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海外勤務の給与規定

弁護士が解説する【海外赴任における給与】について

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弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

海外勤務者にとって給与や手当、現地の治安等、不安要素は多々あることでしょう。また、海外勤務者を雇う企業にとっても、できるだけトラブルにつながる事柄は避けたいところです。

海外勤務を伴う企業では、海外勤務者に対する規定として、就業規則や海外赴任規定等に明記しておく必要があります。給与といった金銭面の待遇をきちんと定めておくことで、海外勤務者の不安の一部を取り除いたり、労使間のトラブルを未然に防いだりする可能性を高めることができます。

本記事では、海外勤務における給与規定をはじめ、諸手当、税金問題等について解説していきます。

海外勤務者の給与設計

海外勤務者の給与を決めるためには、まず“基準となる給与”を設定する必要があります。

基本的には、日本の給与をベースに考えられますが、その他に基準とすべき手当が必要になります。また、日本とは別に海外勤務先独自の給与を基準とする場合もあります。さらに、勤務先によっては、生活水準が異なるため、それに対応した金額を設定する必要があるでしょう。

海外勤務時の給与が決まった場合は、就業規則あるいは海外勤務規定等に明記したうえで、周知をしなければなりません。

海外勤務時の給与を含めた規定に関する詳細は、以下のページをご覧ください。

海外勤務の就業規則と海外勤務規定

給与規定と準拠法

準拠法とは、企業の国際的な労働関係において、日本の法律と海外の法律のどちらが適用されるのか、といった場合に適用すべき法律をいいます。

例えば、海外出張による海外勤務では、勤務地が一時的に海外であるに過ぎないため、日本の労働法が適用されます。一方、1年以上に及ぶような長期海外派遣の場合は、海外支店の指揮下で勤務するため、勤務地の労働法が適用となります。

ただし、労働契約上の問題では、「法の適用に関する通則法」に基づき、当事者が選択した地の法律が適用されます。また、選択されない場合は、「当事者が最も密接な関係がある地の法」が準拠法となります。

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給与設計の種類

海外勤務者に対する賃金の決め方は、以下の3つに分けられます。それぞれについて、順を追ってみていきましょう。

  • (1)購買力補償方式
  • (2)併用方式
  • (3)別建て方式

購買力補償方式

購買力補償方式とは、海外にいても日本と変わらない購買力を補償する考え方であり、日本の賃金水準を基準として、現地の生活費指数とともに為替レートを考慮して海外給与を算出します。

この方式の特徴としては、日本勤務者と海外勤務者とで公平性を保てるほか、労働者の給与水準を維持できることが挙げられます。

併用方式

併用方式は、購買力補償方式に次いで企業の採用が多く、日本で勤務していたときの手取金額を海外基本給として適用する方式です。日本での給与をそのまま使用するため、労働者への説明がしやすく、納得性も高いものといえます。円建てによって支給することから、為替の影響が大きくなるといった特徴があります。

別建て方式

別建て方式は、日本勤務時の給与とは別に、新たに海外勤務先独自の給与体系を作成し、それに則って給与を支給するといった方式です。日本での給与体系と別物になり、整合性がとりにくく、労働者からの納得性が低くなるため、別建て方式を導入する企業は少ないのが現状です。

海外勤務の手当

海外勤務者に対して、給与とは他に、海外勤務手当を支給する企業は多くあります。また、企業は日本国内での給与規定とは別に、海外勤務時の給与規定を明示しておく必要があります。そのなかに、手当に関する規定も定めておくと良いでしょう。

手当の内容は企業ごとに異なりますが、以下では特に代表的なものを解説していきます。

海外勤務手当

海外勤務手当とは、企業が海外勤務者に対する奨励として支払う手当になります。

海外勤務は、企業の辞令によって決まるため、労働者としては負担が大きいものとなります。必ずしも勤務先の治安が良いところではないおそれ、家族と離れ単身赴任になるおそれがある等、企業都合による様々な理由から補償として支給する手当です。

ハードシップ手当

日本と比較し、治安や食生活等の生活環境の変化から受ける、精神的・肉体的な負担を軽減するために支給するものです。

ハードシップ手当は、海外勤務先の情勢や治安によって支給するものであるため、状況が変化すれば、支給額も変動します。ただし、手当を減額する場合は、労働者のモチベーション低下につながるおそれがあるため、何を目的とした手当なのかを明確に説明したうえで支給する必要があります。

海外単身赴任手当

海外単身赴任手当は、労働者が日本に家族や配偶者を残して赴任した場合に支給する手当です。生活費や家賃等が二重となるため、費用の補填と家族との別居にかかわる精神的ストレスを慰労する目的も含まれます。「残留家族手当」や「留守宅手当」と呼ばれることもあります。

帯同家族手当

海外勤務者の帯同家族に要した費用も企業が負担するものです。帯同家族手当とは、海外勤務者の帯同に伴い、家族の生活費や家族の生活環境変化によるストレスへの慰労を込めた手当です。

子女教育手当

子女教育手当は、労働者に帯同してきた子女のための教育費を企業が補償するものです。海外では、子女を受け入れられる学校が限られてしまうため、企業が必要となる費用を除外した補助をします。

海外住宅手当

海外住宅手当とは、海外勤務先での住宅費を企業が負担するものをいいます。支給方法としては、社宅として提供する、一定金額を支給する等があります。全額支給とするのか、一部支給とするのかといった条件は企業によって決める事項になります。

語学手当

語学手当とは、労働者が業務上・生活上に必要となる英語や現地の言語を学び、習得するレッスンを受講するための費用を、企業が負担するものです。

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海外勤務者の税金

長期間の海外勤務での税金は、原則、現地の法令に従うことになります。

海外勤務期間が1年以上になると、日本に居所がないとして“非居住者”と扱われます。非住居者は、日本で勤務していたときの国内源泉所得のみが課税所得となります。

対して、海外勤務期間が1年未満は“居住者”と扱われるものの、国内だけでなく国外の源泉所得も課税対象となるため、課税範囲には注意しましょう。

国内源泉所得 国外源泉所得
居住者 課税 課税
非居住者 課税 非課税

海外勤務者の年末調整

年末調整の実施の判断は、海外勤務期間が基準となります。

1年以上の海外勤務の場合、出国した翌日から非住居者として扱われますので、出国時に年末調整をしておかなければなりません。この場合の対象期間は、出国する年の1月1日から出国日までとなります。なお、所得控除は以下のとおりです。

所得控除の種類 注意事項
社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険控除 居住者であった期間に支払った金額
配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、寡婦・寡夫控除、障害者控除 出国日の現況により判断
雑損控除、医療費控除、寄付金控除 適用を受ける場合は確定申告が必要

海外勤務者の社会保険

出張等の短期間による海外勤務は、勤務地が一時的に海外になるだけであるため、日本の社会保険が適用されます。しかしながら、1年以上の海外勤務では、原則として日本の社会保険を継続することができず、現地の補償制度を適用することになります。

ただし、現地の制度によっては補償内容が不十分なケースもあるため、日本の保険が適用される「特別加入制度」を利用することも可能です。

海外出張・派遣における社会保険について、また、特別加入制度についての詳細は、以下の各ページをご覧ください。

海外派遣・海外出張における社会保障
海外派遣の労災特別加入制度について
ちょこっと人事労務

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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