にあたるとする行政通達もあります(昭和39年10月6日基収6051号)。つまり、実態によって判断が変わる可能性があります。

例えば、次のように、自由にその場を離れられない事情があれば「労働時間」にカウントされ得るでしょう。

  • すでにほかの貨物を預かっており、その場を離れると盗難のおそれがある場合
  • 到着時間は不明だが、到着次第速やかに対応しなければならない場合

手待時間として判断されない職種

次に掲げる職種については行政官庁の許可を受けると、労働基準法上の「労働時間」「休憩時間」「休日」に関連する規定が適用除外されると規定されています(労基法41条3号)。

  • 施設の門扉等で人の出入りを監視する守衛
  • 学校の用務員
  • 会社役員等の専属ドライバー
  • 団地の管理人
  • 隔日勤務のビル警備員

手待時間の労務管理

「手待時間」は、実際には“作業をしていない時間”が含まれているため、「労働時間」として捉えていない使用者がいることも事実です。

しかし、手待時間は労働時間であり、通常の賃金や時間外労働の割増賃金等を支払う必要が生じるおそれがあるため、使用者はきちんと理解して労務管理を行う必要があります。また、手待時間を休憩時間としている場合には、休憩を別途与えるようにしましょう。

休憩時間が手待時間とみなされた場合の罰則

休憩時間が手待時間と判断されてしまうと、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられるおそれがあります(労基法119条1項)。

これは、労基法34条に規定される「休憩時間」を与えることが義務とされており、休憩時間を与えないと刑罰の対象になるからです。休憩時間だと考えていた時間がすべて手待時間になってしまうと、休憩を与えなかったことになってしまうため注意しましょう。

ちょこっと人事労務

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 来所・zoom相談無料

企業側人事労務に関するご相談 来所・zoom相談無料(初回1時間)

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-630-807

平日 9:00~19:00 / 土日祝 9:00~18:00

※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円) ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。 ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込11,000円)

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます