不正競争防止法に違反した場合の措置
監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
不正競争防止法は、企業に公正な事業運営が行えるように、不正競争行為を禁止することで、健全な経済発展を促すための法律です。
例えば、商品の模倣やドメインの不正利用、営業秘密の侵害等も不正競争行為にあたり、違反した者には懲役や罰金刑も科せられます。
また、損害賠償請求等の民事的措置を受ける可能性もあるため注意が必要です。
本記事では、不正競争防止法違反に関する罰則や措置を具体的に解説していきます。不正競争をめぐる訴訟は特殊な部分もありますので、ぜひご確認ください。
目次
不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、企業同士が公平な競争を行うための法律です。それぞれが適正な事業を行い、適切な競争に基づく利益を上げることができるよう、公正な競争を阻害するような不正競争行為を禁止しています。
不正競争防止法違反となる行為として、不正競争防止法2条の各号には次のものが定められています。
- 混同惹起行為(1号)
- 著名表示冒用行為(2号)
- 他人の商品の形態等を模写した商品を譲渡等する行為(3号)
- 営業秘密に係る不正行為(4号~10号)
- 限定提供データに関する不正行為(11号~16号)
- 技術的制限手段に対する不正行為(17号、18号)
- ドメイン名に係る不正行為(19号)
- 原産地、品質等誤認惹起行為(20号)
- 信用毀損行為(21号)
- 代理人等の商標冒用行為(22号)
不正競争防止法についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページもご覧ください。
不正競争防止法に違反した場合の刑事的措置
不正競争のうち一定の行為を行った者には、刑事罰が科せられます。また、違法行為の内容によって罰金や懲役等の罰則が具体的に定められています。
なお、不正競争防止法において刑罰が適用されたとしても、刑法やその他法律の適用を妨げるものではありません。よって、同法と刑法どちらにも抵触する場合、それぞれの罰則を受ける可能性があります(不正競争防止法21条9項)。
では、不正競争防止法(以下、同法といいます)の罰則を詳しくみていきましょう。行為の類型ごとに整理していきます。
個人への罰則
行為 | 罰則 |
---|---|
営業秘密侵害罪 | 10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金、又はその両方 |
混同(又は誤認)惹起行為 | 5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又はその両方 |
著名表示冒用行為 | |
商品摸倣行為 | |
信用棄損行為 | |
技術的制限手段に関する不正行為 | |
秘密保持命令違反など |
個人が違法行為を行った場合、その内容によって罰則が異なります。特に重い罪とされているのが「営業秘密侵害罪」です。企業内で秘密として管理されている技術上の秘密情報や顧客情報が「営業秘密」の典型例です。
その他の罪として、不正に利益を得る等の目的で他社と類似した商品を製造したり、意図的に他社の信用を傷つけたりした場合も、罰則の対象となりえます。
これらの刑罰の適用にあたっては、不正の利益を得る目的や損害を加える目的などが必要とされている点は、民事上の責任追及とは異なる点となっています。
営業秘密侵害罪とは
営業秘密侵害罪とは、企業の営業秘密を不正に取得したり、不当な利益を得る目的又は損害を加える目的等で取得・使用・開示したりすることによって成立する罪です(同法2条)。
例えば、社員が機密情報に不正アクセスして自身のディスクにコピーする行為や、機密情報を扱っていた社員が退職後や転職後にその情報を不正に開示・使用することも罪にあたります。これまでにも、会社の元役員がライバル企業に仕入先の情報などを在籍している従業員から取得して、使用したことについて有罪判決が下される事例もあります。
もっとも、営業秘密に該当するかは、情報の秘密管理性・有用性・非公知性を踏まえて判断されます。秘密として扱いたい情報については、アクセス制限を設けたり、秘密である旨の表示(「マル秘」と書類に記載)をしたりしておかないと、当該情報は営業秘密と評価されないおそれが高いと考えられています。
国外での行為に対する処罰
営業秘密侵害罪については、国外犯についても、国内犯と同様の罰則が適用されます。
行為 | 罰則 |
---|---|
国外で不正に取得・使用・開示した場合 | 10年以下の懲役又は2000万円以下の罰金、又は両方 |
国外で利用する目的で本行為に及んだ場合 | 10年以下の懲役又は3000万円以下の罰金、又は両方 |
日本国外で秘密保持命令に背いた場合 | 5年以下の懲役又は500万円以下の罰金、又は両方 |
処罰の対象になるのは、「日本国内で事業を営む者の営業秘密」を、国外で不正に取得・使用・開示した場合や、国外で利用する目的でこれらの行為に及んだ場合、及び日本国外で秘密保持命令に背いた場合です。
かつて国外犯の対象となる情報は、「日本国内で管理される営業秘密」のみでした。
しかし、グローバル化の進行等を背景に、「日本国内において事業を行う保有者の営業秘密」に対象が拡大され、海外サーバなど物理的に国外で管理される営業秘密についても処罰の対象となりました(平成27年法改正)。
営業秘密侵害行為による不当収益等の没収
営業秘密を不正に取得・使用・開示・受領したことによって得た利益は、不当利益として没収することができます(同法21条10項)。具体的には、以下のものが没収の対象となります。
- 当該行為によって生じた(又は得た)財産
- 当該行為の報酬として得た財産
- 上記利益の果実又は対価として得た財産
- 上記利益の保有又は処分に基づいて得た財産
また、組織犯罪の場合、不当利益が他の財産と混合し、不法財産部分が特定できないこともあります。その場合、不当利益の額や量さえ判明すれば、それに相当する部分を没収することが可能です(同条11項)。
なお、これらの財産が没収できない場合や、没収するのが相当ではない(第三者の権利や利益を侵害するような)場合、没収対象に相当する金額を犯人から追徴することができます(同条12項)。
法人への処罰
法人に関わる者※が、その業務に関して不正競争を行った場合、実行行為者だけでなく法人にも以下の処罰が科されます(両罰規定、同法22条)。
※法人の代表者や法人又は人の代理人、使用人、その他の従業員を指します。
行為 | 罰則 |
---|---|
営業秘密侵害罪の一部 | 5億円以下の罰金(海外使用等の場合は10億円以下) |
混同(又は誤認)惹起行為 | 3億円以下の罰金 |
著名表示冒用行為 | |
商品摸倣行為 | |
信用棄損行為 | |
技術的制限手段に関する不正行為 | |
秘密保持命令違反など |
かつて罰金の上限額は3億円で統一されていましたが、営業秘密侵害行為をさらに抑制するため、厳罰化されることとなりました。
ただし、正当に営業秘密を開示された者が、その情報を当該法人の業務に関連しない方法で、不正に取得・使用・開示したケースでは、法人に対する両罰規定は適用されません。
不正競争防止法違反の時効について
不正競争防止法違反の公訴時効期間(犯罪の発生から起訴できるまでの期間)は、法人に対する罰則ではなく、その原因となった個人の行為に対する法定刑の上限によって定められています(同法22条3項)。
したがって、営業秘密侵害罪については7年、その他の罪については5年で公訴時効が成立します。
かつて法人処罰の公訴時効期間は3年でしたが、平成18年の法改正によって延長されました。
というのも、不正競争防止法における犯罪行為は、個人よりも企業の利益に資することが多く、個人よりも法人の公訴時効のみが短くなるのは不公平だったためです。
不正競争防止法に違反した場合の民事的措置
不正競争行為に対しては、損害賠償請求等の民事的措置をとることもできます。これは、被害者の損害を補償するだけでなく、営業侵害行為の抑止力としても重要な措置です。
では、民事的措置の内容を具体的にみていきましょう。
差止請求
不正競争によって“営業上の利益”を侵害された場合、又は侵害されるおそれがある場合、侵害者に対して差止請求をすることができます。具体的には、次の措置が認められています(同法3条)。
- 侵害行為の停止
- 将来の侵害行為の予防を求めること
- 営業秘密の記録や盗んだ技術を用いた製品等の廃棄や、侵害行為に供する設備の除去等
なお、“営業上の利益”とは、経済的価値だけでなく、信用や名声、ブランド力等も含むとされています。そのため、病院や学校法人、公益法人等も請求権者になり得ます。
また、差止請求については、原則として侵害者の故意や過失は要件ではありません。よって、損害賠償請求と異なり、善意無過失で侵害行為が行われた場合も、差止めを求めることができます。
差止請求権の時効
不正競争行為に対する差止請求権は、以下の期間が経過すると消滅時効が成立します。
- 不正競争行為により営業上の利益を侵害されてから、又は請求権者が不正競争行為および行為者を知ってから3年
- 不正競争行為が行われてから20年
損害賠償請求
不正競争行為によって営業上の利益を侵害された場合、侵害者に対して損害賠償請求することが可能です。
ただし、損害賠償請求では、差止請求と異なり、侵害者の故意又は過失が要件となります。したがって、侵害行為の事実だけでなく、相手の故意や過失についても立証する必要があります。
一方、時効については、差止請求と同じように次の期間が経過すると成立します。
- 不正競争行為により営業上の利益を侵害されてから、又は請求権者が不正競争行為および行為者を知ってから3年
- 不正競争行為が行われてから20年
なお、一般的な損害賠償請求では具体的な損害額も示す必要がありますが、簡単に証明できるものではありません。そこで、不正競争行為による損害については、以下のような救済措置が設けられています。
損害額・不正使用の推定
損害賠償請求を行うには、不正競争行為による損害額を具体的に示す必要があります。しかし、これは簡単に立証できるものではないため、以下の方法で損害額を推定することが認められています。
【逸失利益】
「侵害者が譲渡した物の数量」×「権利者が販売する物の単位数量あたりの利益」
【損害額】
「侵害者がその侵害行為により受けた利益の額」を適用
【商標法5条3項に基づく請求】
「ライセンス料相当額」を適用(例:「侵害者の売上」×「商品表示等のライセンス料率」)
信用回復措置
不正競争行為によって自社の信用を害された場合、侵害者に対して信用回復措置をとらせることも可能です(同法14条)。
例えば、
- 新聞への謝罪広告の掲載
- ホームページへの謝罪文の掲載
- 取引先に謝罪文書を発送
といった措置が考えられます。
ただし、不正競争行為の程度によっては、信用回復措置の必要性が低く、請求が認められないケースもあります。
文書提出義務
訴訟の当事者は、裁判所に対し、相手方へ侵害行為又は損害の立証のために必要な書類を提出させるよう求めることができます(書類の提出等、同法7条)。
訴訟では、営業秘密侵害行為の被害者(原告)が、相手方(被告)の侵害行為や損害について立証する必要があります。しかし、相手方(被告)がどの営業秘密を用いて侵害行為に及んだのか、いかなる損害が生じたのかについて、被害者(原告)が保有する証拠をもって証明するのは非常に困難です。
そこで、文書提出命令により、原告の立証負担の軽減が図られています。本制度によって、原告が侵害行為の事実を証明したり、損害額の算定に役立てたりすることができると期待されています。
営業秘密の民事訴訟上の保護
民事訴訟上の保護を図るため、手続上の秘密保持命令等も規定されています。具体的には、以下のような規定です。
【秘密保持命令(同法10条)】
裁判所は、訴訟の当事者に対し、準備書面や証拠書類に含まれる営業秘密を訴訟追行以外の目的で使用・開示しないよう命じることができる
【秘密保持命令の取消し(同法11条)】
秘密保持命令の要件を欠く場合、又は事後的に要件を欠いた場合、裁判所は当事者の申立てによって秘密保持命令を取り消すことができる
【訴訟記録の閲覧請求の通知(同法12条)】
秘密保持命令を受けていない者から訴訟記録の閲覧請求があった場合、裁判所は、その旨を秘密保持者(秘密保持命令の申立人)に通知しなければならない
なお、秘密保持命令に違反した場合、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科せられます(同法21条2項第6号)。
当事者尋問等の公開禁止
裁判所は、以下に挙げる事情が認められる場合、当事者尋問や証人尋問を非公開で行う旨を決定することができます(同法13条)。
- 公開の法廷で陳述すると、当事者の事業活動に著しい支障をきたすことから、当事者等が十分な陳述をすることができないとき
- 当該陳述を欠き、他の証拠だけでは不正競争行為について適正な裁判をすることができないとき
ただし、本決定には裁判官全員の賛成が必要です。また、裁判所は、あらかじめ当事者の意見を聴取したうえで公開禁止を決定する必要があります。
不正競争防止法違反に関する事例
不正競争防止法違反の事例として、東芝の研究データが不正に持ち出された事件が挙げられます。この事件では、東芝の提携先の元技術者が研究データをコピーして持ち出し、韓国のライバル企業に提供しました。
東芝の研究データを持ち出した元技術者は、それを提供した相手である韓国企業に転職しましたが、退職後に不正競争防止法違反(営業秘密侵害)の容疑で逮捕されて実刑判決を受けました。
営業秘密の不正取得及び開示に加えて、国外への持ち出しという事態が生じたこともあり、国外への営業秘密の開示等に関する罰則強化を生じさせる事態にもつながりました。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある