差別
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働者の雇用にあたっては、明示的・意図的ではなかったとしても、「差別」と判断されるケースがあります。差別と認定されれば、法令違反になるだけでなく、会社のイメージが悪化する等の不利益を受けることもあるため注意しましょう。
本記事では、雇用における差別の概要や具体例などについて解説します。
目次
雇用における差別とは
雇用における差別とは、次のようなことを理由として採用するか否かを決めることです。
- 本人にはどうしようもないこと(出生地、親の年収、家族構成など)
- 本人の自由であるべきこと(信仰している宗教、尊敬している人物、支持政党など)
差別には直接差別と間接差別がある
間接差別は、性別について、表面上は一見差別に該当しないように見えるものの、実際には一方の性別の者に不利益を与える措置を講じることです。
雇用の場においては、分かりやすい直接差別だけでなく、間接的に性別による差別につながるとされる間接差別も禁じられているケースがあります。
この間接差別禁止に違反してしまうと、厚生労働大臣による助言や指導・勧告を受けたり、悪質な場合には社名が公表されたりするおそれがあります。
なお、ここで禁止される間接差別の「厚生労働省が定める措置」は3つあります。
それぞれについては、以下で解説します。
間接差別の具体例
身長・体重・体力を採用の要件とすること |
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転勤に応じられることを採用や昇進等の要件とすること | 労働者の募集もしくは採用、昇進又は職種の変更にあたって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること |
転勤の経験を昇進の要件とすること |
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間接差別の具体例として、上の表のようなものが挙げられます。
身長の高さや体重の重さなどを基準にすると、性別について指定しなくても、事実上は一方の性別が有利になるため差別に該当します。
肉体労働を伴う職業についても、その職業で必要とされるものより高い基準で体力などを要件にすると、間接差別に該当するので注意しましょう。
雇用する際の差別について懸念すべき理由
企業が雇用についての差別で懸念するべきこととして、次のことが挙げられます。
- 同じような性質の労働者ばかりを雇うため、業務の見直しや効率化が進まなくなる
- 女性や障害者などの雇用に後ろ向きな会社だとみなされて、イメージが悪化するおそれがある
- 採用活動の範囲が狭まり、能力の高い労働者を採用する機会を失ってしまう
雇用する際に知っておくべき差別の取り扱い
労働者を雇用するときには、次に挙げるような理由によって差別が行われるケースがあります。
- ①障害者の差別
- ②性別による差別
- ③労働組合員に対する差別
- ④セクシュアルマイノリティの差別
- ⑤病気による差別
- ⑥年齢制限による差別
これらの差別について、以下で解説します。
障害者の差別
差別の対象となる障害者として、次のような障害のある者が挙げられます。
- 身体障害
- 知的障害
- 精神障害(発達障害を含む)
- その他の心身の機能に障害がある者
障害者の差別の禁止は、障害者差別解消法で具体的に定められています。
同法は、障害者に対する以下2つの措置を掲げ、すべての国民が尊重し合い、共生できる社会の実現を目指しています。
- 不当な差別的取扱の禁止
- 合理的配慮の提供
また、障害者雇用促進法においても、事業主に“障害者の雇用義務”を課す等して、障害者の職業の安定を図っています。
障害者雇用における差別の禁止については、以下のページでも解説しているのでご覧ください。
障害者差別の具体的事例
障害者差別に該当する事例として、次のようなものが挙げられます。
- 障害者であることだけを理由として採用を拒否する
- 障害者についてのみ、健常者に対しては求めていない資格の取得を要求する
- 障害者は一律に非正規雇用とする
- 障害者の賃金について、業績とは関係なく一律に差し引く
- 障害者を積極的に採用している子会社があることを理由として、親会社などでの障害者雇用を拒否する
性別による差別
性別による差別の禁止は、男女雇用機会均等法で定められています。
具体的には、次に挙げるような雇用管理の各ステージにおいて、性別を理由に差別することを禁止しています。
- 労働者の募集や採用
- 配置、昇進、降格
- 教育訓練
- 一定範囲の福利厚生
- 職種や雇用形態の変更
- 退職の勧奨
- 定年
- 解雇
- 労働契約の更新
性別差別の具体的事例
性別差別に該当する事例として、次のようなものが挙げられます。
- どちらかの性別の者だけを明示して募集する
- 「営業マン」「ウエイトレス」など、性別を意識させる名称を用いて募集する
- 男女に分けて、それぞれの採用人数を定める
- 男女に分けて、異なる設問で採用試験を実施する、あるいは、合格点を男女で異なる点数にする
ただし、次のようなケースについては性別差別には該当しません。
- 演劇などについて、男性の俳優又は女性の俳優を募集するケース
- 神父や巫女など、宗教上、どちらかの性別でなければならない者を募集するケース
- 法律によって性別が制限されている業務について募集するケース
労働組合員に対する差別
労働組合法7条1号では、事業主による労働組合・労働者への不当労働行為を禁止しています。
不当労働行為とは、以下を理由に、労働者の解雇や、その他の不利益な取り扱いをすることをいいます。
- 労働者が労働組合の組合員であること
- 労働者が労働組合に加入しようとしたこと
- 労働者が労働組合を結成しようとしたこと
- 労働者が労働組合の正当な行為をしたこと
また、同項では、以下を雇用条件とすることも禁止しています。
- 労働者が労働組合に加入しないこと
- 労働組合から脱退すること
労働組合の詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
セクシュアルマイノリティの差別
セクシュアルマイノリティとは、性のあり方における少数派のことをいいます。
令和3年6月現在、セクシュアルマイノリティの差別を明確に禁止する法律はありませんが、労働者を雇用するときには、次のような配慮が必要です。
- 性別を申告させないようにする
- 服装や髪型などについて、「男性らしくする」「女性らしくする」といったことを強制しない
- 面接などのときに、セクシュアルマイノリティを揶揄するようなことを言わない
雇用におけるセクシャルマイノリティの差別について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
病気による差別
“病気”による差別は法律で明文化されていませんが、“障害”にかかわる部分もあるため、労働者を雇用する際は次のようなことに配慮する必要があります。
- ウイルスなどによる病気であっても、他者が感染するリスクのほとんどない病気(エイズ、ウイルス性肝炎など)について申告させない
- 現在では治っている病歴について申告させない
- 仕事に重大な支障のない難病などについて申告させない
雇用における病気による差別について、詳しく知りたい方は以下のページをご覧ください。
年齢制限による差別
雇用対策法により、採用するときの年齢制限による差別は禁止されています。そのため、次のようなことは、基本的に禁止されています。
- 年齢を制限して募集をかける
- 年齢だけを理由として採用を拒否する
- 年齢によって正規雇用と非正規雇用を分ける
なお、次のような場合には年齢制限が差別とはされません。
- 定年年齢を採用する年齢の上限とする場合
- 労働基準法などによって年少者の労働などが禁じられている場合
- 長期勤続によるキャリア形成を図る場合
- 演劇の子役などを採用する場合
労働基準法における差別の禁止
労働基準法では、使用者に対して差別の禁止を定めています。
まず、労基法3条では、労働者の国籍・信条又は社会的身分を理由とした、賃金・労働時間・その他の労働条件の差別的取扱を禁止しています(均等待遇の原則)。
また、同法4条では、労働者が女性であることを理由に、賃金を男性と差別的に取り扱うことを禁止しています(男女同一賃金の原則)。
なお、これらに違反した場合、以下のような罰則を受ける可能性があります。
労働基準法に違反した場合の罰則
労基法3条及び4条に違反した場合、会社の社長などの代表者に、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます(同法119条)。
また、労基法違反の疑いがかけられた場合、労働基準監督官による事業所調査(帳簿の確認や労働条件の尋問)が行われ、違反が認められると「是正勧告」を受けることになります。
なお、是正勧告は行政指導の一環であり法的拘束力はありませんが、従わずにいると逮捕・起訴される可能性もあります(同法102条)。また、社名が大々的に報道され会社の評判を大きく損ねるおそれもあるため、是正勧告を受けた場合、早々に対応すべきでしょう。
外国人への労働条件差別
労基法3条では、労働者の「国籍」による、賃金や労働時間といった労働条件の差別的取扱を禁止しています。そのため、合理的理由なく、外国人労働者の賃金を日本人労働者よりも低くするといったことは認められません。
一方、外国人労働者と日本人労働者の業務遂行能力が同等でないことや、賃金が日本人労働者よりも低額である代わりに会社が外国人労働者に寮を無償で提供するといった特別な援助をしていたことなどから、賃金格差の合理的理由を認めた裁判例もあります(東京地方裁判所 平成23年12月6日判決、デーバー加工サービス事件)。
女性の賃金の差別
労基法4条では、「男女同一賃金の原則」として、女性の賃金の差別的取扱を禁止しています。このため、女性の賃金を男性と差別的に取り扱うことは認められません。
なお、ここでいう「賃金」には、給与・手当・賞与など労働の対価として支払われるすべての項目が含まれます。
また、賃金の額だけでなく、その支給基準や支払形態の差別的取扱も禁止されていることに注意が必要です。例えば、住宅手当や家族手当の支給対象を男性のみとしていたり、男性は月給制・女性は日給制と区別していたりする場合、違反にあたる可能性があります。
採用選考時の差別の禁止
採用選考時は、応募者を差別することなく公正に選考する必要があります。そのためには、以下の点を押さえることが重要です。
【応募者に広く門戸を開くこと】
採用条件に合致するすべての人が応募できるようにします。
【応募者の適性や能力に基づいて判断すること】
「応募者が、業務遂行上必要な適性や能力を備えているかどうか」を基準に判断します。出身地や思想等、業務遂行とは関係ない事項は採用基準にしないことが必要です。
【応募者の適性や能力とは関係ない事項を把握しないようにする】
採用基準にするつもりがなくても、これらの事項は採否結果に影響を与えかねず、就職差別につながるおそれがあります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある